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月の下に香る

 2013/8/13日。貴女を初めて見かけた。花火大会の終盤で。最後に打ち上がる夜空を埋め尽くす火の粉が、貴女を照らし、まるで手に落ちた雪の結晶のように遅く儚く消えていく。心に残った美しさ、あの美しさを私はいつまでも忘れることはないだろう。


 2013/9/1日。自宅近くのカフェでたまたま友人と居た貴女と出会う。花の話、コーヒーの話、他の友人の話。他愛のない話で盛り上がる貴女の笑顔に癒された。甘い匂いや甘い味、甘いものに弱いと聞き、私も甘いものに挑戦してみようと思った。


 2013/10/23日。貴女と一緒に見に行った紅葉。赤、茶、黄、緑。そのどれもが、美しくその景色の主人公になるはずの紅葉は、私の前では脇役に徹底する。私の撮った写真に映る水色の服を着た貴女の後ろ姿はどの色よりも美しかった。


 2013/12/25日。遠くから、人混みの中、一人でスケートを楽しむ貴女を見ていた。たまにこちらの方に顔を向け笑う貴女の顔は私から冬の寒さを奪い、早くも黄色い暖かさを感じさせてくれた。


 2014/4/6日。少しずつ暖かくなってきた朝。駅に向かって雪解け道を歩く。暖かくなってきたとはしゃぎながら半袖を着てきた貴女に私は思わず笑ってしまった。不思議そうにこちらをみる貴女の顔はとても可愛らしかった。


 2014/9/10日。夕暮れが早くなり、駆け足になる。暗くなるのが怖いと話している。帰り道は私もいるから、大丈夫なのに不安そうにこちらを見つめる貴女を夕暮れが照らす。逆光により少し暗いその表情は儚さを演出しとても美しかった。


 2016/8/13日。久々に行った花火大会で貴女を初めて見た時を思い出す。しかしもう私は貴女の近くに寄り添うことはできない。たくさんの人に邪魔をされるから。


2017/8/2日。貴女にはもう会えないと分かって、帽子を深く被り自宅を出る。手向けの花を持ち、貴女の家のインターホンを鳴らす。出てきた貴女の父親と母親はどこか不安そうな顔をしていた。


 2017/8/3日。夜中。貴女の家で手向けの花に隠し持っていた刃物を洗う。赤く染まった貴女の服を脱がせ、水色の服を着せる。貴女には赤じゃなくて、水色が似合うんだよ。大きく、はるか彼方に登る月の下に、貴女を香る。






 ゛被告人による、長年に渡るストーカーの記録です。犯行に使われた包丁や花は自身の自宅に保管されていたようです。以上で証拠の提示を終わります〟


 ゛では被告人尋問に移ります。弁護人お願いします〟


 私に対する裁判が行われている。検察は証拠を提出し弁護人は私の反省を引き出してくれた。そして最後に裁判官からの質問がきた。


 ゛なぜ殺人をしてしまったのですか〟


 「近づくのは危険だと分かっていても、あの人を愛してしまっていたからです。私からお願いがあります。あの人の墓に月下香(げっかこう)を添えてください。彼女は甘い匂いが好きでしたから」


 ゛では判決を出します〟


 その日、法廷に力強い木槌の音が響き渡る




 


 

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