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ひよわな私の異世界ぐらし  作者: ささみし
ひよわな私と長い雨
61/75

61. 話

「話というのは、ですね」


 晩ごはんを食べて、寝る支度をすませてから私は話を切り出した。

 椅子に座る私の前には、妙に姿勢正しくベッドに腰掛けたクリスがいる。

 

「私の身体のことなんです」

「かっ、からだの……?」


 クリスがごくり、とつばを呑む音が聞こえた。

 

「ええと、なんと言ったらいいのかわからないんですけど、私の身体、変なんです」

「変じゃないわよ! 全然っ、き、きれいよ! それに、わたしはすごく魅力的だと思ってるから、媚薬なんて使わなくてもわたしは全然そのままで――」


 えっ、なになに? なんかすごい誉められてる。どうしたんだろう、クリスってばーーって、媚薬?

 聞き捨てならない単語が耳に飛び込んできた。


「ちょっと待ってください、媚薬ってなんのことですか?」


 私が聞き返すと、クリスの顔が燃え上がったように真っ赤になる。


「買ってたでしょ! べ、べつに覗いてたわけじゃないわよ!? たまたま話をしてたのが聞こえたんだから!!」


 ……買ってないけど。

 私は魔力液の瓶を取り出してクリスに見せた。

 

「私が買ったのはこれですよ。魔力液」

「まりょくえき……? 媚薬じゃないの?」


 クリスがぽかんと口をあけて私の手の上にある瓶を凝視した。


「えっと、たぶんハルカナさんが――あ、あの店の店長さんなんですけど、魔力液と間違えて媚薬を出してきたので……クリスはその辺りの会話をたまたま聞いたんじゃないでしょうか」

「かっ、勘違い………………………………?」

 

 クリスが頭から布団をかぶって隠れてしまった。


「クリス……?」

「……なんでもないわ。気にしなくていいからつづけて」

「あ、はい。この魔力液を買ったのは、前にクリスに少しだけ話した夜の光のことにもつながるんですけど――」


 私は、パジャマパーティーの一件から感じた疑問、自分の身体に起きたこと、そして身体で試した一連の実験についてクリスに話した。

 

「これがその髪の毛です」


 しまっておいた髪の毛の束を取り出してクリスに見せる。

 クリスはかぶっていた布団から出てきて興味深そうに髪の毛を見つめた。

 

「触ってもいい?」

「え? ええ。どうぞ」


 気持ち悪がられることも覚悟していたので、クリスがあっさりと手にとったのを見て拍子抜けしてしまう。

 クリスは髪の毛を確かめるように握ってみたり、毛の一本をつまんでみたり、なでてみたりしている。

 そして顔に近づけてにおいをかぎはじめた。

 目の前でにおいを嗅がれるのは、ちょっと恥ずかしいかも……。

 

「たしかに、これはシホの髪の毛に間違いないようね」


 自信ありげにクリスが断言した。

 

「おかしいですよね……。一晩でもとにもどったんですよ?」 

「不思議だけど、やろうと思えば回復魔法で同じようなことはできると思うわ」

「回復魔法?」

「傷がふさがったり髪が伸びたりするんでしょ?」

「ええ、まあ」


 それだけ、とも言い難いけど。

 

「だったら、回復魔法みたいなものを無意識に使ってるって考えたら辻褄が合うんじゃないかしら」

「そんな魔法があるんですか」

「あるわよ。回復魔法っていうのはね、身体の回復機能を高めて傷や怪我を早く治す魔法よ。髪は……わからないけど、たぶん伸ばすこともできるんじゃないかしら」

「たぶんって」

「シホがごはんをいっぱい食べるのも、それが原因なのかもしれないわね」


 クリスはそう言ってうなずいた。

 だけど肝心の問題がまだ残っている。

 

「とりあえず傷とか髪は回復魔法が原因だとして、問題なのは私がクリスから魔力を奪っているっていう話です」

「それこそ大した問題じゃないわよ」

「え?」

「魔力なんて勝手に回復するものなんだし、シホが来てから魔力不足で困ったことなんてないもの」

「だ、だとしても、よくわからないことが起きているのは事実です。クリスは気持ち悪くないんですか?」

「べつに。わたし、シホにだったら何をされたって構わないし」

「えっ」

「へ、変な意味じゃなくって! あ、あんたみたいなわけわかんない女と一緒に暮らしてるのよ? いまさら魔力の一つや二つとられたくらいでどうこう言うわけないじゃない」


 確かに、記憶はないしお金もないしおまけにすぐ倒れるし。最初から私はクリスに面倒しかかけていなかった。

 それでもそばに置いてくれたクリスはすごく優しくて、やっぱりちょっと変わり者なのかもしれない。


「それもそうですね。私も、相手がクリスだったら何をされても嫌じゃないです」


 クリスが私と同じ気持ちだと思うと、それはとても心強かった。


「はっ? な、なにをって……それって、その……えっ」


 言わなくちゃいけないことを伝えて、それを受け入れてもらえた安心感に体の力が緩んでいく。

 ほっとしたら、なんだかとても――

 

「お腹が空きましたね。ご飯を食べに行きましょう」

「……そうね。……わかってたわよ。シホだもの。別に何か期待してたわけじゃないし」

「期待ってなんのことですか?」

「な、なんでもない! ほら、早く行くわよ!」


 いまの私にできることなんて、結局お腹いっぱいご飯を食べることくらいなのだ。

 私はクリスに手を引かれて食堂へ向かった。

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