最終話 本当の仲間に
ユキトとクララはギルド本部に事情を説明し、バートの身柄を引き渡した。
バートが装備していた、他人から奪い取った獲得経験値を吸収させるためのガルウィングブレストプレートは、クララが灰に変えてしまった。
しかし、公認ユニオンの冒険者が、ポンサウス武器店の中を捜索したところ、店の奥にあるバートの錬金術のアトリエの中で、スペアのガルウィングブレストプレートが発見された。
同時に発見され押収された、バートの錬金術の研究ノートの中に、ガルウィングブレストプレートの使い方に関する記述が見つかった。
それによると、ガルウィングブレストプレートは作るだけでは効果を発揮せず、中央に嵌め込まれた、奇妙な印が刻まれた重力属性の魔晶石
に、血液を一滴以上触れさせると、その瞬間からガルウィングシリーズの武器で殺めた生物から湧出した獲得経験値を、ガルウィングブレストプレートが吸収するようになる。更に最初に触れさせた血液の持ち主に限り、ガルウィングブレストプレートを装備した時に、吸収させた分の経験値が上乗せされるように設計されていた。
発見された予備のガルウィングブレストプレートと、ポンサウス武器店に商品として陳列されていたガルウィングシリーズの武器と、クララが提供した星の雫を使い、公認ユニオンによる検証実験が行われ、ユキトの証言が正しいことが証明された。
レベルフルカンストしたはずのユキトが、再び獲得経験値を得られるように回復したことも、ユキトの証言の信憑性を高めた。
ガルウィングシリーズの使用を止め、他の武器を使用するようになっても、すぐには獲得経験値スティール呪いは解けず、徐々に回復していく。
ユキトや他のガルウィングシリーズ使用者たちが、獲得経験値スティール呪いから、徐々に回復していく様を、公認ユニオンの冒険者が星の雫を使用した状態で、暫くの間冒険に同行することにより、確認された。
これらユキトの証言、ポンサウス武器店より押収された数々の物的証拠、検証実験結果により、ギルド本部はバートに罪があると断定した。
他人の努力を踏みにじる効果を持つガルウィングシリーズのレシピは、ギルド本部が封印することを決定した。
ユキトとクララは、ギルド本部とガルウィングシリーズの愛好者だった冒険者たちから感謝され、そしてユキトを《スタートダッシュ》と揶揄する者はいなくなった。
【へゼズタ】との下剋上に勝利した後、まだ済ませていなかった引っ越しをしたユキトとクララは、大きめの犬小屋のようなオンボロユニオンホームとはおさらばしていた。
【へゼズタ】から奪い取る形となった、南区・第七居住区にある【クララ・クルル】の新ユニオンホームは、【厚切り肉のコートレッタ】のユニオンホームと同様、集合住宅ではあったが、ユニオンランクの差により、当然グレードは上だった。
間取りは、【厚切り肉のコートレッタ】の大部屋と違い、十人が足を伸ばして寝たとしても、足が隣の誰かの上に乗ることはない広さの大部屋、更に個室が二つも付いていた。
ユキトとクララは今日もダンジョンに向かう。
ユキトは自分の個室で準備を整えていく。
獲得経験値を奪う力を失ったとはいえ、さすがにガルウィングソードを使う気にはなれなかった。
今のユキトの相棒は、武器屋で購入してきた一対のアイアンソード。
ブロンズプレートには、バートとの戦いの最中に穴が開いてしまった。それにユキトはバトルレベルが21にまで上がった。この二つの理由により、ユキトは防具屋でアイアンプレートを購入していた。
一連の事件解決に尽力したことを称えられ、【クララ・クルル】はギルド本部から、褒賞を与えられることになった。
ユニオンポイントか金銭のどちらか好きな方を選択することになった【クララ・クルル】は、ユキトの装備を新調するため、金銭を選択したのだった。
ダンジョンに向かう準備を整え、ユキトは自室を後にした。
向かいの個室のドアが開き、ちょうどクララも大部屋に出てきた。
目が合うと、クララが笑みを湛える。
「では行きましょうか」
クララが玄関に向かおうとする。
「なあ」
「はい?」
ユキトの声に振り返り、立ち止まるクララ。
「前から思ってたんだけど。敬語やめないか?」
「え?」
突然の申し出にクララが目を見張る。
「どうしてですか?」
「その、おれはお前と本当の仲間になりたいんだ。上辺だけの仲間じゃなくてさ。だから敬語をやめて欲しい」
クララが顔の前で、両手をぱたぱたさせて慌てふためく。
「そ、そんなことできませんよ! ユキトさんの方がわたしよりも年上ですし、冒険者としても先輩ですし、そんなの失礼です!」
「確かにそうだけど、おれはクララのことを尊敬してるんだ。おれよりも根性があるし、そんなクララを見てまた頑張ろうって思えたんだ。クララがいなかったら、おれは未だに腐ってたはずだよ」
頬を朱に染めたクララが照れる。
「憧れの冒険者であるユキトさんから、尊敬してるって言って貰えるとは思いませんでした」
「おれのダサいところを見たのに、まだおれに憧れてくれてるのか?」
「はい。あの時はユキトさんのことを嫌いになりましたけど、また頑張るようになったユキトさんは、やっぱりわたしの憧れです」
「そうか。おれたちはお互いに尊敬し合ってる。対等な関係なんだ。だからこそ敬語はいらないと思うんだ」
「そこまでおっしゃるのなら、わかりました。今から敬語をやめます」
大きく深呼吸をするクララ。それから照れ臭そうに小声で言う。
「…………ユ、ユキト、くん……」
「呼び捨てでいい」
「そ、それはさすがにハードルが高すぎますよ!」
困り顔のクララが抗議する
「呼び捨てじゃないと対等な感じがしないんだ。それと今また敬語使ってるぞ」
「う……。わかりました。敬語はこれで最後にします……。それではいきます!」
クララが大きく息を吸う。
そして、
「今日も一緒に頑張ろう! ユキト!」




