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佐藤家の見る日常-自衛隊最強の父と異世界からやってきた聖女の母を持つ平凡な僕の青春  作者: 小澤りか


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『海から来た子供たち(5)』

***『海から来た子供たち(5)』



「子供の姿は、―――矢島一等陸曹にも見えているな」

「……はい」

 片手で双眼鏡を覗いていた矢島一等陸曹が、低い声で答えた。

 俺たちは信じられないものを見ている。いや、あってはならないものを見ている。

動揺が、ゆっくりと怒りに変わっていく。

誰が、子供に何をさせているんだ!

 双眼鏡を後ろに立っている中原に渡し、覗かせる。

「っ―――!」

 中原が息を吞む。これは、目にした隊員全員の反応と同じだろう。

 高倍率双眼鏡で見ただけでもわかる。

日本ならまだ小学校に通っている年齢の子供たちが、何人も船の上にいる。

迷彩服を着ている。

顔が見える。ヘルメットはない。

小さな体には大きすぎる銃を抱えている。

その光景が、現実とは思えなかった。思いたくなかった。

 

「……、矢島一等陸曹。拡声器を」


 子供たちの乗った二隻の船が二百メートルほどまで迫ったところで、俺は拡声器のハンドマイクのスイッチを入れた。


「止まれ。こちらは日本国の領海である。それ以上の進行は認められない」


 俺の声が、あたりに響いた。

 しかし、二隻の船は波にもまれながらも進んでくる。大きな波を受けるたびに、船上の子供たちの体が大きく傾いた。今にも海へ投げ出されそうだ。



「繰り返す。ここは日本国だ。それ以上の進行は認められない」


 二隻は、止まらない。音声は届いているのに、子供たちは何も反応がなかった。


―――ん?―――二隻?


 おかしい。確か、大型船の前にいたのは、三隻だった。

 一旦拡声器のマイクを離し、無線で呼びかける。

「全分隊、周囲の警戒を維持! 対戦車班は消えた小型船の位置を確認しろ!

三隻いたはずだ。現在、二隻しか見えない!」

『―――了解!』

  

 そうしてから、再び拡声器のマイクを握る。


 「繰り返す。ここは日本国だ。止まれ!」

 少しだけ口調を強くするも、船の動きに変化はない。動きはゆっくりだが確実にこちらに近づいてきている。

 子供たちはまっすぐ前を向いたまま動かない。

銃を手にしたまま、ただ立っている。

 何か、あの子たちのことが分かれば…。

見た目では、髪の毛と肌の色しかわからない…。アジア系では―――なさそうだ。



「Halt the vessel! (船を止めなさい。)

This is Japanese territory.(ここは日本の領海だ。 )

Do not proceed !(これ以上進むな。)」


 子供たちに反応はない。

 久しぶりだから俺の発音が違っていたか? いや、英語では通じないのか?


「停下!(止まれ!)

这里是日本国!(ここは日本国だ!)


 中国語も反応がない。……あとは…。


「Стоять!(ストヤーイ!:止まれ! )

Дальше — территория Японии!(ダーリシェ・テリトリヤ・ヤポーニイ!:これ以降は日本の領土だ! )


あっ!―――わずかだが、反応した子供がいる。

 右舷側の船にいる中の数人が、俺の声に反応してこちらを見た。

全員ではないが、呼びかけは聞こえている。

 しかし……ロシア語とは…。


 船は、もう百メートルほど先にいる。

双眼鏡越しに、子供たちの顔が見分けられるようになった。

そして―――子供たちが身に着けているのが戦闘服だけなことに、怒りを覚えた。

 ヘルメットも、防弾ベストもない。服のサイズさえ合っていない。

ブカブカの大人用を、そのまま着せられているようだ。

 もしかして―――という、嫌な予感の中、俺はもう一つの言語を試す。


「Негайно зупиніться (直ちに停止せよ) 

Це японська територія (ここは日本の領土だ)

Не просувайтеся далі (これ以上進むな)」


 その瞬間、さっき反応のあった子供が一人、銃を手放してその場にうずくまった。

何かを大きな声で叫んでいる。

言葉は聞き取れないが、胸に刺さるような痛々しい声だ。

しかし、周りに立っていた子供たちは、周囲を見回しただけで特別な動きはない。

手を差し伸べることはなく、ただ立っている。

 お互いの言葉が分からないのか? それとも…何か理由があるのか?

