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マホロバ堂書店でございます  作者: 木下秋
夏目、書店員になる
15/33

クリスマスくらい、おだやかなきもちで。 ②

「ねぇ、今日チエリとこの後ごはん食べるんだけど、こない?」



 時刻は九時過ぎ。その誘いは、突然だった。

 おれはわかりやすく、うろたえた。



「えっ、この後……ですか?」



 「なんか、他に用事があるかしら」延原さんはそういうと、おれの顔をのぞき込む。



「や、用事はないんですけど……」



 おれが戸惑うのも、当然だろう。だって今日は『クリスマス』で、そんな日に、出会って四日目の仕事の同僚――それも五つ六つ上の女性二人と、食事をするなんて……今までに経験したことのない出来事だ。



「イヤだったらいいの」



 ……イヤイヤ! 全然イヤなんかじゃないんですけど、心の準備ってやつが……。



「いえ、そんな……。延原さんたちがいいんなら、ぜひ行きたいです」



 オォォ……! これはなんとも……。『クリスマスにバイトなんて』って正直思ってたけど、これはむしろラッキー? 二人はおれが知る女性の中でも、顔立ちが整っている方だといえる。別に付き合ってる人でもないけど、そんなキレイな年上女性二人とクリスマスに食事ができるなんて……。ヒトシ、ゴメンな……。



「じゃあ、仕事が終わったら、ね」



 「ハイ」。平然を装って返事をするけど、内心ドキドキだ。そもそも女の人と食事をするなんて、『彼女いない歴=年齢』であるおれにとっちゃあ、一大事だ。中学の時の給食以来? なんとも情けない話だが……。



「ねぇねぇ、アイちゃん聞いて! わたしね! さっきカップルに『ゼクシィ』売ったの! すっごいしあわせそうだったぁ。思わず『おしあわせに』っていっちゃったよぉ」



 そういってレジへとやってきたのは、小川さんだ。コミック担当である彼女は今まで時間をかけて在庫をチェックしていたようだったが、ようやく終わったらしい。


 ちなみに『ゼクシィ』とは、辞典にもひけをとらない分厚さを誇る、結婚雑誌のことだ。



「チエリ。この後の『クリスマスパーティー』、夏目くんも誘ったんだけど、いい?」



 小川さんはわかりやすく、オドロキの顔になった。



「え"。……別に全然いいんだけど……」



 もじもじしながら、つづける。「……部屋がちょっと散らかってるかも……」



 「それはいつものことじゃない」「それはアイちゃんだからでぇ〜……。夏目くんがくるんだったら、もうちょっとがんばって掃除したのにぃ〜……」二人はそんなやりとりをする。


 ……ン⁈ 食事って、小川さんの家でするのか……⁉︎



 「家入れる前にちょっとだけ掃除するから、ちょっとだけ外で待っててね」小川さんはなんともいえない顔で宣言する。



「あの……やっぱりおれ行かない方が」



 おれがそういうと、



「いや! きて! ぜひ!」



 小川さんは手のひらをこちらに差し向けて、いう。



「なんとかしてみせるよ」



 笑顔は、少し頼りなさげだった。

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