100. 夏殺しエファ
パラカレ城下町の宿の一室で俺が渋面で眺めている報告書には、隠れる君の御所でダラルロートが最上級占術を行使して得て来た情報が記されている。死せる身の夏殺し、堅牢なる護国侯エピスタタの鑑定結果だ。
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ティリンス侯爵, 堅牢なる護国侯エピスタタ
氏名 : 十九代目エピスタタ
年齢 : 32
性別 : 男性
属性 : 正善
種族 : アガソニアン / 聖霊サナトゥス
レベル : 17
クラス : 夏殺し17
状態 : 通常
抵抗 : 頑健20, 反応26, 意志20, 魔素22.
攻撃回数 : 4回
機動速度 : 高速 / 超高速(森林)
武芸 : 弓開眼, 中装鎧熟練, 連続射撃, 最大射程延長V/弓, 弓100, 短刀60, 束ね撃ち, 精密射撃, 乱射, 零距離発射, 超速射, 憐憫ある矢, 慈悲, 精霊殺し 9回, 憎悪の宣誓/精霊, 宿敵V/イクタス・バーナバ及び狂土エムブレポ, 宿敵IV/アディケオ及びミーセオ帝国, 宿敵III/腐敗の邪神及び暗黒騎士ミラーソード, 機知, 観察眼, 神懸りの直感, 鋭敏五感V, 流転身, 狩りの宣告, 適応/森林, 騎乗V, 騎乗戦闘V.
魔術 : アガシアの血統, 防衛的発動, 対象範囲収束, 魔装弓術, 矢返し破り, 無声の魔装, 魔装持続時間延長II, 精霊破壊, 復活 1回.
術適正 : 元素100, 死霊100.
擬呪 : 元素100, 死霊100.
異能 : 愛, 全知/ティリンス, 不死.
耐性 : 斬撃II, 刺突II, 打撃II, 毒III, 酸III, 腐敗III, 病気III, 精霊V, 欺瞞IV.
技能 : 矢師80, 工兵80, 隠密V, 探索V, 追跡V, 徹底捜索, 罠V, 解析V, 鑑識V, 動物学V, 薬草学V, 徹底検証, 礼法V, 真実看破V, 気配察知V, 茶芸III, 脱出III, 指導III, 統率III, 宿敵研究V/イクタス・バーナバ, 宿敵研究IV/アディケオ, 宿敵研究III/暗黒騎士ミラーソード.
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俺達はこの内容を信じてパラクレートス線の管制区域へ出向いたのだが、幾つか重大な見落としがあった。まず、エピスタタはただのアガソニアンではない。アガシアの子、アガソニアン神族だった。俺達の力押しが今回ばかりは通じなかった理由だよ!! 神族の説明は俺も父から受けた。
「血の力が半端じゃなく強いのよ、神族は。
僕らも神族みたいなものだが……。今回は相手が悪過ぎた」
「二層の時点で撤退すべきだった、と今言っても始まらぬ」
父と母は反省しているのか口数が少ない。代わりに眼前にいる少年のような年頃に見えるこいつがよう喋る。
「あは、エファはアガソニアン神族だぞ。死者を蘇生してあげられるのだ!」
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分体『夏殺しエファ』
氏名 : エファ
精神年齢 : 16
性別 : 男性
属性 : 正善
擬態種族 : アガソニアン神族
レベル : 20
クラス : 夏殺し17 (残り3)
状態 : 通常
抵抗 : 頑健20, 反応26, 意志20, 魔素22.
攻撃回数 : 4回
機動速度 : 高速 / 超高速(森林)
武芸 : 弓開眼, 中装鎧熟練, 連続射撃, 最大射程延長V/弓, 弓100, 短刀60, 束ね撃ち, 精密射撃, 乱射, 零距離発射, 超速射, 憐憫ある矢, 慈悲, 精霊殺し 9回, 憎悪の宣誓/精霊, 宿敵V/イクタス・バーナバ及び狂土エムブレポ, 宿敵IV/アディケオ及びミーセオ帝国, 宿敵III/設定なし, 機知, 観察眼, 神懸りの直感, 鋭敏五感V, 流転身, 狩りの宣告, 適応/森林, 騎乗V, 騎乗戦闘V.
魔術 : アガシアの血統, 防衛的発動, 対象範囲収束, 魔装弓術, 矢返し破り, 無声の魔装, 魔装持続時間延長II, 精霊破壊, 復活 1回.
術適正 : 元素100.
擬呪 : 元素100, 愛【超】.
異能 : アガシアの愛【超】, 全知/ティリンス.
異能経路 : 命喰らい
耐性 : 精霊V
耐性賦活 : 斬撃V, 刺突V, 打撃V, 腐敗V, 毒V, 酸V, 病気V, 精神V, 魔素V, 欺瞞V.
