第1章 コンタクト
手の平でグラスを揺らすと赤ワインのいい香りがした。ワインを口に含むとボディのしっかりした力強い味わいが僕を満足させた。いいブドウで丹念に熟成されたワインは本当に美味しい。テーブルにはこれも丁寧に調理され盛り付けられた皿が前菜から順番に運ばれてきた。今日家に来てもらったシェフもいい仕事をする。複数の良質な素材の組み合わせに絶妙な火加減、味付けに僕は満足だった。目の前に座っている妻も満足しているようだった。このような絶妙な満足感はAIでコントロールされて製造、加工されたお酒や料理では味わえない。まだ職人の目利きや技が活躍する領域だ。美味しい料理を食べ終えて僕達はお酒を飲みながらリビングルームでゆっくりくつろいだ。お酒は僕はグラッパを、妻はカルアミルクを選んだ。
「今日も美味しかったわ。来週のパーティーもあのシェフに来てもらいましょうよ」
「そうだな。君の友達も喜ぶだろうね」
「来月はまたいないんでしょ」
「うん、ヨーロッパで公演だ。1か月家を空ける」
「後半はフランスでしょ。一緒に行ってもいい?」
「ああ、いいよ。あんまり観光等はできないけど」
「大丈夫、一人でも歩けるから」
そのとき僕の手首がブルッと震えた。誰かがメッセージを寄越したみたいだ。手の平に照らせれた端末の画面を観た。
『こんにちは、ポールさん。あなたの公演は楽しいですね。あなたも世界的な人気者になってさぞいい生活を送っているのでしょうね。ところで評判のいいあなたの人気のシリーズですが、私は知っていますよ。それがどうやって産まれたのか。いいでしょうか、その出どころを公表して? もしそれが困るようでしたららここまで連絡ください。2週間、ご返事をお待ちしています。東の太陽』そのメッセージを読み、僕の体から冷汗が噴出した。何を言ってるんだ、こいつは。あのことを知っているというのか?
「どうしたの? 何かあったの。顔色が変よ」妻が声をかけてきた。
「いや、何でもない。来週の公演のことだ。ちょっとトラブルがあったようだ。でも心配はいらない」
「そう、それならいいけど」
僕はすぐにジュリアンにメッセージを送った。
『こんなメッセージが来た』
『お前のところにも来たか。俺のとこにも来た。同じ差出人だ』
『何で知っているんだ彼は』
『わからない』