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マホロバ堂書店でございます  作者: 木下秋
夏目、書店員になる
17/33

クリスマスくらい、おだやかなきもちで。 ④

「たのしかった?」



 帰り道、延原さんがいった。



「はい。とても」



 もちろん、本心だ。たのしかった。色々な話をした。趣味についてや、店について……くだらない話をした。そういうのが何よりおもしろいんだと、ほんとうに思う。



 冬の空気は冷たくて、痛いくらいだった。おれはマフラーに、顔をうずめる。



「……すき?」



 「クリスマス」。延原さんの言葉に、ドキリとする。



「はい。すきです」



 少し前を歩いていた彼女に、追いつく。自転車を、強く押す。



「……なんかみんな浮かれてて、たのしそうで……平和でキラキラしてて、いいじゃないですか。わざわざこんな日に、悪いこと考えるのもバカらしい、っていうか……。今日くらい、キレイなことだけ信じたいって、思うんですよね」



 ……結構恥ずかしいことを言っている自覚はある。延原さんの方を見れない。


 少しして、彼女の方を見る。――少しだけうつむいていて、少しだけ、微笑んでいた。



「……私もすき」



 なんだ……なんだ……なんだ! このキモチは! このムズムズする感じってのは……これっていうのは……アレか……アレなのか……⁉︎


 そんなことを思っていると、交差点で立ち止まる。どうやら、わかれ道のようだ。


 なんだか、わかれがたい……そんなことを思いながらも何もいえずにいると、



「じゃあね」



 そういって、延原さんが片手をあげる。



「あっ、あのっ!」



 思わず、いってしまう。


 彼女は、立ち止まる。



 なんといえば……なにをいえば……。『今日はたのしかったです』? は、いったし、『これからもよろしくおねがいします』? 『仕事、早くおぼえます』? 『力になりたいです』? ……あーっ、もうっ!




「メリークリスマス」




 ……。



 思わず、迷ったあげく。口走ったのは、そんな言葉。


 延原さんは少しだけおどろいたようで、でも、すぐに吹き出した。



「うふふっ……」



 冷たい頬が、あつくなる。……ハズカシイ……。




「メリークリスマス」




 ――。



 彼女はそういうと、踵を返して、歩いていった。



 ――。



 「メリー、クリスマス……」。誰もいなくなった交差点で一人、つぶやいた。

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