灰塵
うおお・・・
前言撤回。
いや、前日言、撤回。
作戦決行の日、俺が『ヨーク長城』の正門前に立ったとき、プレッシャーは最高潮に達していた。
周りにいる兵士の目、目、目。
もともとの衝撃魔力の高さと、万一の失敗の可能性から、少なくとも300米は離れている。
だが、これまでは冒険者として誰かに嫉妬されたり、ケンカを売られたことはあっても、これほど”期待の眼差し”で見つめられたことはない。
(・・・感覚が鋭いのも、考えものだな・・・。アン=リビエラ導師は、これ以上の観衆の中で、まったく力みもなく術を行使した。ほんとに、わが道を行くすげえ”魔道士”がいたもんだよ)
公式には《SS級》という認識で通っているが、『灰塵槍』は、異世界の深海に棲む”蒼姫”、その側近中の側近である女英霊12騎士ーー傅く華々《ラインナイツ》を喚び出す、大技だ。
少なくともSSS、その召喚魔術の運用軽度から、彼女はそれ以上のランクだったとも言われている。
「・・・いけー! やれぇニール!! 長年溜まった鬱憤を、ランバルドにぶっ放せー!!」
俺の後方、ヨーク長城の壁上に立ち、クリスが腕をぶんぶん回している。
・・・いや、お前は自分の身を守れるから、『灰塵槍』の射線修正を買って出たんだろうが。ちゃんと指示しろよ・・・。
俺は一人ボヤいて、目を閉じた。
深く息を吸い、心臓の鼓動を落とすため、足下の草原が風にそよぐ、かすかな音を聴く。
ーーそして、なだらかな丘の向こう、木々の合間に建っているはずの、《大砦》をイメージした。
(師匠・・・あなたは「偶然だけで起こる物事など、何一つない」とよくおっしゃってましたね・・・。不肖の弟子がうまくやれるよう、祈ってやって下さい)
俺は目を開けた。
目標までの距離は、2里(約8㎞)。
『槍』の魔術射程は、アン=リビエラ導師には及ばないが、約2里半。
ランバルドの軍勢が、警告通りに後退していることを願いながら、俺は呪文の詠唱に入った。
『我、蒼海の主に臨みし、移ろう旅人なり』
・・・ずっと、心に引っかかっていた。
『旧き世より、深き場所にて傅きし兵どもよ、いま我の声を聞け』
フリアが、俺の所に来た偶然。
自国の所業を知りながら、平気で過ごしていた自分。
『十二の槍にて眼前すべてを尖破し、”蒼姫”の威を示せ。我は、そなたらの座と覇をこの世に知らしめる者なり』
孤独でいたかった俺はーー何かと関係を持つことが、自分を殺すことだと信じていたんだ!
「共に並び立つ魔を持ちて、ニール=ダンセルが請う!!」
灰塵槍!!
眼前すべてを覆うような、長大で個性ある12の槍が、轟音の予兆とともに集束した。
半径200米を超える、超高圧エネルギー塊が、大地に沿ってすべてを無に変えながら、突き進む。
「いけー、ニール! 持ってる魔力、ぜんぶ絞り出せー!!」
おい友人、勝手なことを言うな。
うおおーー!!
ゴァァァーーーー!!
ほとんど立つ力まで失いかけた時、俺の『灰塵槍』は、ランバルドの大砦を消滅させたのだった。