技能 : 矢師80, 工兵80, 隠密V, 探索V, 追跡V, 徹底捜索, 罠V, 解析V, 鑑識V, 動物学V, 薬草学V, 徹底検証, 礼法V, 真実看破V, 気配察知V, 茶芸III, 脱出III, 指導III, 統率III, 宿敵研究V/イクタス・バーナバ, 宿敵研究IV/アディケオ, 宿敵研究III/設定なし.
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俺の中に在って人格を保つ意識は四つから五つに増えた。五つ目が赤毛の少年、夏殺しエファだ。
蘇生に際してエピスタタと交わさせられた契約により、俺自身の属性は中立にして悪から中立にして中庸に変動してしまった。確かに俺は暗黒騎士ミラーソードとしては中立にして中庸なるミラーソードと名乗ってはいたが、まさか悪属性を失う日が来るとは思っていなかった。悪属性に堕とす事を悪堕ちとは呼んでいたが、俺の場合は善堕ちと言うのか? 中庸で止めて貰えただけマシなのだろうか。
何が困るって、属性転向前よりも母の邪悪さに若干の距離を感じる事だ。中立にして悪の俺にとって狂った悪は隣接していたが、中立にして中庸からだとちと遠いのではないのか? 母の気持ちがよう解らなくなった気はする。まあ、同じ程度に善良げなエファの考え方も理解できんのだが。エピスタタの手で俺と混ぜ合わされて創られたらしいエファの属性は正しき善だ。
「ミラー、エファって呼んで。呼んで」
「……なんだ、エファ」
「撫でて! 触って!」
どうしてエピスタタの野郎は、エファを少年くらいの見た目と頭の中身に作り変えたのだ? 昼夜を問わず盛んに触れ合いを要求されるのがどうも慣れない。
「僕さ、若作りにも限度ってものはあると思うの」
「節度は美徳だ」
父と母の反応もこう、アレだ。俺はエファの髪に触れ、撫で触ったがお気に召さないらしい。
「もっと」
「……エファは俺に心的外傷を増やしたいのか。それとも甘い菓子か果実が欲しいのか」
「桃! 桃が食べたい!」
片手を振って変成術を振るい、望みの品が載った皿と小刀を創造してやる。
「好きなように食えばいい」
「わーい、ありがとミラー」
俺から桃をせしめたエファはくるりと一回転し、器用に皮を剥くと一切れ口に放り込んで満面の笑みを浮かべた。……俺も食うかな。そう思い、創造しようとすればエファが皿を手に俺の間近にいる。
「甘くておいしいよ、ミラー。はい、あーん」
「……そいつはエファに作ってやったのだから全て食え。命を喰らう者の責任だ、解るかエファ。鏡よ、こいつを切ってくれい」
俺は別の果実を盆一杯に載せて一気に創造した。白葡萄に黄柑橘、苺の粒を作るのは地味に手間が掛かる。
「はいはい、ミラーは手の掛かる子ね」
「俺はいいんだ。頼むから精神に平安をくれ。日常を返せ」
報告書を焼き捨てたらなかった事にならんかな、こいつとの契約。時間を巻き戻せるなら巻き戻し、パラクレートス線の管理区域に突入しようとする俺とアステールに言ってやりたい。「ミラーソードの馬鹿野郎、止めろ! 踏み込んだら殺されるぞ!!」と……。
「いや?」
エファが桃の切り身を俺の口に入れようとしやがるが、俺はエピスタタだと知っているエファとあまり親しくなりたくねえんだよ!! なんなんだ、こいつの距離感は。パラクレートス線を使ってイクタス・バーナバに呑まれた版図を押し戻すのが先なんじゃないのか!
エピスタタの野郎、確実に俺に精神操作か何かしただろう!? 契約したのは俺と神との間に子を産む事だ、どうして俺があの野郎なんかと……解っているのに良心とやらが盛んに「泣かせるな」だの「庇護欲を感じない貴様は異常者だ」と詰って来るんだよ! 頭がおかしくなりそうだ!
「……嫌ではないが、それはエファが自分で食べなさい」
「ちぇ。はーい」
エファを退ければ父が切り分けてくれた果実の盛り合わせを念動力の手で給仕しつつ愚痴って来る。
「はい、ミラー。随分大きい子供が突然できたみたいで、お母さんの空気がすごい微妙なのよ。お父さんの気持ちにもなってね?」
「知りたくねえ、知りたくなかった」
俺は暗黒騎士ミラーソード、1歳。自称16歳の赤毛の弟だか子供ができたが、俺自身の髪は金銀混淆だし肌も白い。15歳上の弟面する子供をどう扱えばいいのか、この際誰だっていいから教えて欲しい。