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ひよわな私の異世界ぐらし  作者: ささみし
ひよわな私と秘密の話
39/75

39. 飛竜のお肉

 よく晴れた空の下で二人の少女が向かい合っている。

 二人は互いに様子を伺いながらも気まずそうに視線をそらしていた。

 冷たく乾いた風がひゅうと吹いて、私は寒さに身震いしながら腕をさすった。

 

 妙な緊張感があった。

 そうして両者に動きがないまま、時間が流れていく。

 先に口を開いたのはクリスだった。

 

「……シホから聞いたわ。あなた、一人で飛竜を倒したんだって?」

「う、うん……まあ……」


 歯切れの悪い返事がキリオンの口から発せられた。

 

「なかなかやるじゃない。まあ、わたしは5匹倒したけど」

「そ、そう、なんですね……」


 クリスが飛竜の討伐数でマウントを取り始めた。


「ちょっと、クリス。そんなこと言いに来たんじゃないでしょう」

「わかってるってば……。その……シホを助けてくれてありがとう。それと、この間はいきなり突き飛ばしたりしてごめんなさい」


 クリスが頭を下げた。

 

「あ、あの、大丈夫です。ぜ、全然気にしてない、ですから……」


 クリスの謝罪を受けてキリオンがこたえる。周囲に漂っていた緊張感が消えて、私もほっとした気持ちになった。


「話は終わった? もうこのお肉焼いていいの?」


 ロゼッタがトングを片手に尋ねてきた。

 

「ええ。はじめましょう、バーベキューを!」


 私は声高らかに本日のイベントの開催を宣言した。

 

 

 ここはライカ亭の裏庭。ロゼッタの前には大小のグリルが設置されている。火や食材の準備はすでに整っていて、ドラム缶を横にしたような大きなグリルの中では肉の塊にじっくりと火が入っている最中だ。

 そのお肉、なんのお肉かと言うと飛竜のお肉である。


 キリオンが倒した飛竜は冒険者ギルドで解体されて爪や革などの素材とお肉に分けられた。

 先日交わした約束の通りお肉がライカ亭に届けられたとき、たまたまロゼッタが居合わせて、せっかくなのでわたしとクリス、キリオン、ロゼッタの4人で集まって一緒に食べようという話になったのだ。

 

「ま、本職には敵わないけど、うちの店も簡単な料理くらいは出すからこのくらいはね」


 そう言って肉をてきぱきと切り分けていくロゼッタは、珍しく私服姿だ。ただし猫耳は付いている。

 

「ロゼッタさん、今日はメイド服じゃないんですね」

「いやいや、あんなの店以外で着ないってば。シホさんはあたしをなんだと思ってるの?」


 あきれるような目で私をみるロゼッタにクリスが茶々を入れる。

 

「趣味で着てるんだと思ってたわ。飛竜討伐のときもメイド服だったし」

「そんなわけないでしょ! っていうかあれは、あんたに無理やり拉致られたせいなんだけど!?」

「わたしは一人でも良かったけど、ギルドが誰か同行させろってうるさいんだもの。仕方ないじゃない」

「妥協したみたいに言わないでくれる!? そんな理由で2日も拘束されたこっちの身にもなってほしいんだけど!」

「別にいいじゃない。それなりの報酬はあったでしょ」

「ぐっ……たしかに店の売上より多かったし、何日分……? 臨時収入としてはまあ……でもなあ……ぐぬぬぬ」

 

 悔しがりながらもロゼッタは手を動かして網の上で炙られている肉をひっくり返した。じゅうじゅうと肉の焼ける音が美味しそうだ。

 

「今日はキリちゃんが主役ですから、沢山食べてくださいね!」

「え、そ、そんな主役だなんて……」

「キリちゃんがいなければ、飛竜を食べることなんて出来ませんでしたから」

 

 もちろんクリスたちも飛竜を倒したのだけど、町から遠く離れたところで倒された魔物はその場で解体され、素材として価値の高い部分だけが取引のために輸送される。お肉のように腐りやすいものを遠くまで運ぶことはまずないのだという。

 つまり近くにいた人しか食べられない。飛竜の肉が珍味だと言う理由だろう。

 

 ロゼッタが私にたずねた。

 

