34話:わたしの気持ち
満天の星空の元、わたしは懐かしい気持ちになりながら、大好きなサフィと一緒に『ロマンチック』を過ごしていた。
「寒くない?」
「うん、大丈夫」
「サフィが作ってくれたこの服、とっても温かいわ」
サフィの作る服はとってもオシャレで、繊細だった。身体に擦れるようなところが少し慣れないけれど、動きやすくて温かい。それに、服にいっぱい付いているフリフリしたものがお花みたいでかわいかった。
触るとフワフワのサラサラで、ずっと触っていたくなってしまう。
もしかしたら、サフィが作ってくれたからそう感じるのかもしれない。
お揃いの服を身に纏っているのが、なんとなく嬉しく感じる。この前、サフィがわたしと作った服を着ていたから、わたしもいつも着ていた服に着替えてみたの。
そしたらやっぱり、その方が身体が温かくなるような気がした。
「……リラ、伝えたいことがあるの」
「なぁに?」
「その……ね。リラはわたしのこと……好き?」
「えぇ、好きよ……大好き」
「サフィはわたしのこと、好き?」
「……うん。好きだよ」
サフィのことは大好き。神様がくれた、わたしの家族だもの。もしも、サフィが家族じゃなくっても、わたしがサフィのことが大好きなのは変わらないと思う。ただ、たまたま一緒になっただけの仔だったとしても、きっと好きになっていた。
一緒に泉で過ごしてくれて嬉しかった。
髪を梳いてくれる手がとても優しくて、わたしに向ける笑顔が優しくて。
森へお出かけして、迷子になってしまったわたしのことを抱きしめてくれて、消えて泉に帰ってきたわたしの元に走ってきてくれて、嬉しかった。
「……ねぇ、リラ」
「なぁに?」
「リラはさ、まだ……外に出てみたい?」
その言葉を聞いて、わたしの身体は少し強張ってしまった。消えてしまうというあの感覚は、できれば思い出したくない。
けれど、もし、もしも。
サフィがこの前の森でのことを気にしているなら、気にしないでほしいと思う。あれはわたしが勝手に迷子になって、サフィともう会えなくなってしまうと思って泣いてしまっただけだから。
消えてしまうのは怖い。けれど、やっぱり。サフィが隣にいてくれるなら、また今度消えてしまうようなことがあっても、怖くなんてないと思う。サフィはわたしのことを探し出してくれる。戻ってきてくれる。そういう確信がわたしの中にはあるの。
「……うん」
「わたし、外に出てみたい。サフィとエフェリアと一緒に、いろんなところに行ってみたい」
「……そっか」
サフィはいつでもわたしのことも気にかけてくれているって、わかるの。なら、わたしもサフィのことを気にかけて、大切にしたいと思う。
だから、サフィと外に出られるなら。
わたしはまた、消えてしまってもいいと思っているの。
すると、サフィはわたしを抱き寄せて、膝の上に寝かせた。
「どうしたの?」
サフィの頬を撫でながらそう聞いてみたら、サフィはわたしの頭を撫でて、次に頬もなでてくれた。その手つきはとても優しくて、温かくて、落ち着くものだった。
わたしはその手を両手で包んで、頬擦りした。サフィの手の感触が気持ちよくて、いつまでもそうしていたいと思ったの。
「……リラ、わたしね。あなたのことを愛してる」
「えぇ……知ってるわ。わたしも、サフィのこと、愛してるわ。もちろん、エフェリアも」
サフィはわたしのことを愛してくれている。それは、今まで一緒に過ごしてきた時間でわかっている。愛してくれていなかったら、きっと、サフィの手は温かくないはずだもの。
わたしも、サフィやエフェリアのことを愛している。
わたしの大切な、大切な家族だもの。そうでなくても、わたしはふたりのことを愛していると思う。
……けれど、サフィの言う『愛』は、わたしのものと違うらしいの。
「うん……だけど、ちょっと違うの。たぶん、この愛は寄り添うように温かいものじゃないんだ。燃えるように熱くて、心を乱すように波打っているの」
「……………………」
「リラ、わたし……わたしと、ケッコンし……」
「……えっ?」
