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第30話 ハンター登録


ハンターギルド内は、ひと目でハンターとわかる屈強な男たちで騒がしい賑わいを見せていた。

てっきり、みんな魔物狩りに出てしまっていて、ギルド内にあまり人はいないだろうと思っていたので驚いた。


ぼくとノアは値踏みするような多くの視線を感じながら、左側にある受付へと進み出た。


受付の男性が対応してくれる。 


「ハンター登録ですね」


「はい」

と、ぼくが答える。


男性は、ぼくが子供だからとバカにしたりせず、丁寧に登録用紙を渡してくれた。

ぼくのような年齢の子供が登録しにくることも多いのだろうか。


「ここに、名前と出身地を書いてください。あと、お歳も。見たところ、13歳以下ですよね? そちらの方が保護者に?」


「はい、兄が保護者になってくれます」


「わかりました。では、記入をお願いします」


「今日はなにかあるのですか? それとも、いつもこんなに人が多いんですか?」


ぼくは用紙に記入しながら、男性に聞く。


名前はジェイと記載した。

出身地は、王都としておく。"孤児のジェシー"にとって間違いではない。


「いえ、」と、男性は答える。


聞くと、魔物の目撃情報や、討伐依頼の仕事を求めて、朝はギルドにやってくるハンターが多いらしい。


ただ闇雲に魔物を探すより、情報があったほうが見つけやすく、効率がいい。それに討伐依頼の仕事は、魔石の買い取りとは別に討伐報酬がもらえるので、割がいいそうだ。


用紙の記入が終わって、ぼくとノアは魔物の名前と特性の暗記テストを受ける。

魔物図鑑である程度覚えてきたから簡単だった。


それから、実力確認テストのため、ギルドの裏にある闘技場に案内される。


ぼくらを担当してくれた禿頭のおじさんも、ぼくを子供扱いせず、それでいて手加減してくれて、あっさり合格をもらった。


こうして、ハルに聞いていたとおりの簡単さでハンター登録を終えたぼくとノアは、依頼ボードに残っていたオーガ討伐の依頼を受注し、ハンターギルドを後にしたのだった。


なんか呆気なかったな。



▷▷▷


一方、ジェシーとノアが去ったあとのギルド内。

そこに残っていたハンターたちのもっぱらの話題は、今しがた去って行ったばかりの二人組についてだった。


妙に綺麗な男と、雰囲気のある可愛い子供だった。


「いったい何者だ?」


「オーガ討伐書を迷いなく持ってったぜ。ランクAの依頼だろ?新人に達成できるのか?」


「大人の方は傭兵上がりかもな」


「それにしては、お貴族様みたいに綺麗な顔してたぜ?」


「王都じゃ見かけたことがないよな。よそ者か?」


「赤い目だったよな?」


「そうか? 茶色に見えたが」


「黒髪じゃなかったか?」


「フード被ってたから分かりにくかったけどな。アズマノ国から来たのかね?」


「いやー、顔の作りがちがったぜ。アズマノ国のやつらは、なんというか、顔が薄いだろ? のぺーっとしてるというか」


「おまっ、ハルに聞かれたら殺されるぞ!」


「い、言うなよ? 俺が言ってたって」


「それはお前の行い次第だな。一杯奢れよ?」


「くそ、ちゃっかりしやがって」


「ああ、ロイド、来たか。話聞かせろよ」


ロイド、と呼ばれたのは頭を禿げさせた大男。ジェシーとノアの実力試験を担当した試験官である。

いつも自信に溢れたその顔は、けれど現在はどこか悲壮感を漂わせている。


「どうした?」


「どうした、だと!? あいつらは一体何なんだ!」


ドン、とロイドが気のテーブルを叩く。

勘のいい者たちは、直前に飲み物を避難させていた。


「落ち着けよ、何があった」


「言いたくない」


「一撃で沈められたんたですよねっ、ロイドさん」


明るい青年の声がして、ハンターたちの目がそちらに向く。

麻色の髪に、制服であるオレンジ色の服と帽子。この青年は、ハンターギルドの職員だ。

ジェシーたちを受付で担当していた青年だった。


「お前な、ギルド職員の心得を言ってみろ」


ロイドがキッと、青年を睨む。


「"ハンターの個人情報は絶対に口外するな"ですっけ? それとも、"みんな仲良く"の方ですか?」


「前者だよ!お前はそのギルド職員だろうが!()()()()をちゃんと守りやがれ!」


「えー、べつに、ロイドさんが負けた情報なんて、個人情報に入らないでしょう?」


「入るんだよ!おれの名誉にかかわる最も重要な個人情報にな!……くそ、あんなチビに沈められるなんて」


「おい、まじかよ。大人の方じゃなくて、子供の方にやられたのか?」


「チッ。ああ、そうだよ!!」


「うそだろ、あのロイドが?」


「ロイドって、去年のギルドの剣闘会で優勝してたよな? 一昨年だったか?」


「衰えたんじゃねぇ?」


「やべぇな」


ロイドたちと直接話していた者も、周りで聞き耳を立てていたものも騒然となる。


「うるせぇ!うるせぇ!黙れお前ら!」


ロイドがキレる。


「しかし、どうやったらそんなことになるんだ? 体格差もかなりあるだろうに。沈められるって。一体あの子供はどんな武器を使ってたんだ? ムチか?槍か?」


ロイドと話していた男が、ロイドに顔を寄せて小声で話す。

ロイドと親しいようで、ロイドも無視することはなく、声を落としながら答えた。


「………ナイフだ」


「は?」


(ふところ)から取り出した、ごく短いナイフだ」


「それがどうしてお前を沈める武器になるんだよ」


「あのチビが、ナイフを振り上げてきたんだ。だから俺は、それを正面から受け止めた」


「それで?」


「気づいたら地面とキスしてたよ」


「意味がわからんな」


「俺もわからん。今もわからん。なんで俺は沈んだんだ? たしかに受け止めたのに」


「まぁ、飲めよ」


と、まだ昼前だというのに、男はロイドに酒をすすめる。


「あの金の目が俺を射抜くんだ」


「金の目?」


「やつは金の目をしていた……あの目を見て、俺は………いまでも震えがくる」


「金の目、か。まるでおとぎ話に出てくる魔王だな」


「魔王……魔族と魔物の王か」


「あの子供が魔王なら、お前は勇者だな」


ハハッと男が軽く笑う。

ロイドは考え込んでしまった。


「勇者か……俺はな、そこそこ強いと思ってたんだ、自分をな。けどな、あのチビ、最後に俺になんて言ったと思う?」


「なんて言ったんだ? 修行が足りん!と説教でもされたか?」


「『手加減してくれたみたいで、すみません。ありがとうございました』だとよ」


ロイドは落ち込んだ様子で、酒を煽る。


まぁ、まぁ、となだめる男はわかっていない。

ロイドは自分が負けた悔しさに、話を誇張したわけじゃない。

ただ、ありのままを話しただけだ。


この男がジェシーの実力を目の当たりにするのは、そして、ロイドの言っていたことが真実だったと知るのは、まだ少し先のことになる。


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