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九戒:ラルのお仕事(2)

 満身創痍で意識朦朧、この状況を打破する術を僕は知らない。

 結末は至ってシンプルだ。それしか見えない。

 止めを刺そうと、目の前の二人の少女は再び火球を作り出した。

 それはとても早く、死神が近づく雰囲気、死期を悟った生き物のように僕は穏やかだった。

 が、火球は途中で静止した。否、世界は色を保ったまま、時を止めたのだ。

『ん? どうなってる? 戦争の地にはなっていないと思ったのだがな』

 地の底からのような声は、あからさまに僕の中から聞こえてくる。誰だろうか。

 聞いたことのない声、初老の、老人のような低く透き通った声。

『少年よ、いや、答えはいらないか。力が欲しいか? ん? 違うか、体、借りてもいいか? 』

 唐突のことに対処しきれず、僕はそれに希望を見出せず、恐怖が更に体を浸透していった。

『まぁよい、面倒だ、体借りるぞ』

 僕はようやく状況を把握。いや、把握しきれていないからこその質問が喉を突いた。

「な、名前は? 」

『俺か? そうだな……ゼル、とでも名乗っておこう。賢者ゼルだ』

 そして、時間はもとの時間をたどる……。


 火球は青年の目の前で制止する。が、その炎の淫靡な揺らめきは、いまだ健在である。

 青年と退治する少女たちは、不思議そうな顔をして戸惑うのであった。

 魔法を途中で止めるなど、ありえない所業である。避ける、破砕する。それは至って簡単だが、時を操る魔法など、特攻魔法免許にも禁忌魔法使用許可免許にも無い。だとすれば……。

 少女たちはそこで思考を止め、目の前の一見雑魚に見える青年を、いたぶることなく殺そうと決めたのであった。

 次の瞬間、青年の目の前の火球は青白く光ると共に、氷のように砕け散った。

「う〜ん。なるほどなるほど、悪くないが、至って単純だぁ〜」

 先ほどまでの青年とは何もかもが違う。少女二人は冷や汗を、悪寒を感じながらはっきりとそれを理解した。

 にやにや笑いながら、舌なめずりをする青年。

 恐怖のあまりに、殺す以外の答えが見つからず、少女二人は再び火球を生み出す。

 青年はそれを見ると、右手を地面と平行の高さまで持ち上げ、指を弾き、音を響かせる。

 すると、先ほど同様に、火球は氷にでもなったように砕け散った。

「無駄だ、貴様らの魔力の本質を理解した」

 青年の冷ややかな笑いに、少女二人は自分に死相が見えたような顔をしている。

 今までに味わったことの無い、絶対的な無力感にみまわれながらも、少女は魔法を放つ。

 しかし、少女を離れ、一秒としないうちに魔法は砕かれてしまう。

「メミル、いい? 」

「エミル……大丈夫だよね? 」

 魔法が使えないと理解した少女は長剣を抜き、最初の突撃のように、挟撃に走る。

「メミル! 右は弱点だ」

 青年の右半身は、先の戦いで焼かれ、砕かれ、もしかすると破裂しているかもしれない。少女たちはそれを考えていたが、それすら甘い考えだった。

 青年の周りが急に加速し始めたのだ。刹那、陣が目に見えない速さで展開を始めた。

 治癒陣。だが、その外側に、何か別の陣があつらえてある。

「バカな、陣の二重展開だなんて」

 加速している二人に止まるすべは無く、踏み入ったそこは地雷原と化していた。

 間一髪逃げることに成功はしたものの、それぞれやけどが激しかった。

 青年はそれを、ただただ嘲り笑っていた。

「ん〜、つまらないな」

 そして青年は再び、陣を急速展開。

「あの少年はこんなにも素敵な力があるというのに、宝の持ち腐れだな」

 火傷、恐怖、それらが収束したものに心を支配され、少女二人は地にひれ伏すのみだった。

 逃げることも、言葉を発することも、唯一許されたのは、慈悲を請う涙を流すことだけだった。

 そして、一陣の風が吹く。

 それは竜巻のように渦巻き、少女二人を空という処刑台に誘う。

「せめて厳かに殺してあげる」

 一つ目の陣を維持させたまま、青年は二つ目の陣を展開、それでも足りないのか、更に陣は増殖を続ける。

 否、二つ目の陣が言葉を放っているのだ。つまりは契約、召還であった。

 契約の完了は光が示す。陣が光を帯びて青年を怪しく照らす。

「黒く光り、赤く薙げ、青に染まる血に溺れ、白という名の虚無に包まれ、透明の元へ還るがいい、我が僕エクエスよ、醜き輩を心行くまで飲み干せ」

 陣は開放されるように広がっていった。そして、一瞬世界は白に包まれた。

 次の瞬間、処刑台に上がった少女たちの目の前に現れたのは、黒き甲冑に身を包む騎士。それは人でなく、その何倍もある巨人のようなもの、手には釘代わりの短剣と槌。

 懺悔の言葉も許されず、短剣は心臓へと突き立てられ、槌は弧を描き、同じようにして帰ってくる。

 その時、少女たちは気を失い見ることは適わなかったが、青年の後ろにはなにものかの影が見えた。

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