偏差値28 旅立ちの時
カグツチさんたちがセルト村に来てから3年が経った。
俺は20歳(精神上)になり、ケイとマインは15歳、ラコンは………途中から年を数えていないらしく神眼でもわからなかったが、竜人としては3歳になった。(本人は不服)
ケイたち15歳になった者は村で成人式を行った。酒を飲んでもよい、となり大人として認められた。
しかし、その際通過儀礼として割礼………下品な話だが要するに下の亀の頭が常に出るようになりました。魔法で痛み止めをしたがその後もかなりアレが痛んだ。痛さより恥ずかしさが勝ったがな。
普通割礼は通過儀礼としては生まれたときにするものだと聞いていた……この世界は成人する時なのか…………。
リリエールさんは
「あら~これで文字通り一皮むけたのね~~♪おめでとう~~でもショタっぽくなくなって残念だわぁ~~(▼△▼)」
と、残念がったが痛さを我慢している俺達を見てくくくっと笑った。
何はともあれこれで正式に大人になった。
ある日、
カ「ソウタくん、ケイくん、王都に興味はあるかい?」
ケイは剣を置くと、
ケ「なんですか急に?」
カ「えーとね、ソウタくん達に王都に行ってもらいたくてね」
ソケ「ヘ??」
俺達はカグツチさん達にかなり鍛えられ、一人前になった。そこでセルト村にずっと居ないで村の外、王都に行って村で学べなかったことを学んでほしいということだ。
カ「でもただ行くだけじゃ意味がない。ということで王立魔法学院に入学してもらう。」
ソケ「王立魔法学院?」
学校か?
カ「王都にある魔法を学ぶ学校だ。主に貴族や商人の子弟が成人したら通う所なのだけれど……特別にソウタくん達4人の入学許可を貰ってきた。」
それを聞いたマインとラコンが寄ってきた。
ソケラマ「ええ!?」
驚く俺達を見てカグツチさんは微笑みながら
カ「院長と知り合いでね、私とリリエールの推薦を快く受け入れてくれた。」
リリエールさんは今日はいない。
推薦で………!
マ「でもそれって魔法の学校なんでしょ?私やケイは主に格闘術と剣術よ?大丈夫なの?」
カ「心配は要らない。附属で王立騎士院がある。そこで格闘術や剣を習うことができる。それにどちらかでずっと勉強するわけではなくて両方好きなときに行って自由に学ぶことができるから大丈夫さ。」
マ「へぇ~さすが王立ね~~」
するとラコンが
ラ「学費はどうするのでございますか?まさか無料な訳……」
カ「無料だ。」
カグツチさんは即答した。
ソラケマ「ええぇ!!」
カ「私とリリエールの話を聞いた院長が喜んで特待生にしたいと言ってくれた。君たちは普通の人の強さを軽く越えているからね………」
俺達は顔を見合わせた。
ラ「そうでございました……それならそんなに学ぶことなないのでは…?」
カグツチさんは首をふると
カ「いいや。大抵の事は教えたつもりだが、そういうところでしか学べないこともある。行けばきっと満足するはずさ。」
ラコンは疑いながら
ラ「そうでございますかねぇ……?」
と納得していないようだった。
ソ「それで、出発はいつなんですか?王都はここからかなり遠いですし、入学式とかあるんですよね?」
カ「ウン、3日後だ。」
………え?
ソケラマ「ハァ?」
三日後?
カ「院長は入学はさせてくれるんだがどの程度君達が強いのか見てみたいそうだ。だから一般の入学試験を受けてほしいらしい。それに合わせると、3日後に村を出た方がいい。」
イヤ、そこを聞いているんじゃない。
マ「いやいやいや、3日後? なんでもっと早く教えてくれないのよ!」
そうそう。
カ「すまない。その連絡が来たのが一昨日でね、入学試験しなかったらもっと遅くていいんだが急に気が変わったみたいで………色々調整していたんだ。」
ラ「せめて1週間前にしてほしいですよ!」
迷惑な院長だな。急すぎる。
カ「本当にすまない。 だが村長と副村長にはもう伝えてある。二人とも了承してくれたよ。明後日の夜は宴会を開いて君達の門出を祝ってくれるそうだ。私もお詫びで精一杯華やかにさせてもらうよ。」
これを聞いたマインとケイは
ケマ「やった!宴会!」
二人は飛び上がって喜んだ。
村では宴会は作物を収穫したときや種まきをしたときに行うのでめったにないことだ。
それに成人式を終えたので酒が飲める。それが楽しみなのだ。
ラコンはそこまで酒が好きではないようだが美味しいものが食べられるので嬉しそうな顔をしている。
あっ、そうだ。
ソ「カグツチさんも王都に行くんですか?」
元々王都でサーカスをやっていたから行くのかな?
