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皇国 世界の舵取り

 魔王城のお休みが終わり、アルケディウスに戻った私を待っていたのは、あちらこちらからの面会依頼だった。


 三日間の休みを終えて戻ってきた随員達と一緒に内容を精査する。


「ゲシュマック商会からと、元ギルド長。アインカウフからのものは断れないので最優先で。

 特にアインカウフには、休み明けの技術会議の前に話を聞いておかないと」

「かしこまりました。あと、お時間があれば孤児院に顔を出して頂ければ、とリタ院長が申しておりました」

「行きます」


 後は各地の大貴族から、挨拶をしたいという依頼が多々。

 今年こそは自分の領地に来て欲しい、という願いのようだ。


 大神官になってから、私は一月に数回のペースで各国、各地を巡っている。

 各国の神殿に設置されている転移陣を使っての日帰り、良くて一泊の吶喊旅行だけれど。

 アルケディウスがメインだけれど、各国の首都以外にも最近は行くことが多い。


「今までは徴税など特別な時以外には殆ど使っておりませんでしたのに、大神官様は随分と便利にお使いになるのですね?」

「お金がかかるわけでもないのに、使わない方がもったいないでしょう?」


 という会話を以前、司祭達とした。

 私以外は今もそんなに積極的に使っている様子はないけれど。


 地図を取り出して確認する。

 二年間の間にアルケディウスの十七領は一度全部回った。

 海産物の研究の進むビエイリーク領、ロンバルディア領、プレンティヒ領、パウエルンホーフ領などには数回行っているから、我が領地にももっと、という声は毎年聞かれるものだ。


 私が舞を捧げると明らかに精霊が元気になるんだって。


 その土地の様子を聞いて、できるだけ合った産品を育てたり、開発できるようにアドバイスしてきたし。

 ドルガスタ伯爵領などは、炭酸水と温泉を一般に開放したことから、旅の疲れを癒やす場所として商人達の間で人気になってきているらしい。


 天然温泉に馴染みがなかったこの世界の人達も、一度入ってしまえば温泉は病み付き。

 わざわざ遠回りしてでも寄る人も最近はいるのだそうだ。


 そんなドルガスタ伯爵家に続けと、各地は自領の開発に血眼になっている。

 でも、普通の領地になかなか二回目、三回目は難しいことが多い。

 魔性に襲われて精霊が消えた領地などには優先して行くようにはしているのだけれど。


 そんなこんなで悩んでいると――


「マリカ。シュライフェ商会の面会も断ってはなりませんよ。

 其方の成人式に向けた衣装の採寸があるのです」


 お母様もしっかりと予定を差し込んでくる。


「もう成人式の衣装を作るのですか? まだ半年あるのに」

「まだ半年ではありません。もう半年しかない、です。

 本来、貴族のドレス。特に公式の正装などは一年以上前から用意するのが当たり前なのですよ。

 シュライフェ商会にはもう去年の内から手配して、最上級の精霊上布を織るよう命令してあります」

「え? 織りから発注しているんです?」

「ええ。リオンやフェイ。男性用の服は普通と言えば普通の布で良いですが、貴方のドレス用の上布には刺繍なども入れないといけませんから。

 神殿長の即位式などとは違い、一生に一度の晴れ舞台ですよ」


 ノリ的には向こうの世界の振袖のようなものだろうか。

 一生に一度しか着ないのにもったいないと思うけれど、それを口にしたら絶対に怒られる。

 でも、最上級シルクに刺繍かあ。


 こちらに来てから向こうの世界にいた時には考えられないような豪華なドレスを着せて頂いているけれど、なんだかさらに凄いことになりそう。


「でも、あんまり早く作ると体型とか変わっちゃうかもしれないじゃないですか?」

「だから、ギリギリまで待ったのでしょう?

