蒼の季-34.色
「今日はここまでですね。畑の土と日陰が完成したら、また使いを出します」
「わかりました。楽しみにしております」
ウィランは既に、数人に指示を出しながら魔法の展開を考えている。
掛けられた肩布の色で、その人の属性が想像できる。
「四つの属性の魔法を使うには、人手が必要ですね」
その姿を、隣で一緒に眺めるミオルは小さく笑った。
「そのうち、ウィランは1人で四属性を使っていそうですが……」
「まさかと思いますが……古の魔術師は、区切りなく魔術を使ったそうですから……あり得るかもしれません」
ミオルは目を見開いてこちらを向く。
驚き……よりも、感嘆だろうか。
その瞳は強い好奇心が見て取れる。
「……魔術師……神話の世界の話だと思っていました……あらゆる魔術を自在に操る……今の整えられた魔法の体系とはだいぶ違う」
「……詳しくは分かりませんが、今よりももっと……法ではなく術だったのだと思います。決まった方法で形にするのではなく、魔素と共鳴して思うように使う術。もっと自由だったのではないでしょうか」
「だから、魔術師……なのですね。アルデニアでは、魔法士と呼ばれます」
魔法士。
魔素が感覚で捉えられない人でも、魔法を扱える仕組みだ。
すでに構築された決まった陣を使うなら、それできっと問題ない。
むしろ、整理されることによって安定した魔法が使える。
その分……魔素を感じ取るという必要もなくなってしまったのかもしれない。
「……ミオル様やウィラン様は、陣にそこまで依存していないように見えるのは……臨機応変に組み替えているから……ですか?」
2人の魔法は、思った時に思ったように発動している気がする。
発動も早く、融通が利くように見える。
「組み替えている……というより、曖昧に発動している感じでしょうか……例えば、治癒の発動範囲や強さを細かく決めるのではなく、なんとなく思い描く。大掛かりなものは無理ですが、小さなものならそれで問題ありません。陣が組み上がる前に終わってしまう事もあります」
それはもう、自分の意思で魔素を動かしている状態に近いのではないか。
陣が魔法を発動する役割は、どの程度なのだろう。
「それは……古の魔術に近いような気がしますね。魔素を明確に捉えられる人でないと、動かすこともできませんから……」
「陣が魔素を動かし、発動するものだと思っていますが……」
「でも、陣が完成する前に魔法が終わっていることもあるのですよね? だったら、陣は意思を示す鍵のような……魔法を発動させるきっかけでしかないのかもしれません。魔素は物質ですから、力が加わらないと動かないと思います」
「ぼくが……魔素を動かしている……陣を使わずに……?」
ミオルの視線は、そこにある魔素を見るように遠くへ向いた。
少し離れていたところで指示を出していたウィランも、こちらの話が気になっているようだ。
ウィランの気配が……とても熱を持っている気がする。
「……例えば、ですが。ミオル様が遠くにあるコップを取りたいと思ったとして、思っただけでコップは動きますか?」
「無理です……ね」
「大きさは違いますが、魔素も物質です。酸素を取り込むのも、息を吸うという力が加わっています。魔素もそういう、何かしらの力がないと動きません。それを陣が行っていると思っていたのですが……もしかしたら違うのかも……と」
どうやら、熱の持ち主は我慢ができなくなったようだ。
早口で指示を伝え、すごい勢いで走って来る。
顔がやたら前のめりになっている気がする。
あまりにも、瞳が輝き過ぎているのだ。
「ルティナ殿、それは! それは、もしかしたら実際に見れば理解できるのでは?」
ウィランは、今にも爆発しそうなほど興奮している。
握りしめられたペンが折れてしまうのではないか。
こういう姿も、何度も目にするうちに案外慣れてくるものだ。
「そうですね……陣を使う魔法と、そうじゃない魔法の差があるのなら……」
ルティナもこういうのは好きだ。
理解できるのは単純に面白い。
ミオルとの会話は頭の中で進行する静かなものだが、ウィランとはだいたいこういう展開になる。
「じゃあ、僕がやってみるので、見てもらえますか?!」
「分かりました。少しゆっくり目にお願いしてもよろしいですか?」