カ「いいや、私はセルト村に残るよ。 しばらく休暇を楽しみたいし、まだ王都に戻る予定はないからね。ゆっくりさせてもらうよ。」
ソ「そうですか………」
ちょっと寂しいな。
どうやら村長(ケイのお父さん)から話が広まったらしく、森の特訓場から帰ってくる時村の人たちに別れを惜しまれた。
メンデルさんにも言ったら話をカグツチさんからすでに聞いたらしく、応援する、と言ってくれた。ラコンはゲームができなくなることを嘆いていたが、魔力で充電できるアダプターとタブレットを買ってもらいとても喜んでいた。
それが餞別でいいのかラコンよ………
時が経つのははやい。
あっという間に出発直前になっていた。朝から宴会の用意で忙しい。
大人数用のテーブルを作ったり、椅子も俺が魔法で作った。
道具で作るよりもこっちのほうが早くできるので作るので遅いのを見かねた俺が宴の度に毎回やっているのだが…祝われる側が作るのは……複雑だ。(そんなにしんどくはないからいいけど…………)
ゼ「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます! この度、我が村が誇るケイくん、ソウタくん、マインくん、ラコンくんが王立魔法学院に入学することになりました! 今日はその門出を………」
………長いな~~
副村長のゼイじいさんは村の長老なのでケイの父である村長よりもこういうのを仕切ることが多い。
どこの世界でも同じなのか、年寄りの話は長い。
15分後、
「…………というわけであります。それでは皆様、乾杯!!」
「カンパーーイ!!」
皆杯を掲げて宴が始まった。
………結局酒が飲みたいだけなんじゃないか?(正解)
こうして俺たちの送別会なのかただの宴会なのかわからないのが始まった。
俺は酒の味が嫌いなので味覚をシャットアウトしている。
ケイは酒に強く、あっという間に果実酒を2杯も飲み干してしまった。
呑みっぷりに驚いたが俺は魔法でアルコールを分解できる。いくら飲まれても大丈夫………でもあまり飲みすぎないでほしい。
料理には俺がレシピを教えたマヨネーズを使ったものもあった。
メンデルさんに聞いた話だとマヨネーズはパンゲア商会が貴族や大商人向けに高値で売っているものだと言う。庶民にもこの味は知ってもらいたいがなにぶんいくら高くても売れに売れるので商会の主力商品で安く売りにくい。だからこの村ではマヨネーズのレシピは門外不出で秘密中の秘密となった。
なにせ万能調味料だから人気が高い。最初試食させたとき村の人達は俺を拝み初めたほどだ。。
………ただ卵と油と塩を混ぜただけなのにねぇ。
「ねぇねぇねえ!!王都ってどんなところぉ~~?」
村の人たちがもう酔っぱらって絡んでくる。今回の主役だから仕方がないが正直俺はこういうのが苦手だ。
ケイはコミュ力が高いので任せている。本来ケイの体で俺は憑依させてもらっているんだし。
子供も大人もはしゃいでいるなぁ~~
娯楽の少ない村だからこういうときしか騒いで楽しめないんだけれども。今回は特にめでたい、といつもより酒の解禁された量が多い。いつもよりも酔っぱらっている、ということか。
メンデルさんもコレンスさんも顔を真っ赤にして村長やカグツチさんたちと大声で話している。カグツチさんたちは酒好きなのでどんどん飲んでいる。神だから死ぬことがないからペースが早いなぁ。
マインは……泣き上戸かな?同い年の男性に愚痴を聞いてもらっている。
「ケイったら、私のことなんともおもっていないのよー!! そりゃあ恥ずかしかったから昔は殴っちゃったりしたけど、でも! 正直に告白しても疑うのよー!!」
