42. キリオンの部屋
まさかこんなことがあるとは思っていなかったけど、キリオンに住所を聞いていて良かった。
住んでいるところがわからなければお見舞いにも行けない。
外に出てから、そういえば何かお見舞いの品を持っていくべきかとふと思う。途中でロゼッタの店に寄ることにした。
ロゼッタはリルカに聞いた通りいつもと変わりなかった。
「あたしはそんなに食べなかったから無事だったけど、シホさんはなんで何ともないわけ?」
「さあ、どうしてでしょうか」
この調子だとキリオンも平気かもしれないと思いつつ、様子がわからないのに生菓子を持っていくのは気が引ける。とりあえず日持ちするもの、ということでクッキーなどの焼き菓子の詰め合わせを買った。
ロゼッタはケーキ作りが趣味なだけあって、クッキーも形やバリエーションが豊富で見た目にもかわいらしい。
キリオンの家は川のほど近くにある集合住宅だ。町の端のほうにあるのでライカ亭からは結構距離がある。
休み休み歩いて目的の建物にたどり着いたものの、表札らしきものがなく、どの部屋にキリオンが住んでいるのかわからなかった。
一軒一軒ノックして周るわけにもいかないし、どうしよう。と困っていたら、ちょうど階段から若い女性が降りてきた。私はその女性に聞いてみることにした。
「すみません。ここにキリオンっていう魔法使いの女の子が住んでませんか? たずねて来たんですが、どの部屋なのかわからなくって」
「キリオン? さあ、名前はちょっとわかんないけど。いつも黒いローブを着てる子かな」
「あ、たぶんそうです」
「それなら1階の真ん中の部屋だよ」
親切な女性にお礼を言って別れ、部屋のドアをノックする。
「ごめんください、シホです」
ほどなくして部屋の中から、どたばたガタゴトどすん、と騒々しい物音がして、ドアがゆっくりと開いた。
「し、シホちゃん……!? なんでっ?」
「お見舞いに来ました」
キリオンの顔色は思ったよりも良いようだった。
体調がいいのであればお土産を渡して帰ってもよかったのだけど、キリオンは快く部屋に上げてくれた。
室内に足を踏み入れる。人の部屋のにおいだ。なんだか土みたいなにおいがする。
少し暗い室内の明かりに目が慣れてくると、足の踏み場もない部屋の様子が見えてきた。
「う、わあ。すごいですね……」
家具や床の上には、大小様々な置物が所狭しと置いてある。
……いや、よく見ると置物じゃない。ただの石だ。両手で持つような大きいものから砂利のような小粒のものまで。置いてあるのか散らばっているだけなのかもわからない。
「えへ、えへへ……」
キリオンは照れているようだ。別に褒めたわけではないんだけど。
案内してくれるキリオンのあとを追って私も奥へ入っていく。足の踏み場に困る。それに、なんだか床がざらざらしている。
まあ、部屋の惨状は置いておくとして……。
「体の具合はどうですか? 昨日帰ったあと気持ち悪くなったりしました?」
「う、うん。ちょっとおなか……あの……。うん、今日はもう大丈夫」
「そうですか、それは良かったです。実はあれからクリスが体調を崩してしまって、今朝もまだ少し熱があるくらいだったので、キリちゃんはどうかなって心配してたんですよ」
「そうなんだ……? 大変だったんだね。あ、す、好きなところに座って」
好きなところ……?
椅子とかクッションみたいなものは見当たらない。座れそうな石はあるけど。
「あ、はい……。ロゼッタさんも平気そうだったので、体調を悪くしたのはクリスだけでしたね。まあ、クリスも良くなったので一安心です」
言いながら座れそうな場所を探したものの、キリオンの腰掛けているベッドくらいしかなさそうだった。
「隣いいですか?」
「え、あ、うん」
「よいしょ……と。あ、これ、お土産です。ロゼッタさんのお店で買ってきたクッキーです」
「あ、ありがとう……。すごい、かわいい」
袋から取り出した缶を見てキリオンが嬉しそうにしている。中身のクッキーもかわいいと言ったらフタを開けて目を輝かせていた。
「ところで、あの……この部屋に置いてある石は……」
「あ、うん。石、集めるのが好きで……きれいなのを見つけると、拾ってくるんだ」
「そうなんですか、すごい数ですね」
なかなか渋い趣味だ。
「あ、あと、魔法で撃つための石も。撃つとなくなっちゃうから、沢山拾ってこないといけなくて。でも、なかなかいい形の石がないから、自分で削ったりして……こっ、こうやって」
そう言うとキリオンは枕元に置いてあった金属のやすりで小石をゴリゴリと削り始めた。削った粉がそのへんに落ちていく。部屋が砂っぽいのは、たぶんこれのせいだ。
「……なるほど。そうやって作ってるんですか」
部屋の中でやらなくても良いような気がするけど……まあいいか。
「一つ一つ加工するのって、大変そうですね。金属だったらもう少し楽に作れそうな気もしますけど」
「そ、そう! そう思って試したの!」
キリオンの目がぎらりと輝き、口調が強くなった。あれ、なんか地雷踏んだ……?
「飛ばすのに丁度いい石ってなかなか落ちてなくて、金属で代わりになるんじゃないかって、思って鋳造してみたんだけど。それが全然飛ばなくて。なんでかなって思って、不思議だったんだけど。それがね、石に含まれる魔力が大事だったの。自然石には少しだけ魔力があるから、それが触媒になってたんだよ。いままでなんとなくそう思ってて、確かな証拠はなかったんだけど、このまえ飛竜に向けて魔晶石を飛ばしてはっきりわかったよ。魔力が大事なんだって。だから金属にも魔力が入ってればいいんだけど、普通に作ったのだと魔力は入らないから。特殊な加工で魔力が込められてる金属もあるけど、すっごく高いから手がでなくって――あ、この石も見て! ここがピンク色になっててすごく綺麗でしょ。それとこっちの石はね、黒くてきらきらで――!」
楽しそうに喋り続けるキリオンを眺めながら、私はただ笑顔でうなずくことしかできなかった。
うん、まあキリオンが元気そうで良かった。
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