吸血城
「それでは、また。」
「はい。」
俺たちはウルズ様に別れを告げて、
案内された石碑の扉をくぐる。
ウルズ様は言った。
「どうしても、延命したいというのならその由来のある場所に案内しましょう。しかし、それにはそれ相応の代償があるものです。お勧めはしませんが。」
「いいんです。少しでも可能性のある場所に行けるなら。」
「お、俺は別にみんなが危険な目に遭うなら、全然行かなくても………」
「「行くの!!!」」
「は、はい………。」
「ふふっ、愛されていますね。」
「あと、スクルドから聞いた話ですが、何やら素空さんの運命が幾重にも分岐していて、あまりよく見えないとのことだったので、かなり希望はあるかも知れませんね。」
「!!そ、そうですか。」
ヤテンさんは驚いたような、嬉しいような表情をする。
「よかったね!!素空!!」
「あはは、何かまだ色々実感わかねぇんだよな。」
「しかし、ヤテンさんは、最初にも言いましたが、闇の誘いがすぐそこまで迫っています。充分に気をつけて。」
「は、はい!」
「それでは、もうお行きなさい。」
「「「ありがとうございました!!!」」」
俺たちは頭を下げて、扉をくぐる。
「って、何でまた空からなんだぁ〜ーー!!!」
俺たちは強風吹き荒れる、上空数百メートルをなす術もなく落下していた。
「あれ?な、なんか私飛べるようになったはずなのに、またできなくなってるー!!!」
ルルは涙目でそう言った。
「私が何とかするわよ!!」
ヤテンさんが風の魔法で俺たちの落下する勢いが徐々に落ちていく。
しかし、
バサバサと、何らかの生き物が俺たちに襲いかかる。
「こ、コウモリ??」
「わわっ!!ちょっとそんなに突っつかれたら、制御が………」
「「「うわぁーーーーーー!!!!!」」」
俺たち3人はバラバラに落下していった。
「何者かが我が領内に。」
「ふむ。久方の客人だ。」
「お手並み拝見だな。」
赤い月照らす城内で、3人の領主が、
血を嗜んでいる。
「……早速我が領内で暴れているようだな。少し様子を見てくることにしよう。」
「殺してしまうなよ。貴重な生き血だ。」
「悲鳴を楽しむのもよいがな。」
ハハハハハッ、と悪魔のような笑いが城内にこだまする。1人の領主は、コウモリとなり窓から飛び出した。
「いてて。」
わたしは、腐ったようなドロドロとした土の上、目の前には暗いお城の見える土地に落下した。
「それにしても……」
どうして飛べなくなっていたんだろう。
コンソールを開いてみる。
見ると、権限が失われていた。
「権限者は………」
何かバグのような表示で表されている。
見当はつくが、一体どうしてなのか、
意図がわからない。
「本当なら、すぐにでも戻らなきゃいけない。」
戻って、シンクロベースに意識のあるこの世界のどこかに取り残された人たちを救わなきゃいけない。
素空のことを想うあまり、意識になかった。
「クズだな………」
ずっと私は自分勝手だ。
人を苦しめた犯罪者だ。
だからこそ、償わなければならない。
「だから、死ねない。」
目の前には、土からゾロゾロと這い上がってきた、ゾンビが次々とこちらに向かってきていた。
その数は、土地一体を埋め尽くしていて、そして、上空には黒いマントを羽織った、牙を生やした大男がいた。
「ようこそ、我が吸血城へ。」
「ちょっと、私の大切な人が困ってるんだけど、力を貸してくれないかな?」
「なんだ?頼み事か?ならば、力で従わせてみるといい。できるならばな。」
「やってやるよ。」
私は手を掲げる。
早く片付けて、合流しないとね。
「しまったわ。」
私のせいでみんなバラバラになってしまった。
何とか早くみんなで集まらないと。
それにしても、土が腐っている。
とてつもなく嫌な匂い。
コツッと足に何かがぶつかる。
鈍い声と共に、足が押し上げられる。
何かが土から這い出してくる。その姿は、
目が飛び出し、手はちぎれ、頭は削げていて、
おおよそ、その姿から連想されるものは………
「ぞ、ぞぞ、ゾンビ!!?」
あぁぁぁ〜と低い声で襲いかかってくる。
「きゃ、きゃあぁぁぁぁーーー!!!」
「おっと。」
気づけば、ゾンビは吹っ飛んでいた。
誰かが助けてくれたようだ。
「落ちたのが近くでよかった。大丈夫ですか?」
「そ、素空!!!」
私はなんとか立ち上がり、言った。
「ご、ごめんなさい。腰が抜けちゃって。」
「大丈夫ですか?肩貸しますよ。」
「………いえ、大丈夫よ。」
私は、1人で立ち上がる。
「こういう場所は苦手ですか?」
「私、小さい頃にアンデットの集団に襲われたことがあってね、それで………」
「そうなんですね。あんまり無理しないでください。」
「えぇ、ごめんなさい。力になれそうになくて。」
「こういう時は、お互い様です。」
「ありがとう。」
「………何のつもりですか?」
私はそいつに杖の切先を向ける。
「自分の胸に問うてみなさい。」
「何を言ってるんですか、俺は………」
「あなたは素空じゃない。」
「………まさか、完璧な擬態がこうも見破られようとは。」
素空の姿をしたそれは、大量のコウモリの羽ばたきに紛れて本性を現す。黒いマントを着た大男。
「初めてですよ。どうして分かった?」
「私がその人のことを好きだから。」
「おや、妬いてしまいますね。」