 だが、俺の声はあの子に届いたようだ。その言語は…。


「……ウクライナ語が通じた……」


 少しぐらいは意思疎通ができる可能性がある。しかし、船は止まらない。

船を動かしている人間の姿は見えない。

このまま海岸に乗り上げるか、その前に何らかの攻撃を仕掛けてくるのか―――。


 攻撃を仕掛けてくる―――。


あの子供たちが銃を撃つ?

あの子供たちと撃ち合わなくてはならない?

俺たちは……。あの子供たちを、―――。


 俺は無線機で再び命令を発する。


「子供を―――……傷つけるな」


「えっ?!」

 背後の中原の驚いた声に、俺は言葉を続ける。

「装備品が違いすぎる。一発でも当ててしまったら致命傷になりえる。」

 時間を稼ぐ。

「彼らが発砲した場合は―――自身の身を守ることを優先しろ。」

 向こうにも、撃てる弾数に限りがある。それまで、俺たちは―――。 


『こちら対戦車班! 九時方向より、高速で接近する小型の熱源を発見!』

 九時、桟橋か!

「第三分隊、確認できるか!」

『できません。白波が高く、視界が遮られ―――っ、見えました!

 小型船舶一隻確認! 高速で向かってきます!』

「船上に人はいるか?」

『人は、―――目視できません』

 二方向からの進行は、想定内だ。だが、あの子供たちを乗せた船は何だ?

 陽動なのか、それとも―――。

「継続して警戒強化。」

 いや、―――落ち着け。今は憶測で判断するな。

確認できた現実だけを見ろ。


『了解――――! こ、小型船、止まりません。高速で接近してきます!』

「なっ――?」

『高速のまま桟橋先端に接触――――――いや、止まりません!

そのまま―――こちらへ向かってきます』

「何だと―――?」

『船が―――あっ!』


―――ブツッ―――。


 第三分隊からの通信が途絶えた。雨音しか聞こえない。


「森下! 現状報告を! 森下!」

 無線機の反応は全くない。本部通信と同じく完全な無音だ。

同じ無線を聞いていた矢島一等陸曹と中原の表情が一気に強張る。

 何が起こった? 桟橋にぶつかりつつ陣地に突っ込んできた?


「中原二等陸曹!」

 呼びながら振り返ると、すぐに。

「自分が第三分隊の状況を確認してきます! 予備の無線機を持っていきます。」

「頼んだ。ただし、単独で深入りはするな。状況確認を優先しろ。」

「了解!」

 敬礼をしてから、中原は駆け出していった。

 

 中原の背中を見送る間もなく、対戦車班からの無線が飛び込んできた。


『こちら対戦車班。 十二時、大型船のあたりに新たな熱源を確認しました。』

「船か?」

『―――船体は確認できてません。熱源は小型船より小さく、人と思われる熱源も複数確認。速度を上げて、こちらに向かっています。』

 四隻目か? まさかこっちも突っ込んでくるつもりか!

双眼鏡で海の上を見る。雨の中、向かってくるものの輪郭は不明瞭だ―――。くそっ!

数歩、前に出る。

「小隊長!」

 完全に全身をさらした立ち位置に、矢島一等陸曹が慌てて引き戻そうとする。

「確認するだけだ、この目で見たら下がる。」

 無理を言って、再び双眼鏡を構えた。レンズに雨粒があたってくる。

それと同時に、第一分隊からの無線が入った。

『―――二隻の船、動きが止まりました!』

「―――!」

 双眼鏡を外して海岸線を見下ろす。

中型の漁船のような船が二隻、第一分隊陣地の正面数十メートル先の海面にいた。

船上にいる子供たちの様子が肉眼でもはっきりとわかるようになった。

一隻に―――七人、いや八人か?

 小さな子供たちで船上はいっぱいになっている。

いつから…あんな状態で立たされているんだ?

うずくまり叫び続けている子供以外、全員が銃を構えたままこちらを見ていた。

 俺は一度深呼吸をしてから、ハンドマイクを握り直した。


「Не рухайтеся далі!(ネ・ルハイテシャ・ダーリ!:それ以上動くな!)

Ми не маємо наміру завдати вам шкоди.(ミ・ネ・マーユモ・ナーミル・ザヴダーティ・ヴァム・シュコーディ!我々は君たちを傷つけるつもりはない。)」


  あの子だけでも、我々の想いが伝わるように―――。


 蹲っていた子が、顔を上げた。キョロキョロと周りを見て、そうして船から遠く離れているはずの俺を見つけた―――と感じた直後。


―――ダァンッ!―――


一発の銃声が響いた。


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