ボクは言いがかりをつけられる
「お前、後藤さんが攻撃していた『鬼』を横殴りして倒したんだってな」
話しかけてきたのは同級生のハンターだ。体格の良さから、装備品を多く持てる『重装備』を持っているのだろう。典型的な重装備キャラだ。大量の手りゅう弾をばらまくか、重い銃を持つか。そんなタイプ。
「横殴りぃ?」
横殴り。他の人が戦っている敵キャラに許可なく殴りかかる行為だ。ゾンビのドロップ権は殴った人間とそのパーティにのみ存在するので、横殴りは基本推奨されない。端的に言えば、漁夫の利を得ようとする行為なのだ。
「……って、もしかして?」
そういえば、『鬼』に挑む前に後藤とぶつかったっけ?
おそらく洋子が来る前に『鬼』と戦ってたんだろうから、そういう意味では『後藤が攻撃したゾンビを許可なく殴った』ととれなくもない。ないけどさぁ。
「思い当たる節があるようだな?」
「いやないよ。だって後藤、逃げて行ったじゃないか。一緒に殴る、って誘っても断って――」
「誰が逃げたって? 聞き捨てならないなぁ」
肩をすくめる洋子の背後から、何かを咎めるような強い口調で話しかけてくる声が聞こえてきた。後藤当人だ。顔を真っ赤にしているが、要するに洋子に都合の悪いことを喋ってほしくないのだろう。
「ちょっと、話しようじゃねぇか。こっち来いよ」
「やだよ。ボクはこれからご飯食べるんだから」
「うるせぇ! 黙ってハンターランク10の俺様の言う事に従いやがれ!」
席に座ろうとする洋子の肩を掴む後藤。他の人達も、ランク10のハンター様の言葉には逆らえないようだ。あるいは、後藤という大樹に巻かれたいのかにやにや笑っていた。
「ふん、つまらないですわね。それぐらいにしなさい、敗者」
「なんだ? その羽根は光華学園のモノか?」
そんな後藤を鼻で笑うように福子ちゃんが制止をかける。
「貴方は逃げたのです。それは私もしっかりと確認していますわ」
「逃げたんじゃねぇ! ウィルスを鎮静化させると同時に、射撃ポジションを確保するために移動中だったんだ!」
「結果としてそれを得られず、逃げ帰ったんでしょう?」
「黙れ! どの道、横殴りしたことには変わりねぇ! あともう少しで倒せるところだったのに!」
後藤と福子ちゃんの口論は、そこから平行線になる。
逃げた逃げてないというのは、第三者から見ればわからない事だ。そして事実として、洋子より先に後藤がいて、先に戦っていたのも事実なのだ。
あの時の『鬼』の様子から察するに、たいしてダメージは与えてなかったのは確かだ。精々ライフルを3か4発当てた程度。後藤の取り巻き二人が倒れてゾンビ化し、身を守る術がなくなった所にキツイ一撃を喰らって逃亡したんだろう。
「だいたいなぁ! ランク0のネタ武器女があの『鬼』を倒したなんて誰が信じる!? なあ、お前ら!」
「そうだそうだ! あんな武器で『鬼』を倒せるわけないだろうが!」
「だいたいランク0であそこまで行けるわけがない! そこの光華学園の女に付き添っただけなんだろうが!」
ヒートアップした後藤の矛先が、こっちを向く。そしてそれに乗じるように後藤の取り巻きと思われる人たちも乗ってきた。
「ありえねぇんだよ! あんなネタ武器で近接パワーゾンビの『鬼』を倒すなんて! 嘘も休み休み言いやがれ!」
「全くだ。そんな簡単に倒せるわけがない! ランク10の後藤さんですら、どうにか勝てるかどうかぐらいなのにな!」
「たまたま傍にいて横殴りしただけのネタ女が! 恥を知れ!」
とことんヒートアップする生徒達。うわぁ、容赦ないなぁ。
人間、ストレスのはけ口があるとどんどん加速していく。『自分が正しい』という燃料が理性のブレーキを溶かしていくのだ。
「――恥を知るのは貴方達です! ヨーコ先輩は『鬼』を倒しました! この『鬼の角』が証拠ですわ!」
「それこそ犬塚が倒してドロップしたかどうかなんて、証拠はないだろうが! 大体お前も――」
「でも少なくとも、ライフルでこの切り傷は無理なんじゃないかな?」
その矛先が福子ちゃんに向きそうになったので、口を挟む。
