海の都、アトランティス
どこまでも青く、地平線まで
広がっている海には、巨大な神殿と都が映る。
「すげぇ。」
「人は……住んでるのかしら?」
「さぁ、どうだろうね?」
綺麗な銅像が並ぶ。
大きさは電柱くらいで、空に指を指している
男性の像や、赤子を優しく包み込む女性の像、
勇猛果敢な戦士を模した像があった。
俺たちはその像を見上げて歩きながら、
まるで道を導かれているかのように、
都の奥、神殿の方向へと進んでいく。
「そういえば、さっき何か変な音が聞こえたんだよなぁ。みんなは?」
俺は2人に尋ねる。
「えっ?私は何も聞こえなかったわよ。」
ヤテンさんは、少しキョトンとした顔でそう答える。
「私も聞こえなかったよ。」
ルルもおなじだった。
「なんか下で響くような音が聞こえたんだよな。ボワーンって。」
「えっ、何それ。ちょっと怖いわね。」
「下に何かいるのかな?」
「さぁ、わかんねぇけど……」
そうして、俺が軽く上を見上げながら、足を踏み出した瞬間、ガコンと足元の石が沈む。
「ん?あれ?」
ゴゴゴゴッ、と都全体が揺れ始める。
「あんた、なんか押しちゃいけない奴押したわね!!」
「素空、やっちゃったね………。」
「いや、これは仕方ねーだろ!!!」
徐々に水位が上がり始める。
「やべぇ!!!」
俺たちは急いで、高さのある神殿の方角に向かう。
「な、なんとか間に合ったぜ。」
「ぜぇ、ぜぇ、あんたね、私達があんたのダッシュに追いつけるわけないでしょ。」
俺は一目散に走って神殿の方角に向かったが、
全然間に合ってない2人を見つけ、全力で戻って両脇に抱えて、間一髪神殿に滑り込んだ。
「た、助かったぁ〜。素空、ありがとうぅ。」
「ありがと。本当に助かったわ。」
「いや、本当によかった。」
既に都は水の底に沈んだ。
これで後戻りはできない。
「神殿の中、進むしかないわね。」
「そうだね。」
「おう。」
俺たちは暗がりの神殿の奥に向かう。
持ってきていた緊急時用のライトを使う。
何もない道が続く。
………と、あまりにも何もないので気が緩みそうになったその時、
「あっ、えっ???」
急にライトの電源が切れる。
辺りは真っ暗になった。
「なんで、なんで???」
ヤテンさんはスイッチをカチカチしている。
「うわーん、こわいよぉーー!!!!」
ルルはヤテンさんにしがみ付いていた。
俺は少しばかり効く夜目で辺りを見渡す。
ヤテンさんが少し足を前に出そうとしたその時、
俺は気づく。
「ヤテンさん!!!」
俺はヤテンさんの手を引っ張る。
「えっ、なに、そ、素空?」
「目の前………道がありません。」
「はっ?」
そう、そんなはずはない。
さっきまでライトで照らされていた、道は、
確かに前に続いていた。
たった今消えたのだ。
途端、ボッと、見上げる両端、
壁沿いに火が灯されていく。
「な、なな、何よこれ。」
ルルは怯えている。
「分かってたけど、ただの神殿じゃないってことね。」
ヤテンさんは頬に汗を滲ませる。
「これは………」
目の前に、細い道が続く。
いや、細いなんてもんじゃない。
人1人が、横歩きになってやっと進めるような、
そんな幅しかない道が向こうまで続いている。
しかし、向こうにはちゃんと扉があり、
そこまで辿り着けということなのだろう。
「ど、どうする?」
「俺がさっきみたいに2人を抱えて、ダッシュで行けば、何とかならないかな?」
「それが一番良さそうだけど………。」
さっきから、こちらを見ている。
火がついたその上、
巨大な銅像たちの目がこちらに向けられていることに。
「どうやら、1人ずつちゃんと試練を突破しないと、行けないらしいわね。」
「まぁ、何とかなるでしょ。私からいくわ。」
ルルは1人、歩き出す。
「おい!本当に大丈夫なのか!?ルル………」
ヤテンさんが俺を腕で牽制する。
「大丈夫よ。あの子、ちゃんとやるから。」
ヤテンさんはしっかりと、ルルのことを見据えている。
ルルが横歩きで、一歩ずつ進む。
途端、左の銅像から強風が吹き荒れる。
「ルル!!!!!」
ルルは態勢を崩し、前傾姿勢で、
落ちそうになったが、
