24話 旅立ち
ブックマーク、評価、ありがとうございます。ストックがないのは余裕がなくなってしまうので、しばらく更新期間を開けて貯めていきたいと思います。
翌日、この町での最後になるかもしれない朝食を食べていると、ギルドマスターからの使いと言って1人のギルド職員が宿にやってきた。
「君がアミルちゃんだね。食事中に悪いけど、ギルドマスターが君を呼んでいるから、食べ終わったら冒険者ギルドに顔を出してほしい」
「え!? は、はい。分かりました」
アミルは突然の事で心の準備が出来ずに、了承の返事をしてしまう。雪兎は「用があるなら自分から来い」と言っていたが、返事をしてしまったので行くしかなかった。
「あ、あの……何か用事があるって……」
冒険者ギルドの中は昨日から宴会でも続いているのか、騒いでいる人と隅の方でダウンしている人とで、しっかり別れていた。
その中の一部の冒険者がアミルの姿を見ると、息を飲み込んで動きが止まっている。アミルはその事には気付かなかったが、雪兎は少し警戒レベルを高めた。
ギルドマスターも少しお酒を飲んでいたのか、アミルに声をかけると口から匂いが広がった。
「わざわざ呼び出してすまない。昨日は残りのゴブリンを倒しきるのに、思ったより時間が掛かってしまってな。すぐにとも思ったんだがお嬢ちゃんも疲れていると思って、今日顔を出してもらったってわけだ」
徹夜で騒ぎながら仕事もしていたのだろ。ギルドマスターの目の下にはクマが出来ていたが、絶望視されていた町がほぼ無傷で救われた事が相当嬉しかったのか、その表情は明るいものだった。
「それでだ、今回の戦いでの報酬を渡しているんだが、お嬢ちゃんはアルティアに行っちまうだろ? だから朝から呼びだしたんだ」
『まあ、貰える物は貰っておいて損はないな。入学費などは集まっているが、余裕はほとんどないからな』
冒険者養成学校へ行く事を決めてから受験料、入学費、初回の月謝代は稼ぎ終わっていたが、次の月の月謝代は半分ほどしか貯まっていない。残りはアルティアに着いてから稼ごうと考えていたので、ここでの臨時収入が手に入るのは正直助かった。
「でだ、お嬢ちゃんは倒したオークキングの死体をアイテム袋に入れていただろ。今回の戦いで一番活躍した証拠として、その死体を提供してほしいんだ」
「 え!? 」
アミルはギルドマスターの言葉を聞いて固まってしまった。ただのオークの死体はまだアイテム袋に残っている。だがオークキングの死体はその場ですぐに雪兎が吸収してしまったので、何も残ってはいない。しいて言えば、ギルドカードに討伐記録が残ってはいるのだが、あの場にはアミルの他にギルドマスターや一緒について来た冒険者数名もいたので、一番活躍したという証拠としては弱かった。
なによりその場にアミルみたいな子供がいて、しかもオークを倒したなんて、直接その目で見た者でなければ信じられるはずがなかった。
「ん? どうしたんだ?」
「あ、あの……オークキングの死体は、その、もうないんです……」
「ないって、あの死体はどこへやったんだ?」
アミルは答えに悩む。雪兎のスキルの事を話すわけにはいかないし、だからと言って他の言い訳も思い付かない。出来る事といえば、雪兎の方を見て助けを求めるだけだった。
『……俺の晩飯にしたとでも言っておけ』
「ユキトさんが……夜ごはんとして食べちゃいました……」
「はあ? ユキトってそのスノーラビットだろ? スノーラビットはモンスターだが草食なんだぞ」
「え!? そ、そうなんですか?」
『それは俺も知らなかったな。普通に宿屋の飯を食っていたし、食べようと思えば食べれるんじゃないのか?』
やはりこの世界での知識が少ない2人は、いろいろなところで変な所が見え隠れしてしまい、言い訳も上手くいかない時が出てしまう。これにより、ますます学校への入学は必要と感じた2人だった。
今回は雪兎が肉を食べる所を見せて誤魔化せたが、証拠がないので戦果による特別報酬は貰えない事になってしまった。それでもギルドマスターは直接見ていたので、他の冒険者より少し多めに支払ってくれる。
もともと臨時収入だったので、とくに不満を上げる事はなく、アルティアへの馬車の有無を確認する。
「ああ、それについても調べておいたんだが……」
なにやら言い難そうに顔をしかめる。
「実はな、今回の騒動でいつもはアルティアへ向かっている馬車のほとんどが、町から逃げ出す人達に雇われていないんだ。そして数少ない馬車も、東の森にはまだオークが残っているかもと恐れ、アルティアには行こうとしないんだ」
「そ、それじゃあ」
「ああ、残された手段は自分の足で歩くか、お嬢ちゃんが馬でも買って向かうかのどちらかになる」
『……お前、乗馬の経験は?』
「ありません……」
