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風国 新しい『王』の誕生

「それで? 結局の所、一番悪かったのは誰だったのでしょうか?」


 『精霊神』復活の儀式の後。

 謁見の間での報告の場。


 最上位、王の座から、マクハーン王太子がそんな言葉を落とす。

 声には、悲痛な思いを隠すことなく乗せて。


 私はマクハーン王太子だけではなく、集まる大貴族や騎士など、シュトルムスルフトの重鎮全ての人の前で、『精霊神』様から伝えられたシュトルムスルフト砂漠化の原因。

 破滅の女王の真実について語った。


 一つの偽りもなく、見てきたままを。


「あえて言うのなら、第二王子様だったのかもしれません。

 女王陛下の研究の手助けをする、という名目で転移魔方陣を作らせ、女王陛下に内緒でプラーミァに送り、城内に刺客を呼び込み、上位王族を殺害させ。その罪を女王陛下に被せたという点においては」

「破滅の女王の後を継いで即位した第二王子は、崩壊の危機にあった国を救った英雄とされていたのですが」

「本当は砂漠化を齎した犯人だとは……」


 冷静に状況を見れば、第二王子のクーデターだったのだと思う。


 孤立した女王を利用し、プラーミァに襲撃の機会を与えた。

 私が見ていた限り、プラーミァが本当に刺客を送り、王子王女を暗殺した、という証拠はない。


 もしかしたら刺客も、プラーミァ側を装った第二王子の手の者だった可能性もあると思う。


「背後には、プラーミァ王族が女王を獲得したいという思いも、否定できないくらいにあったでしょうし、クーデターを受容した貴族、大貴族なども共犯と言えるかもしれません。

 傀儡とはいえ女王を仰ぐことを疎んだ、当時のシュトルムスルフトの男性貴族達の悪意全ての犠牲者であったのではないでしょうか?

 シュトラーシェ王女は」


 私の言葉に顔を見合わせ、苦い表情を見せる大貴族達。


 色々と思う所もあるのだろう。

 その後、破滅の女王の伝説を都合の良いように解釈して、男尊女卑の体制を作ってきたのだから。


「では、女王が過ちを犯したから『精霊の力』が奪われたのではなく、女王を殺したから『精霊の力』が奪われたのですね」

「はい。『精霊神』様は、罪無く命を奪われた女王陛下を哀れまれ、その死地にオアシスを立てられました。

 そして自らの罪を悔い、反省する時まで、王の杖を取り上げられたのだそうです」


 ここはちょっと嘘。


 『聖なる乙女』に限らず、各国の王族はその血の中に強い『精霊の力』を持っているんだって。

 普段はそこまで強いわけでは無いけれど、『精霊の力』が枯渇した場所だと、『精霊の力』が戻ってきた扱いになって自然が戻る。

 オアシスができるというわけだ。


『皮肉な話だが、シュトラーシェから流れ、大地に染みた血が、死地となった場所の『精霊の力』を繋ぎとめた。

 それまでさらに奪うことは、できなかった。

 男の王族でも命を懸けて願う覚悟があれば『精霊の力』を戻せたし、それを奪うことはしないつもりだった。実際の所、その後間もなく封印されて、できもしなかったけどな』


 と風の『精霊神』様は語る。


 でも、この事実はあまり吹聴するなとは言われた。

 王族の血や命が、精霊の力を高める為の生贄、などという方向に繋がりかねないから。


 実際『精霊の力』を奪われたシュトルムスルフトはその後、色々と生贄まがいの実験を繰り返したらしい。

 あくまで実験台になったのは、女性『聖なる乙女』であったのだけれど。


 その実験により、『聖なる乙女(本当は王族)の血には『力』があり『精霊の力』を失った大地を潤す』『人の願いと意思によりそれを維持することができる』『生贄として殺して流した血は気力が無いので効果が薄い(!)』などが知られて、シュトルムスルフトの『聖なる乙女 オアシス作成の儀式』が確立されたのだと思う。


