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クロス・インパクト  作者: あかつきこのは


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37 空気を読むこと

 

 今回、バックダンサーや玲嘩(れいか)ソロ活動復活計画に約一か月間邁進したことへの対価として、具体的な金額は言えないが……滞納分を完済でき、序に数か月分の三人三食家電制限なし生活を行っても余裕が出るほどには報奨金を頂けた。ルミーナとマリアがカフェバイト等々で稼いだ分も合算すると、今年の冬は暖房アリで越せるかもしれない。誰かさんの手によって浪費しなければ、だが。

 玲嘩はというと、新しいアイドルとして誕生させてもこのご時世どうせすぐに前世がバレるだろうということで、前所属していた事務所と話をつけた上で正式に復活という形で再びアイドル業界に参入したらしい。前の事務所と変な条約やイザコザは何一つ起こしてなければ、寧ろ放任気味なマネージャーだったらしく、条件や提案もなくすんなり承諾してくれたとのことだ。一身上の都合という名目が受理されたうえで退社しているからか、面倒な残留権限なども特になし。ソロ活動だったのでこじれた人間関係などもなし。奇跡的なまでに面倒事なく終わっている。

 SNSはやらない方針の為、何一つ宣伝なく突如動画投稿サイトに復活後一曲目となる楽曲をリリースしたが、かえでや有名曲のカバーではなく、まさかの自分の新曲。作詞作曲かえで・振付玲嘩・編曲nof_nalkof――よくかえでのPV制作に携わっている人だ――というイツメンにして最強の布陣でいきなり神曲を投稿。背景は全て合成らしいが、そんなの誰が見てもCGとは思えんクオリティー。しかもこれを日曜大阪ライブの前日に放出するという現実味の無いスケジュール感で実現している。普通前々から準備していなければ一睡もする暇がないが、精鋭が揃っているからこそ実現できた作業速度だろう。

 かえでがSNSで拡散しなかったこともあり、初速は遅かったとはいえ約一週間で十万回以上も再生されている。かえでに楽曲提供を受けた謎の人物として徐々に広まっていったからか、評判は不評の方に偏っているが、これに関しては無理もないだろう。大金叩いて見切り発車したと揶揄されていれば、かえでから飛んできているとReyの存在を知っている人も居るからか、復活を喜んでいる意見もチラホラとある。徐々に後者の意見が大きくなっていき、色んな憶測や賛否両論が生まれるだろう。

 賛否あると議論が白熱化して自ずとSNSの書き込み量も増えていく。炎上商法とはいかないが結果的に色んな人の目に止まることになるので、こういうのが起きたってことに意味がある。中には人の意見を聞いてさも実体験かのように拡散する人もいるが、それすらもなければ今後伸び悩みかねないので、影響力という面で見れば有難かったりする。

 念のため『インターネットって憶測が一瞬で広まるからな。あまり気にすんなよ』と玲嘩にチャットを送ったところ……『なんのことです?』と返された。ホントにSNS断っているらしい。意味もなく真面目にニュースやコメント欄を追い続けた一般男性が爆誕してしまった瞬間だった。

 ライブや一曲目の収録など多忙だったからか、その日の方が学校的にも都合が良かったのかはわからないが、玲嘩が退治に編入することになったのは十一月のいっぴから。何だかんだ平和な日々が続いたので、ハロウィンの喧噪に仲間入りしたり、大阪や名古屋のライブにもバックダンサ―しに行った中、玲嘩編入日の今日は久しぶりに早朝から登校する。

「今思えば二人も一緒にバックダンサーできたと思うぞ」

 パンと卵とベーコンとミニサラダとコーヒーという、いかにも洋風の食卓らしい朝食を食しながら、付属中の制服姿のルミーナとメイド服姿のマリアを交互に見る。

「私には無理よ。あんなの柄じゃないわ。マリアもそうでしょ?」

「はい」

「そこは答えるんだな……」

 ルミーナはやらなさそうだとは思っていたが、マリアまで即答するのか。俺のダンスのように覚えた動作をただ熟すだけのロボットは得意そうなのに。

「俺達の中でやりそうなのはアトラぐらいか……」

 (かえで)を異世界旅行に連れて行った時、歌やダンス、楽器に興味津々だった。仮にその出来事が無かったとしても、アトラは何にでも興味を示してくれる質だ。

「私はカフェバイトに励むわ。最近読書が解禁されたのよ」

「へー、そんなこともあるんだな」

「最近人が増えたみたいで、店員の不敬な態度を演出してほしいんだとか」

「なんじゃそりゃ」

 楓はSNSで広めたりしていなかったので、単純にあったかい飲み物が欲しくなってくる時期になってきたからだろうが……神なんだから他にもやりようがあったはずだ。お陰様で直立不動バイトにも生産性が生まれたのはいいことだが。

 昨日愼平(しんぺい)に拉致られ、禎樹(よしき)と嫌々仮装して人工島内を徘徊させられた。その影響で謎のかぼちゃの服が干されているが、あんなのゴミ箱に入れてよかったのに。石塚(いしづか)に拉致られたルミーナとマリアは魔女の仮装をしてたらしく、同じく干されているので節約のために寝間着にでもするつもりなんだろう。二人は似合うだろうが、俺にとっては苦渋の選択すぎる。

「それにしてもライブっていうイベント、楽しいわね。曲は殆ど分からなかったけど、会場の雰囲気とか周りの気持ちが一つになっているような感じがして居心地が良かったわ」

「俺も最初はそんな感じだったわ。知らん曲聞いて楽しいのかよって。でも実際あの場所で会場の雰囲気に飲まれない方が異常だな」

 俺がライブ出演者ということもあり、お裾分けでいくつかグッズを貰った。カッコイイポスターが貼られていたり、テレビの横とか冷蔵庫の扉に小物がある様は参戦してきた感があって気分が上る。

「参加者が順繰りにアピールする曲? あそこのダンス、凄くカッコよかったわよ。パルクールっぽさがあって大きな存在感があったわ」

「あー、あの自己紹介曲か。あれいきなり振られてビビったんだよ。テキトーにブレイクダンスやってみただけだが変に映って無くてよかった」

 壮大な映画の序章を想起させるビートから始まり、いくらでも長引かせるようなループっぽいメロディーラインが特徴的なあの曲は、二度と同じ歌詞と出会えないライブならではの専用曲だ。ちゃんと歌としてその場で成立させるには、歌唱力だけでは補えない即興力が求められる。何故かというと、メロディーに乗せて観客の手拍子と共に演奏者や照明担当、時には会場スタッフに至るまで、裏方として参加している方々のニックネームを呼んだ後、趣味や特技などの軽い自己紹介をしていくからだ。しかも言葉での紹介だけではとどまらず、呼ばれた人はスポットライトがあてられ、歯ギターするなり、バク宙するなり、シンプルに一礼するなりでそれぞれアピールしていく。カメラさんや照明さんも呼ばれたらかえでを滅茶苦茶上手く映して技術を魅せつける程だ。即興で歌いながらもそれに合わせて完璧なポーズ取りをするかえだけでなく、参加者全員が役者としての心構えがあるからこそ為せる偉業だ。

 今まで見てきた感じだと、基本的に時間が許す限り紹介して失速してしまいかねない遠慮がちな性格の人以外全員を紹介しているようだが、順不同で振られるとは思っていなかったので完全に油断していた。警備員参加の時にいきなりスポットされて警棒でバトンのような演技をした過去が蘇る。因みに曲の最後で観客の皆を紹介し、観客一同が斉唱するというのがセオリーだ。その部分は各々好き勝手に歌うのではなく、ライブ前にSNSでファンが自然と作り上げた歌詞になるので、主催側も楽しめるという素晴らしい楽曲だ。

