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大聖都 神官長と王の裏事情

 大聖都で新年を迎えて数日後、私達はそんなに退屈しない日々を過ごしていた。


 お父様は大神殿の護衛騎士達に請われて、訓練の手伝いに行っている。

 私は随員達と衣装の準備などをしながら、城下町の商人たちからの面会や、大神殿の司厨長さんに頼まれて、国王会議で出す宴席のメニュー作りの手伝いをしていた。


「アルケディウスの宵闇の星。マリカ皇女にお伺いいたします。

 各国王に出す料理です。どのようなものがいいでしょうか?」


 そう問いかけてきたのはグスターティオ様。

 昨年も一緒に食事を作った仲だけれど、去年に比べてちょっと仰々しい。私が厨房に立つことも今年は禁止のようだ。

 まあ、身分社会では仕方ない話だけれど。


「私が指図したということが、知れても構いませんか?」

「無論」

「では、各国の特産を取り入れたメニューなどどうでしょうか?

 各国との交渉の為、色々持ってきているのです」


 自分の国の素材が料理に使われていれば嬉しいと思う。

 メインの素材は鶏肉と決まっているので、オリーヴァのオイルで揚げて、タルタルソースをかけたチキン南蛮風にする。


 前菜はチーズを使ったパータトのカナッペ。

 とっておきのサーマンのイクラの醤油漬けを提供した。かなり美味しいと思う。


 後は、てまり寿司。

 エルディランドのお米を使って、生ハムや薄焼き卵で丸く仕立てると花のようで美しい。


 サラダはキャロの千切りとデーツを混ぜ込んだラペ。

 濃厚なデーツの味わいがキャロとよく合う。


 スープは野菜たっぷりのミネストローネ。

 ヒンメルヴェルエクトの乾燥コーンを戻して入れると、エナの赤、サーシュラの緑に黄色が入ってとても美しい。

 パスタを加えると見た目も楽しいし、食べ出もあるし。


 パンは天然酵母を使った丸パン。

 去年は急だったので出せなかったけれど、今年は時間があるからできると思う。

 手作りのジャムとバターを出せば、素材の味が濃いので向こうにも負けない美味しさになる。


 デザートはチョコレートを使ったブラウニーにバニラアイス。

 ミントやフルーツを添えると綺麗だ。


 一つ一つに必要な技術はそんなに難しくないから、アルケディウスで修行して一級を取った料理人さんなら問題なく作れると思う。

 各国の素材を使って、七国の友好を表すのにもいい筈だ。


 あ、神殿の株を上げちゃうかな。

 まあ、いいや。


「アルケディウスで各国の精鋭たちと切磋琢磨し、学んだ日々はとても刺激的でございました。自分の作った料理を見知らぬ誰かが食べ、美味いと言ってくれるというのは良いものですな」