「プラーミァも、他国に攻め入った罪で王勺を奪われました。

 第六王子と当代の国王陛下は、火の『精霊神』の怒りを受けたことで、王族としての地位と力を奪われたそうです」


 具体的にどんな罰を下したかは、アーレリオス様が教えて下さらなかったから解らないけれど。


『殺したわけではない。まあ……一生己の愚かさを悔いることにはなっただろうが』


 相当にえぐいことになったのは確かなようだ。


 さらに本当は、もう少し穏やかだったプラーミァの気候はより熱を帯び、小麦などの穀物栽培が、北の一部以外で殆どできなくなった。


 女王誘拐未遂も、国内に刺客を送ったことも、プラーミァは公的に認めなかったけれど。

 けれど、王の杖も取り上げられたらしく以後シュトルムスルフトに侵略行為を行う事は無かったという。


 と同時に、王族が魔術を使う事を禁止。

 戦士の国を極めていくことになる。


「王族がその血や肉体に『精霊の力』をもっている、ということは、死んだあとの亡骸から、他の王族も『精霊石』が作られていたのでしょうか?」


 ファイルーズ様の精霊石の入った小箱を膝に乗せて問う王太子様に、はい、と私は頷く。

 これは事実だから。


「ですが、結晶化するまでかなり時間がかかりますし、思いが形をとったものなので、できる時とできない時があるようです。

 その為に死者の墓を暴くのはどうかと……。

 加え、長く人の手に渡らないと、空気や地面に溶けて星に還るとのお話でしたし、今、王墓を暴いても精霊石を入手することはできないと思います」


 『精霊神様』曰く。


『『人の身体から生まれる精霊石』は思いの結晶だ。

 王族の、特に悔いや思いを残したもの以外は、外からの手助けが限り、その『容』を残すことはあまりない』


 という。


 現実問題、不老不死で『王族の死者』は殆ど出ていないから、入手もできないだろうしね。


 ……そして、非業の死を遂げたシュトラーシェ王女と、それを間近で見ることになったシュルーストラム。


 風の力は、まだ人の世には早い。危険だ。

 そう判断し、二人をシュトルムスルフトから取り上げた『精霊神』様は、主の死に衝撃を受けて自身を閉ざしたシュルーストラムを初期化して『星』に。精霊国に預けた。


 シュトラーシェ王女の精霊石に王女の魂を宿し、シュルーストラムの『妹』と設定したのは、『精霊神様』の優しさだったのだろう。


『私の認識が足りず、主を助けるどころか死に追いやってしまったこと、恥じ入るばかりでございます』

『お前の罪ではない。『精霊石』は例え『王の杖』であろうと、所詮は道具なのだ。使う人間次第で善も為しうるし、悪にもなる』


 記憶が戻ったことで、かなりシュルーストラムは自責に陥ったようだ。


 でも、王に使われるだけの箱入り精霊が、世間や人間関係、王族間の機微に気付けず悲劇を防げなかったのは、確かにシュルーストラムのせいではない。


『故に俺、いや俺達はお前達を精霊国に預けたのだ。

 人と共にあり、人の姿を知ることで、お前達が次こそは『主を助ける事』ができるように』

『思い出した以上、二度と同じ過ちは繰り返しません』

『期待している。今度こそ、お前の『王』を守ってやるがいい』

『はい。必ずや』

「シュルーストラム」


 王の前に誓いを立てる自分の杖を見つめるフェイ。


 偶然に思えたけれど、シュルーストラムとフェイが宝物庫で出会ったのも、きっと運命、じゃなくって星が導いて下さったのだろう。


 と、これは私達の事情と話で。

 説明の続き、続き。


「そういうわけで『精霊神』様は無事復活し、この国と王太子様への御助力をお約束下さいました」

「姫君の肩に在るフクロウが『精霊神』様の化身、だと」

「はい」


 今、私の肩には黒フクロウが止まっている。

 シュトルムスルフトの『精霊神』様の化身『精霊獣』だ。

 鳥系にしたいって頼まれたの、初めて。


「この国に、力をお貸しして頂けるのでしょうか?」


 おそるおそる、といった感じで手を伸ばす王太子様と、フクロウの水色の瞳がパチリと合った。


 ぱさぱさっと音もなく飛び立った『精霊獣』は、王太子様の手首にスッと移動した。

 そこから肩へ。


 周囲の人々から感嘆の声が上がる。


 つまり、王太子様を認めるってことだ。


「直ぐに砂漠を緑に戻すことはしない、とおっしゃっていました。

 失礼ながら、シュトルムスルフトは色々と『精霊神』様の御心が捻じれ曲がっていたところがあるので。

 王太子様の元、シュトルムスルフトが新たなる道を歩みだし、その変化が『精霊神』様の御心に沿えば、きっと……」

「ありがとうございます。必ずや……」


 フクロウを、精霊獣を愛しげに撫でながら顔を寄せる王太子様。

 彼女ならきっと『精霊神』様に見込まれてもいるし、大丈夫だろう。


「お前達、何をボーっとしているのです?

『精霊神』の復活。そして、新たなる王の即位です。跪きなさい」


 王妃様の檄に、場にいた大貴族達が一斉に膝をついた。


 臣下たちを見やり、精霊獣を見つめ、一度だけ深くまばたきをしたマクハーン様。


 再び目を見開いた時、もうそこに不安げな眼差しの王太子はいなかった。

 ゆっくりと椅子から立ち上がり、彼女は告げる。


「今、ここに。新たなるシュトルムスルフトの王として宣言する!

 蘇った『精霊神』様の元、私が様々な因習を廃し、この国を近代化と、正しい『精霊信仰』の国へ。輝ける未来へ導く、と!」


 国が揺れる音が聞こえた。


 大貴族達の騒めき、戸惑い、そして期待を一身に受けて。


 ここに、新しいシュトルムスルフトの『王』が誕生したのだった。

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