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大聖都 舞踏会開始前

 結論から言うと、また私の外見は変わっていたらしい。


「マリカ様! 御姿が!!」


 舞を終え、舞台から降りて控室に戻る時、カマラがそう囁いて教えてくれた。

 そう思って、舞の邪魔にならないようにハーフアップにされた髪の毛を見ると、確かに金色。


「もしかして目の色も変わってます?」

「はい」


 なるほど。

 舞を舞っている最中に舞台が輝き、踊っている私の髪が黒から金に、目が紫から碧に変われば、それは見ている人達も騒めくだろう。


「……あ、髪の色が……」


 カマラが声をあげたので、生え際の髪を一房手に取って見ると、金色に輝いていた髪の毛がスーッと光を失い、黒に戻っていく。


「カマラ。目の色はどうですか?」

「あ、こっちも戻りました。紫です」

「どうやら、舞台から離れたからのようですね。でも、いったいどうして? 今回は『精霊神』様が入られたからでもないのに」


 よく解らない。


 私の外見の変化は、体内の『精霊の力』に影響されての事らしい。

『精霊神』様や『神』が憑依すると、体内にとんでもなく『精霊の力』が増えるから金髪になる。これは解る。


 この間、リオンが力を注いでくれた時は、多分、リオンがくれた力と私の中の『精霊の力』が相乗効果を起こして、一時的に凄く増えたせいで外見が変わった。

 それも解らなくもない。


 じゃあ、今の現象は?


 私は『舞』というと、上位者や精霊に力を捧げるものだと思っているけれど、今の舞では力を取られなかった。

 むしろ、逆に注がれたというか、高められたっぽい?


「とにかく戻って、お父様に相談ですね」


 多分、国王陛下達はこの後、会議一日目。

 昼餐をとってから話し合いをして、夜の舞踏会に参加することになる。


 食事の後、皇王妃様は戻ってくるかもしれないから、その時改めて、客席から見た私の様子や儀式について聞いてみよう。


「とにかく挨拶をして戻りましょう」

「はい」


 持ち込んだ着替えや荷物を返してもらい、マイアさんと神官長に挨拶をして。

 正式に私はアルケディウスの宿舎に戻った。


「素晴らしき舞をありがとうございました。

 本当に奇跡が地上に舞い降りた一時にございました。

 諸国王達は勿論、神殿の者達も、改めてマリカ様のお力と『神』の御寵愛を感じたことと存じます」


 多分、金髪になったことを言ってるんだろうと思うけれど、こっちからは余計な事は言わない。

 藪を突くと蛇が出る。


「私には解りません。いつも通り踊っただけですが」

「姫君が祭壇で踊った事で、『神』がお慶びになったのだと存じます。『神』はやはり姫君をお気に召しておられるご様子」

「そうなんですか? 今回は奉納の舞ではなかった筈ですけれど」

「神殿で行われる行事は須らく神事にございます。特に祭壇は『神』に仕えし者だけが立つことができる聖なる場所。

『神』に通じる場でもありますので、きっと輝かしき舞をご覧になっていたことでしょう」

「初耳なんですけれど」

「お話しておりませんでしたので。

『聖なる乙女』の愛らしくも秀麗たる舞を『神』がお慶びになり、祝福されたのだと我々は思っております。流石は『聖なる乙女』。

 諸国王方々も、姫君の価値が一国で抱えていいものではないとご理解下さったと存じます」


 してやったり顔の神官長。

 やっぱり、あれは彼が何か仕掛けたせいで起きたのか。

 面倒なことをしてくれる。


「諸国王の中には、同伴者にもあの舞を見せたい。もう一度機会が欲しい、と皇王陛下に談判していた方もおられました。

 もしかしたら、滞在中にぜひ舞って欲しいと要請があるかもしれません」

「え?」

「勿論、受けるか否かは、皇王陛下と姫君次第でございましょうが。その際はぜひ、お声掛けを。大聖堂を開放いたします」

「そ、それは皇王陛下とお父様の御判断次第でございますから」

「左様でございますな。では。また」


 退去の挨拶一つとっても、うっとうしい。

 私は粘着する大神官の視線を全力で無視して、宿舎に戻ったのだった。


 アルケディウスの宿泊区画に帰り、まずはお父様と、今回は一緒に来れなくて状況を見ていなかったリオンとフェイにも報告をする。


「なんでそうなる?」


 呆れたように目を見開いたお父様の気持ちはよく解る。

 実は私だってそう思う。


「多分、神官長が私を引き留める為に何かしたんですよ。

 精霊の輝きをその身に宿す『聖なる乙女』なんて、視覚効果満点じゃないですか?

 まあ、光の精霊を呼び集めてしまったのは私の油断ですけれど」


 最近、閉鎖空間や聖域でしか舞うことが無かったから、自分の舞いに精霊が集まってくることを忘れていた。


 あれがなかったら、少しは……いや、無理か。

 青い光が立ち上る舞台は派手だし、髪の毛の色が変わったことが一番の演出だったのだろうから。


「マリカ。舞い始める前に何か飲食しましたか? 水とか、お菓子とか」

「食べ物は服が汚れると困るから、控室には持ち込んでない。……あ、お水は飲んだよ。

 喉が渇きませんかって、マイアさんが持ってきてくれたから」

「それだ」「それですね」


 リオンとフェイの言葉がシンクロした。

 原因は水?