大男は、宙へと浮かび、手を広げ号令をかける。
「さぁ、ゾンビども。やってしまいなさい。」
その瞬間、ゾンビが地中から無数に姿を現した。
………かに見えた。
「…………は?」
大男は困惑する。
姿を現しつつあったそれが、ひとつも、跡形もなくその場から消え去っていたのだから。
「おい。お前。」
大男の浮かぶ後ろ、男は立っていた。
「ヤテンさんは、こういうの苦手なんだ。俺が相手になるぜ。」
「なるほど、余計な詮索はするべきではありませんでしたね。………相手をしましょう。」
大男は静寂の中、素空を睨みつける。
「しゃあっっ!!!!」
大男は飛来する。
瞬間、そこに素空はいなかった。
「ヤテンさん、大丈夫ですか?」
「え、えぇ。」
地面に着地した大男は振り返る。
「貴様、舐めた真似を………グ、がはっ!?」
大男が膝をつき、倒れる。
「ば、馬鹿な!?何も見えなかった。」
「俺のために、ヤテンさんやルルは危険を冒してまで、ここに来てくれている。」
素空は振り返り、大男を睨む。
「少しでも傷つけてみろ。お前を俺は許さない。」
威圧。空気が震えるような。
大男は、体を震わせている。
「素空………」
明らかに変わった。
それは、以前とどこか違う、少し寂しさを
纏うような。
「ヤテンさん、ルルはどっち?」
「確か、あっちに落ちたわ。でも………」
「飛べないって言ってた気がするんだ。そうだとすれば、また以前みたいな力は失われているはずだから、早く助けに行かないと。」
「!!そうね、いきましょう。」
大男は手を伸ばして言う。
「ま、待て!」
「なんだ、時間がないんだ。」
「奴の領地へは、立ち入らない方がいい。」
「何故?」
「奴は俺たちの中でも、群を抜いて残忍な男。今頃はきっと………」
「それはどうかな。」
「なに……?」
「あいつは……ルルは、強いぜ。」
「ば、馬鹿な!?」
「私に、そんな戦力で勝てると思った?」
ゾンビたちはお互いを襲い合い、
大男は手傷を負っている。
もはや、戦える状況ではない。
「いい加減、教えてくれない?あなた達は、病に伏さない。年を取らない。その理由を。」
「悪いが言えない。これは契約なんだ。」
「あっ、そう。」
私が指を翳すと、男の右の手は陥没する。
「ぎゃあぁぁぁっっ!!!」
「次は左。その次は足。その次は顔。そして、最後に心臓。教えて、もうこれ以上苦しませたくないの。」
「わ、分かった!!!話す!!!話すから、やめてくれ!!!」
「はい。」
私は、魔法を解除する。
心が痛むが、いいんだ。
愛する人の為になら、私は鬼にだって、
悪魔にだってなる。
そうやって、これまで生きてきたのだから。
「私たちは吸血鬼。血を吸ったものを眷属にし、鬼にする。鬼になれば、寿命は尽きず、永遠の命を得ることができる。だが、その代わり太陽の下は歩けないし、様々な弱点も生まれる。」
「弱点って?」
「十字架を見れば、目が焼け、大蒜は体を焦がす。それに………」
「それに?」
「生前の記憶を失う。」
「なっ!?」
そんな……。
それじゃあ、素空は………、
「だが、思い出すこと、もある。
しかし、それは、うぅ………」
「どうしたの?」
大男、吸血鬼は頭を抱える。
「愛する人を殺してしまった記憶。」
「っ!?そ、それは………」
「俺たちは、化け物だ。何故化け物かと言えば、そうでしか生きられないからだ。愛する人を殺して、執着するものを眷属にし、寂しさを埋めるために支配する。そうして俺たちは、孤独を深めてきた。」
「そ、そんな……あなたは、どうして………」
「もう、取り返しがつかないんだよ。やってしまったことは。それならばいっそのこと、諦めてそう生きる事を受け入れてしまった方が、幾分か気持ちが楽なんだ。」
「あなたは、苦しんできたのね。」
「あぁ、ずっと。後悔している。」
大男は、三角座りで頭を抱えて、まるで子どものように唸りだした。
「もう、いいわ。あなたは、自分の行いを悔いて、これからは善き行いをして過ごしなさい。」
「それが………それが、できないから、化け物なんだ。」
大男は立ち上がり、狂気に座った目をこちらに向ける。
「頼む。殺してくれ。もう、終わりにさせてくれ。」
「……………」
コロシテ………モウ、コロシテ………
いつか見た電子メッセージ。
私の子どもたちの苦しむ姿。
私はそれを重ね合わせていた。
唇をぎゅっと噛み締める。
「わかった。殺してあげる。」
私は、手をぎゅっと翳す。
「その代わり、必ずいい人に生まれ変わって、そして、必ず幸せな人生を送って。」
「あぁ……あぁ………」
ユラユラとこちらに歩いてくる。
『天輪』
私は一人につき、一度だけ、見た者の技、ステータス、状態を知ることができる。
これは、ユグドラシルで出会った、スクルド様から無茶を言って教わった技。死ぬときに苦しみから逃れる術。それにこれは神聖を帯びている。きっと、耐えられないだろう。
「あぁ………あぁ………マリア………」
男は空に手を掲げて、愛する人を見ているようだった。どうか、安寧のあらんことを。
男が光に包まれる。
灰となって、夜空に消える。
一瞬、こちらに向かって麗しい女性が優しく微笑んでいるのが見えた。男と手を繋ぎどこまでも、高く高く、天へと昇っていった。




