空国 最後の精霊神復活と深まる謎
夜の二月、空の日。
私はヒンメルヴェルエクトの神殿に向かった。
衣装を身に着けて、ヒンメルヴェルエクトからお借りしたサークレットを被って。
『それは、ただの模造品だ。
身を守る効果は無いぞ』
とアーレリオス様には言われたけれど、今回は『精霊神』復活の儀式。だからそんなに危険もないでしょう。
マルガレーテ様に衣装を整えて頂いて、リオンにエスコートをしてもらって一緒に儀式に向かう。
立ち合いは国王陛下。
アリアン公子やオルクスさんも来たがってはいたのだけれど、遠慮してもらった。
特にオルクスさんはね。
精霊獣様達の姿は見えないけれど、多分、勝手についてきている。
神殿の神殿長に挨拶して、奥の聖域に案内して頂く。
全体のベースは薄い黄色というか、オレンジというか。
暖かい太陽の光に包まれているようだ。
空の国、だから青空のイメージだったけれど、どちらかというと太陽とかの光モチーフなのかもしれない。
いつものように、奥の水晶に挨拶をしてアレクに合図。
踊り始めると、やっぱり待ちかねていたように力が吸い取られ始めた。
一番最後、お待たせしてしまったもんね。
やがて、足元に不思議な波紋が湧きはじめ、
「あっ!」
と思う間もなく、私はいつも通り、不思議空間へと引き込まれた。
「これで、七人目。最後だね」
謎の聖域に浮かんでいると、やはり鎖と面覆いで縛られている人が見える。
あれが、七人目の精霊神様で多分、間違いない。
「マリカ!」
「あ、リオン」
一緒には吸い込まれなかったから、精霊獣様が連れてきて下さったんだね。
ふわふわと浮かぶお二人と一緒にリオンが現れた。
「あの方が最後の『精霊神』様だね。いつもの通り軛を壊して、助ける。
で、いいですか?」
『ああ、頼む』
『これで、全員揃う。何百年ぶりかな』
どこか弾んで聞こえるラス様の声。
私は頷いて、リオンに目で合図した。
あとは七回目。
巨大な面覆いの上に飛び乗って、軛を壊す。
いつもの通りだ。
光の渦が巻いて、金髪に金茶の瞳。
光をそのまま形にしたような『精霊神』様が現れた。
ショートカットに、知的でありながら好奇心旺盛そうな眼差し。
眼鏡とかが似合いそうだ。
『やあ、久しぶりだね。キュリオ』
『久しぶり、などと簡単に言えるような年月では無かったよ。
でも……うん、久しぶりだ。ラス。アーレリオス』
優しげに、愛しげにお二人に微笑むと、キュリオと呼ばれた『精霊神』様は私達、私とリオンの方を見る。
『感謝するよ。『星』の愛し子達。僕は光。空と地の輝きを守る者。名をキュリッツィオという』
「あ、私はマリカです。こちらはリオン。長らくお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした」
『いや、仕方ないとは解っていても長かった。
でも、これでようやく僕も動くことができる』
肩をぐるぐると回すように動かすキュリッツィオ様。
うーん、この方もちょっと若い印象だね。
私の偏見で言うなら、
緑→風→光→水&地→夜→火
の順番に大人のような気がする。
『精霊神』に大人も子どももないのだろうけれど。
そして、私を眇めたキュリッツィオ様は、突然、私の方に手を伸ばした。
「うわっ!」
頭の上に乗っていたサークレットが浮かび上がって、『精霊神』様の手の中に飛んでいき、
ぐしゃっ!