『だよな。ま、そうなると残された手段は1つだな。すぐに準備を始めて、歩いてアルティアに向かうぞ』
アミルもそれしかないと分かっていたので、雪兎の言葉に黙って頷いた。
「あ、あの、私達は歩いてアルティアに向かいます。短い間でしたけど、お世話になりました」
「そうか。まあ、今から歩いて向かっても、ギリギリ試験日の前に到着出来るだろう。それに運が良ければ他の町からアルティアに向かう馬車に乗せて貰えるかもしれないし、あまり悲観することもないぞ」
『他の冒険者に依頼して馬に乗せてもらう手もあるっちゃあるが、金に余裕がないからな。あとはお前の頑張りしだいだ』
こうしてアミル達はギルドマスターに今回の報酬と、アルティアまでの地図を貰い、冒険者ギルドから出ていった。
「ギルマス、<ブラックイレイザー>はもうこの町から出ていくのか?」
アミル達が出ていったのを確認すると、1人冒険者がゆっくりとギルドマスターのところにやって来て、そう問いかける。
「<ブラックイレイザー>? もしかしてお嬢ちゃんの事か?」
「ああ、あの忌み子とそのスノーラビットの事だ」
「おいおい、女の子につける二つ名にしては、少し物騒じゃないか?」
見た目は物大人しそうな女の子と、人畜無害なスノーラビットのコンビは確かに異常な力を持っていると感じた。だがその主の性格は臆病で、結局最後までギルドマスターの目を見て話をする事をしてくれなかった。
一度、戦いの前に急変した時は、しっかりと見つめて……いや、睨むようなキツイ目で見られたが、それ以外は気にしている目の色を前髪で隠して俯き加減でしか、会話が出来ていなかったのだ。
それを知っているギルドマスターからすれば、少し合わないと二つ名に感じた。
「そうは言っても、ギルマスだって見ていたでしょ。あのモンスターはアイテム袋にオークを入れてはいたが、あのオークキングだけはその場で消え去ってしまった。あれはアイテム袋に入いる消え方じゃなかった」
「確かにそうも見えたが、もしかしたら俺達では見えないスピードでアイテム袋にしまっただけかもしれないぞ?」
「だが、オークキングの死体は出せなかった。それと俺は前に一度ジャイアントバットに襲われている時に、あのコンビが戦っているのを見ているんだ。あの時は薄暗い洞窟の中だったから見間違いだと思っていたが、今思い出してみると、その時はアイテム袋も背負ってないかったのに、モンスターの死体が消え去っていた」
「モンスターを消し去る理由は分からんが、聖魔法を使い、種族的には信じられないほどの強さを持つあのモンスターの事を考えると、ありえないとは言い切れないな」
「ま、そう言う事で、あいつ等の事は<ブラックイレイザー>黒の消去者と呼ぶようにしたんだよ。下手に絡んで、死にたくはないからな」
「二つ名は自分で名乗ったり、俺達みたなギルドマスターが決めるような物じゃなく、周りの人が勝手に決めるものだからな。それについて俺が止める権利はないが、それでも町を救ってくれた恩人なんだから、もう少し見た目に合った名前でも良かったんじゃないか?」
「ハハ、あのコンビはこの町を出るんだろ? ならこの二つ名を本人達が聞く事はないって」
「確かに冒険者養成学校でさらに力を付けたら、アルティアの町でちゃんとした二つ名がつくだろうしな。あの町はこことは違って大きいから、向こうでの二つ名が正式になるか」
「そう言う事。さ、ギルマスも仕事が終わったなら、俺達と一緒に呑み直そうぜ!」
「俺はまだ仕事があるんだよ」
そう言って冒険者は自分の席に戻っていき、大いに騒ぎだした。もちろん酒の肴はアミル達、ブラックイレイザーの事だった。
本人達はもうこの冒険者ギルドに顔を出さないから知る由もなかったが、この馬鹿騒ぎに参加していた冒険者達がギルドから自分達の家に向かうまでの道のりでも騒いでいたので、町中にこの二つ名が広がってしまった。
住民も何が起こってオーク達を退かしたのかは気になっていたので、口コミで広がるまでに時間はかからなかった。
その頃本人達は町を出て、すでにアルティアへの道を進んでいた。近い将来、この二つ名が雪兎達の耳にも入るのだが、それが自分達の事だと気付くのはまだまだ先の話であった。
神社 雪兎 レベル 15
HP 321 / 321
MP 228 / 228
力 285
耐久力 227
素早さ 203
魔力 196
スペル ヒール(LV2)
スキル アブソープション ・ 鑑定眼 ・ 念話 ・ 嗅覚強化(LV2) ・ 耐火防御(LV1) ・ 耐水防御(LV1) ・ 憑依 ・ 魔力操作(LV1) ・ 肉体強化(LV1) ・ 超音波探知(LV1) ・ 威圧
威圧 ・・・ 自分より格下の者を睨む事で硬直させる事が出来る。上位、または自分の実力に近い程、その効果は薄くなる。