 朝食を食べ終えてマリアからそれぞれ弁当を受け取り、学生組は出発する。まだ時間的には家でのんびりできるが、奴が姿を現すと遅刻リーチがかかるのでちんたらできない。

「おっはー」

 今日は玲嘩が初登校日だからか、昨日福岡ライブを終えて直帰した楓は疲労感を一切見せずに階段横で待っていた。

 玲嘩の楽曲がオリコン入りするのを邪魔しないために、楓は気を利かせて最近歌唱曲はリリースしていない。ライブ中だからひと時の休憩……はしないらしく、代りにfuture bass、LoFi、Hardcore、celt、electro swingを題材にしたインストEPを5週連続でリリースしているとか。インスト曲は今までガッツリ作ってこなかったとはいえ、いきなり極めまくった楽曲たちを連続リリースしていくので界隈がざわついているとか。発想絡みはもう世の中にありふれているし、AIとかでも量産態勢が整っていたりするので、一ミリも被っていない百パーセントの新規性っていうのはもう厳しい時代になっている。何か作ったら何かしらに似ていると感じる人がいる中でも、かえでワールドがしっかり散りばめられた楽曲たちを量産できている楓は相変わらず音楽界の巨匠過ぎる。あと初めて知ったんだが、インスト曲の時の名義はmapleらしい。

「しゅうやんの差し金だったんだね」

「あぁ、もっと人と接した方がアイツの為になると思ってな」

 別に隠していたわけじゃないが、俺も玲嘩も復学……それも退治に編入するとは紅葉(もみじ)以外に言わなかったので、事務所に制服が届いた三日前まで楓は知らなかった。どうやら通信教育制にしたら教科書は全て電子になるらしく、普通にうらやましい。

「それにアイドルっていっても、いつまでも続けられる仕事じゃないだろ?」

「そういうことボク以外に言っちゃダメだよー?」

「すまん、ノーデリカシーだったな……」

萩耶(しゅうや)にはもっと勉強が必要ね」

 辞めようと思えば今やめても一生好きなことして遊べるだろう。玲嘩も、これまでの実績からして相当稼いでいるはず。でも、それでやめる人はいない。今そうしてられるひと時が楽しいから。特に楓は、歌でたくさんの人の気持ちをハッピーにしていくためにこれからも歌い続けるだろう。

 方向が違うルミーナと別れ、楓共々久しぶりに一般科目棟に来たが……相変わらずの下駄箱郵便ポスト惨状を見た瞬間憂鬱になる。今朝清掃済みって張り紙があるので、どれだけ愚民が蔓延っているかがよくわかる。

「はい、ありがとうございましたっと」

 苦笑いする楓を他所に、邪魔なラブレターの山は全てラブレター廃棄用ゴミ箱へ。先生も全て機密書類として処分するしかないの面倒くさいだろうな。

 楓の下駄箱は手紙が一つも来ていない。それは人気が無いからじゃなくて、チャットで返事してくれるから態々紙で書く必要が無いからだ。こういう手間が不要だと考えると、俺もチャット方面へ展開していった方が良いのかもしれない。

「なんで不登校の方がもてるんだ。ふつーに学校に行って運動も勉強もできてイケメンなよしPの方がもてるだろ」

 アイツはアニメ好きなのを全面に押し出して女子共を引かせようと励んでも、元のスペックが良すぎてたかがアニメ好きぐらいどうでもいい要素と捉えられてしまう悲しき男だ。そんな男より不愛想で不登校の男を好むのは世紀末にも程がある。

「ずーっと見てたら飽きてくるんじゃない? 時々見た方が特別感があるとか」

「ずっと見て飽きたらそれで終わりだろー」

「なら不良好きなんじゃない?」

「バカ言うな……」

 なんか毎回誰かと似たようなやりとりをしている気がするが、下駄箱の呪いということで謎の既視感には深追いせず……楓と後ろ扉の方から教室に入る。

「えー今日からこのクラスに編入することになった。席はあそこだ」

「偵察科Bランク、星村(ほしむら)玲嘩です。よろしくお願いします」

 偵察科の教師らしき人は席を指差してから玲嘩の挨拶を待たずに教室を後にしている。

 この学校ではインターン制度や二週目などがある都合上、生徒の出入りが頻繁にある。お陰様で扱い方がガサツ。まだ登校時間中で全クラスメイトが揃っていない教室内で、例に漏れず編入生の自己紹介が実施されてしまった。

「は……?」

 教室に入ってくるなり教卓に立つ玲嘩に視線が釘付けになっている光景を、既に登校していた禎樹と愼平が俺と玲嘩を交互に見ている。

「しゅーやん、謎は多いけど、また後でね」

 多くの視線を集めてしまったからか、肩にかけていたはずのカバンが衝撃のあまり滑り落ちてしまったようで、それを拾い上げた楓は俺にしか聞こえない小声で囁きつつ玲嘩を気にしない素振りで自分の席に向かって行く。玲嘩も俺がどういう人なのか知らない設定なのか、見向きもせず自分の席に向かって行く。いきなり注目を浴びるのもアレだし、ここは俺も空気を読んでとりあえず昼休みを待つことにするか。禎樹と愼平の優しい視線がウザければ、俺の反応を見た周辺生徒のざわつきもキモい。


 授業の合間で玲嘩は沢山の質問を受けることに……はならず、お得意の不愛想を振りまき早速孤立してしまう。結奈(ゆうな)は会話が下手な訳じゃなく、話のネタが合う相手が居なくて孤立して見えてるだけだが……玲嘩のは完全なる拒絶。相手する気が感じられなかった。

 メジャーデビューは成功しても高校デビューは失敗。本人からすれば願ったり叶ったりな展開かもしれないが、個人的には色んな人と関わって社交性を高めてほしかったな。しかし一瞬で切り捨てた退治の生徒もまあまあ酷い。入学当初に完成した友達の輪の中に途中参加するのは難しいとはいえ、Stella経験者としてはどっちが異常なのか理解に苦しむ。

 お陰様というか何というか、二限終わりの休み時間から孤立していたので、楓が強引に手を引っ張って道中で俺と合流し、人目が無い場所で事の顛末を聞いた。

 あくまで対異世界人関係者を育成する学校なので、このような異例として編入するには莫大な選考があるんだろうが……どうやら一応通信やっていたみたいで、一年までの勉学は修了していたらしい。本来――というか一般校なら、来年二年生として一浪状態で入学できることになるらしいが、退治の厚意で入試に受かれば今から二年生として留年無しで入学していいとなり、碌に勉強してなかったのにすんなり受かって編入が決定。楓を追って偵察科を選択し、持ち前の運動能力で振り分けはBスタートとなったらしい。基本的に転入してくる奴は高校を卒業したいだけの奴が多い。そんな中でいきなりBに振り分けられたのは異例中の異例だ。しかしアイドル界で見たらトップレベルの運動神経でも、この業界で見たら上の下ってのは悲しい現実だ。

 これは俺が個別に校長と話して聞いたんだが、玲嘩が面接で尊敬する人を聞かれた際、俺の名前を出していたらしく、理由も聞いて俺絡みと判断した校長が独断で同じクラスに入れることにしたらしい。その影響で一席開ける必要が生じ、陰でクラス移動ルーレットが始まり……止まったのは見事なまでに石塚ど真ん中。校長が差し金なので作為ありそうだが、そんなこんなで石塚アウト星村イン。今日見ないなとは思っていたが、むさ苦しい男多めのクラスに飛ばされたとか。

 因みにこの学校の入試はまさかの足し算や掛け算などの算数レベル。漢字の読みや近代史も選択肢式で、消去法で外れる訳がない低レベル試験だった。ただ英語だけはほぼネイティブを要求されるが、ゼロ点だろうが回答意思が見えればOKという緩さ。脳みそは筋肉前提なのか?