体がフワッと浮かび、
態勢を立て直す。
「イシュバルト」
ルルは小さく呟く。
俺は、ふぅーっと安心の溜息を漏らす。
ヤテンさんはふんっ、といった感じで、
そんなルルに少し誇らしげだった。
一歩、一歩と、ゆっくり前に進む。
すると、後ろの銅像が動き出し、
斧を大きく振り上げ、
ルルの足元に向かって、振り下ろす。
ルルはそれに向かって手をかざすと、
グググッと斧は動きを止め、
やがて、柄の部分が折れる。
落ちた斧は、そこは底不覚に落下していく、
しばらくして、ギギ、ギギギギッという、
不気味な音が底から響いて聞こえた。
どうやら、落ちたら決して無事では、
済まないようだ。
ルルも唾を飲み、しばらくして意を決したように、
再び前に進み始める。
そして、最後の一歩を踏み出した時、
ガチャリと扉の開く音がする。
「あっ、素空!!ヤテン!!扉、開いたみたい!!」
ルルは振り返って手を振る。
しかし、ガラッと開いた扉から
出てきたのは鎧の兵士。
その兵士は大きく振りかぶり、
ルルを狙う。
「危ねぇ!!!」
俺はひとっとびにルルの元へ向かう。
「へっ?」
俺は、一瞬のうちにルルを手の脇に抱え、
振りかぶった斧を腕で受け止めた。
途端、全ての銅像の目が光り、
地面が揺れ出す。
「ヤテンさん!!!」」
「ええ!!!」
通ってきた道が崩れ出す。
ヤテンさんは急いで走る。
態勢を崩しそうになりながらも、
ヤテンさんは最後の一歩を踏み出し、
俺に向かってジャンプして飛び込んだ。
俺は倒れ込みながら受け止める。
「いててっ、今日は走ることが多いわね。」
「そうですね……はは……。」
「急に殴ってきた奴、ぶっ壊したよ!!!」
ルルは、魔法でさっきの鎧の兵士を倒してくれていたようだった。
「何とか突破はできたみたいですね。」
「そうね。」
「怖いけど、次!いこう!」
ルルは元気そうに足を振り上げて、
歩いているけど、全身が震えている。
ただでさえ、薄暗いのに、
こんなことが立て続けに起きれば、
精神的にかなりきついものがあるな。
「な、何これ。」
ルルは驚いた声を上げる。
それもそのはず。
目の前は水で埋め尽くされており、
道がない。
「どうすれば………」
ヤテンさんは顎に手を当てて考える。
「あっ、何か来ます。」
俺は、海中からわずかに聞こえる呼吸音で、
そう予感する。
途端、巨大な一本の角を持った鮫が、
俺たちに飛びかかってくる。
しかし………
「……………」
サメは途中で手前に着水し、
そのままUターンして帰って行った。
「な、何だったんだ………。」
「な、何だったの…………」
「ま、まぁ、襲われなくてよかったよね!」
ルルは明るくいう。
「それにしても、変わらず道がないと言う問題は続いているわけだけど。」
「中に危険な生物がいることもわかりましたし、困りましたね。」
「どうしたらいいんだろう。」
そうして困っていると、
水の底深くに光るものを発見した。
光は段々大きくなり、
底を照らす。
「こ、これは………」
黄金の山が見える。
金装飾に、宝石の飾り付けられた王冠や、
黄金のネックレス、金貨の山々。
その光景は一面に広がっていた。
「わぁーお!」
「す、すごいな。」
「……………」
ヤテンさんは目を細めている。
俺は、ハッと気づく、
向こう、薄暗い暗闇のなかに、
青白い、僅かに光る人間が浮かんでいる。
その人間は、海の底の財宝を指差す。
2人はまだその存在に気づいていないようだった。
俺はその人に向かって、
首を横に振った。
すると、その人は微かに笑みを浮かべ、
後ろの暗闇に消えていく。
すると、ゴゴゴゴッという音が鳴り響き、
地面から、四角い足場がいくつか現れた。
「えっ!!なんか道が出てきたよ!!」
「出てきたわね。」
「…………」
俺は、青白い人のことを2人に言うべきか迷ったが、不思議と言わない方がいい気がした。
俺たちは現れた足場をたよりに、
奥へと進んでいく。
すると、しばらくして地面が見えてきて、
その先には下に続く階段があった。
俺たちは顔を見合わせて、下に降りていく。
「ここは………」
