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ひよわな私の異世界ぐらし  作者: ささみし
ひよわな私と秘密の話
47/75

47.生誕祭

「シホ、起きて」


 ぐらぐらと体を揺さぶられて目を開ける。天井を背景にしたクリスの顔が見えた。

 

「うぅん……クリス……?」


 珍しい。クリスに起こされるなんて。

 ん? クリスが起きてる……ってことはもしかして――

 状況を理解して、私は総毛立つような焦りとともに飛び起きた。


「寝坊しちゃいました!?」

「何言ってるの。まだそんな時間じゃないわよ」

 

 ああ、なんだ。よかった……。安堵の気持ちが、逆立っていた産毛をへなへなとしおれさせていく。

 でも、ということは……クリスが早起きをしたってこと?

 珍しい。私の覚えているかぎり、こんなことは初めてだった。

 

「早起きなんて珍しいですね。雪でも降るんじゃないですか」

「よくわかったわね! そうなの。雪が降ってるのよ!」

「はい?」


 やけに上機嫌なクリスに手を引っ張られて、私は窓際に立たされた。

 

「さ、さむい……」

 

 底冷えのする寒さに体が震える。やけに寒いと思ったら窓が開いていた。

 クリスに促されるままに、私は窓から顔をのぞかせた。

 まっしろな雲に覆われた空から、ふわりふわりと白いものが舞い降りてくる。

 

「雪ですね」

 

 私が見たままの感想を述べると、クリスは嬉しそうに笑った。

 

「でしょっ?」

 

 雪が降っているのは珍しいけど、それよりもクリスが早起きをしているほうがもっと珍しい。

 ああ、だから雪が降ってるのか……。と因果も前後も関係があやふやなことを回らない頭で考える。

 

「雪はわかりましたけど、何か出かける用事でもあるんですか?」

「べ、べつに。なんとなく今日は早く起きちゃっただけよ」


 クリスがふい、と目をそらして空を見上げた。

 なんとなく、かあ。まあそういう日もあるよね。

 

「シホは……今日がなんの日だか知ってる?」


 と、クリスが突然クイズを出してきた。

 今日がなんの日か? そういえば、リルカが言っていた気がする。

 思い出そうとしたら、肌を刺すような冷たい風が吹いた。

 さむっ。

 身震いして開いた襟元をすぼめながら、私はクリスに提案した。


「ええと…………それより窓を閉めませんか。風が入ってきてすごく寒いです……」


 クリスはなんでこんな薄着で平気なんだろう……。

 ぱたんと窓を閉める音を聞きながら私は布団にくるまった。

 布団はすっかり冷たくなっていた。

 

「な、なんでしたっけ、冬至――じゃなくて、たしか、生誕祭、でしたっけ」


 そう答えると、クリスがぱあっと顔を輝かせた。

 

「そ、そうよ! 知ってたのね。へえ、そうなんだ…………え、えっと、わたし、先に食堂行ってるから」

「あっ、クリス?」


 クリスが部屋を出ていった。

 一人残された私は寒さにぶるぶると震えるしかなかった。

 


 食事中もクリスの様子はおかしかった。食べたあとも席を立たず、物欲しそうな目で私をちらちらと見てくるのだ。

 ご飯が足りなかったのかな……。


「クリス」

「な、なにかしら!?」


 うわずった声でクリスが返事をする。

 

「ハム食べますか?」

「……え、うん」


 私がフォークを差し出すと、クリスが口を開けてぱくりと食べた。

 もぐもぐと咀嚼しながら、じとーっと私のことを見てくる。足りないならおかわりをすればいいのに。

 そうこうしている間に、お店を開ける時間が近づいてきた。

 

「そろそろお仕事の時間なので、私は行ってきますね」

「え? あ、ああ、そうね……」


 なんだか、少しがっかりしたような顔でクリスは部屋に戻っていった。

 

 

 夕方、仕事が終わってエプロンを外していると、ライラが声をかけてきた。

 

「シホちゃん、お仕事おつかれさま。今日の晩餐は特別だから、クリスちゃんと一緒にゆっくり食べてね」

「えっ、そうなんですか。それは楽しみです!」


 特別ディナーかあ。生誕祭が関係してるのかな。

 私はわくわくを胸に、クリスを呼びに部屋に向かった。

 ドアを開けると、珍しくクリスが鏡台の前に座っていた。

 

「クリス、ご飯食べにいきましょう。今日はごちそうらしいですよ。楽しみですね」

「あ、うん……」


 妙にしおらしく返事をしたクリスが立ち上がる。

 そこにいたのは、いつものクリスではなかった。見慣れた服ではなく、パーティードレスのようなブルーのワンピースをまとっている。

 

「…………」


 クリスが振り向いて、私に向き直る。その動きが少し固い。


「かわいいです! どうしたんですか、この服!」


 私が近寄ると、クリスは少しうつむいたような角度から、恥ずかしそうに見上げてきた。

 頬がほんのりと色づいている。

 

「た、たまたま見つけたから着てみたの」

「きれいですね」


 どこで見つけたのかはわからないけど、見覚えがないから新しく買ったんだろうか。

 それに、近づいて気づいたけど、いつもとにおいが違う。

 なんとなく石鹸のようなにおい……。まさか……?

 

「もしかして、お風呂に行ってきたんですか?」

「ま、まあ、暇だったし?」


 と言いながら、クリスはつんと斜め上を見上げた。

 あのお風呂嫌いのクリスが、一人でお風呂に入った……!?

 

「えっ! 一人でお風呂に行ってきたんですか!? どうして……。でも、髪がきらきらして、すごくきれいです。服の色もクリスによく似合っていますし、すてきです。クリス」

「…………も、もうそのへんでいいから。いくわよっ」


 すたすたと前を歩いていくクリスの耳が真っ赤になっていた。

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