 忽ちバケモン級に美しい奴が転校して来たと話題になるが、いざ近づけば睨まれる始末。昼休みの今、このクラスを観覧に来る生徒は多いが誰一人話してもらえていない。

 そんな元石塚の席に座る玲嘩の前の席を借りて友達になろうと試みる演技派の楓を他所に、

「お前アイツに興味ないのか? 誰よりも早く話しかけると思ってたぞ」

 玲嘩と楓は紅葉に作ってもらったであろう弁当を食べているが、俺はもう事務所合宿をしていない。でも金には余裕ができたので、マリアお手製のお弁当を食べながら、いかにも筋肉の為の昼飯をタッパーのまま食らう愼平ににやけてやる。

「珍しいよねー真っ先にセクハ……連絡先交換するかと」

 俺の机に自分の机をくっつけて妹特製の弁当を性懲りもなくシェイクしてから食す禎樹も珍しそうに二人を交互に見やる。

「なんかねーちゃんみたいで圧があるっつーか……」

 つまらなさそうに目線を向けずに黙々と飯を食う珍しい反応に俺と禎樹は大爆笑するが、それに対しても何も反応を示してこない辺り、本当に姉と性格が似てるんだろう。確かに玲嘩はやると決めたら熱意が凄まじいので、圧が強く感じることはあるが……変な人を寄せ付けない威圧感を持った姉か。どんな人なのか会ってみたい。

 さっさと飯を食ってどこかに向かって行ったので、禎樹と雑談しつつ迎撃科棟に向かう。

「よっしゃあ! SSRでちゃあ! 無料ガチャで出たよ⁉」

「あっそ」

 ソシャゲはアニメとコラボすることがよくあるらしく、案外スマホゲームもやっている。今日のお昼から無料十連期間が始まっていたようで、通知を見てすぐさま回していた。通知で気づくということはそれほど興味が無かった訳で、物欲センサーが働かず且つ運を浪費したんだろうが……嬉しそうな表情を見る限り、画面の向こう側の女子であれば誰でもよさそうだ。

「強いのか?」

「可愛さは最強!」

「可愛さ『は』ね」

 自慢げに見せてきた画面は、無駄にキラキラした演出の中央に天使みたいなキャラがふわふわしている。五つ輝いているこの星はレア度の指標だろう。時々見せられるので何となくわかってしまうが、自慢相手間違ってるだろ。

「しゅーくんも引いてみてよ。ほら、ここ押すだけだから」

「あ? 押すだけならいいけどよ」

「――きちゃああああ‼」

「っせえな! 耳元でいきなり叫ぶな!」

「うおおおお! これで完凸だよ! 最高だね!」

 いきなり握手を求められ……何なんだコイツ。どうやったらここまでイケメン顔を台無しにできるんだ。俺も見習ってやるべきなのかもしれん。

「何でそんなに冷静でいられるの⁉ 最高レアだよ⁉」

「いや……自分より感情剥き出してる人がいたらこっちはすんとなるだろ……」

 そもそも自分の所有物じゃないってのは置いておき、何かに対して怒っている時とか、自分以上に友達がキレ散らかしていたらちょっと冷静になってくるもんだろう。

「なに、これ俺の運使ったってことになるのか? お前のアカウントだよな」

 そこまで喜ぶ理由がよくわからないので、深く突っ込まない方が良さそうな疑問だと察しがついていてもつい口走ってしまうが――

「――先輩」

「うおっ、びっくりしたっ」

 禎樹が居る手前、演技で驚いておいたが……いきなり目の前に茅穂がやってきた。数日前に砂漠の写真が送られてきたが、もう退治に戻っていたらしい。

「僕先に行ってるね」

「ああ」

 傍から見たら気を利かせてくれたように見えるが、女が現れて不機嫌になっただけだったりする。ここまで来ると何で楓はOKなのかが疑問だ。

「イメチェンですか?」

 悪印象をつける為か堂々と歩きスマホしながら先に行く禎樹を片目に、茅穂は俺の頭を見ながら質問してくる。

「ん? あー……まぁそんなとこだな」

 言われて思い出したが、楓がライブに向けて青髪に金のインナーカラーを入れたので、「しゅうやんとれーちゃんもなんか染めようよ!」

「インナーカラーならまだしも、金とか茶以外に染めるのって、結構ハードル高いぞ?」

「普段見ない髪色なので人の目に付きますからね」

「だからいいじゃん!」

「人目に付きたくねえよ量産型でいいよ俺は」

 といいつつも結局真っ赤に染められたんだった。ライブで染めた髪を目撃したルミーナとマリアは言わなかったとしても、誰からも髪色について指摘されなかったので今自分が赤髪だということを忘れていた。玲嘩もピンクに染められたはずだが、入学にあたって黒に戻したんだろう。俺も帰ったら戻しておこう、目立つし。

「私以外にも弟子を持ったようですね」

「ああ」

 流れで返事しておいたが、その言い方だと俺と玲嘩が裏でつながっていることを見抜いているんだろう。確かに授業中何回か視線を合わせていたので、適当に言いわけ付けて廊下を歩いていた茅穂が気づかなくもない。

 茅穂は俺が二周目をしていることを知っているので、俺と接点がありそうな玲嘩を弟子判定したんだろうが、楓の様な距離感だと友達判定になるのか疑問に思いつつ……

「私よりかわいいですか?」

 至って普通の表情のまま、わけわからんことを聞いてきた。なんだそれ。

「お前の方が可愛いんじゃないか?」

 玲嘩はカッコイイ系なので、カワイイ系とは言い難い。そうなるとカワイイって点で見れば茅穂の方がカワイイが……俺と玲嘩の接点をどう見抜いたのか余計謎になってきた。

「左様ですか」

「おい……?」

 何をどう思ったのか、茅穂は表情一つ変えず諜報科棟の方に向かって行った。

(何だったんだ……?)

 茅穂は俺に害を齎す存在じゃないので、これ以上深追いするつもりはないが、後一年ちょっとで俺は退治を去る。新谷(あらや)家に入りたい茅穂は今も尚探し回っているわけだが、卒業までに見つけられないと今後学校という接点が減り、より正確な情報を貰えるチャンスが減ってくる。このままだと危険だと感じたのか、己の諜報員としての実力をアピールをしてきたと捉えることにする。


 休み時間の触れ合いや午後の授業でも沢山話したからか、友達関係を築けたことにした玲嘩と楓は、いつも通りに話しながら校門で待つ俺と合流する。時間割上の自主練時間は六時までになっているが、その後も続けるのは自己判断で良いので――大抵帰宅後にWアラームが鳴ると面倒なので学校で待機したままの方が楽という意見だ――そこまで人の出入りが多くない。別にここからいきなり友達として話していても、違和感に思う生徒は早々いないだろう。

「どうだ? 久々の学校は」

「疲れました。体力的にも、精神的にも」

「あっははー、れーちゃん孤高キャラにしたもんねー!」

 偵察科は迎撃科程体を動かす授業はないだろうが、運動を再開して一か月は経つ。自主練の時間にランニングをしていたので並走したが、かなりの速度を出していたのに全然息が上がっていなかったし、俺が帰宅可能だと告げなければいつまでも走り続ける勢いだった。

 ライブで銀テープが舞うように木の葉が散っていく中、今はもう十一月というのに薄手の制服を着ている。退治ではあるあるの光景だ。そんな玲嘩は色んな意味が含まれたため息を一つ。