ミオルがルティナの隣に立って、何かに備えているようだ。
いることを忘れてしまうほど気配を消していたセラも、ルティナの後ろに控える。
ルティナは呼吸を整え、額に丁寧に意識を込める。
ウィランの魔素が動く。
淡い翡翠色をしたウィランの魔素は、以前よりも光が強くなったように見える。
手首に陣が組み上がるのは、一瞬だった。
この速度は、思考が巡る速度に比例するのかもしれない。
瞬間的に体内の魔素が応えている。そんな印象だ。
一段色が濃くなった陣は左に回り、生み出された風は庭を駆け巡る。
しなやかな一筋の風は、ルティナの髪を揺らしたあと、彼方へと消えた。
ウィランの風は、洗練されよく研がれた風だ。
ひと呼吸おいて、ウィランがルティナに視線を送る。
ルティナは小さく受けて、集中する。
陣を作らない魔法なら、それはきっと一瞬だ。
感覚の中で、魔素が動くのが視えた。
でもそれは世界に溢れる魔素ではなく、ウィランの魔素だった。
彼の指先から、翡翠色の魔素が外の世界へ流れ出る。
それは細い糸のように僅かだが、確かに翡翠色を持っている。
翡翠色に引き寄せられるように、世界に溢れる銀鼠の魔素が動く。
――銀鼠が染まる。
それは、共鳴だ。
翡翠の意思に共鳴し、その意思を受け取った。
翡翠に染まった魔素は、まるで何かを追いかけるようにその場で動いた。
それは小さな風が起こると同時に、色と共に消えた。
世界が……人に応えた。
今までで一番分かりやすい形で、人の意思に応えるのを見た。
霊素を扱うとき、どちらかと言えばこちらが合わせていく感覚だ。
霊素が巡るままに、こちらがほんの少しだけ後押しする。
こちらの思うように動かせるものではないから、霊素の本質を理解して、外れないように動かす。
調律も、響律もそうだ。
でも、これは逆だ。
人の意思に、魔素が寄り添っている。
霊素と魔素も、この世界では対のように存在する。
霊素は根源、魔素は現象。
この2つが、この世界を作っている。
心が、深さを増した。
ウィランやミオルと出会って、新たに心に植えられた種が、今芽吹いた。
魔法は、世界が人を受け入れた証だ。
そして――
調律と響律は、人が世界を信頼し、受け入れた証だ。
また……ユアンの言った通りになった。
「どうでしたか?!」
ウィランの声と足音だけが聞こえる。
ミオルの手が、そっと背中に添えられた。
なぜか、身体が震えている。
これは心が震えているからだろうか。
そうか、また涙が溢れているのか。
彼らといるといつもそうだ。
泣かずにいられることの方が少ない。
この涙は、清々しい涙だ。
人に、世界に、この感動を見てもらいたい。
心に溢れる理解と感謝を、この2人はきっと、同じように感じるはずだ。
「魔素を放つ……魔法ではなく……?」
ウィランは指先をこすり合わせながら、斜めに視線をずらす。
ミオルは目を閉じたまま、静かにうつむいた。
「ミオル様は……陣を身体から離れたところにも展開されますから、結局はそれも同じことなのではないでしょうか。陣は体内の魔素で組み上げるもの、それを外で組んでいるのなら……」
「確かに! 魔素を身体の外で扱っていることになる」
ミオルは理論型に見えて、実は感覚で魔法を発動しているのかもしれない。
なんというか、息をするように魔法を使うのだ。
「あと、見ていて思ったのは……陣は確かに、魔素を引き寄せていました。そして、しっかり構築した方が魔素が緻密というか……濃かったように思います。陣を組まずに発動した魔法は、なんとなくそう動く程度の、淡い魔法に感じました」
「それは体感で分かります。陣を組まない方は、発動する魔法のイメージをなんとなく持つ程度なのです」
「陣の組み上がる速度も、人によってだいぶ差があるのを感じます。ウィラン様の陣は一瞬で組み上がったので驚きました……」
「かなりゆっくり組んだのですが……なるほど、そこも個人差か……」
ウィランは、独り言をつぶやきながら頭の中を整理し始めた。
しばらくは頭の中に籠っていそうだ。
「ルティナ殿、ちょっと見ていて下さいますか?」
ミオルはルティナから少し離れ、何かをしようとしている。
今までの無駄のない美しい動きとは違う、とてもぎこちない魔素の動きだ。
ミオルの意識が集まっている先をよく見ると――
ルティナは、ぎょっとした。
