七戒:レイ(1)
レイの物語です。
こちらもマルチの一つです。
他の人もそのうち作ります。
レイリア・ルビーデ。通称レイ。
身長は女性にしては大きな百七十くらい。体重は筋肉質なので多そうなのだが、口にしたり聞いたりしない。殺されるにはまだ後にしたいからである。
主に前衛で、戦争は嫌いだそうだ。大量虐殺よりタイマンの方が燃えるらしい、本人比三倍弱らしい。
楽しいことが大好きで、首を突っ込みたがる性質で、ごちゃまぜにした挙句そのまま飽きたらポイな人だ。
ここに来てあまり日が経っていないこともあり、詳細はこれくらいで、他はギンさんとは特に仲がいいっぽい。ケイとも仲がいいっぽい。
「お、行くかぁ」
ロキが動き出す。トランプタワー……トランプタウンを潜り抜け、レイとどこかへ行ってしまった。
「セムさ〜ん。あれなんなんすか? 」
「ふふふ、秘密だよ」
「え〜」
若干ひかれるギャグをかましてやると、ケイはツボに入ったらしい。
俺は再び魔法の勉強に精を出すことにする。
「お土産よろしくな〜」
窓から手を振ると、恥ずかしそうにロキは背中を向けたまま手を振り返す。
あいつがあの女と知り合ったのはどれくらい前だろう、無口なあいつが顔を真っ赤にさせて教会に帰ってきて、震える手でトランプタワーを作っていて、何度も崩していた。
それを見て私は何度も笑ってしまった。
後日聞いてみると、どうやら恋らしい。本人ははぐらかしていたが、おもむろにそれっぽい好感触な気持ちの表れで、聞いてるこっちが恥ずかしくなってきた。
しょうがないなと私は協力してやっている次第である。
セムに貰う給料を、少しだけ増やしてもらい、服をがっつり買って、香水もがっつり買ったりして、できるだけ尽力してやった。
恋が出来ない私の分まで、恋して幸せになれと願っているからだ。
「ぐっっ……」
胸に重い痛み、頭にも、ヤバイ……どうやら薬が切れたようだ。
日ごと周期が狭まっていく間隔はあった。だけど、ここまで早いのは久しぶりだ。
ここから距離を考えると、家にたどり着けるかどうか危ういくらいだ。
壁を這うように、腕で体を支えて、おぼつかない足で帰路をたどる。駄目だ。途中で事切れそうだ。
ほら、やっぱりだ。こんなとこで死ぬのか……あいつは、助けてくれないだろうな。なんだろ、死ぬのが少し怖いかも。あれ? 誰だろう、暖かい……。
「……い、レイ! 大丈夫かお前? 」
「ギン……か、」
脱力。
どこにも力が入らない。ようやく紡いだ言葉も味気ない。
最後に一言、やっぱりまだ、死にたくない。
「私の家の……食器だ、な……の、小瓶のくす……り……」
「おい、レイ! レイ! くっそ……」
こんなに弱った彼女は初めてだ。
破竹の勢いで俺に襲い掛かり、強者と戦いたいと教会の仲間になり、いつの間にか俺を抜かした君は、戦場でどんなに傷ついても、意識を失うことはなかった。
ボロボロになりながらもうすら笑ってその場に立って、敗北者を眺めながら勝利を誇るのがレイだと思っていた。
戦闘狂で、強いだけが取り柄かと思っていた。
こんなに弱いレイを見てしまうと、イメージがた崩れだ。
そう、昔あの時、レイに俺の自分のことを話した俺を見ているようだった。
強い奥に隠れた弱さと、孤独と、虚無感。
きっと彼女は、俺がそばにいても一人ぼっちなのだ。
「あ……」
気の抜けた声が漏れてしまった。
死のふちでダンスを踊って、半ば落ちかけて戻ってきても、いきなり喜びで満ち溢れるわけではない。
むしろ、なんだか、前よりも何かが怖かった。
「起きたか……」
「ずっと隣に? 」
「あぁ、こんなレイを見るのは、これで最後だろうからな」
反論したい自分と、反論できない自分。
いきなりすぎて話す覚悟が出来ていない。彼は私に、心を許して話してくれたのに、私はそんな勇気が無い。
「やっぱり、喋ってくれないか……」
ギンは冗談まじりのような、心を見透かしたような不適な笑みを浮かべ、キッチンへと向かう。お湯の沸いた蒸気の音が、今日は妙にうるさい。
いつものマグカップに、私の好きなアールグレイを注いでギンはやってきた。
髭に盲目に童顔のおっさんは、いつもどこか妙に優しい。
それゆえ、私は深く傷を抉られる。それを快感を覚えるほどの趣味は、残念ながら持ち合わせていない。
「ごめん……いつか、喋れるときに、また」
「落ち込むな、気持ち悪い」
いつもの調子で私を励ます。
そうだ。言えないということは、これからの自分を創るのではなく、今までの自分を演じること、考慮して言ってくれたのだろうと、少し顔が綻ぶ。
「そうだ、今日ロキがデートだから、お土産があるかもしれないな、今何時だ? 」
「真夜中の十二時だ。いいタイミングだな、た……いや、なんでもない」
どこまでも手が込んでいる。
私に“立てるか? ”なんて疑問は、愚問中の愚問。彼が、私を私でいさせてくれた証拠。
でも、その言葉さえも、私を私でなくしてしまう要因なのだ。
私はそんなジレンマに耐えながら、これからも生きていく。
なぜなら、そのどちらにも道はあり、いつでも逃げ出せるからだ。まだ耐えられる。まだ大丈夫。私は“あいつら”を殺すまでは、死んでも死なないし、死ねない。
たとえ、何があろうとも。