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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
第一幕:とある泉でのこと

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33話:とある冒険者たちの酔言

突如溢れ出した、存在しない記憶──。


このお話はリラの記憶にある数十年前のお話です(解説)

 夜、サフィがわたしを起こして、星の海になった泉を見せてくれた。

 キラキラしていて、とってもキレイで、ずっと見ていたいと思ってしまうほどだったの。

 こういうときのことは、ロマンチックって言うんだったかな。冒険者って言う人たちが泉の畔で焚き火をして、一緒になってご飯を食べさせてもらったときに言っていたような気がする――。



 

 ◆


 


「――たまには空を見るのもいいもんだなぁ」

「アレだな、ロマンチックってやつだな」


「お、なんだ? 吟遊詩人にでもなるつもりか?」


「バカ言うな。俺にゃあんなキザなこたぁ言えねぇよ」


「ははっ! それもそうだ」

「もしお前がそんなことを言い出したら、せっかくの酒も吐いちまいそうだ」


「なんだ? 喧嘩か? 俺は買うぞ」


「よせよせ、お嬢さんの前でそんなことできるかよ」


「あら、私はお嬢さんに含まれないわけ?」


「お前がお嬢さんは無理があるわな」


「……後で覚えておいてね?」


「うおっこっわ。頑張れよ」


「あんたもね」


「マジか」


 ――冒険者と言う人たちは、訪れる度に違う顔になる。みんな同じように楽しいお話をして、またどこかへ行ってしまう。

 わたしはこの人たちの笑顔が好きだったの。いっぱい笑って、いっぱい教えてくれて、優しいから。

 

 みんな「また来る」って言ってどこかに行ってしまうけれど、確かに『冒険者』はまた、この泉に来てくれた。

 何度かそうやってきて、わたしもわかってきた。

 

 みんな同じ『冒険者』だけれど、みんな違う『冒険者』なんだって。

 

 もう、はっきりと思い出せる顔はないけれど、みんな、ステキな笑顔だったことは覚えている。

 今お話をしてくれている三人の冒険者さんたちは、とても仲良しに見えた。まるで家族のようで、羨ましいと思ってしまった。

 ひとりは大きな男の子。わたしより倍くらいに大きく見えて、わたしのことを簡単に持ち上げてしまうほど力持ちだった。

 もうひとりも男の子。わたしと同じくらいの背で、とっても元気がいっぱいの子に見えた。

 最後は女の子。わたしとは違って、色の濃い髪をしていた。木と宝石でできた杖を持っていた。


「なぁ、お嬢さん、俺と結婚してくりゃしないか?」


「ゴホッゴホッ……お前いきなりかぁ!?」


「っるせぇ! 今しかねぇだろう!?」


 わたしたちは濁った色の飲み物を手に、お話を楽しんでいた。その飲み物はとっても苦くて、飲めなかったけれど、みんなの笑顔は眩しくて温かかったの。


「ねぇ、結婚ってなぁに?」


 みんなはわたしをみて、目を開いて固まっていた。変なことを聞いてしまったのかもしれないと思った。けれど、そんなことはなくって、みんなは膝を叩いて笑っていた。その笑顔を見ていたら、わたしも釣られて笑顔になっていた。

 

「おい、脈ないってよ」


「これは違うだろ!」

「よしわかった。俺が結婚ってもんを教えてやろう――」


「うわっ、あんた手ぇだしたら私が容赦しないから」


「ださねぇよ! 俺は紳士なんだ!」


「ぜってーうそ。どこがだよ」

「俺のほうがイケてるし紳士だね」


「いいえ、ふたりとも蛮族ね」


「ねーさん厳しいって」


「ねーさん呼ばないっ!」


「ういー」


 みんなが言うには、結婚というのは大切な人とするものらしい。好きな人でも、愛している人でも。これからずっと、大切に思って、一緒に生きていこうっていう誓いのことらしい。

 そして、結婚をすると家族になって、子供ができて、名前をつけるらしい。

 家族は一番大切な人たちのことを言うのだと、このとき教えてもらったんだったっけ――。


 大きな男の子はわたしの手を優しく握って、膝をついたの。


「お嬢さん、もう一度言うが……俺と結婚してくれないか」

「ここにずっと、ひとりでいるんだろう?」

「なら、俺たちと行こう」

「結婚してくれなくってもいい。一緒に冒険をしないか――」


 その大きな男の子の顔は、焚き火の影で何も見えなかった。みんなの形だけを、影だけを覚えていて、陽炎のように揺れて消えてしまいそうな記憶しか残っていない。

 けれど、みんなのしてくれた楽しいお話は昨日のことのように思い出せるの。

 

 どうしてだろう。

 

 いつも顔が変わると思っていたから、忘れてしまったのかな。そう考えたら、寂しくなってしまった。


「――結婚は……よくわからないわ」

「冒険も……してみたいけれど……わたし、出られないの」


 確か、このときには既に、一度外に出ようと連れて行ってもらったことがあったと思う。そして、出られないことを知ってしまっていたから、断ったような気がする。


「っぱ脈ナシじゃねーか」


「出られないってのは?」


 そう訊かれて、出ていこうとした後、どうなるのかを話した気がする。

 そうしたら、みんなは悲しそうな顔をして、無理に笑ってわたしに言うの。


「なら、また会いに来てやるよ!」


 その約束だけでもわたしは嬉しくて、みんなが帰ってしまった後は、ずっとずっと、楽しみにして待っていた。

 今年も冬を越して、また春が来た。

 冒険者さんたちがやってくるのは、決まってこの時期だった。

 理由はわからないけれど、寒い季節が過ぎ去って、雪が溶けて、花が咲く。そうすると、顔の違うみんながやってくるの。

 

 でも、それは全く別の人たちだったということを、いつから知ったんだったっけ――。

リラは自他の境界が曖昧だったので、識別するための顔をあまり記憶として残せていないんですね。


ご読了ありがとうございます!

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