魔素が2色視える。
淡く光る水色の魔素が、空中に陣を浮かび上がらせる。
それはとても美しく、いつも通り流れるように組み上がっていく。
その陣に重なるように、ミオルから緑色の魔素が流れていくのだ。
ミオルの手の中には、緑色の魔導石が握られている。
緑の魔素は、ミオルから離れると色んなところに動いてしまう。
遊びたがる魔素を必死に諭しているようで、なんだか可愛らしい光景だ。
緑色は揺ら揺らと不安定に動きながら、でも確かに陣に流れ込んでいく。
水色の陣が徐々に色を変え、淡い青緑に変わった瞬間――
水飛沫が宙を舞った。
左に回る風の渦が、水を吹き上げ撒き散らす。
まったく制御ができていないその魔法は、激しく吹き上がり地面に落ちる。
まるで……人工の雨のように降り注ぐ水は、その場にいる全員を水で濡らした。
訳が分からない全員が、すでに何もない空を見上げている。
本人はまったく動かないまま、ただ陣があった場所を見つめている。
水が滴り、陽射しできらきらと輝くミオルは、まばゆいばかりの美しさだ。
彼ほど水が似合う人はいないのではないか。
「失敗……ですね」
最初に口から出た言葉が、沈黙の中に切なく響いた。
そのしゅんとした横顔には、普段の整ったミオルからは想像できないほど、人の温度があった。
「おそらく初めての……」
ルティナは、濡れた髪を耳にかけながら言葉を繋いだ。
「……1人で作る複合魔法陣……ですから、むしろ大成功ではないでしょうか? しっかり水と風が合わさっておりましたし、わたしのところまで風が届いていましたから……間違いなく大成功です」
ミオルと瞳が合うと、妙な笑いが込み上げてくる。
お互いにずぶ濡れだ。
近くにいたミオルと自分が、一番水をかぶったようだった。
空気が動き始めると、ロイは慌てたように動き始める。
セラも拭く物を取りに走ったようだ。
ずぶ濡れの2人の周りを、興奮したままのウィランの風が吹き抜ける。
どうやら乾かそうとしてくれているが、あまりにも風が強い。
髪が顔にかかって前が見えない。
その状況すら、おかしくてたまらないのだ。
「ふふふっ」
ルティナは吹き出した。
それを合図に、そこにいる全員が理由の分からない笑い声を上げた。
目尻を下げて笑うミオル。
興奮が冷めないまま、高らかに声を上げるウィラン。
つられて笑う、ロイとジュード。
作業を進めていた魔法士たち。
全員が、同じように笑った。
その声はこの庭を越え、空にまで届きそうだった。
急いで戻って来たセラは、何が何だか分からないという顔だ。
「ご迷惑をおかけしてしまいました。着替えを用意させましょう。セラ、アレグが執務室にいますから案内してもらって下さい」
ずぶ濡れで髪も乱れたルティナの姿を見て、ミオルは冷静になったようだ。
「かしこまりました。ルティナ様、参りましょう」
「わたしは大丈夫です、離れに戻れば着替えられますし、この陽射しなら乾きそうですから……」
「駄目です、参りますよ」
ミオルが答えるより先に、セラが前を塞いだ。
漏れ出している圧で、逆らうことが許されないのを理解した。
「……では、お世話になります。また戻りますので、籠に詰めてあるレイは召し上がって下さい。ロイ様が食べ方をご存じですので……」
小さく頷いたミオルにお辞儀をして、セラに付いていく。
後ろで、ミオルに詰め寄り質問攻めにしているウィランの声が聞こえた。
その姿を想像するのは、呼吸をするより簡単だった。
案内された部屋では、それは丁寧に整えてもらった。
湯に浸かり、髪と肌は丁寧に艶出しをされ、目の前に並べられた服はアルデニアらしい華やかな衣装だった。
まだこれから畑に出るつもりだし、動きにくいのは避けたい。
着替えは断ろうとしたが、セラは頑として譲らなかった。
仕方なく、一番シンプルなものを選んだ。
淡い紫と灰色のドレスで、あまり大きく広がらないものだ。
シンプルだが、やはり貴族の装いであることに変わりはない。
銀糸の刺繡やレースは見事で、引っ掛けたら大変なことになりそうだ。
靴はサイズが合うものがほとんどなく、踵がなく紐で結うものになった。
これはこれで、とても華やかだ。
髪はセラが整えてくれた。
いつも下ろしている髪を、ほぼ編み上げてすっきりした。
