やっと
勉強しようと思いながら教科書開いて閉じてを繰り返している。期末なんて来なくていい。テストなんて嫌いだ。よし、掃除して料理しよう。現実から背を向け過ぎだけどまぁいいだろう。
床に落ちてる物を元の場所に戻して掃除機をかける。雑巾がけして、水回りも掃除して。疲れたら料理します、作り置きも作っておかないとだけど夏場はなんでもすぐに腐るから控えめに。冷凍すればいいのかと思いつつ冷凍庫はパンパンに詰め込まれていた。なに入れてたっけ。
「なんか綺麗になってる。」
「勉強嫌すぎたので掃除しました。」
「掃除のほうが嫌じゃない?」
掃除は別に好きではないけど勉強よりは好き…でもない。
「そういえば叶は進路どうするの?大学?」
「大学…ですかね。行ける気も全くしないですけど。」
先生みたいな先生になりたい。それは今も思っているし簡単に揺らぐような思いでもない。でも自分にできるのか?自分にやれるのか?色々不安、色々怖い。
「進路の話すると目が死んじゃうね、そんなに嫌か。」
少し笑ったようにみせる先生。多分笑っていない。私の目のようにきっと先生は笑っていない。私の心を見透かしているようだ。
「まだ時間はあるしオープンキャンパスとか色々あるし。叶がやりたいことやればいい。」
先生は先生だな、これが先生だったな。あー、先生みたいな先生になりたいなんてわたあめよりも軽い妄想だったのかもしれない。雨に濡れたら溶けるわたあめみたいに溶けてしまいたい。
「滝修行してきます!」
「え、叶どこ行くの?!」
いつまでも降り注ぐ雨に打たれて将来を海に沈めてしまいたい。夏の暑さと雨の冷たさと湿気。裸足で走るにはいい天気だ。また先生に迷惑かけてるなー、本当にごめんね。一緒に住まないほうがお互いのためにもよかったのではないか、なんて考えることがある。普通に考えておかしいし。先生が好きだなんて、恋人になりたいだなんて。世間知らずすぎる。
「あー、もう。走るの嫌いな癖に走るんだから。」
「傘持ってるのにささないなんて、綾音様らしいですね。」
二人してびしょ濡れな雨の夜。傘を片手に持って、傘はささずに。片手と片手を繋いで帰った。走ったからなのか手を繋いでいるからなのか。やけに心臓の音がうるさくて頭が熱い。
「私みたいな先生になるんでしょ、がんばってよ。」
「先生みたいな先生になんてなれないです、やっぱり。」
綾音様じゃなくて先生と呼ぶのも久しぶりな気がする。どんどん強まる雨とどんどん強まる先生の片手。握りつぶす気ですか、痛いんですけど。これ以上どこにも行くなっていう目をしている。
「綾音様、やっぱり。やっぱり先生みたいな先生になります。」
「そう、それならがんばってね。」
やっと笑い合えた。やっと雨が弱まってきた。やっと自分の夢がちゃんとできた。
「帰ったらまずお風呂ですね、風邪引きます。」
「そうだね。」
びしょ濡れなふたりが歩いているのはとても不気味だっただろうと思う。でもあれは私にとって大切な記憶となった。




