キャリアプラン 1
ユミは自立しているお嬢様だ。自分でもその自覚はある。ネイトとは顔合わせのようなお見合いで知り合い、お互いフリーだったのでそのまま続いている。
家事手伝い
その冷たい現実は、ユミの内心を傷つけてはいたが、両親は早い結婚を望んでおり、定職に就くのに反対している。確かに、身の回りの物はすべて両親から与えられているし、今更自分がどうこう出来るわけではない。
ネイトも、ユミとのお見合いの意味は理解していたので、結婚できそうな女性でよかったと心底安心していた。頼られるより、頼りたいのが本音だ。それを兄に言ったら罵倒されるかもしれないが、彼女は幸運なことに、兄の同級生の妹。これで決まりだ。
だから、昨晩のデートの帰り、しばらくは残業で遅くなると伝えても、ユミの表情は相変わらずだった。
「その代り、ランチを一緒にしましょうよ、これから」
「それはいい考えだよ、ユミ。あと……会社が落ち着いたら、そろそろかな、と思っているけど、君はどう?」
「勿論構わないわ。そのつもりで付き合ってるんだもの、私。ネイトも……でしょ?」
どこかビジネスライクな二人。それもそうで、ユミは結婚したら、ネイトから働くことを許可されている。ネイトは兄に引き継いだ後、とっととリタイヤするつもりなのだった。
「君のキャリアプランを応援するのが楽しみなんだ。目的をもって達成しようと努力している人間は美しいよ」
それに比べて……。
ネイトはふと、新職場の人間たちを思い浮かべる。
トモミ・スミス社長はまあやれるだろうが、その他は何かどこかを浮遊している感じだ。覇気がない。
32歳の若造が言う言葉ではないだろうが、皆、心ここにあらずといった様子で、単に書類を片付けているようにみえる。普通、創業者の実家から人が来たら、良かれ悪しかれ、反応はあるものだ。だが、キララ紡績には、それはなかった。遠目からこっそり窺われているだけ。馴れ馴れしく近寄る人も、馬鹿にして敵対心を表示する人もいない。
話のきっかけもなかったので、ずっと黙っていたら、いつまでも沈黙を守れた。あの会社の問題点は、かなり深いのかも知れない。