セラはこういうこともできるのかと、感心してしまう。
そして、それをする姿がとても楽しそうだったのだ。
ユアンに付いているのなら、女性の身支度を整えることなどほとんどないだろう。
セラが楽しそうなのを見るのはとても嬉しいものだ。
「セラはこういうのが好きなのですか?」
髪飾りを選びながら嬉しそうに微笑む姿は、少女のようだ。
「私は自分は動きにくいのが嫌なのでしませんが、人を飾るのはとても楽しいですね。ユアン様は、あまり着飾るのを好みませんし、身支度も自分でしてしまいますから……もう少し飾っても良いと思うのですが……」
「わたしはあまりこういうことが出来ないので、感心してしまいます。髪もいつも同じ編み方になりますし。アマヒトの礼装は独特ですからね……手伝ってもらうのも難しそうですね」
セラは分かりやすく心が跳ねた。
顔だけは平静を装っているが、空気には滲んでいる。
「教えていただけるのなら、いつでもお手伝いいたしますよ。あの礼装はとても幻想的で美しかったので、後ろから見惚れておりました」
「そうですか? 布や紐がいくつもあるので着るのは大変ですし、重いのですよ? ただ、一番上に重ねるものだけ変えると印象が変わるので、その点はとても便利です。いくつも揃えなくても、飾り紐や合わせの色で、見せ方を変えられます」
「なるほど……それはいっそう楽しそうですね」
「今度着る機会があれば、お見せしますね。もうあまりないかもしれませんが……」
「いえ、そのうち……あると思います」
含みのある言い方が気になったが、聞く前に準備が整ったようだ。
鏡の前に立つと、これはいったい誰だろうか。
自画自賛も甚だしいが、風の国の妖精のようだ。
淡い色合いでまとめられ、美しく結い上げられた髪とはらりと落ちるおくれ毛が、儚い女性を演出している。
こんなに雰囲気を作る必要があったのだろうか。
「……人は、こんなに変わるのですね。わたしはどこに行くのでしょうか……これから畑に出るのが申し訳ないです……汚してしまったら……」
「大丈夫です。ミオル様のご指示ですから、何も問題はありません」
「そう、ですか? では、戻りましょうか……」
この姿で人前に出るのが、異様に恥ずかしく感じるのはなぜだろう……。
セラと一緒に戻る途中、窓から下の裏庭が見えた。
そこでは、相変わらず何かが試されているようだ。
ウィランはレイを片手に持ち、頬張りながら何か魔法を試そうとしている。
離れた場所から眺めているミオルも、レイを食べてくれているようだ。
ジュードは呆れながらも付き合い、ロイはミオルが食べる姿を見守っている。
その光景は、とても楽しそうだ。
前から誰かが歩いて来る。
こちらに気付き駆け寄って来たのは、アルヴィンとオルフェスだ。
数人一緒にいるのは、まだ会ったことのない人達だ。
「ルティナ殿……今日はまた……普段と違った雰囲気だね。とても良くお似合いだ」
「ええ、一段とお美しくいらっしゃる」
この、微妙な空気はなんだろう。
後ろに控えている人たちは、珍しそうにちらちらと視線を向けてくる。
「そうか、今日は畑を作るんだったね。進み具合はどうだい?」
「はい、上手く進みそうです。ちょっと予想外のことがあって、水をかぶってしまったので着替えをお借りしたところです……」
「予想外……? 大丈夫だったのか?」
心配そうな顔をするアルヴィンは、下の庭に目をやった。
そして眉がぴくりと動く。
「ち、違います! ウィラン様ではありません、ミオル様が……」
「ミオルが? 何をしたんだ?」
「ちょっと……複合魔法陣を試されたのですが……風が水を撒き散らしまして……」
「ほぉ……また面白そうなことをしているな」
今度はにやりと笑う。
横にいるオルフェスが、その話を遮った。
「アルヴィン様、急ぎましょう」
「……ああ、そうだな。ルティナ殿、届けてくれたレイ早速いただいたよ。とても美味しかった。ぜひ作り方を教えて欲しいとナーシャが」
「それは良かったです。今度レシピをお持ちいたします」
「またゆっくり話をしたい。使いを出すよ」
「はい、お待ちしております」
アルヴィンが立ち去ろうとすると、後ろに控えていた中の1人が前に進み出てお辞儀をした。
オルフェスが少し眉をひそめたのを、ルティナは目の端に捉えた。
