表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
761/842

皇国 『精霊神』の宝

 フリュッスカイトとの秋の戦が無事終わり、軍が戻ってきたのは空の一月の終わりだった。

 来週からは空の二月。


 空の二月の開始と一緒に、大祭が始まることになりそうだ。

 私は、予定より少し早く帰ってきた軍を舞台上から見つめ、そう思った。

 二年連続の秋の戦の大勝利。


 去年の私は、ゲシュマック商会の使用人として、初戦で一番手柄を立てたリオンを片隅で見送るだけだった。


 今は、こうして皇女として舞台の上から出迎えている。

 去年の秋の戦が、大きな転機だったなあ、と改めて感じていた。


 部隊の最前列に、指揮官トレランス様。

 指揮を行う将軍達の後に、ミーティラ様とユン君を先頭に立てた一団が入ってくる。


 赤い大きな旗をユン君が掲げているのは、戦の一番手柄の証。

 良かった。


 女性騎士貴族として侮られることなく、ミーティラ様は最大の功績を挙げてこられたのだ。


「今、戻った。出迎えご苦労。『聖なる乙女』。

 その祝福により、我らを勝利に導いてくれたことに礼を言おう」

「お帰りなさいませ。二年連続の戦勝を心からお喜び申し上げます」


 私にしっかりと頷いて、トレランス皇子が剣を掲げる。


「誉れ高きアルケディウスの戦士達よ。我々は勝利した!」


 ここからの挨拶は、いつも殆ど同じなので省略。

 夏にケントニス皇子にもしたので、トレランス皇子にも光の精霊を呼び出して、視覚効果はちゃんとUPさせておいた。


 皆、熱狂に近い大歓声を上げている。


 やっぱりスポーツチックなんだよね。

 この世界の戦って。

 早く失くしたいというお父様のお気持ちは解るけれど、どうしたら無くせるものやら……。


 トレランス皇子が戦の終わりと大祭の始まりを宣言すると、街は一気にお祭りムードになる。

 本格的な祭りの始まりは、まだ三日後だけれど、街中が浮足立っているのが分かった。

 今年の祭りはきっと、去年以上に、夏以上に、賑やかなものになるだろう。


 お母様は、今頃、家でお父様とミーティラ様の出迎えをしている。

 私も打ち合わせが終わったら館に戻って、パーティに参加する予定。


 ただ、予行練習の時と衣装が変わった、とお母様が報告したので、皇王陛下と皇王妃様が確認の為に、私は城に来るようにと命じられたのだ。


 舞衣装は本番だけだけれど、サークレットはお披露目も兼ねて出迎えの時に身につけて、今も外さず額の上にある。


 そういう訳で、非公式の身内用謁見の間。


「ただいま戻りました。皇王陛下、皇王妃様」

「うむ、出迎えご苦労だった。今回も、光の精霊の祝福があったと、民も喜んでいたようだな」

「皇王陛下のご威光の賜物にございます」


 私を優しく労ってくれる皇王陛下に、私は深々と頭を下げた。


「そういえば、其方が皇族として名乗りを上げて、間もなく一年だな」

「はい。大祭三日目の会議にお父様と乱入しましたことは、今も忘れられません」

「さもあろう。私とて忘れられぬ」


 皇王陛下が髭を撫でながら笑う。


 その眼差しは、とても暖かく優しいものだった。


「給仕の娘がいきなり我が孫だと言われた時の事はな。

 だが、不思議と疑問には思わず、むしろすんなりと腑に落ちた。

 其方が来てからというもの、穏やかな日々は消えたが、楽しみ、喜びは倍増した。

 真、其方は幸せを運ぶ小精霊であったと、今は思っているぞ」

「ありがとうございます。お祖父様」


 ちょっぴり、心は痛い。


 実際には、私は皇子の子ではないし、陛下達の孫でもないから。

 でも、子ども達を守り、世界の環境整備をする。


 私の目的を叶えるためには、今の立場がどうしても必要だ。

 だからせめて、従順で役に立つ孫娘でいようと、改めて心に誓う。


「ティラトリーツェも、貴女が可愛くて仕方がないようね。

 まさか、国宝を国から本気で奪い取ってくるとは思わなかったわ」

「国宝? このサークレット、国宝なんです?」


 皇王妃様の呟きに、私は首を捻った。


 渋る国王陛下から分捕ったかなりのお宝、みたいなことは聞いていたけど、そこまでのものとは思っていなかった。

 目を見開く私に、ああ、と頷いたのは皇王陛下だ。


「アルケディウスに伝わるこの王勺とほぼ同格の『精霊神の遺物』だ。

 各国に二つはない」

「いっ!」


 皇王陛下が手の中の王勺をパシパシと弄びながら笑う。

 そういえば、あの王勺って『木の王の精霊石』じゃないかって話があったんだよね。

 今、どういう状況なんだろう。


 精霊石として起きてるのかな?

