偏差値30 サンウィー湖のほとりで 2
「何だ? 変なやつだな」
貴族の男はじっと立ってこちらを見ている。
ソ「あなたは貴族、と見受けられる。あなたが精霊を攻撃するところを見た。通りがかっただけだが、放ってはおけない。」
男は鼻で笑うと
「ふん。貴様のような平民に何ができる。まさか、あの程度の魔法で私を止めるとでも?」
……魔法障壁は誰でもできるからなぁ。なめられても仕方ないか。
(あの……僕はできないんですけど………)
(お前はしゃーない。向いてなかったんだ)
ソ「そうするつもりだ。この精霊が消滅したら大きな影響がこの辺りに出る」
「平民が偉そうに。そんなことは私には関係がない、そこをどけ。」
ま、このタイプは言うことをきいてくれないよな。
ソ「どかない。」
「どけ。どかぬのならこのまま射撃を再開する。」
「………………。」
「どうしても私の邪魔をするというのだな。いいだろう。皆の者、これにかまうな。射撃!」
射手たちは弓を構えた。さっき俺が魔法で防いだというのに同じ攻撃をするつもりか?
俺は魔法障壁の構えをとると、
男は唱えた。
「我は矢の神に願いを捧げん。汝を祝福し今その加護を乞う。聞き入れたれば我が隊の矢に汝の力の施しを求めん、魔法! 壁透し!!」
何!
男が手を上げると矢は光り、一斉に放たれた。
ソ「くっ 魔法障壁……夜城の陣!」
即席だが、さっきよりは分厚い壁だ。……くそっ!!
ガッ……
ソ「グッ………」
(ソウタ!!)
「ハーッハッハ! どうした!矢を防ぐのではなかったのか?」
矢が………刺さった。とっさに腕で防いだが、腹にも刺さってしまった……
魔法、壁透し はその武器がある程度の障害物をつき抜くことを可能にする魔法だ。即席の魔法障壁ぐらい、貫通する。
まさか、こいつがこんな魔法を使えたとはな……腹が……生暖かい。
「おとなしくなったな。矢が腕に…5本、腹にも3本刺さっているのだから当然かな? 次、いくぞ!」
くっ くそっ! 刺さっているとはいえ、内蔵は傷ついてはいないようだ。
治療しているヒマはない。抜かずに早く次の即席ではない壁を作らなくては……
「このぉ!!」
急にざわつき出した。………マイン!ラコン!
ラ「よくも主に! 許しません!」
二人とも、射撃隊に突撃して魔法で暴れている。貴族と関わるのは俺だけでいいと思って控えるよういっていたが……助かる。
「チッ 味方か。第二、第三、第四部隊出てこい!」
………!まだいるのか!
精霊相手だから……とはいえ多いと思うが。
茂みに隠れていてわからなかったが追加で80人ほど現れた。弓だけでなく槍や剣で武装している者もいる。
いくらこっちが強いといってもたった3人で勝てるのか?
「うわっ!」 「なんだあれは!」
見上げると、トルエノがいた。
『ソウタ! 手助けするぜ! 雷を落とすことぐらいしかできないけどな!』
いいや、十分だ。こんな狭いところに100人近い人間がいるんだ。雷を避けることはそうそうできることではない。
10mほどの高さにいるトルエノが雲に乗り飛び回って雷を落としていく。
何人かは感電し、倒れていき周りの者は武器を放り出し逃げ回った。
「どうした! あんなもの、うち落としてしまえ!! 矢を放て!」
貴族の男も雷に驚いてあわてふためき、無茶な命令をしている。
ソ「お前の相手は俺だ! 魔法 ファイアランス!!」
小手調べだ。貴族がどれくらい強いのか。
「なっ……無詠唱!?」
男はギリギリ炎の槍を避けた。魔力が抑えられた(矢のせいで)から避けやすいスピードになってしまったか。
「こんな……平民が無詠唱だと?」
男はトルエノの雷より驚いている。
………ああそうか。普通は詠唱するもんな。意味無いけど。
ケ(詠唱は結構常識ですよ? 教えられないと気づきませんからね?)
ソ「魔法、10連ファイア!」
「な、なんなんだ! 無詠唱でそんな高等な魔法を!!?」
……?ただの10連ファイアだ。そんな高度な魔法じゃない。
「な、なんだこいつは…?味方の女共も武装兵士相手に素手で……?こいつらはなんなん※◎£¢??????」
とうとうパニクったか。ごちゃごちゃと詠唱してめちゃくちゃな魔法をうってくるし、兵士たちもバラバラに矢を射ってくる。
壁透しさえされなければ障壁で防げるから平気だ。
マインたちも頑張ってくれているが何せ100人近くを相手しているのだから苦戦している。なんとか勝っている、と言う感じか。
こんな大勢との戦いは想定していなかったから少し不利だな。
……? それだけではないな。兵士たちは怯まない。マインにふっとばされても、ラコンのブレスで吹き飛ばされてもすぐに立ち上がっていく………
さっきもためらいなしに俺を狙ってきたしな……何かおかしい。
ま、そんなことはいい。
よし、治療は終了!矢に返しが付いていたが、精霊相手にいらないんじゃないか?