 アルケディウス帰りのグスターティオ様。

 去年の最初から比べると顔つきも変わって、凄く楽しそうだ。

 向こうでは店舗経営もやってきた筈だから、お抱え料理人ができることとはまた違って、楽しかったというのはよく解る。

 ただ。


「何百年もの間、現状に甘え立ち止まっていたことが、勿体なく思える程です。

 新年の参賀の為に早めに戻って参りましたが、もっと学んでいたかった思いもあります」

「グスターティオ様が戻ってきて下さったおかげで、潔斎の間の食事がとても美味しかったです。今後も希望があれば、定期的に受け入れますから」

「それは、とてもありがたいお話です。

 我々も今までのように日々を怠惰に過ごすのではなく、学びの心を忘れずに過ごしていきたいと思います。『聖なる乙女』にはどうか、これからもご指導を賜りたく」

「アルケディウスでお待ちしていますね」


 やはり、大聖都全体で私を取り込みたい思惑はあるようだ。

 厨房だけではなく、訓練場でも折にふれ、そんな雰囲気を感じるんだって。

 困ったものだ。


 それから、特筆するべきことはと言えばアーレリオス様の事だろうか。


 実は新年明けからまだ、私は話ができていない。

 ラス様も顔を見せて下さらないのはちょっと心配だ。


 正確に言うなら、ラス様は一度だけ顔を見せて。


『マリカ。儀式の後に身体から取った『精霊の力』使ってもいいかい?』


 と確認しには来て下さった。


「勿論構いませんが、何にお使いになるんですか?」

『ちょっと、ね。アーレリオスがバテてるから』

「え? 大丈夫なんですか? 私を助けに来て下さったせいで?」

『まあ、そうだけど気にすることはないよ。『神』の領域に割り込むのに予想以上に力を使ったってのもあるけども、そもそもは予定無視して乗り込んだからだし』

「予定?」

『言っただろ? 君にできれば憑依させて、外に出させたかったって』

「ああ、そうでしたね」

『外に出せば、皆で囲んで言う事を聞かせる目もあった。

 なのに、一人で乗り込んで。説得したかったんだって。

 それで、結局反発されて、逃げられてたら意味無いよね』


 って。


 少し心配だ。

『星』が預けて下さった『精霊の力』が、アーレリオス様の回復に役立てばいいのだけれど……。




 まあ、そんなこんなで数日の後。

 アルケディウス皇王陛下が大聖都に到着する。


 新年の参賀をアルケディウスで行い終えた足で、会議の為にやってきたのだ。


「エル・トゥルヴィゼクス。皇王陛下。皇王妃様。

 新しい年の始まりをお慶び申し上げます」


 先に到着していた者として、私は宿舎でお父様と一緒に、皇王陛下と皇王妃様を出迎える。

 新年だからちゃんと挨拶をしたつもりなのだけれど。


「エル・トゥルヴィゼクス。

 やはり、騒動を巻き起こしていたようだな。其方らは」


 新年の挨拶よりも、儀式へのねぎらいよりも先にお説教が飛んできた。

 皇王陛下は到着までに、色々と情報を集めていたようだ。


「いつも申しておりますが、騒動を起こそうと思って起こしているわけでは無いんです。

 何故か勝手に騒動が起きるだけで」

「まあ、良い。解っていた事だからな」


 したり顔でおっしゃる皇王陛下。

 解せぬ。


「今年の国王会議は荒れるぞ。今までになく」

「根回しは上手くいかなかったのですか?」


 とは、お父様。

 お父様と皇王陛下は、一応の共通理解はしているようだけれど。


「できる限りのことはした。後は直接交渉だ。久しぶりに面白くなりそうだ」

「面白くって……」

「お前達、大聖都が一枚岩ではないことは知っているか?」

「え?」


 皇王陛下は為政者として、やっぱり私達とは違う目で色々な情報を見ているようだ。


「大聖都の神官長は『神』に選ばれし者。

 力を分け与えられ、世界でただ一人『神』の代理人として人を不老不死にし、神官に精霊の術を与える力を持つそうだ」

「そうなんですか?」


 まあ、『神』の本当の意味での代理人は大神官、フェデリクス・アルディクスで、神官長はその傀儡。

 子どもの姿をしていた彼に代わって、外向きの事を仕切っていた人物の筈だ。


『神』と直接繋がり、大神官から色々な情報を聞き。

 リオンの正体とか、私が『精霊の貴人』の転生だとか知っているのは、大神官の他は彼だけだというから、尊重されてきたのは間違いないだろう。

 けれど、そんな彼が率いる大神殿も一枚岩じゃないのか。


「神官長の力が落ちたと、最近、噂になっているそうだ。

 子どもを新しい不老不死者として迎え入れる儀式は当面中止すると発表されているし、神殿長が次々と不祥事を起こすなどで管理責任も問われている」

「あ、ああ……」


 アルケディウス、アーヴェントルク、ヒンメルヴェルエクトと三カ国で神殿長が更迭される事態が発生した。

 勿論、各神殿長がろくでもない悪さをしていたから、ではあるのだけれど、そのきっかけを作ったのは私だ。


「今までは圧倒的な力と『神』の意志の召喚で黙らせていたが、それが最近見られなくなった。

 この隙に神官長を追い落とし、自分が神殿のトップになろうと考えている者もいるようだ」

「神殿も大変ですね」


 私は相槌を打ちながら考える。


 多分、なんだけれど、大聖都を事実上仕切っていたのは子どもの姿をした『神』の端末。

 フェデリクス・アルディクス。

 大神官は本当の意味で『神』の代理人で、『神』の力や奇跡が必要な事は、神官長を表に出しつつ彼がやっていた。


 その大神官を失ったことで、神官長は今までできていたこと、やってもらっていたことができなくなった可能性がある。

 神官長の表向きの独裁政権を面白く思っていなかった配下が、神官長の追い落としに動き出したということだろうか?


 とすると、言葉は通じているのに話が通じていないような焦り具合は、そういう獅子身中の虫に迫られているからだったのかもしれない。


 知らないけど。


「まあ、そんな事情を我々が斟酌してやる必要は無い。むしろ神殿内を分裂させてやるつもりだ」

「流石父上ですな」


 そんな私の思いを知ってか知らずか。


「マリカ」

「は、はい」

「私はお前を、これ以上『神』と結び付けさせるつもりはないからな」


 皇王陛下は雄々しく笑う。


「さっきも言ったが腕が鳴る。

 今度の国王会議、新しく国を率いる若者たちに、古老の意地を見せてやるとしよう」


 国を五百年治めてきた王の力と自信を感じ、私は少し安堵したのだった。


 この方と一緒ならきっと、大丈夫。

 と。

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