俺はこう言う場所を見たことがある。
「海の……トンネル……」
巨大な魚が泳いでいる。
日が差し込み、神秘的な光景のその先には、
一本の大きな剣が置かれていた。
「あれは?」
「なんか、綺麗な剣だね。」
「…………」
俺は、言うべきか迷っていた。
青白い人が剣を慈しみ持った目で、
置かれた剣に触れている。
「2人とも、あの剣は放っておこう。」
「どうして?あの剣、触れてみたい。」
「わたしも………」
2人はフラつくような足取りで、
剣に向かっていく。
「ちょ、ちょっと2人とも!!」
俺は2人を止める。
「何するのよ。」
「止めないで。」
2人は俺に向かって、見たことがない、
敵意を持った目を向ける。
青白い人がフフフッと、不敵に笑う。
「邪魔をするなら、容赦しないわよ。」
「邪魔をするなら、殺す。」
ヤテンさんは、聖樹の杖を俺に向ける。
ルルは、手を俺に向け呪文を唱え始める。
「やべぇ!!!」
俺はその場を立ち退く。
すると、その場所には、重力がかかり、
底の見えないクレーターができる。
「なっ………」
あまりの魔法の威力に俺は驚愕する。
ルルは確かに、とてつもなく強い。
それは知ってる。
でも、ここまでの力………
「アデル」
俺に向けられたその魔法。
俺は、黒い球体の中に閉じ込められる。
その瞬間、あたたかい何かが流れ込んでくる。
優しい気持ち、あたたかな感情に、
全身が包まれる。
あぁ、ヤテンさん………
俺は腕で、黒の球体を割る。
外に出る。
俺は、青白い人に鋭い眼光を向ける。
「あんたが、これをやったのか?」
青白い人は、少し悲しげな表情をする。
「炎嵐」
「イシュバルト」
俺は、瞬間的に移動し、2つの技をかわす。
そして、青白い人の前に立つ。
「なぁ、止めてくれないか。」
青白い人は、指をさす。
向こう側、ヤテンさんとルルの後ろ、
白銀の鎧を身に纏い、
白い衣裳が優しく地面を撫でている。
「ティマイオス………」
ボソっと、青白い人、女性の声が
聞こえた。
白銀の騎士は剣を鞘から出す。
そして、勢いよく地面に突き刺した。
とてつもない振動が起こる。
すると、ふっと2人の意識が途切れる。
そして地面に倒れる前に、
俺は2人を受け止めた。
気づけば、白銀の騎士は青白い人の元に、
いた。
白銀の騎士は手を差し伸べる。
青白い人はその手を取る。
そうして、立ち上がった青白い人に、
白銀の騎士は、離れるようにと
手を前に出した。
白銀の騎士は向き直る。
こちらを見据え、剣を握る。
しかし、構えたまま切りかかろう
とはしなかった。
そうだ。この騎士は、2人を気にかけている。
俺は、ヤテンさんとルルを入り口の端に
そっと寄せたあと、
騎士の前に立った。
騎士は構える。
俺は拳を握る。
刹那、繰り出された一閃。
俺はギリギリでかわし、腹部への一撃を入れようとする。
しかし、悪寒がした俺は、後ろに下がる。
切り上げ。
繰り出された一閃の先には、
下からの切り返し。
さらに、退いた俺に対して、手を伸ばした突きを
入れる。
俺は半身になってかわす。
まだ終わらない。奴は腕を捻り、踏み込み、
横切りに変える。
俺は、上半身を逸らし、かわす。
手を付き、地を押した勢いで、
蹴りを入れる。
しかし、剣でガードされ、
白銀の騎士を押し返すに留まった。
俺たちはお互いを見据える。
間違いなく、これまで戦った中で、
1番の強さだ。
騎士は、真っ直ぐに立つと、
剣を胸の前に掲げる。
そして、姿勢を異様に低くし、
剣を鞘に戻す。
威圧感。
周囲の空気が揺らめいて見えた。
「素空はさ、どうしてそんなに恐がらずに立ち向かっていけるの?」
昔、友達にそう聞かれたことがある。
「いや、恐いよ。恐いけどさ、目の前の大事な人失うって考えたらさ、そっちの方がよっぽど嫌じゃない?」
俺はそう答える。
「お前らしいな。」
友達は、笑顔で言う。
「もし、素空。お前が、どうしてもダメそうな時は俺が身代わりになるよ。」
「おいおい、冗談でもよしてくれよ。最近マジで、物騒なことが多いからな。お前は家でゆっくりしててくれ。」
その後のことだ。
とある事件があり、