「性格を変えるいい機会ではあるけどな、こういう転機は」

「あのね、あなた方みたいには他人と直ぐ打ち解けられませんよ……」

「そんなに難しい事じゃないけどねー」

「なーぁ?」

 割と俺は受け身な方ではあるが、別に知らない人に話しかけるのが苦手というわけじゃない。言っちゃなんだが、必要が生じてないだけで、既存の友達で事足りているだけ。これを言うとなら私はゼロで結構、みたいなことを言われかねないので、そういうことを言いたいわけじゃないので口には出さないが。

「自分で言うのもなんですが、あの曲でかなり注目されたのに身バレしないんですね」

 玲嘩――Reyの復活一発目の楽曲は、昼休み見たとき再生数がなんと三十万に増えていた。いくら情報を仕入れないようにしても、街中を歩いていると小耳に挟むレベルには話題になっている。退治では話題になっていなかったので、通学路で目撃したんだろう。

「ここ脳みそまで筋肉の連中だから、言っちゃなんだが誰もアイドルとかに興味持ってねえと思うぞ」

「ボクの偽物もバレたことないよー」

「ホントですか⁉ そんなことあり得るんですね……」

 何百万人もフォロワーが居るかえでの偽物ですらバレていなかったのは初耳だが、退治にはアイドルファンはいない。知ってても深追いするほどじゃなければ、禎樹みたいに裏で楽しんでるパターンだろう。或いは学内の美男美女を奉る謎文化があるせいで、つながれる可能性がほぼない学外の美男美女に興味がないんだろう。奇しくも職業柄性格は悪くても体型や容姿に優れた人間はごまんといる。

「井の中の蛙って奴だよな。界隈で一番でも世界は広いからな」

「うわっ、しゅうやんが言葉残そうとしてる! プロデューサーっぽいことしてる!」

「あのなぁ……」

 発言を受けて玲嘩は傲慢だった自分の両頬を叩いて引き締め直している。いいってそんなことしなくても十分に謙虚だから。

「玲嘩ってどこに家借りたんだ?」

 偵察科棟から最寄りの校門で待ち合わせたので、今は住宅街一区と四区の狭間。強制的に住む必要がある住宅の位置次第では帰路が変わるので、九区方面に進む前に聞いておく。

「都心部一区のマンションにしました」

「都心部なのか。よく開いてたな」

 しかもこの時期卒業シーズンでもないので、都心部それも一区に空きがあったのは宝くじレベルの豪運だろう。

「一番遠いとこに住んで自分を追い込むか、一番近いとこに住んで極限まで事務所にいるか悩んだってー」

「それで後者を選んだのか」

「はい。私にはまだ紅葉さんの管理が必要なので」

 まだというか、俺と同じく玲嘩も料理できない族らしいので、一人暮らしを再開したら栄養バランスが徹底された美味しい食生活を失うことになるからだろう。最近の運動量でいかにちゃんとした食事が重要か今一度知れたんだろう、俺も全く同じことを感じている最中だ。

「ならここでお別れだな」

 基本的に事務所滞在なら態々家賃が高い都心部に家を借りなくてもよさそうだが、お金持ちの感覚はわからない。どうせいつか金欠の呪いが猛威を振るってくる身としてはツッコまないでおく。

「学校が再開して練習の時間が減ったからって、夜更かしすんなよ?」

「……」

「あー早速今晩夜更かししようとしてるー」

 その気持ち、滅茶苦茶わかる。でも、それで得られるのは実力というプラス要素じゃなく、寝不足や蓄積疲労による心身の不調っていうマイナス要素なんだよな。俺と違ってそれでも練習しないと死ぬってわけじゃないから、しっかりとペース配分して着実に成長していってほしい。

「俺は言ったからな? そんなに急いでも良いことないぞー」

「紅葉さんにリスケをお願いしておきます」

「じゃーねー!」

 二人はこの後事務所か映像を通してかで会うだろうが、三人で手を振り合って別々の方向に進みだした。

「ちなみにれーちゃんの家、連絡橋真ん前のマンションだよ」

「え、この時期あんなとこ開いてたのかよ」

 この島に上陸した人が真っ先に見るマンション。五十%減額ゾーンのくせに、連絡橋が近いせいで主に本土に用事がある人が挙って住みたがる場所だ。辺り一帯減額幅を狭めるべきだと懸念されたこともある。

「EoDが近くて防音とか耐震にもかなり力入れてる場所だったからさー、事務所がボクのレッスン部屋用に前から取ってるんだよね」

「あー、それでそこに住めたのか」

 楓の家が作詞作曲に特化していてあまりにもダンスレッスンに不向きな点や、パソコンと服ぐらいしか私物を持たない玲嘩が大きな部屋を不要とする点、そもそもそんな好立地が空いていた謎など、いろんな疑問点が正解へと繋がっていく。ツアー練習で使わなかったので、規模的に一人か二人が限度なんだろうが、今後玲嘩の為に行くこともありそうなので石塚にバレないよう複数の来訪ルートを考えておこう。


 玲嘩は楓と同じく通信教育プランの加入者なので、翌日からいきなり学校に姿はなく、それにつられて楓の不在頻度も上がり……今週は学生らしく男三人でふざけて遊ぶ日々が続く。愼平なんか調子に乗って学校に出前頼みやがった。校門まで受け取りに行くのであれば教師も特に問題ないとのこと。石塚もクラスが違えば寝落ち常連なので、休み時間に突撃してくることもない。

「……なんだぁ? その雑草だらけの弁当は」

「雑草言うな! 殺すぞ!」

「殺意たけえよ」

 そりゃ弁当を取り出したかと思えば中身が雑草だとツッコまれる。念のためニラっぽい見た目を取りそろえたものの、明らかに取り越し苦労だった。

「どうしちまったんだよ、お前……」

「それに関しては僕も同じ意見だね」

「節約してるだけだ。命に別状はないから心配すんな」

 現段階の金銭状況だとちゃんとした食事が可能とはいえ、そこに甘えてはまた雑草食に戻った時に苦労する。栄養バランスを考えられた料理を入れつつ、半分ぐらいは雑草を嗜む。

「そうは言ってもねぇ……」

「なあ?」

 心配してくれるのは有難いが、それで何か食べ物を恵まれたところで返すものが無い。カリカリにやせ細るまでは無視してほしい限りだ。

「いやーでも流石に姉の料理には敵わんだろ。だって草だろうが俺好みの味付けにすんだぞ? しかもこれでも栄養バランスは最高だし、何にも言って無いのにそん時食いたい料理や味付けを確実に取り入れてるし。エクソシストかよって感じじゃないか?」

 話の方向性を変えるために無理やり料理を褒めまくる。雑草に限った話じゃないが、嘘偽りない本音ではあるので言葉の重みはあるはずだ。

「んだぁ? 愛の告白か?」

「しゅーくんの姉さんって悪魔なの? まあ、胃袋掴む点では?」

 うーん、上手くいかないもんだ。気は逸らせたが、二人が変な方向に散ってしまった。でも――ツッコミどころを見つけたぞ。

「ぽぽぽぽぽぽぽポテチを箸⁉ 箸で⁉」

 かくいう禎樹も潔癖全開で、スマホを弄りながら箸でポテチを食べている。

「学校でも潔癖出すな、汚されると嫌なグッズじゃないだろ」

「もう癖だよね」

 苦笑いしつつも箸で食べるのを止めない。昔禎樹ん家行って妹が可笑し持ってきたとき、カラトリーが充実していて気悪かったの思い出した。

「コイツ普段ドーナツは箸、ピザもフォークらしいぞ。なんか言ってやれ」

「はーキモ」

「直球過ぎない⁉」

 愼平は同調煽りで右に出る者はいない。禎樹のメンタルにグッサリと差し込んだが、タフさが半端じゃなく……アピールするかの如く箸でポテチを食べている。

「そういえばしゅうくんが好きそうなアニメが今晩から始まるんだ! エターナルソードって言ってある日突然主人公の部屋に聖剣と自ら名乗る魂が宿った神剣が置かれていたことから始まる物語なんだけどそのどこ辺りがしゅうくんにおすすめかっていうと――」

