第35話 同時圧力
七王国会議まで、あと五日。
その朝、三つの報が同時に王城へ届いた。
*
「第一報」
フィオナが早口で告げる。
「マレク市場でアウレリア国債が大口売り」
「通貨が急落寸前」
*
「第二報」
アルヴェルトが続ける。
「ザハルが鉱物の短期輸出制限を発表」
「価格急騰」
*
「第三報」
レティシアが地図を広げる。
「ヴァルド軍、国境で大規模演習開始」
室内が凍る。
三方向。
軍事。
市場。
資源。
偶然ではない。
*
「同時圧力だな」
イリスは静かに言う。
制度を試す最後の揺さぶり。
「どうしますか」
フィオナが問う。
「通貨防衛を強化」
「準備金を段階投入」
「過剰反応はしない」
市場は恐怖に反応する。
恐怖を見せない。
*
商会会館。
「鉱物価格が跳ね上がった!」
「在庫が足りない!」
怒号が飛ぶ。
リリアは机を叩く。
「買い占めるな!」
「短期利益に走れば長期が崩れる!」
「でも損失が出る!」
「国家が崩れたら、その何倍も損失よ!」
沈黙。
彼女は深く息を吸う。
「七王国会議まで耐える」
「交渉の場を作る」
商人の戦いは、忍耐。
*
ヴァルド軍事王国。
レオナは報告を受ける。
「アウレリア軍、動かず」
「挑発に乗らないか」
小さく笑う。
「悪くない」
弱いなら慌てる。
慌てないなら、見極める価値がある。
*
マレク。
エルミナは数字を眺める。
「まだ崩れない」
「想定通りですか」
「ええ」
彼女はグラスを傾ける。
「崩すのが目的じゃない」
「耐えられるかを測る」
制度は、圧力に耐えてこそ商品価値がある。
*
ザハル。
サディークは静かに言う。
「アウレリアは反発していない」
「価格交渉に来るか」
「会議で来る」
沈黙は、相手を焦らす武器。
*
王城、夜。
リリアが訪れる。
「三方向から来ています」
「ええ」
「怖いですか」
「ええ」
イリスは正直に答える。
「でも逃げません」
短い沈黙。
「もし会議が失敗したら」
リリアが言う。
「王位選出制は揺らぐ」
「分かっています」
「それでも進む」
王位解体は、後戻りできない。
制度は前に進むしかない。
*
国境。
セラフィナは兵を見渡す。
「挑発に乗るな」
「撃つな」
兵がざわつく。
「だが越境すれば」
「撃つ」
明確な線。
制度は軍にも線を引く。
*
王都。
通貨は踏みとどまり。
鉱物価格は高止まり。
国境は緊張したまま。
同時圧力は、均衡を削る。
だが崩してはいない。
イリスは塔に立つ。
大陸は静かだ。
だがその静けさは、試練の重さだ。
七王国会議は目前。
ここを越えなければ、制度は認められない。
力。
利益。
信仰。
民意。
資源。
理念。
全てが、同時に押してくる。
均衡は細い。
だが、まだ切れてはいない。
次に揺れれば、決壊する。
だから。
会議で決める。
大陸の秩序を。
その覚悟を胸に、夜は更けていった。
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