確かにケイはマインに告白された。だが、照れ隠しもあるのだがケイは返事を曖昧にごまかした。
ケイもマインのことを意識してはいるが、小さい頃よく暴力をふるわれたことがトラウマになっている。無意識に好きという気持ちにブレーキをかけているのだ。
しかし、酔っぱらい同士が話しているのでお互い話が分かりにくいし噛み合っていないし、何を愚痴っているのか俺にもよくわからない。
ラコンは…………うわっ男に囲まれている。
「俺~~実はラコンさんのことが好きなんすよ~~俺じゃだめなんすか~~?」
「嬉しいですけど~~ごめんなさい、我は主一筋なのでございます~!でも○○さんなら我よりいい女の人を見つけられますって!」
男は首を大きく振って
「いやいや!んなこたいったってラコンさんは竜人なんすよ?そこら辺の女とは魅力のレベルが違うのなんのって!!あーもうたまんないっす!!」
「きゃぁ恥ずかしい!!そんなの主に一回も言われたことないのに!」
口説かれてんじゃねー。
それに一回も、は嘘だ。何回か言ったよ。俺が言うと調子に乗るからあまり言わないだけだ。
まぁ大人っぽいしおしとやか?な振るまいをするから好きになる男が出てくるのはわかる。別に俺も嫌いじゃないし好き好きアピールされて嬉しいが、元が竜だからな。
ラコンを見たとき一瞬思い出す。恐怖というか自分よりかなり大きいは虫類(竜)は本能的に恐い。襲われた時はつい興奮してしまったが、平常時はべつにそこまで意識はしない。申し訳ないけど。
「ほんとソウタくんが来てからずいぶん変わったわね~~ こんな普通の田舎の村に神様の申し子が来るのだもの。最初は信じられなかったわ~~」
セリーネ「わたしも~~!」
ケイの妹、セリーネちゃんはジュースだ。
……ケイのお母さん、セリーネちゃん。
確かにな。
俺が来てから村が活性化したと思う。
俺が大量に水を魔法で創ることで水不足もなくなり、カグツチさんから教わった魔法を村の人たちに教えて何人かできるようになって農作業の効率が上がった。
メンデルさんの研究も進んで村の作物の収穫量は来る前の3倍になった。これはメンデルさんも驚く結果だ。
今度少し森を切り開いて畑を広げるっていうし、俺たちがいなくなってもカグツチさん達やメンデルさんがセルト村を支えてくれるだろう。
トルエノは、女性に囲まれて食べさせてもらっている。
村の人の前にも出るようになって珍しさとかわいさですぐ村の人気者になった。トルエノも狐のような尻尾をふって撫でられたり、エサをもらってかわいがってもらっていた。
あいつオスだから特に女の子に撫でられるとかなり喜ぶんだよな。正直なやつ。
こうして、宴は夜まで続き、無事終わった。途中余興でケイが麦酒一気のみを2回やって危うく倒れかけて俺が治療したり、マインが余った材木を割ったり、ラコンの火吹きショー(ただ酒を竜魔法のブレスと共に吹いているだけ)があったりして多いに盛り上がった。
大人で素面だったのは俺や神父さん含む数人だったので後片付けが大変だった。かなり泥酔しているひとが大勢いてなんとか魔法で暴れたり騒ぐのを押さえつけたがそれと片付けで俺はとても疲れた。
子供たちはしっかりしていて酔っ払った親たちを家に送ったり片付けを手伝ってくれて多いに助かった。
結局俺が寝たのは12時すぎだった。
いよいよ出発当日。
王都はセルト村から結構遠い。朝早くから村を出ないと次の宿場町に着かなくなってしまう。
マインたちは二日酔いになるかと思ったが事前にメンデルさんが「○コンの力」を飲ませておいたので、案外平気だった。ウ○ンの力すげぇ。ってか異世界に来て黄金色の容器に入ったウコ○の力をみることになるとは………
