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月虹の舞姫  作者: 徒然花
番外編
22/22

Think of you

アレクの独り言。あー、くらー。

月虹の下、優雅に舞う貴女を見てひと目で恋に落ちた私。

あまりの美しさ、儚さに、彼女は夢か幻だったのではと思ってしまったのだが、夜会の会場で再び出会えたのには狂喜した。彼女が現の人だと判ったから。

儚い月の光の下とは違い、煌びやかな明かりの中でも彼女は光輝いて見えた。美しい令嬢たちがひしめく中でも異質の光を放つ彼女。

気付けば私は彼女ばかりを追っていた。


明るい中ではっきりと彼女の顔を確認するも、今まで見たことがない。ということは今日が社交界のデビューであったか。可憐な姿ながら踊るダンスは完璧で素晴らしい。どんな相手にも合わせて狂いなく踊る姿は、初めての夜会とは思えない堂々たる姿だ。

そして、彼女の光に中てられた男どもがひっきりなしに誘いに行く。

断ることなく次々に踊る彼女。

自分も誘いに行けばいいものを、できずに遠巻きに見つめるだけ。というのも、自分の元にも令嬢が群がっているから身動きが取れないのだ。


次期トパーズ公爵・次期宰相。それに加えて誰からも賛美されるこの容姿。


欲望に瞳を染めた令嬢たちを寄せ付けるには充分な甘露。

適当にあしらいつつ、彼女を常に視界に入れる。


しかし彼女は私を見ることなく、次々に現れる男どもに微笑みかける。

それを見ているとモヤモヤとしたものが心を覆う。

彼女が悪いわけでもない。


嫉妬。


すぐに私は認識した。このどす黒い感情の意味を。

そしてそれを、彼女を見つめる視線に乗せてしまっていた。八つ当たりだと知りつつも。




彼女と初めて視線が絡んだ時。

彼女は瞠目し、しばらくこちらを見つめていた。そして……彼女が先に視線を逸らせた。

やっと目が合ったのに逸らされてしまったのは、きっとこの黒い感情が伝わってしまったから。

熱すぎる気持ちは熱すぎて、逆に冷たく感じたのだろう。


彼女はどこの姫君か。

庭園に呼びに来た男が誰か判別できなかったので、未だ彼女の正体は不明のまま。

視界の彼女はダンスをやめて壁の花になろうとしていたのだが、男たちがそれを許さず、壁際にハーレムを築きあげている。


ああ、彼女が困っているじゃないか。


行って、周りの男どもを一人残らずつまみ出したい衝動に駆られる。

そして彼女が救いを求めたのは一人の青年。ああ、彼は確かアウイン侯爵家のクロード殿だったか。父上とは違って騎士になっていたな。

クロード殿が男どもをかき分けて彼女に寄り添い、何かを言っている。ここからは何を言ったのか聞こえないが、あからさまにほっとした様子の彼女を見れば、彼は彼女に期待通り救いの手を差し伸べたのだろう。

二人が親しげに話す姿にも切なくなる。クロード殿はアウイン侯爵殿とその奥方のいいところをとっているから美形で有名だ。可憐な彼女と並んでいる様は一対の人形の様。


クロード殿は貴女の何? どうしてそんなに親しげに微笑む?


そんな二人が向かったのは、アウイン侯爵夫妻の元。侯爵殿と何やら話をした彼女たちは、私の父親――トパーズ公爵のところへ4人揃って行き、そのまま退出して行ってしまった。


最後にまた、彼女と目が合ったのだが、やはり彼女から逸らされてしまった。




「アウイン侯爵家のご令嬢ですか? お見かけしたことがない」

彼女たちが退出した後、すぐさま父上のところに行き、彼女のことを聞き出した。

期待を込めるが、素振りは見せない。

「ああ、そうだよ。クリステル嬢は今日がデビューだったんだよ。奥方に似てかわいいお嬢さんだ」

うちには女の子がいない。私と5つ下の弟のオーギュストだけだ。だからか父上は、

「女の子は華があるね。あんな美少女がうちの娘だったらなぁ」

などと言いながらニコニコしている。しかしよく見ると意味深にこちらを見ている。だからと言ってあたふたする私でもなく。

「では養女にいただいたらどうですか」

何事もないように私が言えば、

「そんなことしたら侯爵殿に殺される」

きっぱりと言い切る父上。確かに侯爵殿は怒らせるととんでもなく怖い人だからな。

とりあえず父上のおかげで彼女の名前は判った。


クリステル。


ああ、月虹の舞姫は意外と身近なところにいたんだな……。




遠目に見た、淡紫の瞳。

あの瞳に、私一人を映してもらいたいと願った。




彼女に近付きたいと思うも、手段はよくなかった。

たまたま我が家でお茶をしていると聞き、ささやかな花束を作って渡そうとしたのも、オーギュストと仲良くしているところを見てしまい、嫉妬と苛立ちから手にした花束をぶつけてしまった。

少しだけドレスを汚して、お詫びにドレスをプレゼントしようと思ったのだが、思った以上にお茶がこぼれてしまい、動揺のあまりに彼女に何も告げられなかった。

アクセサリーを贈ろうと、彼女の瞳を意識した首飾りと耳飾りを作らせたのに、もたもたしているうちに機を失い、窃盗まがいに彼女持参のものを隠し『王妃様から』と偽って押し付けた。

そして、何よりも。

自分の態度の拙さから、会えば彼女に怯えられるようになってしまった。


自業自得。


わかっている。

何もかも、素直に感情を現さなかった自分のせいだ。


それでも、怯えた瞳ながらもいつも私を見つめるのはなぜ?

視線が交わるのはなぜ?


少しは私のことを気にかけてくれているのだろうか……?




彼女が自ら隣国王子の元へ嫁ぎたいと言い出したと聞いた時には冷や水を浴びせられた心地がした。

淡い期待は粉々に砕け散る。


どんなに想っても届かない人になってしまう――


夜会のダンスフロアで、隣国王子と親しげに語らう姿を見て、思わず奪うようにダンスを申し込んでしまった。

初めて握った彼女の手はあまりにも華奢で、壊れ物のようで。

壊れ物ならば我が手で壊してしまえ――そんな昏い思いに喰われてしまったのか、彼女の手をきつくきつく握り締めてしまった。

きつく握られた手の痛みからか、不思議そうに私を見上げる彼女を連れてこの場から逃げ去りたいとまで思った。

しかし、それはできない。


しかし、婚約も確定ではない。


ならば自分にできることはしておきたいと思った。


彼女にこの想いを伝える。


伝えて砕けるならば、それは定め、と。

夜会を後にする彼女の背中に向かって決意を固める。




夜が更けて。

奇しくも今宵はあの日と同じく月虹のかかる美しい夜。


私は彼女への想いを胸に、アウイン家の庭へと移動魔法の陣を展開した――


今日もありがとうございました(^^)


プレゼントは正々堂々と渡しましょう!(笑)

好きな子ほどいじめたい? ん~、違いますね~。悪い方向にばかり転がっただけで。( ̄▽ ̄;)

ほんとはステラにぞっこんなのです☆


一応これで完結としておきますが、また思いついたら番外編書きたいと思っています m( _ _ )m

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