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皇国 アルケディウスの劇団 エピローグ 少年達の旅立ち

 エンテシウス、そしてグローブ一座は舞台終了後、後片付けもあって、その日は孤児院に泊まった。


 劇団員達は片づけをしながら、目を輝かせて自分達を見つめる子ども達と交流し、一緒にご飯を食べた。

 向こうの世界でも、俳優さんとのバックステージツアーとか、リハーサル見学会とかは人気だったもんね。


 私も少し残って、今後の事などを打ち合わせしたけれど、かなり有意義な話し合いになった。

 とりあえず、グローブ一座の今後としては、秋の大祭で『新しい劇』として一般にお目見え。

 その後、大祭終わりの貴族の舞踏会でも披露して、今年の活動は終了。


 冬のアルケディウスを旅するのは、けっこう自殺行為だから。

 冬の間は新作の練習や、次の舞台の準備をする。


 ホームは、今まで使っていたエンテシウスの貴族街の持ち家。

 今回の件で、エンテシウスも皇王陛下直々に準貴族の身分を与えられた。

 劇作家兼、演出家として一座を率いていく事になる。


 春からはアルケディウス国内を巡り、夏と秋の大祭で新作をお披露目する感じだろうか?


 移動劇団だから、色々と大変かもしれない。

 けれどその分、給料は弾むし、待遇もなるべく良くする。

 試験を乗り越えて成果を出した人達には、ちゃんと報いないと。


 いずれはアルケディウスに、そこに行けばいつでも劇を見られる常設劇場を作りたいとは思うけれど、それはもう少し先の話だ。


 孤児院の時と同じ。

 ニーズや経費、その他諸々をちゃんと計算して、根回ししないと。

 劇場の設計は普通の建物と色々違うし、私は設計には門外漢だし。


「必要経費は支給しますし、給料なども出します。旅先で得たおひねりなどは、劇団で使ってかまいませんよ」

「それはそれは。旅芸人には破格の好待遇ですな」

「その代わり、劇団員達はしっかり守って下さいね。下世話な話になってしまいますが、絶対に望まない者に客を取らせたりしないように」

「無論、我が誇りに賭けて」


 昔から、旅に限らず芸人は立場が弱くて、そういう仕事をさせられる者も多かったと聞く。

 ある程度は仕方がない事とはいえ、私のできる限りは守ってあげたい。


「それから、これはエンテシウス。貴方を見込んでのお願いなのですが……」

「何でございましょうか? 姫君直々のお願い、とは」

「お願いしたい事は二つあります。

 一つは各地の様子を調べて来て欲しいのです。

 特に大貴族領地の農村などの現状を」

「……なるほどなるほど。皇王家の目となり、耳となって情報を収集せよ、と」

「話が早くて助かります。そういうお話とか、実はあったりするんですか?」

「不老不死前は、あったような気が致します。

 国王が人民の間に目や耳を放ち、庶民の事を気にかけて下さる。というのは、いつの世も庶民の夢でございますれば」


 実際はそんなことはないから、夢なのだ、とエンテシウスは言う。


 けれど、密偵を放っての情報収集そのものは、やっている王族、貴族はそれなりにいると思う。


 特に今後は、今までのように、外は外、うちはうち、なんていうのは、より良く生活しようと思うなら言っていられなくなる。


 アルケディウスに限って言えば、アーヴェントルクのチーズに、フリュッスカイトのオリーヴァ油、エルディランドのリアとソーハと、各国から食材を輸入する気満々だからね。


 内需拡大と輸入促進の為に、情報収集は必須だ。


「一つの街についての報告書を提出するごとに金貨一枚。支給します」

「金貨!」


 エンテシウスは目を見開くけれど、別に高すぎるとは思わない。


「その代わり、間違いは許しません。正確に、できれば庶民の側の意見なども拾い上げて下さい」

「了解しました。貴族領というのは、ある意味閉鎖空間。

 何が起きているか、外から知ることは難しいですからな」

「そういうことです。今後、農業などで今まで職にあぶれていた流民、元農民などの重要性は増しますから。大貴族には彼らを大切にして欲しい。

 そして、今まで仕事や居場所も無く、打ち捨てられていた人達にも、自分達は必要とされる存在なのだと誇りを持って欲しいと思っています」

「ふむ、そういう『劇』を作るのもアリですかな?」


 キラリと、エンテシウスの瞳が輝く。


 アルケディウスのシェイクスピア――は、まだ褒めすぎだと思うけれど、彼は文章や物語の力をちゃんと解っている。


「ええ。今回のように、真面目に生きている者には救いがある。という思いが『劇』を通じて浸透すればいいなと思います。王家や精霊などにも親しみが持てるでしょう」

「今後の案としては、悲劇や報われない話なども劇にしてみたいのですが」

「『劇』を楽しむ、という下地がもっとできてからなら、そういうのもアリかと思いますが、私個人としてはアルフィリーガ伝説でお腹いっぱいなんです。

『劇』が夢の世界なら、夢の中でくらい幸せな気持ちでいたいものでしょう?」

「了解しました。当面はそのような形で参りましょう」


 アルフィリーガ伝説そのものが悲劇だから、今まで劇と言えば『悲劇』しか知らないで過ごしてきた人達が殆ど。


 厳しい現実が多いのだから、せめて舞台の上だけでは、楽しい『夢』を見て欲しい。


「で、もう一つは?」

「子どもの保護です。児童の保護法が施行されたので、都市では前程ではないと思いますが、農村などでは子どもが打ち捨てられたり、酷い目にあったりしている場面に出くわすこともあるかと思います。