 雑草食の前で出前の牛丼を食らう奴が居る中、禎樹が俺の席の前を借りてこっち向きに座り、おすすめのアニメを布教してくる。アニメ語り特有の超絶早口で呼吸する間も無く話続けてくる。興味が湧きにくい情報が一気に押し寄せてくるせいで、今まで気にならなかった雑草ならではの苦味に意識が向いてしまう。

「――25時から始まるから見てね!」

「お前頭大丈夫か?」

「え?」

「『え?』って、25時ってなんだよ、存在しないだろ」

 話を聞き流していたとは言えないので、どこかの情報を掻い摘んでやろうとしていたら……最後の最後で良いツッコミどころを残してくれたもんだ。

「1時っていう方が珍しいよ? ね?」

「ん? そうなのか?」

「いや、俺に聞くなよ」

 質問された愼平は牛丼食う手を止めて俺に質問を横流しにしてくるが、それ俺が聞きたいんだよ。牛丼が美味すぎて全然会話聞いていなかったなコイツ。

 愼平が口元にご飯粒を付けているが、男同士なら教えてやるどころか面白がって教えてやらないもんで……唇を噛んで笑いをこらえているが、鼻と口が伸び切っている限界状態で、

「ほらほら、これなんだけど……」

 禎樹は公式HPを表示したスマホ画面を見せてくるが、主人公らしき男性が剣を持っていて、隣にいる女も弓を持っている。戦闘系っぽいが、戦闘系なら見てくれるだろうと思われてる感じもしてなんか癪だな。

「この声……かえでだよな?」

 HPに掲載されている紹介動画も見せられるが、ダガーで攻撃している女の声が気になりすぎる。切り抜かれた発言的には結構明るい性格っぽいんで、解釈一致感が聞いていて気持ちがいい。

 愼平に付着したご飯粒から意識が逸れたのに思い出してぷっと吹き出しかけてしまう中、

「え! しゅうくん声優さんの名前も分かるの⁉」

「白々しいな、俺の着信音コイツの歌って知ってるだろ」

「声聞いて判別できるのは才能だよ」

 才能も何も、友達の声分からんでどうすんだよ。声作られてたら無理だが、ほぼかえでの声で演じてたらそりゃ気づける。世界中探せば似た声の人ぐらい見つかるだろうが、ほぼ毎日聞く人の声を間違うはずがない。

「僕もナノマスだけど、変幻自在だから案外難しいよ?」

「ナノマスぅ……?」

「ナノ単位までマスターしてるってことだよ、ミリしらの対義語みてーな感じだ」

「は……?」

 愼平がどうでも良さそうに教えてくれるが、まずそのミリしらも意味不明。わからん用語をわからん用語で例えるんじゃない。

「でもかえでをアイツ呼ばわりするのは頂けないかな。全かえでファンを敵に回したよその発言」

「あーいるいる、こういう奴いるよな」

 これには愼平も俺側の意見なのか、禎樹の細い腕にごつい肘で突いている。

「かえではもうそのレベルにいないとしても、そういうやつが居るから新しい人が近寄れないんだよな」

 つい最近似たような話で萎んでいった可能性もある業界人を復活させているので、解像度が高く映ってしまう。

「なんか僕悪者になってる?」

「なってるなってる」

 そう言いつつ食べ終わった空箱をにやけながら俺に押し付けてくるな。残香で草食えってんのか、ゴミ捨て頼んだってんのか、どっちにしろ最低すぎる。てか口元のご飯粒どこ行った。

「そういうつもりで言ったんじゃないんだけどな……」

「そういうとこなんだよなー。よっ、厄介オタク君」

「お前も大概だな、強い方に味方付くなよ便乗中立煽り立て野郎が」

 耀傷の影響で食事マナーが身についてしまった。友達間なら口の中に食べ物がありながらも喋るのが日常ってもんだが、空っぽになってからじゃないと喋れない潜在意識が根付いた俺は、聞き取りやすい発音でSNSの呟きみたいな愼平に空箱を押し返す。

「流石に寝てる。気が向いたら見るわ」

 かえでがいるなら見てやってもいいが、転移者騒動が無ければ十二時ぐらいに寝ている身としては、リアルタイムでの視聴は身を削ること前提。かといってうちのテレビは安物なので録画機能はないし、動画サイトや配信サブスクには何も登録してないので、追ってスマホで見たりすることもできない。今回はパスだな。

「あーもーhoっ死」

「『ほっし』is何⁉」

 何だよさっきから専門用語ばかり呟きやがって。わけわからん=外国語っぽいという流れで一部英語が出てしまった。

「推しがholy過ぎて昇天する様だろ」

「お前察し良すぎだろ」

 アニメのPV見てキュンキュンしているよしPの発言を的確に正解へと導ける愼平の才能に驚かされ、

「この曲OPなんだけど何がすごいって曲中の台詞パートで『くぁwせdrftgyふじこlp……んー、あーもーわかんない!』って言っている部分実は数式を言っているんだけどスロー再生して実際に計算してみたら曲の長さと同じ値になる仕掛けがあるんだよね主人公勉強の成績ポンコツだけどこういうところ計算されてるのギャップがあって――」

 数式がどうの言ってる禎樹の喋り自体が早すぎてよくわからんが……

「何で今のシーン、攻撃しないんだ? 隙だらけだろ」

「だよな、わかるわそれ」

 俺と同じで全くアニメ趣味の無い愼平は全然攻撃しない主人公を指差して笑っている。俺も初めて見たときさっさと攻撃しろと何回思ったことか。

「こういう変身シーンは待つのが暗黙の了解なんだよ」

「勝負の世界はそう甘くねえぞ」

「これアニメだから。そういう変身シーンも楽しむの」

「そうか」

 実際の戦闘は見世物じゃなく、生死に関わる。目的が違えばこうも変に映るんだな。

「でもさ、SNSやってたらこういうワード目に付かない?」

「ついたとしてもそん時に検索する程興味そそられねーな。ま、俺SNSやってねえけど」

「え⁉ お前SNSやってねぇの⁉ 一番やってそうなのに⁉」

 ここ最近で一番驚いたかもしれない。何でこんな人の揚げ足取りが趣味みたいな奴がSNSやってないんだ。

「厳密には見る専門だな。喋ったら炎上しそうだからやめとけって姉がな」

「まぁ……確かに……」

 そう言われたら容易く想像できてしまう。他人の意見にボロカス言いまくっていてある種有名人になっていそうだ。

「逆にお前らやってんの?」

「僕は一応やってるよー」

 そうして見せた画面には、複数アカウントが登録されている。その中の二次元専用アカってところだろうか、フォロワーが五千人弱いるらしい。多いのか少ないのか全くわからない。

「ん……?」

 桁が可笑しくて二人の顔がスマホ画面に近づいていく。

「しゅうっち何で数十万もいるんだ? 自撮りでも呟いてんの?」

「一回も呟いたことねーよ」

「じゃあなんでそんなにいんだよ! 買収か⁉ ――それで金欠かッ⁉」

「ちげーよ」

 消し方が分からなくてあるだけで、見ていなければ書いてもいない。逆に今見てこんなにもフォローされていることに衝撃を受けたぐらい。多分かえで絡みの関係者だとバレたんだろう。それぐらいしか原因考えられない。

「SNSってこれがバズるの⁉ ってのよくあるからねー」

「しれっとフォローするな。意味ねーから。消し方教えてくれ」

 さっき見た画面と同じ名前のアカウントからフォローされたのでホームに飛んでみると……まぁ二次元一色なこと。万を超える呟き数を誇っていて、この業界では結構名を馳せていそうだ。

「それはそうと、あの同居人達とはどういう関係性なんだ?」

 股の間に両手をついてグイッと身を乗り出してきた愼平は、「えもう二次元の話おしまい⁉」と嘆く禎樹を無視して話題を急変させる。

 胸筋と上腕が物凄くバキバキに強調されているが、それ男が取る仕草か?

