第51話 均衡機構、初出動
七王国均衡機構の成立から、二十三日。
大陸は静かだった。
だがその静けさは、嵐の前のものだった。
レギオンの均衡評議会室には、七人の代表が集まっている。
円卓の中央には、均衡機構の紋章。
王冠ではない。
剣でもない。
七つの円が重なり合う印。
それは「均衡」を意味していた。
そして今、その均衡が初めて試されようとしている。
*
「報告します」
記録官が立ち上がる。
「南方小国ルクサリア公国において、王位継承争いが勃発」
地図が広げられる。
ルクサリアは小さな国家だ。
人口も軍も少ない。
だが重要な場所にある。
七王国交易路の中継点。
「王が急死」
「後継争い」
「軍部が二派に分裂」
レオナが低く言う。
「典型的な内戦だな」
「はい」
記録官は続ける。
「すでに国境周辺に難民一万」
円卓に沈黙が落ちる。
一万。
それは放置できる数字ではない。
*
エルミナが腕を組む。
「市場はもう動いてるわ」
書類を机に置く。
「交易路が止まった」
「穀物価格が上がり始めてる」
サディークが言う。
「資源も同じだ」
ルクサリアの港は、小さいが重要だった。
ザハルの鉱物輸送の中継地でもある。
「放置すれば航路が止まる」
カミラが言う。
「民衆はもう動いている」
難民の映像が記録水晶に映る。
疲れた顔。
泣く子供。
兵士の警戒線。
「共和国ではすでに介入要求が出ている」
リュネが静かに言う。
「宗教衝突も起きているようです」
ルクサリアは二つの信仰が混在する国だった。
王の死が、その均衡を崩した。
*
カイエルが静かに言う。
「つまり」
「政治」
「市場」
「資源」
「民意」
「信仰」
五つが同時に動いている。
そして。
「軍事も、すぐに動く」
全員が理解する。
放置すれば内戦は拡大する。
そして周辺国を巻き込む。
それは歴史が何度も証明している。
*
レオナが言う。
「軍を送る」
即答だった。
「早期鎮圧が一番被害が少ない」
カミラがすぐに反論する。
「共和国は反対」
「内政干渉よ」
エルミナが言う。
「軍事介入は市場が嫌う」
サディーク。
「だが交易路は守る必要がある」
リュネ。
「宗教対立を軍が抑えれば逆効果」
議論が始まる。
それはまさに七王国の縮図だった。
*
その時、イリスが口を開いた。
静かな声。
「均衡評議会として」
円卓が静まる。
「最初の判断です」
誰もが理解する。
これは歴史になる。
均衡機構、初決断。
イリスは言う。
「全面介入はしません」
レオナが眉を動かす。
「だが放置もしません」
カイエルが言う。
「限定監視」
エルミナが理解する。
「市場介入」
カミラ。
「難民保護」
リュネ。
「宗教監視」
サディーク。
「航路防衛」
レオナは少し沈黙した。
そして言う。
「軍は?」
イリスは答える。
「国境監視のみ」
それは微妙な均衡だった。
戦争には入らない。
だが崩壊も防ぐ。
まさに「均衡」。
*
カイエルが言う。
「採決に入ります」
七つの国。
七つの票。
「限定監視介入案」
最初に手を上げたのはカミラだった。
「共和国、賛成」
次にエルミナ。
「マレク、賛成」
サディーク。
「ザハル、賛成」
リュネ。
「エルダリア、賛成」
カイエル。
「セレスタ、賛成」
五票。
すでに多数。
レオナは腕を組んだまま考えていた。
そして。
「ヴァルド、賛成」
最後にイリス。
「アウレリア、賛成」
満場一致だった。
*
カイエルが静かに言う。
「均衡評議会」
「初決定」
その言葉は小さい。
だが歴史を動かす。
「ルクサリア内戦」
「限定監視介入」
記録官が書き込む。
これが、均衡機構最初の命令になる。
*
円卓の外では、まだ誰も知らない。
大陸の秩序が、
今この瞬間、
初めて動き始めたことを。
そしてこの決定が、
未来の戦争を一つ減らしたかもしれないことを。
あるいは、
もっと大きな戦争の始まりかもしれないことを。
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