第68話 「後悔」
俺は修練場で待ってるシャルとソニアを呼びに行った。
「二人とも、掲示板見たか!?」
「どうしたんだ、そんなに慌てて? なにか書いてあったのか?」
「カルード帝国が崩壊したって書いてあったんだよ! 恐らく……いや、確実にあの邪神のせいだ!」
「そ、それ本当なの? 人ごみ苦手だから避けてたから気づかなかった……」
流石は陰キャ代表のソニア。どっちみち俺が見てるだろうから、ソニアたちが見てなくても特に問題はない。
「それだと……カルード帝国に向かったナナたちはどうなってしまったんだ」
「分からねえ。それを確かめるためにも……俺たちが行くしか……」
当然だけど、掲示板にナナたちの情報は書かれていなかった。直接見に行かなければ、何とも言えない。
「俺が一緒に行ってれば……こんなところで、のんびり修行してる場合じゃ……」
「カイリが行ってたら国を救えてたって言うの? そんなこと――」
「――分かってるよ! そんなこと!」
俺の中に、激情が沸き上がってくる。
俺だって、自分一人でどうにかなるなんて思ってない。神の力を使っていたときでさえ、全員を救うことはできなかった。
それなのに、力の全てを失って。誰かを救うなんてのが夢物語だってこと、俺が一番よく分かってた。
「分かってたら、諦めろってのか!? 弱いからってみっともなく国にとどまった選択を、後悔すんなって言うのかよ! こんな気持ちをするくらいだったら……無謀でも、戦いに行って死んだ方がマシだったよ!」
危機感がなかった。ナナやイオリたちは戦いの場に行ってるのだという自覚がなかった。
あの子たちならやれるだろうという信頼に逃げて、俺は俺のやるべきことを果たさなかった。
「なにも、してなかった……」
「カイリはなにもしてなかったわけじゃない。強くなろうとしてたじゃん……」
「今更強くなろうとして、どうすんだよ。一日二日でお前たちみたいな力をつけるのは無理だって、誰でも分かるのに。俺がやるべきだったのは、強くなることじゃなくて……あいつらを、守ることだった。肉壁でも、なんでもいい。とにかくあいつらを守って……そうやって、死ぬべきだったんだ」
なにもできない癖に、なにかをしようとしたのが間違いだった。俺はもっと違う手段で役に立つべきだった。
そもそも、神の力に甘えてたんだ。自分一人で冒険者をやっていけるくらい、強くなっていれば、こんな無力な人間になることもなかった。
「俺がいなければ、ソニアやシャルをこんなところに縛り付けることもなかった。あいつらの力になれたはずなんだよ……俺さえ、いなければ……」
貴重な戦力を二人も俺の護衛に回させて、そのせいでカルード帝国が崩壊したのだとしたら、俺は俺を絶対に許せない。
「俺が、全部――」
と、その時だった。
俺の頭上から、大きな音が鳴る。破壊と崩壊の音だ。
「カイリ、危ない!」
ソニアが俺を抱えて逃げる。天井が崩壊して、瓦礫が落ちてくる。
「一体なにが起きて……」
見上げた先には、見慣れた少女の姿。かつてはカナのものだった筈の身体。今はその中身が、大きく変わっていることを、俺たちは知っている。
「邪、神……」
「やあ、久しぶり……でもないか。でもこうして目覚めてくれたのは嬉しい限りだよ、カイリ」