 マッチョと美女の所作が勝手に脳内で結びつく悪しき脳みそはそっちのけで、

「姉と妹って言わなかったか?」

 仮にもし平日の昼間にサボった時マリアとご対面したとしても、高2の俺の姉設定なのでかなり若く見えても社会人と捉えることも出来るはず。そこに疑問を抱いているというよりかは、もっと他の何かに疑問を持っていそうだが……

「それ嘘だろ? 顔つきとか所作とか、同じ家族で育ってる感じがしねーぞ?」

「どこ見てんだよ気色わりぃな……」

 ルミーナとマリア、またはルミーナ通じて付属中の連中に手を出そうとしてるのか知らないが、そこまで見抜いてくるのは流石に引く。気持ち悪すぎてなぜバレたかと疑問に思うよりも悪寒が先行して芯食った反応にならなかったのは良かった。

「それに兄妹仲良くしすぎじゃねえか?」

「それは僕が可笑しくないって保証するよ?」

「うっわ流石に降参だ」

 最高級にあり得ないブラコンが実在することは愼平も知っているし見たこともあるので、何故か禎樹に救われる形にはなったがそれ以上深堀されなさそうで助かった。

「まー腹違いとかもあるか。パーティーとか合コンやる時あったら俺も誘ってくれよ?」

「何が目的なんだよ」

「まあまあ」

 愼平は男なのでルミーナのような地球人では現実味が無ければ理想的すぎる魅惑の体型を求めたり、マリアのようなこれから筋肉の盛り代がある骨骨体型を求める可能性もある。しかも俺から手軽に接点が作れるという好立地。犯罪系や直接的な被害を与えはしないが、どちらも狙われる可能性があるので要注意が必要だな。

「友達の兄妹狙うのはちょっとねー……」

「いいだろ別に」

「俺が気にするだろうよ」

「知らねえよ可愛いのが悪いだろ」

 コイツの目にはもう誰でも可愛く映ってしまうんだろう。二人に迷惑がかからないためにも早く人生のパートナーを見つけ出していただきたい。

 〔その人相変わらず平常運転ね〕

 〔その思考で居てくれて助かるわ〕

 念話が繋がっている影響で今の会話も聞くことができた訳で、ルミーナからあまり気にして無さそうな返事が来た。拉致られろうが魔法で自宅に瞬間移動できる余裕からだろうか、魔法が使えるとこうも余裕が生まれるんだな。

 午後の授業は珍しく座学だったので、

『通信教育の午後授業ってどうしてるんだ?』

『午後授業って専門分野だからさ、一般校として退治に通うなら必修じゃないんだよね~』

『受けなければそちらの業界には就職できませんが。これから数学の授業を見る予定です』

 先生の目を盗みながら楓と玲嘩にチャットを送ってみたが、一般校で卒業する場合の午後授業は一般科目を受ければいいってことか。なんかこの方向性を発展させると退治本来の目的を失っていきそうなので、この制度の加入上限とか設けた方がよさそうだが、流石にもうあるか俺でも思いつくぐらいだし。

 一般科目じゃないのでまだ興味が湧くが、一般科目と違って雑談とか別のことしてると必ずお叱りが入るので、真面目に聞いていると……勉強が嫌いな人間は、直面したら本能的に避けようとするんだろうか、眠気が一気に出てきた。

 机に頭をぶつけそうでぶつけないかっくん状態を繰り返していると……

「んだぁ……?」

 今、ガラス割れたよな。眠い目を擦って周りを見るが、先生も含めて全員が窓の方向に視線を向けている。そっちに視線を向けた瞬間――

 〔抜け出せるか?〕

 〔無理ね。付属中はシェルター内で点呼するのよ〕

 Wアラームという最高の目覚ましが発生した。

「こんな真昼間に転移してくんなよ……」

 流石は迎撃科のAクラス、Wアラームが鳴った瞬間俺と禎樹を残して全員部屋から姿を消している。魔法がこっちに飛んできたのか、ガラスが割れただけでなく隣の部屋が崩壊しているが、負傷者が見当たらないのは流石職業訓練校ってところか。

 迎撃科には異世界人の殺人権を与えられてはいないが、島民を守るために追い払わなければならない。Wアラーム中にシェルター外にいるのは違法だが、迎撃科なら追い払っていたと主張することができ、制度の穴を付いてお咎め無しになることも多々ある。これに気付く人はいても、悪用・乱用する人はいないだろう。今そこにいる禎樹ぐらいしか。

 禎樹は俺が何らかの理由でWアラーム中にシェルター外に居ても問題ない立場であることを知っている。場所を同じくして転移現象を遭遇してしまえば、目的地までのルートがほぼ同じになってしまう以上、異世界人を見たいはずの禎樹と別行動をするのは得策じゃない。今回は禎樹と共に戦地へ赴くことにする。

「行くぞ」

 M1911を投げ渡すと、キャッチした禎樹は無言で首肯した。あくまで迎撃科として活動するからか、その表情には並々ならぬ闘気がある。いかにも株が上がりそうなイケメン顔だ。

 過去に拳銃も見られてしまっているので有効打になる武器として渡したが、弾丸はプラスチック弾と押し通している。実際は実弾が入っているので、乱射する機会や、転移者が魔法フィルター無しで諸に食らうことが訪れないことを祈る限りだ。お陰で気楽に受け取っているんだろうが、アニメかゲームの影響か拳銃を軽く構えてから腰に仕舞う所作は素人の物とは思えない。

 指示を受けないように生徒や教師の導線になりそうなルートを避けながらいち早く退治の敷地外に出る。ここからは安全……ともいかない。屋外活動科は各担当のシェルターに急行して島民の支援を開始し、主に研究科や諜報科辺りの屋内活動科は島に散らばるカメラの映像を閲覧して情報収集している可能性がある。俺一人なら人目につかない速度・高さで移動したり、光学迷彩のお陰で監視カメラの警戒も不要だが、今回禎樹と行動している。迎撃科Aランクは幸い担当という括りがなく人手が必要な場所を転々とするので、シェルターの位置から大きく離れなければカメラを気にする必要もない。後々変なルート選択したなとツッコまれるぐらいだろう。

「今回は海にドボンみたいだよ」

 EoDに向かって走りつつスマホを弄る禎樹がこっちに画面を向けてくる。前にも聞いたが人工島管理公社のホームページに転移者速報の欄があり、もう今回の転移座標と転移者の画像が掲載されている。仕事早いな。

「フレームアーマーより俺達の方が先に発見するかもな」

 フレームアーマーが海中でも人間依存の呼吸概念無しで高速移動可能なのかは知らないが、姿が見えなくなった転移者を探すのであれば既に始末済みの可能性は低い。特に相手が魔法使いなら溺死しないために何らかの策を講じるはずだ。

 いくら迎撃科でもEoD内に立ち入ってしまえば追い払うという名目も利きづらくなってくるので、極力隠密に行動しつつ人工島外周を攻めていると……

「お、居そうだね」

「良かったな第一発見者になれて」

 第一発見者でなければ会えずじまいになるので、敢えてそう比喩したが……仮想花壇の横に突如水溜りが出来ている。雨の日であれば水捌けの問題でこうなっていても可笑しくはないが、晴れの日で転移者水没案件となれば、この場所に瞬間移動して溺死を免れた線が濃厚。実際に大きな水溜りから足跡と服や体から滴り落ちた水滴らしき濡れ跡が道しるべとなって続いている。

 次の角に差し掛かったところで濡れ跡は途絶えていたが、その先に視線を向けると直ぐそばに居た。今回の転移者だ。

「こんにちは!」

(は……?)