「ああっ!」
粉々に砕け散ってしまった。
預かりものなのに、どうしよう……。
『こんな悪意に満ちた偽物、身に着ける必要は無い』
「悪意に満ちた、ですか?」
『そうだよ。形だけは精巧に真似ながら、品物に乗せられた思いや技術にまったく敬意が無い。
愛情もない。こんなもの見たくもない』
「敬意に愛情……」
『ナハトもそうだけれど、技術が専門の癖に君らは妙にロマンチストだよね』
『手で作る必要が無くなったからこそ、こういうことには思いが大事なんだよ』
「あっ……」
私が焦っていると、『精霊神』様は新しいサークレットを作って頭に乗せてくれた。
前のよりも綺麗だ。
『それは君にあげる。
持って帰るも、ここに残していくも任せるよ』
「多分、残していきます。今、この国には王勺も、冠も両方無いみたいなので」
『ありがとう。まったく……。素直に頼んでくれば考えなくもないのに』
「へ?」
『こっちの話。もうラスやアーレリオスから聞いていると思うけれど、僕達『精霊神』にはできないことや、言えないことが多くある。
勿論、できることも多いのだけれど。
だから、できる範囲で、ということを許してもらえるのなら、力を貸そう。助けて貰ったお礼にね』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
知的な眼差しの『精霊神』様は、優しく頷いて下さった。
『とにもかくにも、これで途切れたラインは繋がった。
自国の加護が最優先であるし、僕達はそれぞれの国に、いわば根を張った状態だから、頻繁に動くわけにはいかないし、動けない。
けれど端末を利用すれば、意思の疎通や援護くらいはできるようになる。大陸の守りも固くなる。今までのように彼に全ての力を引っ張られることは無いだろう』
良かった。と思える。
ただ、心配にもなるかな。
今まで『精霊の力』と人間の『気力』が取り放題だった『神』が、怒って何かしでかすんじゃないかな、って。
新年の参賀では『神』との直接対決という話もあるから。
『いずれ『神』との直接対決は避けられない。だが、多分、時間が欲しいのはあちらの方だね。
君達が成人し、完全な力を得た時に手に入れたい。その為の布石を色々と打ちたい筈だから』
「私は、どんな手を使われようと『神』に手を貸すつもりはありませんけれど……」
『そうかな? 目の前で人が死ぬこと、子ども達が傷つくことを君。本当の意味で割り切れている?』
「あ……」
空の『精霊神』キュリッツィオ様は技術屋で頭がいいとおっしゃっていたけれど、単刀直入、私の一番痛い所に突き刺してくる。
ぐさっとね。
私は反論できない。
『まあ、時間が欲しいのはこちらもだ』
今まで黙っていた火の『精霊神』様の精霊獣が、低い声で呟く。
額の紅かった石が、薄く虹色を帯びているのはおそらく、全部の『精霊神』様のネットワークが繋がった証拠だろう。
『『星』が許可を与えたこと。『精霊神』が復活したことで、今まであえて伝えなかった技術や知識がこれから出回り始める。
精霊古語の書物に、古の技術が残されていることも知れた。
世界は大きく変わる。それが安定し、世界が子ども達を受け入れる力をつけるまでの膠着状態は望むところだ』
「『星』が許可? ですか」
いつ、どこで『星』が許可を出したのだろう。
私のそんな思いを読み取るように、木の『精霊神』様の分身は微笑む。
『『精霊の貴人』が動き出した。その行動と意思は『星』の意思。
古の知識と技術を生かしていっても大丈夫、もしくはそうするしかない。と『星』が決意したってことさ』
「え? 私はただ、子ども達を守って、皆が幸せに暮らせるように環境整備したいだけですけど」
『その思いこそが『星の意思』ということだ』
『子ども達の為に食糧を量産し、生活基盤を充実させ、その上で『神』と直接対決する。
『星』で子ども達が幸せに生きていく為に必要な事は何か?
不老不死か、それとも死を受け入れ未来に繋いでいくことか。
決めるのは子ども達自身であるべきだからね』
もやっ。
少し心の中が揺れた。
でも、それを言語化している余裕はない。
今、『精霊神』様達の前で言っていい事でもない。
「キュリッツィオ様も端末を作られますか?」
『お願いしたいな。『神』の子ども達には気を付けるから』
「解りました」
やっぱり子犬になった。
可愛いハスキー子犬が生まれて、これで七国それぞれに『精霊獣』ができたことになる。
『僕がしゃべれるのは内緒でね。
あと、この国の精霊古語の書物は読んでいくといい。読めるだろう?』
「すらすら読める、訳では無いですけど、リオンやフェイもいるので」
ヒンメルヴェルエクトの精霊古語は英語、だっけ?
……頑張ろう。
『これから、君たちはもっともっと大変になる。
気を付けて。そしてしっかりね。僕達はできる限り、君達を助け、支えるから』
「ありがとうございます」
こうして、大陸の七国、全ての『精霊神』が復活した。
お祭り騒ぎのような人々を見ながら、思う。
これは、終わりではなく、始まりなのだ。