その友達は俺を庇い、死んだ。
亡くなる寸前も、俺に笑顔で拳を向けて、
気にすんなって、送り出してくれた。
………俺は、こんな後悔を繰り返さない為に、
負けない覚悟を持った。
俺が負けたら、ヤテンさんもルルも………
「わりぃ、終わらせる。」
抜刀する。
しかしその瞬間に、騎士は後方に吹っ飛んだ。
抜刀の速度より速く、俺は、
拳を振り抜いた。
騎士は壁にめり込み、動かない。
「………………」
遥か昔、
海の都は私の故郷だった。
私は、
悪い夢にうなされていた。
都は沈み、剣を託された。
儚く、倒れた夢。その続きを、今。
青白い人が、慈しみを持って、
白銀の騎士の胸に、手を優しく添える。
すると、2人は光に包まれる。
青白い人は光の粒となり、目を閉じた。
安心し切った表情で
空に消えていく。
「あなたを愛しています。」
そう聞こえた、
騎士は立ち上がる。
愛する人の言葉。
既に終わった都の運命。
果たせなかった約束。
それでもまだ、愛し人が夢を見ているなら、
剣を振おう。
夢の続きをたとえそれが、幻だとしても………
すまない、若人よ。
胸を借りるぞ。
青白い人が大切に抱えていた剣。
それを、白銀の騎士は、持ち上げる。
慈しむようにそれを眺めた後、
ゆっくりとその剣を持つ腕を降ろした。
「いくぞ。」
地を薙ぐ切り上げの一閃。
まるで柔い土を抉るように、
硬い岩の地面に、易々と、
大穴を開けた。
飛び散った破片が目眩しとなり、
次の一閃が見えず、手で受け止める。
しかし、その瞬間、
雷が落ちたかのような雷鳴が轟き、
体を痺れさせる。
「なっ!?」
そのまま騎士は俺を吹き飛ばす。
俺は、2人がいる入り口の上方の壁に、
激突した。
土煙の中、俺はすぐに壁を蹴り、
奴の元に向かう。
奴も、剣を振りかぶり、俺の拳と奴の剣がぶつかる。
ガキィン、大きな音がトンネル中に響き渡り、
地面が揺れる。
鍔迫り合いの中、大きく弾き合い、
互いが地面に叩きつけられる。
構わず、立ち上がり、
前傾姿勢で向かう。
そして、それは白銀の騎士も同じだった。
俺はニヤリと笑う。
白銀の騎士も、どこか楽しげだ。
斜めの切り上げに対し、俺は、
身を屈ませ、騎士の横腹に入れる。
騎士はよろけたがそれでも踏ん張り、
切り降ろす。
俺はそれを腕で受け止め、
向こう傷を負いながらも、
騎士の鳩尾に渾身の一撃を入れた。
騎士がよろける。
後ろにたじろぎ、剣を立て、片膝をつく。
「ここまでだ。終わりにしよう。」
俺は白銀の騎士に言う。
腕からは血が滴る。
白銀の騎士は、よろけながら立ち上がり、
剣を掲げる。
すると、緑の光が俺を包み込み、
腕の傷を治した。
「お前………」
俺は騎士の方をみる。
すると騎士は、振り返り、よろけながら、
出口へと向かう。後ろに目配せをした。
俺は気づく。2人が目を覚まそうとしていた。
「うぅん、………あれ?」
「ふぁ〜、って!?」
ルルが驚いた表情で俺を見る。
「そ、素空、服ボロボロだよ!!!」
俺は、ハッとして服を見る。
確かにボロボロだ。
ヤテンさんは、魔法を唱える。
すると瞬く間に衣服の傷が修復されていく。
「これでよし、と!」
ヤテンさんが、パンパンと服を叩いてくれる。
「迷惑かけたわね。」
「ううん。2人が無事でよかった。」
「ごめんね、素空。覚えてないけど、なんだかすごく素空に迷惑をかけていたような気がするの。」
「全然大丈夫だよ。ほら、この通り!」
俺は腕を広げて、大丈夫なことを、
アピールする。
「ともかく、よかったわ。少し休んでから、進みましょう。」
「うん!」
「はい!」
ゴゴゴゴゴッと、音が響き渡る。
とてつもない揺れだ。
「な、なんだ!!?」
それと共に、空は暗黒に包まれた。
恐怖の根源とも言える程の、
身を震えさせるその声は、
今上空で、雷鳴とともに、
大気を、揺れ動かしている。
「…………まさか。」
神話の怪物は、
世界を脅かす怪物は、
未だ存在していた。
海の都は、無常にも滅ぼされた。
この怪物によって。
リヴァイアサン。
島を超える大きさを持つ、
超生物、いや、神である。