 コイツ、今、ルス語で喋らなかったか?

「今異世界語? で『こんにちは』って言ってみたんだけど、伝わったかな」

 多分今まで発見されてきた異世界人がよく使っていた言葉を分析して真似たんだろうが……そこまで本場さながらの発音ができるなら、時期に言語が完全に解析されそうだ。

「……さあな、伝わってないんじゃないか? ぶつくさいいながらこっちに近づいてきてるぞ」

 禎樹さん、転移者ちゃんが「挨拶よりも先にこの状況について説明しなさいよ! あなたが魔法陣伏せてたのね⁉ よくそんな笑顔に話せるわね……ッ!」って怒り心頭ですよ?

「魔法使いかな?」

 如何にもな恰好をしているせいで、禎樹はこの危機的状況を全く理解していないが、ここで俺がルス語で転移者に話を付ける訳にもいかない。これはもう戦闘不可避だろう。「それじゃ――」

「――やりますか」

 俺がDEを構えるとシンメトリーのような構図で禎樹もM1911を構え……撃つ。禎樹は単純に下手くそなのか、異世界人を傷つけたくないのか知らないが、一発も当たっていない。その分俺が三発撃っているが、いずれも相手に当たっていない。ただ何かが割れているような音はしたので、そのうち銃弾を弾く魔障壁も尽きるだろう。

「僕これ強いんじゃない⁉」

「いやいや、お前が強いんじゃねえよ」

 武器が強いし、アイツが弱いし、そもそもお前の弾は当たってない。とんだ勘違いをしているが、表情から滲み出る緊張感を見るに、気持ちを紛らわすために強がっているようにも見える。所詮一般人はこの拳銃でもあの魔法でも、ちょっと当たれば致命傷。いくら異世界人を見たいと言っても、相手はこっちの命をいつでも奪うことができる。感情に身を任せるようなアホたれじゃなく、適切な距離感を保っていたのは見直したな。まあ、違法行為であることには変わりないが。

 転移者は「ああもう煩わしいわね!」と言っている。そこまで優れた魔法使いじゃないのか、魔障壁を張ることで精一杯。リロードのタイミングに攻めてくるほどの余裕は無さそうだが、地球でかなりの魔力を扱える才能はありそうだ。

「そろそろトドメのお時間だね。しゅうくん、ハッピードリームショットの準備はいい?」

「……んだそれ。ダサすぎないか?」

 多分決定打を撃ちたいんだろうが、あまりにもネーミングセンスが終わりすぎてて撃つ気にならん。というか魔法とかじゃなくただの発砲なので技名とか要らない。

「別にいいでしょ⁉」

「それにしてもダサすぎだろ」

 多分アニメとかでよくある必殺技の再現をしたいんだろうが、そんな余裕あったらとっと始末してほしい。そういう慢心は学生特権だが、付き合わされる身にもなってみろ。

「ロマンあるでしょ? ≪完全把握(パーフェクトビジョン)≫とかさ、終焉に導きし漆黒の弾丸とかどう? あ、エキストラバージンオリーブオイルって火力高そうだよね」

「……それ俺も付き合わないといけないのか?」

「えぇ⁉」

 もういい。禎樹は無視して短剣を抜刀し、転移者に肉薄する。そうこうしているうちに回復魔法に専念し出したので、今発砲すると出血させかねない。実弾だったとバレない為にも武器を変える。

「その剣は何っていうの?」

「『剣』、だけど」

「なら銃は?」

「それがアサルトライフルなら『AR』、スナイパーライフルなら『SR』」

「……男のロマンがないなぁ……」

 戦闘に何を求めているのか分からん禎樹は放っておき、剣での交戦を試みる。

 確かこういう時は待った方が良いとかさっき話していたが、そんなの実践ではありえない行為。いきなり短剣で迫られた転移者は驚いた顔をして腕を×印に構えるが、斬撃に対してその防御態勢は選択ミスだ。やはり魔法使いと剣士とでは戦闘知識も異なるんだろう。

 禎樹が居る手前両腕を切り落とすわけにはいかないので、痛みに苦しんで他の動作がままならない程度に抑えたつもりだが、大量出血は避けられない。

「異世界人を傷つけるなとか言わないんだな」

「これでも僕一応対異世界人関係者だからね。そういうところは割り切っているよ」

 合理的に異世界人を見ることができる対価として時が来たら異世界人を惨殺する。禎樹がどういう考え方で気を保てているのか知らないが、帆由のような厄介者ではなさそうで一安心だ。

「何で今攻撃するのよ! 痛いじゃない!」

「……」

「なんか言ってるね」

 ルス語が分かる立場としては返答したいが……まさか、進化でもしようとしてたんじゃないだろうな。何度も言うが隙だらけの奴を攻撃しない愚か者はいない。

「空気読めないわね……ッ!」

「おこちゃまごっこしてくれるのは幼稚園までだぞー」

「え?」

「さあ?」

 斬撃を与えるために近づいたタイミングで転移者にだけ聞こえる小声で話す手もあるが、それで転移者がこっちを見る目を変えてきたら厄介なので……

「少しぐらい待ってくれてもいいじゃん! そしたら少しは強くなるんだから!」

 どんな強化魔法を使おうとしているのか分からないが、尚更待つのがバカバカしい。相手に強くなるための時間を与えてやるのはただのドM行為だ。余計な事聞いたせいで調子が狂う。

 腕の傷が治りつつあるので、立て続けに足や脇にも切り傷を与え、魔法どころか立っていられるのも厳しくなってきた頃……

「あ……」

 存在に気付いたので距離を取った直後、転移者の頭上に時速千キロぐらいで人が落下攻撃を仕掛けてきた。フレームアーマーだ。激しい衝突と共に仮想の砂塵も吹き荒れたこの光景は初めて見たのか、禎樹は唖然としているが、EoD内だと日常茶飯事。

「ここからは迎撃科の活動外だ。言い訳も利かん。さっさと帰るぞ」

 迎撃科はあくまで異世界人が居れば追い払う役目。異世界人を殺すのは迎撃科じゃなく、WB社だ。

「あんな感じに始末してるんだね。一瞬の出来事過ぎてよくわからなかったよ」

 それもそのはず、あの異世界人に対する決定打と共に発生する仮想砂塵が消えるのは異世界人がこの世から姿を消した後。WB社内に転送しているのか、その場で焼却処分しているのか、仮想空間下に埋葬されているのかは、あのバイザー越しにしか透視できない悪環境なので知り得ない。実際にあの砂塵に入って行った経験はある。あくまで仮想なので目が痛くなることはなかったが、五センチ内の光景しか見ることができなかったのでどうしようもない。

