PROLOGUE & 第一話 自然繁殖終了
一万五千字ちょっとの短い小説です。
PROLOGUE
色無き風が凩に変わる頃、第○次世界大戦が終わった。
文化文明は、壊されていない。
インフラも、破壊されていない。
社会は、動いている。
経済生活は、止まっていないように見える。
しかし。
条約で禁止されていた遺伝子兵器が使われた結果として、世界中の人類女性はじめすべての哺乳類のメスは生殖機能を失った。
人類男性とすべての哺乳類のオスは性欲を失った。
人類と哺乳類すべてが、繁殖することができなくなった。
今、存在している人類および哺乳類から、次世代が生まれなくなった。
人類と哺乳類滅亡へのカウントダウンが始まったということだ。
第一話 自然繁殖終了
「やっぱりだめですね。実験動物すべて、ことごとくメスがオスを拒絶します」
若い研究員がため息を吐いた。
「そもそも発情していないんだから受け入れるはずがないんだよなあ」
中堅の研究員が言う。
「体外受精や人工授精はどうなってる?」
上級の研究員が訊ねる。
「卵細胞が成熟しないんですから、受精させられませんよ」
訊ねられた中堅の研究員が投げ遣りに答えた。人間の女性も動物のメスも、卵細胞が成熟しない、排卵しないのだから、体外受精も人工授精もできない。未成熟な卵細胞を採取して、ホルモン剤で強制的に成熟させて人工授精させようと試みたりしているが、どれも受精にいたらないと、体外受精担当チームの報告書にはあった。
動物だけではない。
人間も、ただでさえ少子高齢化が深刻だったのに、いっさい子どもが生まれなくなった。
男性には性欲が無くなり、女性は生殖機能を失って生理が来なくなったのだから、当たり前だ。
「最後に人間の子どもが生まれたのはいつだ?」
「終戦の翌年の夏です」
それ以後に生まれた赤ん坊はすべて、死産だった。
終戦から二年が経過したが、世界中どこでもあれからすべての女性が妊娠も出産もしなくなって、子どもが生まれない。
人間だけではない。動物も、すべての哺乳類が生まれなくなって、生態系バランスが崩壊しつつあるし、食肉業界は大パニックに陥った。鳥類は遺伝子兵器の影響を受けていないから、鶏肉は問題無い。しかし牛肉と豚肉、羊肉は、一時は完全にストップした。現存するオリジナルを食べることは法律で厳重に禁止され、オリジナルからクローンを作ることが、世界中で最優先事項になった。
クローン生命体は倫理的に、とか、クローニングで生まれた食用肉は食べたくない、なんて、言っている場合ではなくなった。食べたくないなら食べなくていいよ、と言われて終わり。
人類とすべての哺乳類を、とりあえずクローンでいいから増やさなければ、絶滅してしまうのだ。
「このまま人類を滅亡させてなるものか」
クローン技術が確立されてからしばらくの間は人間を作ることは禁止されていたが、禁止されていた兵器が使われた以上、条約など守る意味が無い。座して滅亡を待つなど、科学者の沽券にかかわる。
科学者たちは国境も専門分野も越えて結託し、人工妊娠や体外受精、代理母や人工子宮、クローン技術と遺伝子操作技術を駆使して、人類及び哺乳類存続への可能性をさぐった。
もしも、万が一にも雌雄繁殖で自然妊娠したら自国政府に届け出るように、世界中の政府が御触れを出した。




