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空国 精霊神達の内緒話

 復活した『魔王』は告げた。


『哀れな『星』の操り人形ども。

 貴様らは忘れているし、間違っている。

 早々に己の過ちに気付き、本来の使命を思い出すがいい』


「忘れてはいないし、間違ってもいない。

 間違っているのは彼の方だ」


 白き空間に揺蕩う七人の『精霊神』。


 現実とは異なる位相。

 人も『神』も『星』すらも目の届かぬ場所で、彼らは語る。


『魔王降臨』の夜。

 精霊達の内緒話。


「僕らが全員復活したら、何か仕掛けてくるだろうな、とは思ったけれど、随分と直接的な手段に出てきたもんだ」

「あの器が……アルフィリーガの偽物という奴か?

『精霊』ではなく、人間だったぞ。間違いなく」

「ああ、意識をほぼ上書きされている割に、根本の所で人格が残されていた。

 相当な時間をかけてキメラ化したとしか思えない。

 よく『子ども』にあんなことができるな?」

「彼にとっては、自分の『子ども達』以外はもう守るべき存在、ではないのだろうさ。

 でなければ、あそこまでの非情はできぬ」

「……本気で非情に徹するなら、全ての『子ども達』の命を吸い取り、力を奪い取るくらいするだろう。

 そうせずにあくまで警告に留めているあたり、彼の本質は変わっていない気がするがな」

「悪ぶりたいお年頃? チューニビョウとかって昔、先生、言ってたっけ?」

「良くそんな言葉を覚えているな。ラス」

「こう見えても記憶力は良かったんだ。若かったし」


 全体から見れば、深刻な盤面ではある。


 でも、彼らの間に漂う雰囲気は、どこか暖かく、優しさに満ちていた。


「そう言えば、復活直後に大技使うことになったけど大丈夫? キュリオ」

「平気。僕一人だったら、ちょっと厳しかったかもだけど、あっちも本気じゃなかったみたいだし、皆の力も借りられたしね。

 ただ、マリカには少し無理をさせちゃったけど」


 キュリオ、と呼ばれた『精霊神』は、仲間達に柔らかい笑みを浮かべながらも、真剣な眼差しで告げる。


「……あれは、デモンストレーションだね。自分は太古の魔王と同じことができる。故に本物の『魔王』であるって」


 かの『敵』と実際に対した者としての見解を。


「彼は偽物、というか複製、コピーだ。オリジナルが今も昔も『リオン』であるのは間違いない。

 ただ五〇〇年の時間と潤沢な『力』があったんだ。自分が与えた『個性(ソフト)』を複製するくらいはできなくもなかったんだろう」

肉体(ハード)は……もう使い切っていたのか?」

「多分ね。元々、僕らにだって与えられたのは一回分だけだったろう?