「俺は都心部一区を見てくる。二区は任せた」

 貸していた拳銃を返してもらい、禎樹とはここで別れる。まあ、俺にはやることがあるんですんなり一区に向かわないが。

 禎樹とEoDの端まで駆け戻り、分岐して視界外に出た直後切り返して転移者が殺害された位置に戻る。今更向かったところで転移者を返還させることは不可能だろうが、戻らない事には誤解を招く可能性がある。

「新人研修? にしては腰抜ね」

 それもそのはず、Wアラームが鳴っていて、俺が人工島内に居れば、監視役である結奈は俺を探していたわけで……今回何も隠れもせず、人間離れした行動もしなかったので、Wアラームが鳴ってから三十秒もしないうちに上空から監視されていた。でも今回はいつもと違って知らない男が一人同行していたからか、話しかけに来ることはなく、俺が全然攻撃しないから変な解釈もされている。一応戻ってきといて正解だったな。

「早く決定打を撃ちなさいよ」

「まだ退治の生徒だ。大目に見てやってくれ」

 退治生徒とWB社員では決定的な違いがある。それは殺人経験の有無。そんな悪習が身についてない奴が感情もなく殺害できるはずがない。……まぁ、禎樹の場合はどうせ異世界人の姿を余す所なく目に焼きつけるために致命傷に留めていたような気がするが、経験の浅い学生に殺人を急かすのも良くない。

「WB社希望なの? 拳銃も扱えないようじゃ厳しいわよ」

 あの一発も当たっていない乱射を見ていたのか、隣に着陸してきた結奈は武装を半分解除している。見れば砂塵はもう消えていて、クレーターの中央からフレームアーマーが飛び立っている。よくよく見れば紗耶だな。返り血で汚れている。惨い奴だ。

「退治は拳銃の演習がガス銃なんだよ。島民の安全を担ってはいるが、異世界人の命は握ってないから、対異世界人対処条約は適応されず、通常通り日本の法律が適応されるとかで」

「ふぅん、色々面倒事が多いわけね」

 自分が結構特殊な立ち位置にいるせいで法律絡みは全く分からない。とりあえず退治の生徒は銃刀法違反が適応される。

 クレーターが電子的な幾何学模様の発生と共に自然復旧していく中……

「ねえ、アンタの学校ってもうすぐ学祭やるんでしょ?」

「ああ、どうせ中止になるだろうけどな」

 耀傷を抜け出して急行したのか、制服姿に戻った結奈は、

「その時どうするのかなーって」

「どうするも何も、クラスの出し物に参加してるんじゃないか? 初めてだからよくわからん」

 地球に居るか問題は置いておき、まだ学園祭の計画は何一つ始まっていない。あまりにタイムリーで驚いたが、それこそ明日の朝文化祭の説明がなされる予定となっている。

「そう……ならよかったわ。もしどっかに行ってれば、学祭中に転移者が来たら大惨事になるだろうけど、少しは戦力の足しになるかもなーって。別に一緒に回りたい訳じゃないんだからね⁉」

「ん……ああ」

 なんか過去に似たような展開があったような気がしなくもないが、どうせ転移現象が起きる。異世界人を殺す羽目にはなるが、結奈もそれ前提で動いてくれるのは助かるな。変な輩に絡まれることもないだろう。

「そもそも学園祭って主催側は自由に動ける暇があるのか?」

 学園祭の経験がないので勝手な印象だが、基本的に生徒の保護者や他校の友達、先生陣が地元の人たちをもてなすお遊びイベントだと認識している。耀傷の修学旅行後にあった発表会のように、生徒は自分たちで選んだ催しをレクリエーション形式で実施する物だろう。

「出し物にもよるんじゃない? 演技系なら公演が終わったら自由だと思うけど、飲食系はシフト制でほぼ見て回る暇がないと思うわ」

「へぇ、詳しいんだな」

「言っておくけど、学祭やらない学校の方が珍しいわよ?」

 それもそうか。退治は孤島で私利私欲の上陸が不可能なので、学校が保護者や周辺住民に向けてちゃんとやっていますよイベントが何一つ行われなかった。元より、転移現象の対処に追われてただでさえ三年卒業の授業組みが困難なので、そんなことしている暇がない。そもそも常人には単位が足りているのにも関わらず、学生に残業や夜間が発生する意味が分からないだろう。

「退治って体育祭もないし学校感がないよね」

「それだけキツい業界目指してるってことだろ」

 結局は皆学生なので、今回の学園祭開催を受けて頗る舞い上がっている。そういうことが無いことを理解した上で進学しているとはいえ、開催するとなれば喜ぶのは当然だ。

「それじゃまた。お互い学校に戻らないとだしな」

「これだから昼間は面倒なのよね……」

「それなー」

 転移者が始末されたのでWアラームが鳴り止み、徐々に島民もシェルターから解放されつつある。お互いもうそろそろいるべき場所に戻らないと怪しまれてしまう。学園祭の話はここまでにして名目作りに一応都心部一区を経由してから退治に戻ることにする。


 掃除及び自主練時間を終えた放課後、全校集会があるとのことで六時だというのに全生徒の自由が奪われ、一番広く講堂としても使われる体育館に呼び出されてしまう。

「Wアラームが発令中に、うちの生徒がシェルター外で私的行為を取っていたとの目撃情報がWB社から入っている」

 事の重大さを知らしめるためか、校長自らマイクを持ち、毅然とした態度でざわつく全校生徒を見渡している。

「これは法律違反に該当する。よって、相応の罰を与える」

 校長が喋るタイミングはきちんと静粛になるよくできた生徒は、一層増しで騒がしくなる。正気か疑う悲鳴ではなく、犯人捜しをするようなねちっこい声で。

「犯人の特定は容易い。自覚ある者は自主的に申し出る事」

 この場で申し出るとか実質公開処刑みたいなもんだが、奇しくも犯人は俺なんでそんなこと痛くも痒くもない。寧ろ普通に違法行為をしたと認識する生徒からの株が下がって超ラッキーだ。まさか制服姿で人並みに急行したことが功を奏したとはな。

 校長は言うだけ言って後は他の教師に任せて帰る気だったのか、出入り口の方に向かっているが、

「はい、俺ですが」

 その足を止めるかの如く、手を上げてひとりでに立ち上がる。

「僕もです」

 どうせ俺は何も咎められない。拳銃も貸し与えてしまっているので、禎樹の分の罪も被ってやるつもりでいたが……手を上げやがった。そこまで頭が回らなかった奴とは思えないので、多分こうすることで自身の株が下がると思ったんだろう。考えていることは一緒だな。

 全校生徒が座っている中俺と禎樹だけが立ち上がったので、全員の視線が向き、ざわつきが一層増す。

「お前らか」

 振り返った校長は近くにいる先生に耳打ちし、手招きしてきたのでそっちに向かう。

「新谷、お前はいい。加戸(かど)だけ来い」

「えっ?」

「じゃあな、違法者」

「えぇっ⁉」

 すまん、こうなった以上お前を庇うことはできない。相応の罰を受けてくれ。幸い発砲した弾丸は一発も命中しなかったので、あれが実銃だと断定はされないだろう。まあ、お陰さんで俺だけ連行されなかった事実に「新谷君ってやっぱりすごいわ!」「外に出ても怒られないなんてやっぱり天才!」なんて変な盛り上がりを見せている。あーもー最悪だ。

 〔運が良いのか悪いのか分からないわね〕

 〔助けてくれ。校長ももうちょい気を利かせろよな〕

 付属中で暇しているルミーナは転移現象時から俺の様子を伺っていたのか、念話でケラケラ笑い声が伝わってくる。楽しそうで何よりだ。

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