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風国 友好の味

 とりあえず、国王陛下との謁見が終わった私達は厨房に行った。

 明日の晩餐会用のメニューを検討する為だ。


「何が用意してありますか?」


 緊張の面持ちで私に挨拶をしてくれたのは、男性の料理人さんだった。

 けれど、厨房全体を見回せば女性もけっこういる。


 そりゃそうだ。

 女性みんながみんな、男性に囲われて家の中で過ごせるわけではない。

 いろいろな理由で、働かなければならない人の方が、むしろ多い筈だもの。


 ただ、料理を主として仕切るのは男性中心。

 女性は下ごしらえや皮むき、皿洗いなどが主な仕事らしい。


 こういうところも男尊女卑なのかな?


 見せてもらった材料は、まあ、いつもの定番。

 鶏肉、パータト、あとは。


「あ、これ、ナス? こっちはピーマン? いや、パプリカかも。

 こっちは、キュウリ……じゃないな。ズッキーニっぽい」


 肉厚で美味しそうな、カラフルな野菜がたくさんあった。


 ナスはオベルジーヌとか言われているのだ。確か。

 魔王城の森でも採れたのを覚えている。

 エナ、つまりトマトもある。


「砂漠地域では育たないので、シュトルムスルフトにおいて野菜は、北の領地のみで採れる希少品扱いとなっています。

 今回は姫君がお使いになるかと思って、特別に用意させましたが」


 アルケディウスでは夏の野菜だけれど、大陸全体で見るとシュトルムスルフトは南だから、まだ採れるのかな。


 新鮮。

 ピカピカ、ツヤツヤ。

 美味しそう。


「あ、羊肉もありますね?」

「砂漠の民が食べるのは主にこちらですから。

 鶏肉などは基本的に、王都から北の肥沃地帯でしか狩れません。

 猪や豚などは、汚らわしい生き物として食さないように言い伝えられています」


 なるほど。


 牛などは砂漠では育ちにくい。

 温度変化に強く、毛は衣服を作るのに役立ち、皮は羊皮紙になる。

 肉やミルクで食も賄える。


 ヤギもだけれど、羊はそれ以上に人類の生命を支えてきた生き物の筈だ。


 一方で、中東方面では宗教上の理由から豚を食べない所が多いと聞く。

 羊肉は、おおよその宗教で食べてもいいことになっているから、国際的な場での会食などではよく出されているらしい。


「あと……これは干した果物?」

「デーツと呼ばれています。砂漠地帯でも育つので」


 ナツメヤシっぽいな。

 向こうで乾燥させたものを食べたことがある。


 お願いしていたので、小麦粉、卵、砂糖もあった。

 ミルクはヤギと羊のものだそうだけれど。


「この材料で、何を作る予定でした?」

「野菜類は全部茹でて、サラダとスープに。

 後は鳥の丸焼きと、羊は串焼きにして出していました。

 デザートはデーツの砂糖煮です」


 うーん、シンプル。

 そして、どこの国も似たり寄ったり。


 なんでどこの国も、単純料理しかしなくなっちゃったのかな?


