皇国 婚約の報告×2
私達はアルケディウスに戻ると、すぐその足で皇王陛下との面会に向かった。
リオンとの正式な婚約、そして結婚の承認を願い出るためだ。
「無論、許可する。遅きに失したくらいだな」
皇王陛下は即日面会に応じて下さり、にこやかに許可を下さった。
お父様と同じ笑顔。
やっぱり親子なんだなあ、と少しだけ嬉しくなる。
その後はお披露目を秋の大祭後の舞踏会で行うことや、細かな日程について打ち合わせをした。
「今年は七国全てで秋の戦を見送ることとなった。まだ各国、不老不死後の混乱が収まったわけではないからな」
不老不死が失われて数か月。
すでに老衰や事故による死亡例も出始めている。
昔から人の死は恐怖だった。
人間の思想や宗教の多くは、その恐怖を乗り越えるために生まれたと言ってもいい。
まして今まで当たり前にあったものが失われた後悔と、再び訪れた死への恐怖は、そう簡単に消えるものではないだろう。
そんな中、これまで死ぬことのなかったからこそ遊びとして成立していた戦争を続けるべきなのか、という声が上がった。
結果として、今年の戦は見送られることになったのである。
今後、各国の対抗戦を行うとしても、きっと違う形になっていくのだろう。
「だが、こんな世になったからこそ、今年は各国総力を挙げて祭りを盛り上げる事と決まったのだ。
王家が主導をとり、酒や食を振る舞い、人々が生きる楽しさや喜びを思い出せるようにする」
「とても良き事であると思います」
「各国から、日程をずらす故、其方に舞を納めて欲しいとの依頼もあるようだ。詳しくは神殿に戻ってから確認するがいい」
「かしこまりました」
結婚の報告と、これまでのお礼も兼ねて各国の精霊神様へご挨拶に伺う。
悪い話ではない。
フェイとも相談してみようと思う。
「それから成人式だが、アルケディウスで行う。これは問題ないな」
「はい。失われた儀式を復活させることで、今後市井で生まれた子ども達にも、成長を寿ぎ祝福を受ける機会を作りたいと考えております」
この世界には誕生日を祝う習慣がなかった。
孤児達は自分の誕生日どころか、生まれた月さえ知らない子がほとんどだ。
でも、この星に生まれてきたことを祝福する日や、大人への仲間入りを祝う日はあってもいいと思う。
だから誕生日が分かっているフォル君やレヴィーナちゃん、ラウル君やフォルトフィーグ君、それに魔王城のリグには毎年プレゼントを送っているし、分からない子達にも年に一度はお祝いをしている。
「プラーミァを始めとする各国から、其方達に祝いをしたい。今後の参考にもしたいから見学したいという声もあるので招待するつもりだ。良いな?」
「皇王陛下の思し召しのままに」
「新年の会議で其方らの結婚式を行うとなると、日程はかなり厳しいがな」
本来、成人式は一年の終わり。
大晦日に行われていたらしい。
ただ私達がアルケディウスで成人式を行い、各国の来賓も集まり、その直後に新年の儀式となると負担が大きい。
そのため日程を調整して下さる予定なのだという。
「だが他国の王族がアルケディウスに集まるとなると、ライオットとティラトリーツェの結婚以来のこととなる。
アルケディウスの面子にかけて最高のもてなしをしたいと思うので協力を頼む。
本来主役である其方達に頼む話ではないが、成人を機に其方達は大人として皇家から独立し、新たなる立場で神殿を率いていくことになる。
最後の務めと思って力を貸してくれるとありがたい」
少しだけ寂しそうな響きが、その言葉には混じっていた。
そっか。
結婚するってことは、その家を離れるってことなんだ。
皇王陛下にとっては孫娘を嫁がせるようなものなのかもしれない。
だったら――
「はい。全力で努めさせて頂きます。
それに、結婚しても私がお父様とお母様の娘で、皇王陛下の孫であることには変わりありませんので、今後も見守って頂ければ嬉しいです。
お祖父様」
最後まで。
精一杯、自分で言うのもなんだけど、可愛らしくて困りものの孫娘であり続けよう。
甘えるような口調でそう告げると、皇王陛下は一瞬目を見開き――
そして、
「くくくっ……」
心底楽しそうに笑い始めた。
「当然だ。こんなに手のかかる孫娘を放置などしておけぬ。
ケントニスに皇位を譲れば少し暇になるからな。
そしたら数百年ぶりにやりたいことをやらせてもらうつもりだ。
覚悟しておけよ」
ははは。
やりたいことって、魔王城に来て私に女王教育をして、憧れの精霊国を再建するっていう、あれかなあ。
私は大神殿の指揮があるけれど、今後魔王城の島に神の子ども達を受け入れる計画もある。
まだ十万人弱の地球移民が冷凍睡眠の中で眠っているのだ。