「? ただの水でしょ? カマラも毒見に飲んでくれたし」


『神』の欠片が入っていても、普通に飲食する分には大丈夫だとエルフィリーネも言っていた。

 実際、潔斎の間で大聖都の料理人さんが作ってくれたものを飲食しても、体に悪影響は出なかった。


 でも、フェイは少し困ったような顔で首を横に振る。


「確かに、『神』の影響を受けて身体に異常をきたすことは無いのかもしれません。

 ですが、踊る直前に飲んだ水に高濃度の『神』の力が入っていて、舞の時に『神』が舞台でそれを増幅したら、一時的にマリカの体内の『神』の力が増大して、外見に影響を与えることがあるかもしれません」

「多分、操作とか、憑依とか、乗っ取りとかはできないことは解ってた筈だ。『精霊神』のサークレットもしてるし。目的は多分」

「……マリカの『聖なる乙女』演出か?」

「おそらく」

「『聖なる乙女』演出?」


 お父様が二人の言葉に納得がいった、というように頷いた。


「神官長はマリカをアルケディウスから奪い、神殿に入れたい。その為に特別な『聖なる乙女』であることを強調したかったんだ。

 金髪、碧眼は『精霊に愛されし者』。アルフィリーガと同じ色というだけで馬鹿馬鹿しいと思っていたが、実際に金髪、碧眼が『精霊の力』を使うことに重要だというのなら、『聖なる乙女』がそうなることは抜群の視覚効果を発揮するだろうからな」

「黒髪、紫の瞳。夜の化身のようなマリカが、舞の最中に光に包まれ、金髪碧眼になれば、見ている人達は当然、驚くし魅了されるでしょう。

『神』に愛されし『聖なる乙女』と崇め奉る様子は簡単に想像できます」

「げ!」

「油断したな。『神』は『精霊神』と同種の存在だと以前聞いた。

 こちらが理解していることは、向こうも理解し、使ってくることも可能だという事だ」

「うわあっ」


 ヤダ。

 今でさえ、過剰な期待とか、分不相応な扱いとかされているのに、これ以上変な目で見られるのホントにヤダ。


「各国王と、神殿の重鎮たちの目の前での出来事だからな。視覚効果は絶大だ。

 今頃父上は、各国王達に色々言われながら、計画の立て直しだと頭を抱えているだろう」

「それは、各国が前以上に私を欲しがったりしてくるってことですか?」

「多分な。神殿にお前を独占させない、ということで父上は各国に働きかけを行っていたから、基本方針は変わらないだろうが」


 頭痛い。

 本気で神官長は私を『聖なる乙女』に仕立て上げて取り込むつもりなんだ。

 どうしよう。



 因みに、会議から戻ってきた皇王陛下は、報告を聞いて頭を抱えながらも。


「起きてしまったことは仕方ない」


 そう呟いて私を見やった。

 なんかもう、諦めたって眼差しだ。


「なんかお父様もですけれど、口癖になってますね。それ」

「お前がいつもいつもいつもいつも、先に事をしでかすからだ。

 問題を引き起こすな。先に相談と連絡を行え、と何度繰り返したら解る」

「でも……」

「ああ、解っている。お前が動けば必ず騒動が起きる。

 お前は人の考えの外側にいるのだ。

 枠に押し込め、制御する事はできない。神官長はそれを解っているのか……」


 チクリと、胸の奥に何かが突き刺さった。

 皇王陛下はそういう意味で言ったのでは無いと思うけれど。


「ならば、後はどう対処するか、だ。

 お前の価値を各国王や、神殿の者達が改めて再確認したことで、本格的な争奪戦が始まる。

 互いに牽制し合う中で、アルケディウスが持つ最大の武器がお前の意思になる」

「私の、意思」

「マリカ」

「はい」

「お前はアルケディウスを愛し、国に在り続けたいと思ってくれるか?」

「私の帰る国はアルケディウスです」

「よし」


 私は皇王陛下の問いに迷うことなく頷いた。

 魔王城を除けば、私が帰る場所はアルケディウスしかない。


「であるなら、私はそれを守る為に全力を尽くす。多くの者達も、其方を大切に思うのであれば、その願いを尊重してくれるだろう。

 細かい駆け引きは任せておくがいい」

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。お祖父様」


 私は深々と頭を下げた。


 私、ううん。

 私達が一年間積み上げてきたものが、ここからの戦いを決めるだろう。


「行くぞ。マリカ」

「はい。皇王陛下。皇王妃様、お父様」


 身震いする私の前に、スッと優しい手が差し出される。


「リオン」

「大丈夫だ。何が有ろうと俺は、いつでもお前の側にいるから」

「ありがとう」


 リオンにエスコートされて。

 国王会議一番最初にして最大の戦場。

 舞踏会に足を踏み入れたのだった。

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