物語というものはいつでも己の考えが及ばぬ所から始まるものだ
息抜きで始めたのであまり更新頻度は高くありませんが、頑張って更新します。
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事実は小説より奇なり。この言葉は一体誰が言ったのだろうか。生まれてから十数年、俺の人生は至って平々凡々な道を歩んできたと自負している。
父はサラリーマン、母は主婦の傍らパートをしており、両親の仲が悪いとか実家の反対を押し切って結婚した華族だとかの事実は一切ない。さらに、他の家族にも変わりはない。弟が一人いるが、この弟は義理の弟で実は……。なんてこともないのだ。
そんな自分が今不可解な出来事に巻き込まれていた。先ほどまで見慣れた教室にいたのだが、今は西洋の城の一室のようなところに立っていたのだ。それも、教室にいた全員がだ。動揺しているのかクラスメートは全員ざわざわと数人で固まって話をしている。俺もそんな一人だった。中の良い男友達数人と話していると、一緒に来ていた教師が大声を張り上げた。それを聞き、俺達を含めたいくつかのグループは教師の方を見つめる。すると、そこには見慣れない服装をした数人の男女が立っていたのだった。
教師とクラスの委員長である男(名前は忘れた)がそいつらと何かを喋っている。しばらくして話が一段落ついたのか俺達は移動することとなった。今思うとこれは詐欺師と同じ手口ではなかろうか。だが、その時の俺はそんなことを考える余裕すらなかったのだ。
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俺達はその後数分間建物の中をゾロゾロと歩かされる事となった。何人かのクラスメートは不満を垂れているようだが、不審者共はそれを全く意に介さず教師と委員長が何とか不満を抑えこもうとしていた。謎の場所に飛ばされた動揺など遥か彼方に吹き飛び、自らの置かれた境遇に思わず不満を垂れ流そうとした時その扉に差し掛かった。
表面は光沢で覆われており、大理石に似た石材で作られていることがわかる。見た目は普通でどこかの建築物にあったのならば開閉が大変だろうなと思うような代物だった。しかし、デカさが段違いだったのだ。横幅は10mはあろうか、さらに高さは20mほどありそうで、おおよそ童話や神話にすら出てこない使用しにくいなどと言った感想を抱かないほど理解に苦しむ代物だった。その扉が人力もなしに独りでにゆっくりと音も立てずに開いていった。見たところ電気が通っている様子もないことに気づき、恥ずかしながらようやくここが地球ではないと気づいたのである。
扉の奥は体育館ほどの広さを持つ部屋だった。それも、最初にいた部屋よりもより精巧に作られたシャンデリアが吊られていたり、下品にならない程度の調度品が部屋中に配置されたおり、およそただの人間には縁のない空間となっていた。
クラスメートが部屋に対して思い思いの感想を述べていると、部屋の奥から張りのあるよく通る声が聞こえてきた。誘われるようにそちらを向くと、部屋の更に奥、豪奢な椅子に座っている初老の男がいた。身につけている装飾品はすべて一流のものだろうか、10数m離れていてもその気品ははっきりと視認できた。何よりその男の発する迫力は今まで感じたことがないもので、まるで巨人がこちらを見下ろしているかのように思えた。
「勇者皆様ぜひこちらにお越しください。今、皆様が置かれている状況を説明させて頂きます」
いつの間にか不審者軍団にいた女が男のそばに立っていた。よく見ると気品というものが微かに感じることができる。もしかすると、男と女は家族かそれに近いものかもしれない。そんな勝手な想像をしながら男のそばに全員が寄った。ゆっくりと男が俺達を見回す。そして、たっぷりと間を貯めたあと深刻なことを話すかのようにその口を開いた。
「異界の勇者様方、今私が収める王国は未曾有の危機に襲われております。そしてその危機を救うために皆様方を異界からお呼びさせていただきました」
「その危機は一体なんですか?そして、私達が呼ばれた理由は…」
教師が王と思われる男の話に応じた。その声は微かに震えており、動揺が手に取るようにわかる。おそらくこの後に続く言葉と何が起こるかの予想を朧気ながら考えてしまったのだろう。
「勇者様方には魔族と呼ばれる者達とそれを牛耳る奴らの首魁魔王というものがおります」
「つまり、僕達にその魔王を討伐して欲しいと…」
「勇者様の鋭い慧眼、誠に感服いたしました」
教師と委員長が王と話をトントン拍子で進めていく。後ろにいる俺達は完全に置いてきぼりを食らっていたが、三人は気づく素振りすら見せない。
「さて、勇者様方今日はお疲れでしょう。訓練は明日から進める予定です。部屋を準備させますゆえ、今日はしっかりと英気を養い明日に備えてください」
話は終わったとばかりに王は周りの衛兵に部屋への案内を命令した。正直言って俺は王の考えが全くもって理解できなかった。異世界から人間を召喚し、あまつさえ特権階級のような扱いをする。これは国内外から不満が続出するのではないのか、未知の戦力である俺達に期待をし過ぎではないのか。謎は謎を喚び頭のなかで纏まらない疑問がグルグルと渦巻く。
移動する直前、ふと思い立ち王の方に振り向く。一体彼は俺達に対してどういう感情を持っているのか表情から読み取れれば幸運ぐらいに考え彼の表情を盗み見た。しかし、それをしたことを直後に後悔することになった。彼の表情は期待しているわけでもなく、不安に溢れているわけでもなかった。ただただ、能面のような表情を貼り付けており、まるでものを見るかのように冷ややかな視線で俺たちを捉えていた。
俺は嫌な感覚を振り払うため移動し始めたクラスメイトたちを小走りで追いかけた。これから起こる出来事からなるべく逃げるられる方法を考えながら。
久しぶりにサイトを除いたら異世界転移、異世界転生のランキングができていて驚きましたが、まぁ仕方のないことでしょう。