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魔王城 楽しいモクテル

 新しく炭酸水を入手できたので、さっそくいろいろに活用してみる。

 まずは定番、ドリンクかな?


 私はお酒はまあ、軽くたしなむ程度だったけれど、疲れた時などの気分転換に炭酸はけっこう飲むことが多かった。

 日本の飲料水メーカーの企業努力は本当に凄いから。


 甘い飲み物ってだけでも人気は出ると思うけれど、色々試してみたい。

 子ども達の喜ぶ顔も見たいし。


 そういう夜の曜日、安息日。


「みんな~。ちょっと美味しいの飲んでみない?」

「のむ~」


 魔王城に戻ってきた時に、子ども達にいろいろ振舞ってみた。

 今日の私は即席バーテンダーである。


 モクテル、だっけ? ノンアルコールカクテル。

 秋の大祭のゲシュマック商会屋台売り物のテストもかねた飯テロってことで、色々試してみる。


 ここ数年でジュースや砂糖、香辛料も揃ってきたことだし。

 助手はアル。作り方を書き留めてもらって、ゲシュマック商会の大祭メニューの参考にしてもらう。


 ドルガスタ伯爵領でGETした天然炭酸水は、口当たりの柔らかい水に淡い気泡が混入していて、飲むと心地よく口に広がる。

 食事に合わせて楽しむにはこのままがいいのだけれど、飲み物として楽しむなら、いろいろと工夫してみてもいいと思う。


 定番はやっぱりレモネード。

 これは炭酸水のプレゼンテーションでも使って大人気だった。


 レモンそっくりなキトロンの果汁を、はちみつと混ぜる。

 はちみつとレモンの相性がいいのは向こうの世界からの鉄板だ。


 糖分は控えめに。

 はちみつや砂糖を水に溶かして煮詰めたガムシロップもどきを少しずつ入れる。


 ひんやり冷やしたレモネードはのど越しさわやかで、なんとも言えず美味しい。

 今は風の月、秋口、十月くらいの印象だから、夏の最中に飲んでみたいところだ。

 きっと何とも言えない美味しさだろう。


 ただ、


「ちょっとすっぱーい」

「もっとあまいのがいいなあ」


 そういう子どもたちのリクエストで好評だったのは、リンゴ、サフィーレの果汁を使ったドリンク。

 サフィーレの豊潤な香りが炭酸水とよく合う。


 サフィーレの果汁そのものが甘いので、砂糖やはちみつは少な目で大丈夫。


「あまくておいしい!」

「いいにおい♪」


 他にもグレシュール、野イチゴやピアン、桃もどきのジュースも試してみたんだけど、グレシュールは酸味が強すぎて、ピアンは甘みが繊細過ぎてちょっと炭酸とは合わないかな、と思った。


 ピアンはトロッとしたネクター風ジュースがおいしいのだけど、それに微炭酸水だと炭酸が負けちゃう気がするのだ。

 炭酸がもっと強いといいのかもしれない。

 あとは水メインで、本当に少しだけ風味づけに果汁を入れるとか。


 風味付けといえば、オランジュのスカッシュも美味しくできた。

 やっぱり柑橘系が炭酸と合うのかもしれない。


 あと、ミント。

 子どもにはちょっと独特の癖がある匂いが苦手な子もいるけれど、ティーナは大好きなんだって。

 なのでレモネードにミントを混ぜてみたら、


「爽やかでスッキリとした味わいがとても美味しいと思います」


 と、とっても喜んでくれた。

 ラム酒を使う本式カクテルにモヒートっていうのがあるけれど、それと似た風味だ。と思う。


 リグも興味津々で手を伸ばすけれど、2歳児にサイダーはまだちょっと早い。

 そういうわけで、


「これはおまけね」


 炭酸は使わないけれど、保育士時代、子ども達と調理体験で作ったカル〇スもどきを思い出して作ってあげました。

 ヨーグルトとレモン汁、それとお砂糖だけで簡単にできちゃうのが楽しい。


 あくまでもどきなので風味が少し足りない感じだけれど、炭酸飲料よりは子ども達の健康にいいと思う。

 乳酸菌がお腹に良いんだっけ?