さて、俺が大魔法を唱えてもいいが、マインたちを巻き込んでしまうし……
(絶対にしないでくださいよ!死んでしまいます!)
わかってるよ。兵士たちも死んでしまうし……人殺しはしたくない。
どうするか……
「アナタハ…ワタシヲマモッテクレテルノ?」
女性の声……?
「ジブンノカラダヲギセイニシテマデマモッテクレテイルノ………?」
!! 後ろの精霊か!!
ソ「そうだ。」
半分油断していたからだけど……
「アノオトコ、ヤッツケテクレル?」
ソ「ああ。」
「ホント?」
ソ「ああ。」
しつこいな。 俺は壁を透かして男や兵士の様子を見ていた。
「ワタシノコト、アイシテクレル?」
「ああ……っえ?」
(え?)
「ウレシイ! ナラタスケテアゲル!」
………は?
そう言うと精霊は後ろを向いて手をかざして湖の水を大量に持ち上げた。
それは、空中で玉の形になった。プール何杯分なんだ、これは………!!
まさか、これをぶつけるつもりか!
ケ「マイン! ラコン! 飛んでください! トルエノ!ここから離れて!」
マ「え……あっ 何!!」
マインたちも気づいて、貴族の男の兵士達もきづいたようだが、もう遅い。
この大きさ。ゾッとする。
ソ「身体強化で斜め上に逃げろ!」
案の定、浮かんでいた水は精霊の合図で滝のように(もはや巨大な滝)地上に降り注いだ。
辺り一帯が川の様になり、俺とケイは身体強化のジャンプで避け、ラコンに掴まった。
マインはジャンプしたのち、トルエノの雲に乗った。
俺たちの中で飛べるのはラコンとトルエノだけだからな。恥ずかしながら俺は運動センスがなさすぎてホバリングができない。
ト『ったく、すげぇ魔法だな。ソウタか?』
下で流されている兵士たちを見ながら水が引くのを待っている。
ソ「違う。精霊がしたんだ。俺がこんなひどいことをすると思うか?」
ト『わりぃわりい。こんなすごい魔法はソウタしかできないと思ったんだ。』
確かにそうだ。普通こんな魔法は唱えられない。……精霊は恐ろしいな。
兵士たちは何人かは気に掴まったようだがほとんど流され、悲鳴を上げて湖に落ちたり、遠くまでいってしまった。上から見るとよーくわかるが半径……500mほどが水浸しだ。
水が流れきったあと、地面に降ろしてもらった。
泳げないのか、何十人も湖に落ちてもがいていた。
………ったく。
ソ「神魔法 水神の長革靴」
高濃度の魔力を含んだ水を足にまとわせる。ただの水と反発する性質を活かし、一定時間水の上を歩くことができる。便利なのは他人にもこの魔法をかけることができることだ。
ソ「マイン、ラコン、湖から引き上げるのを手伝ってくれ、ほら」
マイン、ラコンの靴にも水をまとわせた。
マ「えぇ~~こいつら私たちを殺そうとして来たんだよ? 助ける必要ないじゃん!」
ソ「いいから! 早くしないと溺れてしまう。水の上を歩けるから!」
ト『俺様は濡れるのは御免だ。離れておくぜ』
湖面を滑るように走り、溺れている兵士たちを引き上げて陸にぶん投げる。助けはするが、俺達に攻撃してきたんだからこれぐらいは許してもらおう。
ケ(ソウタ、ちょっと荒くないですか?)
ソ(いいんだよ。命が助かるんだ。すこし怪我するくらい安いもんだ。こっちは矢に刺されたんだ。)
ケ(確かに、痛かったですしね。今度は油断しないでくださいよ?)
ソ(はは、すまん。気を付けるよ)
嫌々ながらもマインとラコンが手伝ってくれたおかげで早く助け出すことができた。
あとは………
「お………ちょい!ガフッ…き…ま!……ゴボッ……ワタ……!!」
………お前も流されていたのか。仕方がない。
ソ「ほらよっ……と!」
男の手をつかみ、投げたその時!!
マ「キャア!」
ケ「くっ…この野郎!!……それっ!」
4mもある大きな魚が口を開けて反対方向から俺達を食べようとして来た。
それをケイが口の縁をつかみ、投げ飛ばした。剣はパンドラボックスの中だ。抜く暇はなかった。
魚は綺麗な放物線をえがいて20mほど先に大きな水しぶきをあげて落ちた。
ソ(ケイ!早くあがるんだ!また襲ってくる!)
ケ(わかってますよ!えいっ!)