最後の方は声が小さくて、うまく聞き取れなかった。けれど、サフィは確かに『結婚してほしい』と言っていたように思う。
自信がなかったから、聞き返してしまったけれど、もし、もしも。
サフィが結婚してほしいと言ってくれるなら、わたしはサフィと結婚したいと思う。
だって、サフィは大切な家族だから。一番大切に想っているから。
だから、大切な人と誓いを立てる結婚をしたいと思う。
……空から。たぶん、サフィの顔から。水が落ちてきた。それは少し温かく感じて、わたしの頬を伝っていった。
「……………………」
「ごめん。忘れて」
サフィからでてきた言葉は、思っていたものと違ったの。結婚してほしい。そう聞こえたのは、気の所為だったのかもしれない。
「……戻ろっか」
「あっ……」
「ん……わかったわ」
わたしはそのことをもう一度聞いてみたかったけれど、その勇気を出すことができなかった。どうして、サフィは涙を流していたのかもわからない。
そのことを聞いてみてもきっと、わたしにはわからないことなのだろうと思うの。
わたしはエフェリアが眠っているところに戻ってきて、眠りについた。
サフィは背中を向けてしまって、わたしのことを見てくれない。
声を掛けてあげたいけれど、どうすればいいのかわからなかった。
このまま放って置いたら、サフィが水になって消えてしまうような気がして、とても怖かった。明日、目が覚めたら、サフィはもうどこにもいなくって、エフェリアもいなくなってしまって、すべては泡沫のように弾けて消えてしまうんじゃないかって。
わたしはそう考えたら、喉が締まって、涙が浮かんできてしまうそうになったの。だから、そっとサフィの背中にくっついて、その匂いを確かめるように目を閉じた。
サフィの髪が顔に触れて、少しくすぐったかった。でも、そのくすぐったい気持ちが、サフィがいてくれている証拠になるような……そんな気がして、落ち着けた。
わたしは……サフィと結婚したいのかな。
サフィと結婚するなら、エフェリアとは? エフェリアとも、結婚してもいいかな。なんてことを考える。
ふたりともわたしの大切な家族だから、結婚なんてしなくてもずっと、ずっと大切な家族であることに変わりはないと思う。ずっと、ずっと一緒にいたいと思うのも変わらないと思う。
それと同時に、サフィとエフェリアが結婚相手なら、その一生の誓いをなんの疑いもなく、躊躇もなく。わたしは誓えると思っている。
サフィは……わたしと結婚したくないのかな。
あの言葉はただの聞き間違いだったのかもしれない。
けれど、少し。少しだけ、不安になってしまう。
サフィはわたしのことを、大切に思ってくれている。家族だと思ってくれている。それはわかる。わかる、けど。
もし、もしも。
結婚したくないと思っているなら?
最後にサフィが言っていた言葉が気になる。
『……たぶん、この愛は寄り添うように温かいものじゃないんだ』
――あれは、どういう意味だったんだろう。
愛は温かくて、愛を感じていると落ち着くものだと、わたしは思う。
『燃えるように熱くて、心を乱すように波打っているの』
愛はお日さまのように温かくて、心を落ち着かせて穏やかにしてくれる。だって、サフィが隣にいてくれたのなら、温かくて、眠たくなってしまうはずだもの。
だから、よくわからない。
わたしの知っている『愛』は、そういうものだから。
家族を大切に想って優しく触れることが愛で、それとは違う愛があるのだと言うのなら。サフィがわたしにそうしてくれるのは、何故?
それもわたしが感じている愛と同じ愛ではないのかしら。
わからない。
サフィはわたしや、エフェリアのことを愛してくれているはずだから。
その愛が、愛でないはずがないから――。
わたしは知らないことばかりだ。
何も知らない、ちっぽけな頭で一生懸命考えてみても、答えなんて出せるはずがなかった。
わたしは考え疲れてしまって、サフィの匂いに、温もりにしがみつきながら微睡みに揺れて、やがて眠りに就いたの――。
ここまでがチュートリアルの中のチュートリアルらしいですよ。
そしてここからがチュートリアルです。