「ぜひご挨拶をさせて下さい。四家近衛レグイス・フォートと申します」
堂々とした雰囲気だ。
自信に満ちているのだろうか。
真っ直ぐに向けてくる遠慮のない視線が、少し重く感じる。
「こちらで学ばせて頂いております、ルティナと申します」
「ルティナ殿、美しい名の通り、儚く咲いた花のようにお美しいですね」
「……恐れ入ります」
別に嫌な感情は持っていない。
だが、なぜかとても……絡みつくような気配を感じる。
「ルティナ様、ミオル様とウィラン様がお待ちです。参りましょう」
セラがすっと横に入り、手で促してくれた。
わざわざ2人の名前を出すのは、この人に対する牽制のように聞こえた。
「失礼いたします」
ルティナは軽くお辞儀をして、セラの後ろを歩いた。
背中に感じる視線が、肩にのしかかる。
階段の途中に差し掛かると、セラが振り返った。
「あの方は、四家のすぐ下にあるフォート家の者で、近々四家近衛の筆頭になると言われる方です。実力もあり、悪い人ではありませんが……少し女性に対して奔放な方なので、注意した方がよろしいかと思います」
「なるほど……」
女性に対して奔放……とは、どの程度のことをいうのだろうか。
どちらにしても、あまり関係ないことのように思える。
そんなに顔を合わせる機会もないだろう。
正直、あの視線は苦手だ。
「そうですか、分かりました。会わないに越したことはないですね」
セラは前を向き歩き始めたが、その背中からは先ほどとは違う何かが滲んでいた。
裏庭に戻ると、全員の視線がこちらに向いた。
ここでも珍しく、とても遠慮のない視線だった。
レグイスとはまったく違うが、これはこれで少しくすぐったい。
「ルティナ様はアルデニアの装いも、とてもお似合いになりますね」
「一瞬、人とは思えませんでした」
ロイとジュードは顔を見合わせて、大げさに褒めてくれた。
「あの装いを見慣れていると、逆に神秘的に感じますね。とてもお似合いです」
ウィランもさすが王族だ。
魔法に夢中でも、しっかりと褒め言葉を口にする。
セラの空気がとても弾んでいるのは、喜んでくれているのだろうか。
その後ろで、立ったままじっとこちらを見ているのはミオルだった。
笑顔でもなく、驚きでもなく、ただありのままを見ているだけの瞳だ。
「……とても、美しいです」
そのひと言に乗った感情が、ルティナを包んだ。
温かく、ただ優しい空気に、首に残った嫌な感触は洗い流された。
「……恐れ入ります。この服で畑に来るのが申し訳なくて……汚さないように気を付けます……」
「これだけお似合いになるなら、これはあなたのために用意されたものでしょう。日頃の感謝も込めて、一式贈らせてください」
「そんなとんでもないです」
こんなものを貰うなんて、とても考えられない。
そもそも着ていく場所もないのだ。
「おや、じゃあ仕立てましょうか。確かに、その方が気に入ったものに仕上がるかもしれませんね」
「それもいいですね! ルティナ様ならなんでも似合ってしまいそうです」
ロイまで乗り気だ。
このおかしな空気を、何とかして欲しい。
「……皆様ご報告致します。先ほど、上でアルヴィン様、オルフェス様におめにかかりました。四家近衛もその場におりまして、レグイス・フォート様にもご挨拶いただきました」
一番嫌な顔をしたのはジュードだった。
普段はそういうのをあまり表に出さないが、心が緩んでいたのか、顔が歪んだ。
ロイは少し冷えた目をしている。
「ふむ、分かりました。気にしておきましょう」
「セラはどう思ったんだ?」
ウィランが振り向きながら言葉を飛ばした。
「……その場にアルヴィン様もいらっしゃって、ルティナ様と打ち解けて話しておられましたので……」
「そうか。分かった」
ウィランは何も言わず、魔法の検証を再開する。
小さくため息を吐いたのはミオルだった。
「まったく……」
「アルヴィン様は知らないのではありませんか? あまりそういう話が届くとは思いませんが……」
「噂に関してはそうですが、自分が親しくしていることを見せること自体が浅慮ですね。……彼の目にはレグイスは入っていないのかもしれませんが」
アルヴィンにこの言葉を言えるのは、この国の中では彼だけだろう。
この会話を聞いて、レグイスには関わらないようにしようと、心に決めた。