村の真ん中を横切る街道に"車"がいた。
メ「私からみんなへの門出祝いだ。パンゲア商会の竜車を呼んでおいた。」
ソ「わー!ありがとうございます!!」
王都までは徒歩か魔法を動力に乗り物を作る予定だったからありがたい。
ラ「竜車? これのどこが竜だというのでございますか?」
ラコンは竜車を知らないので近づいた。
すると、
「バヒン!!」
ラ「うわっ!」
ラコンは竜車の陰から出てきた竜馬2頭に飛び付かれて尻餅をついた。
竜馬とは飛べない竜の一種で人間が飼い慣らして改良し、走ることに特化した竜だ。頭はトカゲっぽいが体は鱗のある馬にしかみえない。性格は温厚で性能は馬よりも良く、持久力もある。ただ、飼育が難しく頭数が少ないので特権階級や金持ちしか所有していない。
ラ「いてて。何でございますかこれは?」
竜馬の後ろからひょっこりとおじさんが現れた。
「おっとすまねぇ。嬢ちゃん、怪我はねぇかい?」
…………嬢ちゃん。
ラコンは一人で立ち上がると、
ラ「大丈夫ですが……あなた様は?」
「俺ぁバンクっていいやす。この竜車の御者でさぁ」
すると見かねたメンデルさんが
メ「おいバンク、竜馬を放っといて何していたんだ!」
バンクさんは頭をかいて
バ「悪ぃ、メンデルの旦那、ちょいと連絡をとっていたもんで。」
メ「ハァ~また地形学か。ほどほどにしろよ?」
地形学…………
バ「へいへぃ、お!ケイくんか?俺のこと、覚えているかい?」
ケ「?? すみません」
バンクさんは笑って
バ「はは、まぁ無理か。お前の父ちゃんとメンデルの旦那とデラルテをこの村まで送ってたのが俺の竜車で。3年前だし、覚えちゃいねぇか。」
ケ「ああ!なるほど!すみません。父がお世話になったのに」
ああ、あの時の。正直カグツチさんのほうが目立っていて全然見てなかったから覚えてなかったわ。
バ「まぁいいや。では、これから3人の王都までの旅を案内させていただきやす、バンクでごぜぇやす。どうぞよろしく。」
ソケマラ「よろしくお願いしまーす!!」
………俺は? カウントされてなくない?
ラ「あの~、ところでなんですが……この竜馬たちはどうにかならないんでしょうか?」
バメソケマ「 ヘ? 」
ラコンは二頭の竜馬にスリスリされて足をこすられたりしている。モテモテ状態だ。
バ「あー、嬢ちゃんは竜人なんだろ?おそらく匂いがして求愛してんじゃねぇかな? そいつら両方オスだからよ」
ラコンは嫌な顔をして
ラ「えぇ~~我はこんな馬みたいなのは好みではございません………」
ラコンは竜馬に絡まれて抜け出せなくなっているのをなんとか皆で離した。
バ「さて、と。そろそろ出発の時間でやすね。荷物はありませんかい?」
ソ「ああ、荷物はこの中に入っているから大丈夫。積む必要はないです。」
パンドラボックスに全員分の食料、水、衣服、金、日用品は入れた。お金はラコンがゲームに課金するためコレクションの古金貨を売ったときの余りと村の人たちから餞別にもらったものだ。
生き物以外なら何でも入るから個別の荷物も預かった。
バ「ほほう! 便利なものを持っているんでございやすね! なら椅子の下を空にする必要はなかったな……」
メ「ハハハ! バンクらしいな。この前いっただろう?」
マ「? 最近二人は会ったの?」
メ「あ、いや、手紙を書いたのさ……」
まさか携帯電話があるとは知らないだろう。おそらくバンクさんはスキエンティアの人間だし。
バ「なら、すぐ出発いたしやしょう!今なら道が空いているんで早く行けまさぁ」
ソケラマ「はい!!」
そして、村の人達、カグツチさん達、メンデルさん達に見送られ、俺たちの旅は始まった。
次章「第一章 華炎の国」へ続く!!