「そういえば、飛竜の頭を撃って仕留めたって聞いたけど、あれ本当なの?」

「本当ですよ。一発でばーんって、もうすごかったんですよ」


 キリオンが恥ずかしそうに謙遜する。


「え、いや、あの、それほどでも……」

「えー!? どうやったらそんな威力出せるの? キリオンさんの魔法めっちゃ気になるー!」

「あ、あれは魔晶石を使わないとできないから…………い、いつも使ってる魔法は全然、あの、弱いので……」

「へー、そうなんだ。でも気になるから今度見せてほしいな」

「あ、はい……」


 ロゼッタもキリオンも魔法使い同士で話が盛り上がっているようだ。

 

「……飛竜ならわたしも沢山落としたわよ」


 クリスが不機嫌そうにむくれている。


「聞きましたよ。クリス一人で全部落としちゃったって。私も見たかったです。それに、もしクリスが居なかったら全滅していたかもしれないって。すごいですね、クリスは。でも、危ない場面もあったって聞きました」

「あんなの、危ないうちには入らないわよ」

「そうかもしれないですけど、私は一緒に戦うことはできませんから。クリスには無事に帰ってきてほしいです。それが一番うれしいです。クリスが強いのはわかってますけど、あんまり無茶はしないでくださいね」

「わ、わかったわよ……。次からはもう少し気をつけるわ」


 そう言ってクリスは飲み物を取り、ごくごくと一気に飲み干した。

 

「こっちはそろそろいい感じに火が通ったかなー。おーい、飛竜のステーキできたよー」


 ロゼッタが厚切りのステーキを包丁で一口サイズにカットしていく。こんがりと焼き色のついた表面とは対象的に、中身は鮮やかなピンク色をしていた。肉から染み出した脂がきらきらと輝いて、まるで肉そのものが光っているかのように見える。

 肉を乗せたお皿が行き渡り、みんなが一斉に頬張った。

 

「ん~っ!」


 とろけるような舌触り。噛んだ瞬間、じゅわっと染み出す肉汁の旨味。ほどよい歯ごたえと歯切れの良さも抜群だった。

 

「おいしいわ!」

「う、うん! 凄く柔らかくて美味しい」

「今まで食べたどんなお肉とも違う、これが飛竜? 珍味どころじゃないよ、これ」


 みんなが口々に絶賛する。

 

「ロゼッタさん! おかわりください」

「わたしも」

「あ……お願いします」


 私たちは空になったお皿をロゼッタに差し出した。

 

「わかったわかった、わかったからあたしにも落ち着いて味わわせてよ!」



 ステーキ肉が一段落したら今度は焼き肉パーティーが始まった。

 

「ちょっと! ひっくり返すのが早いってば!」

「うるさいわね、焼ければ同じでしょ」

「同じじゃないの! あたしのやり方が一番美味しく食べられるんだから」

「…………」


 ロゼッタとクリスが言い争いをしている間にキリオンが無言で肉をお皿に取った。


「あ、キリオンさん! それまだ焼けてない!」

「ひっ、ご、ごめんなさい……」

「いや、そんな怯えなくてもいいから……ってクリス! それあたしの!」

「もぐもぐ。ふーん、まあ言うだけのことはあるわね」


 網の上はまだ空いている場所がいっぱいある。

 少しづつ焼いているから取り合いになっちゃうのでは?

 そう思った私は網の上に端からお肉を敷き詰めていった。

 

「まあまあ、お肉は沢山あるんですから。いっぱい焼きましょう」

「ちょ――! なにしてんのシホさん!? どれがどれだかわかんなくなっちゃったじゃん!」

「えっ、私なにかしちゃいました?」


 ロゼッタが膝から崩れ落ちた。

 

「あーもう、あたしの完璧な計画が……。って、キリオンさん、それはまだ生でしょ!」

「ひっ……で、でも、こっちのほうがおいしい、よ……?」

「あんたいちいちうるさいのよ。美味しければそれでいいじゃない」

「お肉のためにケンカしないでください。ね、ロゼッタさんも一緒に食べましょう?」

「くっ、こんなにいいお肉を雑に焼くなんて……。悔しい……でも美味しい……」


 ロゼッタは泣きながらお肉を食べていた。

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