55話 修行の成果
「何をやったから知らないが、これは俺とこの忌み子の決闘。さっさとあのガキ共を始末すれば、俺の勝ちで終わりだ!」
ブラウンが大声を出して向かって来たので、アミル達もその存在に気がついた。
「……師匠の事だから、ワザとだよね」
「……たぶん……」
その姿を見てリンは、牢獄内で戦っているであろう雪兎を呆れ顔で眺めてしまう。
「みんな、出てきて!」
アミルが腕輪を撫でると光が放たれ、タマモ、ミズチ、ガイアが姿を露わす。
「ソウルリンク!」
そしてすぐにソウルリンクを使い、3匹に少しだが自分の力を上乗せする。
雪兎を合わせると4匹同時のソウルリンク。これは流石に無理があったのか、アミルは立っている事も出来ないほど力が抜ける事となった。
「━━みんなはアミルを守ってあげて。ここはまず、わたしが前に出るよ」
膝を着いたアミルを見て、リンはタマモ達にそう言って前に出る。
リンには分かっていた。わざわざ事前に討ち漏らしがでたら全力で戦えと言われていたので、この展開は師匠がワザと作った状況だと。つまり、ここは自分が前に出て戦って見ろと、宿題を出されたようなものだ。ならば弟子としてはそれに応えなければならない。
今はまだ学生である為、真剣を使っての命懸けの対人戦はやった事はなく、緊張していないと言えば嘘になるが、雪兎に今の自分ならやれると信じて貰えて少し嬉しかった。
「ガキが! さっさとくたばってしまえ!」
ブラウンは鋭く剣を振り下ろしてきた。言葉使いは荒々しい物だったが、その剣筋は無骨な冒険者のものとは違い、騎士のような綺麗だった。
性格は悪くとも、貴族の生まれ。実戦経験は少なくともそれなりに指導を受けて来た事が感じ取れた。
「━━でも!」
その綺麗な剣筋に合わせるように、そっと手甲を当てて横に逸らす。
ズサッ!
頭から切り裂くはずの剣が、大した抵抗もないのに地面に逸らされた。ブラウン本人も最初からそこを狙ったかのような錯覚に陥るほどの驚きを感じる。
『ほう、あの娘もなかなかやるではないか。ただの学生なら、今の一撃を大きく避けるか、動けず両腕でガードするものと思っていたのだが……まさか、冷静に対応するどころか、あのような方法で攻撃を逸らすとは』
バハムートはリンの動きを見て、感心するように呟く。
「すると、今の一撃はリンさんが逸らせたと?」
雪兎の戦いが見れないプリセラとバハムートは、リンの戦いを見ていた。
『ああ、振り下ろされた剣の側面に手甲を当て、上手く力の方向を変えたのだ。まさか、あの学園の戦士科にこれほどの教えが出来る教師がいるとはな』
バハムートは何か含みがあるような顔をして、プリセラの方を見る。
「フフ、バハムートも分かっていて言ってるのね。あれはおそらくユキトさんが教えたものでしょう。前に貴方が受けた防御力無視の攻撃。あれはスキルではないと言っていました。つまり━━」
『ああ、教えれば誰でも覚える事が出来る技。おそらくだが、あれらは本来素手で武器に立ち向かう為に編み出された物だろう。しかもあの完成度を見る限り、スキルを持たない一般人が長い年月を懸けて編み出した。どうしてあのような技をスノーラビットが会得したのかは分からないが、本当に我の想像を超える存在のようだ』
「……嬉しそうですね」
『……それはお前もだろう。対人戦の技が我に何処まで通じるかは分からないが、元々持つステータスにこれらの技、更にあれほどの魔法を使いこなせるとなると……たしかに我らが全力で相手をしても、そう簡単には勝たせてもらえないだろう』
「ええ、本当に戦うのが楽しみですわ」
そう言って2人は今だ姿を見せない雪兎との戦いを想像し、嬉しそうに口端を上げていた。
「くそ!? ヒョロヒョロと何かしやがって、平民はさっさと抵抗しないで殺されろ!」
ブラウンはリンに怒鳴りつけながら攻撃を繰り返していた。
それらの斬撃を冷静に捌き、時には反撃を織り交ぜてはいたのだが、財力の差を見せつける為に無駄に豪華なブラウンの鎧に阻まれ攻めきれずにいた。
