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顔に書いてある



 晴れ晴れ荘の家族会議も和気あいあいと行われ、夕飯をご馳走になって、さて帰ろうという時だった。食後の団欒の席で、オーナーが俺に言った。

「考えていたんですけどね?」

「はい」

「この家は今まで通りですが、父とジンさんは仕事に機械(コンピューター)が必要なんです。それで、新しい家に住んでもらおうと思うのですが」

「はい」

 うん、それは良い考えだと思うよ。

 クラウチさんはまあどっちでも良いとは思うけど、ジンさんは専用機械も持ってるしな。それに、身元不明者のあれこれがあるだろうから、こんな連絡のつきにくい坂の上の家よりは、町の方に住んだ方が色々と都合が良いってことは想像つく。

「それで、新しい家の管理人として、ダイチ君とキミーさんに住んでもらえないかと思うんです」

 へえ、新しい家の管理人にね・・・

「って、俺っすか!?」

 キミーと俺はびっくりして顔を見合わせた。

「あら、良いじゃない。ダイチ君なら、どんな家にするか規則なんかもだいたい頭に入ってるだろうし、誰とでもすぐに仲良くなれるし、」

「キミーさんならば、こまやかに心配りができそうだしな」

 オーバさんの言葉をトコロさんが引き継いだ。

 って、ええええ!?

「敷地もかなり広いんです。やろうと思えば庭で畑も出来ますし」

「畑!?」

 俺は立ち上がった。

 畑ということは、ということは!

「つつつつつつ、土があるんですか!?」

 興奮して鼻血が出そうだ。だって、土なんてほとんど見たことないんだぜ!?町の中で土があるところなんて、ちょっと広い公園の隅くらいなもんだ。それも、ほんのちょびっとだけで、誰も触ろうとしないっていう。ホントか?土なんて、どうしてあるんだ?

「そこらへんは、父が役所に掛け合ってくれましたので、木も生えていますし、花壇くらいは作る予定です」

 うううー、叫んで良いか?住みたいって叫んで良いか!?

 だけど、だけど、俺は同じ過ちを繰り返してはいけない。土に、大地に憧れるあまり最愛の妻を忘れてはいけないんだ。

 キミー、キミーはどう思う?

 そう思って彼女の顔を見ると、キミーは笑っていた。笑顔で俺のことを見ていた。

「住みたいんでしょ?」

 おおおおー、さすがキミー。なんで俺の考えてることがわかるんだ!

「顔に書いてあるよ」

 と、ほっぺを指さされる。

「マジで?」

「うん。ダイチ君の仕事がなんとかなるんだったら、管理人やらせてもらおうか?」

「キミー・・・良いのか?子どもも生まれるのに、良いのか?」

 なんて優しい顔で俺のこと見るんだよ。キミー!また惚れちまうぞ!うわあ~、キスして良いかなあ~!

「子どもを育てるのに良い環境だと思うよ?私は、賛成」

「ホントか!?ありがとう、キミー」

 立ち上がってキミーをギュッと抱きしめた。ああ、幸せだ。俺は最愛の嫁、キミーと、土のある生活ができるなんて!


「もしもし、ダイチ君?」

 オーバさんの冷やかな声でハッと我に返ると、ラブラブな俺たちから目線を反らせているオチ君とサトさんが目に入った。そして、オーバさんとトコロさんが生ぬるい目をして俺たちを見ていた。



 俺とキミーは新しく町の中にできた“第二晴れ晴れ荘”の管理人となった。

 とはいえ、俺の仕事はそのまま続けることにした。いくら管理人とはいえ、あんまり社会と隔絶しないほうが良いと思ってのことだ。

 俺さえよければ良いんじゃないんだ。俺も社会に生きる一員として、町の中で暮らすことが大切だと思うんだよな。

 ということで、俺は仕事を続けていた。

 キミーは仕事をやめることにした。出産もあるし、育児だって待ったナシだ。

 普通は子どもが生まれたら、保育所なんかに預けるもんだけど、せっかく管理人になったのだから、家で自分で育ててみたいそうだ。前のキミーだったら絶対に思いつかないようなことだけど、晴れ晴れ荘の暮らしを考えたら、そっちの方が自然だったんだろう。


 新しい晴れ晴れ荘にはクラウチさんとジンさんも住むことになった。

 それからなんと、デヴィも住むことになった。トコロさんに料理を習いに行ったときに、新しく町の中に晴れ晴れ荘を作るという話を聞き、そこだったら住みたいと本人が申し出てくれたんだ。

 おかげで、彼女はこの家での調理を引き受けてくれることになった。これでみんなで揃って食事がしやすくなった。

「今日のメニューはアジの塩焼きとお味噌汁です!おかわりしてくださいね」

 デヴィは、すごく人間が丸くなったように思う。まあ、料理の腕はまだトコロさんには及ばないけどな。だけど、固形物が食べられなくてキレてたことを思うと、信じられないくらいの進歩というか、変化だよな。

「私が食べられない時に、トコロさんが一生懸命メニューを考えてくれたこと、忘れません。だから私も、もし同じような人が来た時に、美味しく食べてもらえるように研究してるんです」

 デヴィはそう言って、色んな料理に挑戦してくれている。

 魚はオチ君が釣りの帰りに寄って、置いて行ってくれる。肉はトコロさんが持って来てくれる。野菜は最初のうちはオーバさんが差し入れてくれたけど、少しずつこの家でも収穫できるようになってきた。


 そうして数か月が経ち、第二晴れ晴れ荘には新しい住人がやってきた。

「ただいま~」

「おかえりなさい」

「はじめまして!」

 誰がやって来たって?勿論、俺たちのベビーだよ。

 俺たちはみんな家族だ。クラウチさんはすっかり爺さんの顔をして俺のベビーを覗き込んでいる。ジンさんは初めて見る赤ん坊を少しドギマギしながら触っていた。

 デヴィはきっと子育てをしたことがあるんだろう。ベビーが泣くと優しく抱っこしている。


 こうして迎えられたベビーを中心にして、俺たちは家族となっていく。

 あたたかい、良い家だ。

 第二晴れ晴れ荘は、訳あり者も歓迎するよ。

「家賃は月4万。食事は朝と夕一緒にとります。ようこそ、第二晴れ晴れ荘へ」


長い間お付き合いくださりありがとうございました。

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