ケイは一蹴りで地面についた。ナイスジャンプ。
ラ「おおー!さすが!」
ラコンはパチパチと拍手をする。ケイは少し照れて頭をかいた。
どうやら魚はこりたのか潜ったようだ。
マ「大丈夫? ケガはない?」
ケ「大丈夫ですよ。あんな魚がこの湖にいるなんて………」
ソ「こんな大きい湖なんだ。ああいう魚もいるさ。おそらく溺れたこいつらがバタバタ暴れるから獲物が大量にはいったと思って食いついてきたんだろう。さて、と」
俺達は兵士たちの方を向いた。
水草が絡まっていたり、岸辺の草を頭につけたまま、怯えたようにこっちを見つめている。
ソ「どうするんだ? これでも精霊を消す気か?」
「くっ…………」
貴族の男は巻いていた布がとれ、いかにも貴族らしい装飾のある服が見えた。
助けてやったのにこれでもこりないのか、俺を睨んでいる。
マ「なににらんでいるのよ!」
ソ「まぁほっとけ」
……ふぅ
ソ「まだ教えていなかったが……ミランダ殿」
「!!!なぜ私の名!……グッ」
とっさに口をつぐんだがバレバレだ。
ソ「まぁ……風が教えてくれた、というところですかね。キウキ隊長にシムネ副隊長、ここにいる兵士たちの名前は全部わかる。」
本当は神眼だけどバラすと面倒だ。
「なっ………」
ソ「さらに……」
少し脅しておこう。
ソ「(神)魔法 炎大珠」
右手を掲げて、直径5,6メートルくらいの炎の玉を出した。
別にファイアでもいいんだけどこっちのほうが安定しているから脅しに使える。
『おお!さすがソウタだぜ!』
ソ「俺も、精霊と同じように大魔法を使うことができる。 どうする?このまま俺と闘うか?それとも精霊退治をやめるか?」
昼間とはいえ、この炎の大きさだ。投げつけられたらひとたまりもないことはわかるだろう。よっぽどのバカじゃなければ退くはずだ。
「くっ、くそっ! 全隊! ひ、退け!」
よし。
ラ「ほらほら! 早く逃げないと怒って投げてしまうかもしれませんよ!」
ラコン………
兵士たちはよっぽど恐ろしかったのか、退け!の合図のあと我先にと逃げた。
貴族の男は水草で転びながら逃げた。
ソ「そこら辺で待ち伏せしていてもわかるからな!このまま帰るんだ!」
待ち伏せして俺たちに仕返ししてくるかもしれない。神眼でちゃんと逃げたかわかるから少し待つか。
マ「ソウタ、もうあいつらはいなくなった?」
ソ「うん。もう反応はない。全員帰ったようだ。」
木や草の説明しか見えないから大丈夫だ。
マ「よかった……あいつら怖かったもん。死ぬかと思った。」
ケ「え?マインに怖いものなんてあるわ……ブッ!」
殴られた。
マ「何よ!私だってかよわい女の子よ?とっさに出ちゃったけどこっちは素手であっちは武器。怪我しなかったけどヒヤヒヤしたわ」
かよわ……い?
マ「何かにとりつかれている感じだったね。こっちが殴ったり蹴ったりしても少しうめくだけでまたすぐ襲いかかってくるんだもん!少しタフすぎる!」
いかにも不満そうに言った。
ソ「そうなんだよな。溺れたのを助けても結構静かだったし………あれだけ人数がいるんだからもっとうるさくてもいいんだけどな」
ケ「そうですね。逃げるときも騒がずに一目散に逃げるだけ……一番うるさかったのはあの貴族の男……おかしいですね」
するとラコンがパン!と手を叩いて
ラ「まー細かいことはいいではございませんか!それより精霊ですよ! まだあそこにつったっておりますが、大丈夫なのでございましょうか?」
!!
ソ「!忘れるところだった。 行こう!!」
精霊はまだ初めのところに立っていた。もう襲う敵はいないから姿を消してもいいはずなのに。
マ「おーい! 精霊さん! 大丈夫?」
ラ「……精霊は話しかけたら答えるものなんですか主?」
ソ「うーん。さっき俺に話しかけてきたからな……多少は通じるのかもしれない」
ケ(片言でしたけど)
「………………………………………」
マ「……しゃべんないよ?それどころか反応すらしないし」
ト『普通こんだけしゃべってんだから振り向くぐらいしてもいいよな。愛想わるいぜ』
ソ「さっきはしゃべったんだけど……」
ラ「あ!それでさっきの魔法が……」
ソ「そうだよ。勝手に精霊が手助けだって……」
すると精霊は急にこっちを向き、手招きした。
ラ「!! 誰か呼んでいるのでございますか?」
マ「え……こわ……ねぇソウタ、ちょっと行ってきてよ」
ソ「お、俺?」
マ「ソウタなら何があっても平気でしょ?」
ソ「………平気じゃないこともあるぞ」
渋々精霊の前に行くと、
ソ「!!!」
精霊がスッと近づいた! そして、
ソ「………ム!……ムーーー!!」
ラ マ ト「!!!!!」
続く。