 シュトルムスルフトは中東イメージ。


『新しい味』として和洋食もどきの料理を作ることが多いけれど、それによって、その土地の特色が消されてしまってはいけないと思う。


 なるべく、その土地の風土に合った料理を出していきたい。

 そう考えて、メニューを考えてきたつもりだ。


「では、前菜として、この野菜に味付けした肉を詰めてドルマを作ろうと思います。

 後は、鶏肉を茹でて、レモン汁と油で和えたもの」


 中東の料理にはあまり詳しくは無いけれど、トルコ風の料理なら、かなり近いのではないかと思う。

 興味があって本で読んだし、よく作りもした。


 サラダは香辛料とマヨネーズをたっぷり使ったポテトサラダ。

 スープは鳥のブイヨンであっさり。

 柔らかいパンも、天然酵母を使って仕込んでおく。


 メインはラムチョップ。

 濃い目の味にしてみようと思う。


 ドネルケバブのような料理もインパクトがあっていいと思うけれど、すぐに宴席に出せるくらい美味しくできるかと言ったら自信は無いし。


 プラーミァから貰った香辛料を使って臭みを取り、醤油を隠し味にしたソースをかければ、かなり美味しくなると思うから。


 付け合わせはピスト。

 新鮮な野菜の素材を生かすことで、くどくなるかもしれない主菜をさっぱり食べさせてくれるはずだ。


 デザートはパウンドケーキに、果物の砂糖煮を使った氷菓。

 あと、デーツを使ったチョコレート菓子を作ってみたい。


 昔、ゲームで見て憧れていたのだ。


 中東風料理には合わないかもしれないけれど、ぜひに作り方を教えて欲しいと頼まれているものだから、これは仕方ないと思って頂こう。


 料理の手順を厨房の人達に知らせていると。


「ああ! なんだか確かに昔、こういう料理があったね」


 見ていた女性陣の間から、そんな楽しげな声が聞こえてきた。


「こら! お前達!!」

「待って下さい。私はお話を伺いたいです」


 司厨長らしい人が、女性達の会話に眉根を上げる。

 けれど、私はそれを手で制して、女性達へ顔を向けた。


 私の視線を感じ、慌てて彼女達は膝をつく。

 それを止めて、私は聞いてみる。


「不老不死前のシュトルムスルフトの料理を覚えておいでですか?

 もし覚えているようなら、遠慮しないで教えてください。

 私は、そういう各国の料理や特性も生かした料理を作ってみたいのです」


 皇女に声をかけられて、どこか戸惑うような、怯えたような顔で。

 でも女性達は、応えてくれた。


「さっき、姫君がされていた、野菜に肉を詰める、です。

 昔、やったことがあるような気がしたのです」

「特別な時の御馳走として、エナの中身をくりぬいて入れたり、オベルジーヌに挟んだりして作っていました。

 特別な穀物を茹でたものを混ぜたりとか」

「羊肉のひき肉を味付けしたものを、小麦の皮に包んだものもよく作りました。

 野菜は本当に貴重品だったので」

「小麦の皮もうすーくして、一個一個はとっても小さくしてましたね」


 そうだね。

 職業料理人は、男尊女卑でなくても男性が多い傾向にあるけれど、普通に家の食事を作ったりするのは女性が多いよね。


 いい話を聞かせてもらって、私は少し嬉しくなったのだけれども。


「姫君、次の作業について教えて頂けませんか?」


 男性料理人さん達が、渋い顔で催促する。


 自分達を差し置いて女性陣が褒められたのが羨ましかった、というか、悔しかったのかな。


「ごめんなさい。仕事の邪魔をして。

 良ければ、後でぜひ、そういうお話を聞かせて下さい」


 私は女性達に謝り、指導と作業に戻ったのだけれども。

 男性料理人の一人が、私に小さな声で囁く。


「姫君ともあろう方が、卑しい女達にお気遣いなどなさらなくても」

「そうですよ。姫君の貴重かつ素晴らしい知識や技術などは、あれらにはもったいない」

「知識や技術に、男性も女性もありませんよ。

 私も女ですし」

「それは、そうですが……」

「ぜひ、皆さんも古いシュトルムスルフトの料理などがあれば、教えて下さい。

 他国の料理などと情報交換しましょう」


 そう言うと黙ってくれたけれど、こういうところにも男尊女卑が染みついているのか。

 ちょっとむくれた顔をしているなあ。


 何故かマクハーン王子は、なんだか楽しそう、というか上機嫌だけれど。


 とりあえず、今日は下味付けとパンの下ごしらえ。

 あと、いろいろな調味料のプレゼンと見本作成をした。


 料理人さん達も、私の女性優遇には不満顔だったけれど、料理には興味を持ってもらえたようで、真剣に見てくれている。


「ですが、これは貧しいシュトルムスルフトだけでは、なかなか作れませんね」

「だから、国同士の友好が大事なのですよ。

 醤油や特別な香辛料は、私も他国で親しくなって、分けて頂いて、やっと使えるようになったのです。

 それに、シュトルムスルフトの野菜。とっても質がいいですよ。

 これを生かしていきたいですね」


 料理の美味しさ、楽しさを知らせつつ。

『新しい味』で、この世界の味を塗りつぶしてしまわないように。


 私は改めて、気を付けようと思ったのだった。

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