 意識や力は残っているのかな、と少し心配になるけれど、それを気にしている余裕は正直ない。


「アルケディウスには『聖なる乙女の至宝』は残されていない。

 同様に、プラーミァには王勺が無い。

 アルケディウスは北の国故、王による精霊石を使った魔術が必要であった。

 プラーミァには必要が無かった故に、王勺としての精霊石が伝わらなかった、と今、私は理解している。

 あくまで其方が諸国を回ってきて感じた推論であるがな」


 つまり、皇王陛下の推論を正しいとするのなら、各国に一つ『精霊神の遺物』が残されている。

 それは、カレドナイトを使った『聖なる乙女』が使うものか、王勺かに分かれる。


 王勺は、七つの国の『王』の精霊石。


 これは国王が持つべきもの、という意味ではなく、その国と『精霊神』が司る自然の力を操る『王』っていうことで、王勺を与えられた国は、その『精霊の王』の力を借りて、魔術師として国を治めることを期待されていた可能性が高い。


 精霊国に残っていた三本の『王』の杖が、風と、地と、火。

 南国三国のものであることからしても、そう大きな間違いではないと思う。


(陛下に、『その杖貸して下さい』とか『陛下は精霊術が使えないんですか?』とは、ちょっと聞けないしね~)


 私が下手に王勺に触れたことで、変な騒ぎが起きたら大変だ。

 後で『精霊神』様本人に聞いてみた方がいい。

 教えてくれない可能性も高いけれど。


「今後の祭事に私が、このサークレットをアルケディウスで使っても良いでしょうか?

 最初の使用は、大祭での『精霊神』へ捧げる舞になると思うのですが」


 とりあえず、一番確認しておかなくてはならない点を確かめる。

 私はその為に呼ばれたのだ。


 お母様が下さったプラーミァの至宝。

 それをアルケディウス皇女()が使用してもいいのか?

 アルケディウスの面目が潰れたり、アルケディウスの宝物を使えと言われたりしないか?


「許可する。現状、アルケディウスには言った通り『聖なる乙女の至宝』はないからな。

 其方の身を守る為に使うのであれば、『精霊神』様もお許し下さるであろう」


 許可は、悩むよりすんなり降りた。


「プラーミァは、其方への礼と一縷の獲得への希望として、それを贈ってきたのであろうが、アルケディウスは其方を手放すつもりはない。

 其方の次代となるであろう『聖なる乙女』レヴィーナも、プラーミァの流れを汲む者であるし、いずれ返却を求められるまで使い倒していくのが良いだろう」


 使い倒すって、と思ったけれど口には出さないでおく。

 大事に使用する、の意味で。


 それによく考えれば、使用許可は後で『精霊神』様達、与えた本人に聞いて取ればいいのだ。

 アルケディウスの王勺の現状とか使い方も、言っていいことなら教えて下さるだろう。


「大祭が始まれば忙しくなる。今日、明日はゆっくりと体を休め、英気を養い、大祭に臨むように」

「かしこまりました。ありがとうございます」

「無理はするでないぞ。其方自身が既に、装飾品に勝る『精霊神』の宝である」


 私は皇王陛下の言葉を、魔王城に行ってのんびりしてこい、と取った。

 大祭後、またドタバタになる可能性は高いし、素直にご厚意に甘えよう。


 頭を下げた私は、退出しようとした。


 というか、退出したのだけれど。


 最後の最後。

 背を向ける直前に、意味深な言葉がかけられた。


「マリカよ」

「はい。なんでしょうか?」

「『大祭の精霊』を知っておるか?

 夏の祭りに現れたという不思議な一対、出会うと幸せを呼ぶと呼ばれる者達を」

「う、噂だけですが」

「今年の祭りに現れると思うか?」

「私には、解りかねますが……一度、あまりにも騒ぎになりましたので、出ないのではないでしょうか?」

「そうか、それは残念だな。私も会ってみたいと思っていたのに」


 含み笑う皇王陛下は、それ以上言葉をかけず、退室を許してくれたけれど。


 私は部屋を出ても、館に戻るまで、冷汗が本当に止まらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