早く起こしてあげたい。
ただそうなるとティーナ一人では手が回らないだろうし、全体を指揮して下さる方も必要になる。
お祖父様にエルトゥリアをお任せするのは案外ありかもしれない。
――と、いけないいけない。
聞き流すところだった。
「あ、ということはケントニス様の皇王即位が決まったのですね
「ああ。なんとか全ての大貴族達の承認を得られたようだ」
「それはおめでとうございます」
「其方らの結婚式や成人式はともかく、冬に大きな行事を行うにはアルケディウスは寒い。
正式な式は来年の夏の社交シーズンに行う予定だ。
その時にもまた力を借りねばならぬかな」
「承知いたしました」
皇王陛下と話しながら、私はふと考える。
来年の話をすると鬼が笑う。
向こうの世界の言葉だけれど、私はどこまでこの世界で仕事を続けられるだろうか。
一年先か。
十年先か。
先の見えない自由時間。
リオンと結婚して、子どもを授かって。
できればその成長を見守れるくらいまでは、この世界にいたい。
まあ、考えても仕方のない話だ。
もしかしたら星子様がうんと頑張って下さって、フェイやアルを看取ってからということになるかもしれないし。
「ああ。それから留守の間にヒンメルヴェルエクトのマルガレーテ公子妃から、謝罪と面会希望の連絡が来ていた。
大神殿へ帰る前に連絡を取っておくがいい。
通信鏡を使っても構わぬ」
「ありがとうございます」
マルガレーテ様とは、そういえばアル誘拐事件以来会っていない。
不老不死剥奪の儀には同行されていたはずだけれど、私も気にかける余裕がなかったし、その後も各国慰問で忙しく、ヒンメルヴェルエクトには立ち寄っていなかった。
要請があれば行くつもりだったけれど、呼ばれなかったのだ。
色々な事情があるのだろうと、向こうの反応を待っていた。
連絡が来たのなら、ちゃんと向き合おうと思う。
マルガレーテ様やオルクスさんが本当に『神の子ども』だったのなら、『神』と連絡が取れなくなった今、不安を抱えているはずだから。
「それから、な。ソレルティアが其方らに話があると言っていた。
時間を取ってやってはくれないか?」
「え? ソレルティア様が? 私に?」
「正確には其方達に、だ。私も驚いたのだがな」
「驚いたって、何をです?」
「それは本人から聞くがいい」
くすくすと楽しそうに笑うお祖父様は、それ以上教えて下さらなかった。
何だろうと思いながら退室すると、
「マリカ様。お声掛けの御無礼をお許し下さい」
待ち構えていたように声がかかった。
金髪に碧眼。
精霊に愛されたアルケディウス王宮魔術師。
「ソレルティア様」
「マリカ様、リオン様。お二人の御婚約を心からお祝い申し上げます」
「ありがとうございます。耳が早いですね。
今、皇王陛下達にご報告したばかりなのに」
「フェイから連絡を貰いましたので……」
「フェイから?」
フェイは私達の婚約が決まり次第、大聖都へ戻っている。
結婚式の準備で忙しいはずだ。
アルケディウスへ戻る時間などなかったと思うのだけれど。
「個人的に連絡を取り合っているのですか?」
「はい。実はその件も込みで、大事なお話があるのです」
「大事なお話、ですか?」
「はい。大聖都へお戻りになる際、同行させて頂けないでしょうか?」
「それは構いませんが……どうして?」
私は改めてソレルティア様を見つめた。
元々はしなやかでスレンダー。
カモシカのような女性だった。
服装も動きやすいものを好んでいたのに、今日はゆったりしたローブを身に着けている。
それに全体的に少しふっくらしているような――
あれ?
もしかして。
「! ソレルティア? お前、妊娠してないか?」
「え?」
「流石でございますね。はい。
妊娠四か月ほどではないかと言われております」
嬉しそうにお腹へ手を添えるソレルティア様。
え?
妊娠?
「まさか、相手は……」
リオンの片目がエメラルドのような輝きを宿す。
アルやリオンの予知眼は高度演算機能だという。
だが、その目が告げなくても分かる。
皇王陛下が驚きながらも受け入れ、なおかつ私達に許可を求めなければならない相手など、一人しかいないのだから。
「はい。まだ本人には告げていないのですが。
私はフェイとの子を身籠ったようです。
叶うなら産みたいと望んでおります」
「「ええええっ!」」
私とリオン、二人のユニゾンがアルケディウス王宮に響き渡った。
廊下で大声を出すなんてお行儀が悪いと後で怒られたけれど。
信じないわけにはいかなかった。
それを告げるソレルティア様の微笑みが、本当に楽しそうで、幸せそうだったのだから。




