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第四十話 その魔法は…壊れている


「…だれだ?」


ヴェーゼンが問いかける。


危機感のなさそうな奴ほど危ないものはない。


それは単純な馬鹿かあるいは警戒する必要がない場合だけだから。


「んー?」


首をかしげるような声と、気配が移動するのが分かる。


一歩一歩。


そう遠くない距離をヴェーゼンに向けて歩を進めるのだった。


「君…ニンゲン…だよね」


冷たい指先が首を伝う。


「…キフェ君も…昔はこんなことしなかったんだけどね」


その指先が頬に延び――


「えいっ!」


「いてっ」


頬をつねる。


爪がたてられており刺さって少しだけ痛い。


「そこら辺にしとけトレーネ」


キフェルがため息をつきつつトレーネを引きはがす。


「あぁ…いいところだったのに」


しょげるトレーネ。


「いいところもくそもあるか。今は昔じゃねぇんだぞ」


信じられないというように言うキフェル。


ヴェーゼンは恐る恐る後ろを振り返る。


「…え?…は…は?」


白い肌、とんがった長い耳。薄黄緑のセミロングに長い爪。


「…エルフか」


ルシの声がした。


とっさに振り向くと、長い髪をぼさぼさにしたルシがいた。


さっきの悲鳴は間違いなくこれだろう。


「エルフ?」


ヴェーゼンが聞き返すとルシはうなずいて。


「魔族の魔法使い。頭がいいらしくて、将軍とかがいっぱいいたらしいよ

 中でも――」


ルシが意気揚々と話す。


正直、ヴェーゼンに走らないことだらけだ。


「…中でも――魔法使いトレーネ。幹部「五芒星」にまで上り詰めたオンナ。だろ?」


キフェルが話の腰を折る。


ルシは忌々し気にキフェルをにらむ。


美味しいところを持っていかれたのがいけ好かないらしい。


「え?じゃぁ、こいつ…」


当然の疑問をヴェーゼンが口にする。


「そうだ。こいつは幹部最弱のトレーネだ」


「あ”?何か言った?キフェ君?」


その紹介に当然のごとく混じるトレーネ。


とても、かつて世界を震撼せたとある魔法使いの配下とは思えない。


「なんで、キフェルはそんな奴と知り合いなの?」


ルシがいう。


「…昔の付き合いでな」


キフェルは、うつむきがちに言う。


「付き合いって、なんの?」


もっともな疑問だ。


そんな、神話級の魔族とキフェルが知り合いとは――


正直信じられない。


「私はねぇ。こいつの弟弟子みたいなもんだよ」


「「弟弟子?」」


ルシとヴェーゼンが反芻する。


「…そう、だな。あぁ」


キフェルもあいまいにうなずく。


そして気を取り直したように咳ばらいを一つ。


「それで、次に行く場所だが――」


「ねぇ、師匠って誰なの?」


ルシが途中で話の腰を折る。


ヴェーゼンもそれにうなずき、身を乗り出す。


「いや…師匠は…」


キフェルは困ったように途切れ途切れに言う。


しかし、二人の視線に耐えかねたようにため息をつく。


そして、トレーネに一言聞く。


「なぁ、こいつらに教えてもいいか?」


「ん~?ん~…」


キフェルの質問にトレーネは頭を抱える。


口元に合ったほほえみはいつの間にか消え、冷たい。


「キフェ君がそう思うならいいんじゃない?

 師匠のこと一番知ってるのは君でしょ」


長考の末そんな言葉を放り出した。


「…じゃぁ、俺様の師匠は…な」


言いにくそうにキフェルがつぶやく。


ここではないどこかの誰かに向けて。


「昔…吐き気のするほど昔、魔法を使ってたくさんの幸せを願っていた。

 そんな奴だよ」


心なしか、キフェルは懐かしそうにしていた。


「…ほんと、どうしてああいうのはすぐに消えるんだろうな」


そして少しだけ寂しそうに。


「あ、えと…俺たちはこれからどこに行くんだ?」


空気が張り詰めた中ルシが気まずそうに言いだす。


自分が聞いておいてというのも何だが。


キフェルの言葉だけではちんぷんかんぷんだ。


「はぁ、まぁいい。俺様達がこれから行くのは魔法都市だ」


ため息をつきつつそうはっきり言った。


「あぁ、確かヴェーゼンが文字読めなくてあーだこーだの」


ルシが納得したようにうなずく。


「余計なお世話だ」


対してヴェーゼンはうざったそうに顔をそむける。


「ともかく。ヴェーゼンお前は魔法使いになるんだろ?」


険悪になりかけた会話をキフェルが取り持つ。


「あぁ、もちろん」


ヴェーゼンは激しくうなずく。


そのための…才能だから。


「というわけで」


キフェルは立ち上がり、まとめる。


正直雪の上だから寒い。


「荷物をまとめ次第魔法都市方面に出発。いいか」


「俺は別にいいよ。ついていくって決めたし」


ルシがプイッとそっぽを向く。


その目は輝いているように見える。


「…トレーネはどうするんだ?」


警戒しつつヴェーゼンが聞く。


まだほど近いところにいる彼女はそれほどこちらに興味を示していないようだ。


「え…私?とりあえず最寄りの町まで行ってこれを置いてこないと」


ドサッ


雪の下に埋もれていたのか。


トレーネは人ほどの大きさのある麻袋を引っ張りだす。


少しだけ動いていた気がするが…おそらく風のせいだろう。


「…近くは聖教都市ぐらいしかないぞ?」


流石に魔族と言えど敵集団の拠点に行きはしないだろう。


「だから、同行してもいいかな。そのほーが面白そーだし」


トレーネは小さく笑みを浮かべた。


「じゃ、とりあえず行くぞー!」


キフェルの気合のない掛け声で一行は動き出す。


キラァン


気の抜けた魔法音。


足元に浮かぶ紫の光。


歪な魔法陣。


「しまっ――!」


ヒュン


めまいがするほどの強い光。


それが、終わった後。


そこには誰もいなかった。

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