 僕らも彼も、無から有を生み出すことはできない。形を与えられたモノを維持、管理することが本分だもの」

「無から、有を生み出す。それは彼女……『星』の役割だからな」

「そう。だから、あんな強引な手段で時間稼ぎに出てきたんだよ。

『星』の端末、マリカを手に入れる為に」

「『魔王』がマリカを手に入れられれば上々。できなければ『魔王』の攻撃でアルフィリーガとマリカを成長させ、十分に育ったところで刈り取るという計画か」

「世界を支配している『神』にとっては、マリカを社会的に抹殺することも、大事な者達を人質に取って強引に手に入れることも、できなくはないからな」

「彼の目的は、子ども達と一緒に『帰る』ことだ。

 僕達はもう物理的に無理なんだけど、多分『星』の力だけはどうしても欲しいんだよね」

「『星』本体とて、もう無理だ。彼女は、この星と一つ。深く結びつきすぎている。

 だから後継機であるマリカを欲している。できれば、自分の分身であるアルフィリーガも連れて行きたい。

第二世代(セカンド)』から、もう一段進化した『精霊の力』を持つ『第三世代(サード)』リオンとマリカ。

第一世代(我々)』にも『第二世代(かれら)』にも不可能だった悲願が、あの子達ならできるかもしれないから」

「『第三世代(サード)』なら、奴らをぶっ飛ばせるのか?」

「解らない。けど、可能性はあるだろうね。

 第二世代(かれら)は奴らに反抗できたんだから。

 いう事を聞かない、が精いっぱいだった第一世代(ぼくら)と違って」

「……多分なんだけど」


 光の少年は、国での騒動や、自国にいる『神の子ども達』を思い出しながら呟く。


「時間も、もうあんまり無いんだ。

 不老不死や不変の技も、きっと永遠じゃない。

 何人か『子ども達』が出てきていることからしても、あっちもギリギリなんじゃないかな?」

「我々の『力』とて、永遠のものであるという保証は何もない。

 モノには須らく始まりがあり、終わりを迎える。

 我々の場合は、それがいつか解らないというだけだ」

「作った奴らに、聞くわけにもいかないからね」


 この大陸、いや『星』の始まりを知る『精霊神』にさえ、解らないことはあるし、ままならないこともある。


 彼らは本来『神』などでは無いのだから。


「我らを受け入れてくれたこの星は、故郷によく似た奇跡の地。

 だが、かの地のように優しくは無い。

『精霊の力』が無ければ、子らは苦しい生活を余儀なくされるだろう。

 だからこそ、『星』はマリカを遣わし、この星を『動かす』ことを決めたのだと私は考える」


 長兄とも言える火の精霊神の言葉に、反論を紡ぐ者は無い。


 一人の少女の覚醒から始まる世界の急速な変化の兆しは、おそらく近い将来失われる『神々』と『星』の力に頼らず、人間が歩き出すことを望んでのもの。


 故に彼らも決断を迫られているのだ。


『神』と『星』。

 どちらに従うかを。


 そして最初の言葉に戻る。


「忘れていないし、間違ってもいない。

 間違っているのは彼の方だ」

「ラス」


 一片の迷いもなく、少年の姿をした『精霊神』は断言した。


「僕は彼女と約束したんだ。

『子ども達をお願い』って。

 帰ってきて、なんて言われていない。

『幸せに生きられる世界を護って』って。

 帰ったって、子ども達は絶対に幸せになれない。ここで、新しく生きる方が幸せにしてあげられる。

 現に今、子ども達は人らしく人生を楽しむ事ができているんだから」

「だな。……戻ったところで先生もいない。

 奴らの好きに変えられ、面影もなくなったであろうあちらに戻って、駆逐できたとしても。元の、幸せだった過去は取り戻せない。

 そんな死と不幸が約束されているような旅立ちを許すわけにもいかない。

 絶対に止める。あいつをぶっ飛ばしても!」

「それができれば苦労はないよ。そもそも、傷む身体も殴る手も無いんだからね。

 僕らにも、彼らにも」

「その為に、マリカ達がいるのだろう?

 地上を動かす権利をもつのは人、身体を持つ生命だけだ。

 今まで通り、我々は『星』に味方し、マリカ達を守る。それでいい」

「でも『神の子ども達』や『魔王』はどうする?」

「それこそ、マリカ達に任せておけばいい。彼女の心と知識を受け継ぐマリカであるならば、いずれ、彼らも、『彼』もたらし込む」

「たらしって……アーレリオス」

「ここにいる者達は、みんな、彼女にたらし込まれた口だろう。

 それに元々、あの二人は彼女の教え子だ。一番、思いも深い」


 そう言って、アーレリオスと呼ばれた存在は、空中にフッと指を動かす。


 空間に浮かび上がった映像に、他の六人は硬直した。


 正確には、一人は見たことがあったから、硬直までにはいかなかったけれど。


「……よく、こんなものが」

「『星』が大事に取っておいてくれたんだよ。

 てか、いつの間にもってきてたの?」

「コピー、コピーしてくれ。アーレリオス!」

「僕にも」


 目の色を変える弟分達の視線の先には、彼らの心の奥に刻まれたものと同じ笑顔が浮かんでいる。


「何年、何千年経とうとも、消えないものがある」


 謳うように、言い聞かせるように、静かな思いが紡がれる。


「ラスではないが、我々にとって、あの時の約束は永遠。

 それは『彼』とて変わるまい。

 ただ孤独に歪み、曲がってしまっただけ。

 マリカに出会い、触れれば思い出し変わると、私は踏んでいる」

「それは『夫』の信頼? それとも『父』の確信?」

「黙れ」


 茶化すような少年の頭に無言で拳を落として、彼は過去の映像を消した。


 周囲から小さな吐息が弾け、消える中、表情を変える。


 己の中のスイッチを切り替えて。


 兄弟達と語らう長兄ではなく、この星を護り、統べる『精霊神』。

 その長として檄を飛ばす。


「どの道、我々はもう、この星に根を張った。

 帰れぬし、帰らぬ。

『彼』にこれ以上子らを食い物にされるわけにもいかぬし、『弟妹』や『娘』が不幸になるのを見過ごすわけにもいかぬ」

「勝手にやれって、見捨てるのは簡単だけど、そんなことをしたら、先生は怒るだろうね」

「ああ、故に覚悟を決めろ。

 我らは操り人形ではない。

 自らの意思で、全てを賭けて、この星と彼らごと、我らが守るとな」


 言葉の返事は返らなかった。


 いらなかった。


 ただ、七人の兄弟達は、それぞれに思いを交わし合い、心に刻む。


 一人の女性の笑顔と共に、今も消えることのない、原初の約束を。

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