 嬉しそうに両手でコップを持って、ごくごく飲んでる。


 ちなみにこれを炭酸で割るとカルピ〇ソーダ風になる。

 年少組にはこれが一番人気だった。


 エリセやファミーちゃん、ネアちゃんなど女の子にはスペシャルで、


「はい、これどうぞ。シンデレラっていうの」

(もどきだけど)

「シンデレラって、マリカ姉が昔よく話してくれたお姫様?」

「そう。みんながお姫様みたいに可愛くなれますようにって」


 オランジュのジュースと、レモンのジュースと、プラーミァから貰ったアナナス、パイナップルのジュースを混ぜて、炭酸水と合わせてみた。


 お料理お父さんにはカクテルもけっこう載ってたんだよね。


「うわあ、美味しい!」

「ずいぶん面白そうなことをやってるな?」

「僕達にはないんですか?」

「おかえりなさい。今作るよ」


 帰ってきたフェイとリオンがちょっと拗ねたように笑うので、男の子向けにジンジャーエールを作ってみた。


 ショウガはずいぶん前から見つけて育ててあるので、薄切りにしたものを砂糖と一緒に煮て、ジンジャーシロップを作り、炭酸水で割るのだ。


「はい、フェイのはオランジュのジュースと、リオンのは葡萄ジュースと混ぜてあるの」


 二つ並べると昼と夜、一対のような感じに見える。

 対照的だけどいつも一緒の二人のイメージだ。


「葡萄か……」

「これはあれですか? 大聖都から貰ってきた?」

「そのあと、ゲシュマック商会が仕入れたやつだけど……」


 あれれ?

 二人が顔を見合わせて、なんだか困ったような顔をしている。


「あれ? 苦手だった?」

「いや、そうじゃない。ちょっと大聖都での騒動を思い出しただけだ」

「そっか、じゃあ、別の作る?」

「いや、いい。いつまでも引きずってられないからな」


 そう言うとリオンは、フェイと軽くグラスを合わせて一気に飲み干した。


「あ、リオン、それ炭酸だから一気に飲むと……」

「うわっ……」

「大丈夫?」


 炭酸は一気飲みすると胸焼けする。


 案の定、胸を押さえ俯くリオンの背を撫でようとした私は手を伸ばしたのだけれども、


「あ……れ?」


 リオンの周囲に漂う妙な空気に躊躇っているうちに、


「わっ!」

「リオン! 大丈夫ですか? しっかりして下さい!」


 顔色を変えたフェイに、飛ばされるように押しのけられてしまった。


「落ち着け、フェイ。ちょっと飲み物に入ってた炭酸で胸が焼けただけだ」

「珍しいな。フェイ兄があんなに顔色変えるなんてさ」

「そだね」


 二人の様子を見ていると、なんだか胸がチリチリする。

 これは炭酸の飲みすぎのせいじゃない。

 もっと別の……。


「すみません、マリカ、ちょっと取り乱してしまって」

「味は悪くないぞ。他のも飲ませてもらえるか?」

「あ、いいよ。待ってて」


「ライオは酒を好んでるが、こんな感じなのかな? いい感触だ」


 笑みを作るリオンに、私は気付かない、知らないふりをして新しいドリンクを作る。

 いや、実際解らないのだけれど。


 何かが変わった二人の関係。

 そしてリオン自身がまだ教えてくれない何かを、その身に宿していることだけは感じながら。


 モクテルショップ魔王城は大好評。


 ゲシュマック商会は、アルが書き留めていったレシピから店員たちも協議して、人気が高かったドリンクを大祭に出すことにしたんだって。


 あと、炭酸水はホットケーキや天ぷらなどの衣に少し混ぜると、ふんわり仕上がる。

 天ぷらはまだ難しいけど、ホットケーキは本当に目に見えて変わったので、特別な時に使おうと話をした。


 王城でも定期的に炭酸水の仕入れをするようになり、ドルガスタ伯爵領は少し潤ったのではないかと思う。


「リオン、大丈夫ですか?」

「心配ない。大聖都の葡萄やワインにも微量だが神の欠片が混入しているんだな。

 でも、あれくらいなら自分で処理できる」

「水や大地に神の欠片が混ざっているんでしょうか? 大聖都のものは下手に口にできないですね」

「ああ、注意するさ。同じ手は食らわない。二度と、な」

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