 その時には、買い取って保護して貰えませんか?」

「……子どもを愛する『聖なる乙女』の御心のままに。

 保護した子どもは、こちらに連れてくればよろしいですかな?」

「ええ。彼等が旅芸人になることを望めば、そうしてもいいと思いますが、まずは教育を与えたいので、一度はここに連れてきて下さい」

「かしこまりました」


 こちらについては、流石エンテシウス。


 余計な質問もなく、静かに頷いてくれた。

 児童保護など私の考えや思いが、貴族達にも理解して貰えるようになってきたのなら嬉しいことだ。

 子どもの引き受け金なども含めて、エンテシウスには纏まったお金を預けておく。

 護衛その他の件も、ここから支給すれば当面の問題は無い筈だ。


「もし、旅の空で何か困ったことがあれば、私の名前を出しても構いません。

 その為の手袋です」

「ご厚情、感謝申し上げます。

 できればそのようなことは無いようにしたいと思いますが。

 皇女の密偵、グローブ一座。後の世であれば、私が劇にしたいと思う面白い立場ですからな」


 ニヤリと笑うエンテシウス。

 まあ、確かに。


 水戸黄門とか暴れん坊将軍とか、高貴な身分の者が姿を変えて市井を見て助けてくれるっていうのは、庶民にとっては永遠のロマンだしね。


 後は、秋の大祭の公演についてや、劇の直しについて。


 それからもう一つ、大事な事をエンテシウスに話し、区切りがついて応接室を出た時には、もうかなり遅い時間になっていた。


 けれど、扉を開けた目の前には、予想した通り――


「あの! 皇女様! エンテシウス様!!」


 どのくらい待っていたのだろう。

 二人の子どもが立っていた。

 後ろで心配そうにリタさんが付き添っているけれど、口を出さないように、私は目で制した。


「シャンス、サニー」

「あの! 皇女様!」

「貴方達の言いたい事は解っています。

 ですから私では無く、彼に。グローブ一座の座長、エンテシウスに、自分の言葉で伝えなさい」


 エンテシウスには話を通してあるから、私は一歩後ろに退く。


 でも、彼は自分から水を向ける事はせず、腕組みをして泰然と待っている。

 二人が自分の言葉で、思いを告げる事を。


「エンテシウス様」

「なんですかな?」

「あの!」

「僕達、役者になりたいんです!」

「グローブ一座に入れて頂けませんか?」


 熱の籠った少年達の思いを誰よりもよく知っているからこそ、彼、グローブ座座長エンテシウスは即答しない。


「旅芸人、というのは安易に目指すものではありませんぞ。

 落ち着いた寝床も無く、蔑まれることもある日々。

 無論、それに倍するやりがいと喜びはありますが、苦難困難も山ほどある。

 後ろ指をさされぬ生活を望むのなら、お勧めは致しかねる」

「知ってます。先生にも、皇女様にも言われました」

「今、劇団員は魔術師、楽師も含めて二十五人。

 ですが、今日の舞台に出たのはその約半分です。全員が舞台に立ち、喝采を浴びる事ができるとも限らない。

 書き割りを押し出し、背景を変える。そんな裏方になることもある。

 いや、入ってすぐの見習いに役を与えられはしませんから、当面はそんな仕事ばかりですが?」

「それでも! 思ったんです!

 夏の戦のアルフィリーガ劇を見て、そして今日の劇を間近で見て!

 僕らもいつか、ああなりたい。

 誰かに、楽しい気持ち、嬉しい思い、一時の夢。

 それを与えられる人間になりたいって!」

「「何でもします。だから、僕達を一座に入れて下さい!」」


 思い出す。


 一年前。


 この子達は大貴族の奴隷で、本当に酷い目に遭わされていた。


 正しく、生ける屍で。

 このまま死んでしまうのではないかと思った事さえあった。


 でも、一年かけて、孤児院の保育士や大人達の愛を受けて、生きる力を取り戻し、今、こうして自分達のやりたいことを見つけ、前に歩み出そうとしている。


 自分の想いを、言葉に出して伝えることができている。


 その姿に、確かな成長を感じていた。


「台本を読むには、読解力が必要です。文字は読めますかな? 書けますか?」

「読めるし、書けます!」

「演劇には呼吸や、間合いが大事。数字は数えられますか? 計算はできますか?」

「得意じゃないけど……できます!」

「自分の舞台や、衣装は自分で管理するもの。

 掃除や、洗濯、着替え、身の回りの事は? 自分でできますか?」

「できます!」

「孤児院で習いました」

「結構! 後は、実地で学ぶと致しましょう」

「エンテシウス様!」

「じゃあ!」


 瞳を輝かせる二人に、エンテシウスは静かに頷いた。


「来年の春まで、とりあえず、私の館で見習いという形でお預かりしましょう。

 ちゃんと劇団員の仲間達とやっていけるようであれば、正式な一座として旅公演にも連れて行くということで」

「ありがとうございます!」

「お礼を言うのは、まだ早い。

 冬が終わり、モノにならないと判断したら遠慮なく孤児院戻りです。よろしいですな!」

「はい!」

「がんばります!」


 嬉しさのあまり、抱き合い、泣きじゃくる二人の少年達。


 私とリタさんは、その姿に熱くなる眦と、零れる雫を止める事はできなかった。

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