一番的確にダメージを与えられるであろう個所は相手の顔なのだが、男と女、しかも成長しきっていないリンの身長では、どうしても跳びあがらないと拳は届かず、その後の隙だらけになる自分がイメージ出来るので、闇雲に攻撃する事はしなかった。
一撃受ければ死に繋がり、こちらの攻撃は通じない。そんな絶望を感じる状況だったが……
「……なんて、今までのわたしなら困っていただろうな。━━でも!」
リンにそんな絶望感は少しも感じられなかった。
「アミル。わたしが失敗した時は、師匠が出てくるまで守ってね」
「うん。皆が全力で守ってくれるよ」
今の自分は1人ではない。守ってくれる仲間がいて、時間を稼げばどんな状況でも打開してくる師匠が控えている。例え失敗しても何とかなる安心感がある今、リンは全力で命懸けの修行にチャレンジ出来るのだ。
「ハァハァ、さっさと死ね!」
ブラウンは度重なる攻撃で疲れていた。その疲れから解放されたい気の焦りから、やや大振りの振り下ろされた攻撃を左手で逸らし、隙だらけの胸に右拳をそっと当てる。
「そんな軽い攻撃、痛くもかゆくもないぞ」
軽く当てられた拳。そんな無駄な事をして、もう諦めたのだろうと思ったブラウンは、剣を下から跳ね上げて斬ろうと力を込める。
「子供だと、女だと、平民だと思って舐めてかかるから、痛い目を見るんですよ」
リンはニヤリと口端を吊り上げ……大地に足を強く振り下ろす!
「<爆・拳>!」
「━━ぐっふ!?」
大地を蹴り下ろしてすぐ、まるで何かが弾けたかのような音を響かせブラウンは吹き飛んだ。
「な、なにが……」
突然の衝撃にブラウンは何が起こったか理解出来なかった。だが、自分の鎧の惨状を見て、少なくとも誰がやったかは理解出来た。
無駄に輝く鎧には、先程リンが拳を押し当てていた場所に大きなヘコミが残っていたのだ。鎧を変形させる程の攻撃。それをゼロ距離から放たれたのは驚きだが、それでも意識を狩り獲られる程ではなかった。
この鎧はブラウン家が戦場に赴く時に着ける鎧で、見た目の派手さだけではなく、しっかりとした防御力も備わっている。そのおかげもあってか、吹き飛びはしたが立ち上がる事が出来た。
脚は重い。そして剣もさっさと手放したいほど重く感じる。それでもここで攻撃の手を緩めるわけにはいかない。たかだか平民のガキを1人2人相手するだけに、多大な大小を賭けてしまったのだ。
万が一にも負けるはずはないと思っていた。だが現状は確実に劣勢。あれほどの魔法を使う謎のスノーラビットが金で雇った冒険者達と戦っている内に、アミル達を始末しないと勝ち目はないと確信していた。
一歩一歩が辛いが、それでもブラウンには多少余裕が出てきた。先程の攻撃で力を使い果たしたのか、リンはその場から動けないほど疲弊して、呼吸が荒かった。
今なら殺せる。
そう思っていたのだが……
「タマモちゃん! ミズチちゃん! リンちゃんを守って!」
今まで沈黙を保っていた雑魚モンスターどもが、火や水を吐きだして攻撃を仕掛けてきたのだ。しかもその攻撃は野生のモンスターと比べて、かなり鋭く激しい物だった。
「あれ? 2人共、スキルの威力が上がってる?」
攻撃を頼んだアミルもその変化に気付いた。
「……そうだったんだ。これがユキトさんが言っていたソウルリンクのもう一つの効果」
ソウルリンク。それは主と従者が魂のパスを繋げる事で、モンスタートレーナーのステータスの一部をモンスターに上乗せ出来る力。
一般的にはそれだけが先行して広がっているが、雪兎はそれ以外の可能性に気付いていた。
アミルに憑依して魂を繋いで魔導書を読んだ時、2人の魂は同調して同じ魔法を覚える事が出来た。魂が繋がっているので、片方が得た経験をもう片方も経験出来たのだ。
つまり……
『どうやら予想通り、俺が得た経験値はお前達にも同じだけ得る事が出来たようだな』
「ユキトさん!」
タマモ達の成長を見て、雪兎は満足そうに土の牢獄から出てきた。アミルも嬉しそうに雪兎の方を見て微笑んだ。
「クソッ! あの化物が出てきやがった」
アミルが顔を向けた事で、ブラウンも雪兎が姿を現した事に気がついた。
そんな絶望的な状況だったが、ブラウンはニヤリと笑っていた。