部位破壊系のドロップアイテムは、その部位をどの属性で攻撃したかでドロップ率が変化する。ライフルなどの弾丸は貫通系で、『鬼の角』のドロップには適さない。バス停などの斬撃系が適しているのだ。
「そ、そうかもしれないけど――」
「まあ、この話は一旦保留にした方がいいかな? ここは皆が使う学食だ。大声で口論する場所じゃない。
っていうか、ご飯冷めちゃうよ。福子ちゃんも座って」
話を無理やり収める為に、手を振る洋子。福子ちゃんを促し、近くのテーブルに座った。
「おい。無理やり誤魔化すんじゃねぇよ。ランク10の俺様に逆らうなんざ――」
「あ、さっき付けでボクのランク12になったんで」
なおも言い寄ってくる後藤に、生徒手帳を見せる洋子。そこには申請されたハンターランクが記載されていた。
「何っ!? ば、馬鹿な、ありえねぇ! テメェ、ズルしたな!」
「してないよ。きちんと『鬼』倒して、正当にランクを上げたんだから。
キミも『鬼』を倒せば、それぐらい行くんじゃないの?」
「……ちっ! そいつも横殴りして得たドロップアイテムのおかげだろうが!」
言いながら背を向ける後藤。
ランクが自分より上なのは事実だから、『そのランクは俺の功績を奪った結果だ』と無理やり話を収めたのだ。
後藤の取り巻き達も、そう言う事なんだろうと納得して一緒に帰っていく。だけど、ある程度頭の働く人は疑問に思っているはずだ。どちらが正しいのだろうか、と。
ともあれ、少し冷めたご飯を食べ始める洋子と福子ちゃん。
「皆酷いです! ネタ武器ってだけでヨーコ先輩を信用せずに、あの嘘つきの言葉を信用して!」
福子ちゃんは怒りの声をあげながらパスタを口にしていた。
「まー。近接武器が信用されないのはしょうがないもん」
とかく、この『AoD』では近接武器は不利だ。ゾンビから攻撃を喰らう頻度も高く、かといってメリットもほとんどない。趣味以外の何物でもないのだ。
だからこそ洋子が『鬼』を倒したという話に信ぴょう性がない。あまりにも非常識な出来事なのだ。まだライフル使っているハンターの横殴りをしたという方が納得できる。
「確かにそうですけどっ! それでも頭ごなしに人の功績を否定されるのは許せませんわ!
大体ハンターランクで判断する今の風習も納得いきません!」
「あー。福子ちゃんもそこは納得できないんだ」
「当たり前です! カミラお姉様も言っていましたけど、戦えない人を守るのが、ハンターの務め。そこに権力や地位など不要なのです!」
「おー。初めてまともなハンターに出会えた気がする! うんうん。そうだよねー」
洋子の言葉に、ため息をつく福子ちゃん。
「……いいえ。残念ですけど『ハンター権』を賛同するハンターの方が多数派ですわ。どちらが『まとも』かと言われれば、やはりハンターランクを重んじる方の方になります」
「光華学園でもそうなの?」
「ええ。光華だけではなく、六学園全てがその思想に染まっていますわ」
ハンターを称え、ハンターでない者はハンターに尽くせ。ハンターの為に環境を整え、ハンターの為に生きよ。
そんな体制など、僕は許せない。人類平等を唱えるつもりはないけど、後藤のようなハンターを生んでしまうのは認められない。
「ヨーコ先輩がランク12になったから今の場は収まりましたけど、そうでなかったら暴徒となった彼らに襲われていたかもしれませんわ」
「ま、そうなったら逃げるけどね。ばびゅーん、って」
「……どうしてそんなに軽く考えられるのですか? 酷い言いがかりじゃないですか。もっと怒ってもいいと思うのに」
「ボクが正しい、ってことを知っている人がいるからかな。ボクの代わりに怒ってくれて、ありがとう。嬉しかったよ!」
「…………どうして、そういうセリフを恥ずかしげもなく言えるのかしら……もう。怒ってる私が馬鹿みたいですわ……」
真剣にお礼を言ったつもりなんだけど、福子ちゃんは表情を見せない様に顔を俯かせてそう呟いた。
うーん、何か間違ったかな?
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