 だいぶ背は伸びましたが、まあ、ここからあと半年。体型が大きく変わることもないはずですから急がせないと」


 成人式のカラーコードは黒と決まっているそうだ。

 この日から大人として、他者に染まらない揺るぎない強い意志を持って新しい人生を歩み出す。

 そういう意味合いを込めて、男子も女子も黒を纏う。

 そして家族の前で今まで育ててくれた感謝を述べ、国王の前に進み出て祝福を受ける。

 貴族でない子どもの場合は神殿で行ったりするけれど、今年、成人の儀式を行うのは私とリオンとフェイだけ。


 できればアルも一緒にやりたかったけど、年齢が合わずに残念だ。

 皇王陛下も、お父様も、思いっきり派手にやるとかなり本気の準備をされているそうだ。

 嬉しいけど、ちょっと怖いなあ。

 どんな式になるのだろう。


 でも、そうすると残り三日間のお休みのうち二日と半分は埋まる。

 一度面会を入れると一刻や二刻では終わらない。

 準備や後片付けも含めて半日は時間が必要だ。

 夜は皇家の料理人さん達との新料理素材についての話し合いや、ザーフトラク様と次の技術会議の打ち合わせ。


 最終日は礼拝と晩餐会だし。

 やっぱり、各領地からの面会やお茶会の依頼は断るしかないな。これ。


「元々、一つの領地の依頼を受ければ他の領地と不公平が生まれます。領地からの依頼は受ける必要はありません。

 流しなさい」


 お母様はそうおっしゃるけど、少しでも自領に恵みを齎したいという各領地の必死な気持ちは解るんだよね。

 なるべく丁寧にお断りの手紙を書いておこう。

 そして私達は、まず最優先のゲシュマック商会からの面会依頼に応じた。

 ガルフ達とはこの間、魔王城で会ったばかりだけれど、魔王城の子ども達の前では仕事の話はできないからね。


「ゲシュマック商会は、近々食の部門と科学部を分けるつもりです」


 挨拶の後、ガルフはそう言って、大聖都でも少し聞いた現状を説明してくれた。


「各国とも、この二年で『食』に関する市場が急激に増大しています。

 小売店、飲食店とも、不老不死前に戻った――と言っては言い過ぎですが、そう言っても良いくらいに活気を増しているのです」


 ガルフは現在、飲食店を本店と屋台店舗、それから実習店のみに絞り、小売と食料品流通問屋に力を入れている。

 各飲食店などに適切に食材を納める食の交通整理役だ。

 おかげで食材価格の高騰という事態にはならずに済んでいる。


 ただ、まだ圧倒的に需要に供給が追い付いていない。

 嗜好品、調味料である砂糖、しょうゆ、ソースなどが特に。

 卵や牛乳なども。


「マリカ様が我々に商圏を与えて下さるのは嬉しいのですが、手が回らないというのが実情でして。

 印刷業のように、科学部を他の店との合弁会社にして独立させます。

 その責任者はアルに任せる予定です」

「聞いています。新しい薬品や金属による武器、金物の開発に携わる予定だそうですね」

「はい。新しい繊維素材による防炎防刃手袋、金属素材による農具などは工業、農業、そして飲食業の世界で既に大きな成果を出しています。

 どんなに高額になっても欲しいと、皆、喉から手が出るほど欲しがる者が多いです」


 錆びないナイフや鍬に鎌、ボウルや鍋など。

 今は作れば作っただけ売れる現状で、人手も足りず、求人は圧倒的な売り手市場に傾いている。

 働く意欲がある人が誰でもあぶれず仕事ができる。

 活気に満ちた現状はかなり喜ばしい事だけれど。


「アルには新製品の開発と共に、量産方法なども見つけて欲しいと期待しているのです」

「アルならきっとできますね。

 ただ、欲しい人がいるからといって、安かろう悪かろうで大量生産するよりも、できればじっくりと足場を固めて欲しいとも思います」


 なんだかんだで、バブル的な好景気は弾けると脆い。

 そんな時に経済を支えるのは、やはり丁寧で実直な商売だ。


「ゲシュマック商会には食と同じように、新しい科学の分野でも舵取りをお願いできると良いのですが」

「先ほどのマリカ様のお言葉ではありませんが、アルならできるでしょう。ご信頼下さい」

「ええ。そうですね。そうします」


 私は、私の一番信頼する仲間を信じることにした。


 ゲシュマック商会との話し合いの後、アインカウフとも面会して現状の確認を行った。

 彼は特に石油関係に目を付けていて、自動車などの開発にも携わっている様子。

 でも、石油はそれこそ下手な人の手には渡したくない文明の切り札なんだよね。


 アマリィヤ様や各国王、それにアルにも相談して厳重に監視していきたいと思っている。


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