第33話 初代再編王
王城の大広間は、かつてない静寂に包まれていた。
歓声はない。
喝采もない。
あるのは――見届ける覚悟だけだった。
玉座の前に立つのは、イリス。
豪奢な王衣ではない。
過度な装飾もない。
ただ、王国の紋章を簡素に刻んだ外套。
支えるのは、レティシア。
少し後ろには、アルヴェルト。
その隣にカイン。
さらに奥にはエリオット。
そして、群衆の中にレオンハルト。
もう王太子ではない。
ただの一人の王族として。
***
宰相グレゴールが宣言する。
「王国評議により、再編王制への移行をここに宣言する」
重い言葉。
「初代再編王として、イリスを選出する」
鐘が鳴る。
それは血統の継承音ではない。
選出の音。
***
王冠が差し出される。
だがそれは従来の王冠とは違っていた。
宝石は減らされ、中央に刻まれているのは王家の紋章ではなく――
均衡を示す天秤。
イリスはそれを受け取る。
ゆっくりと、かぶる。
重い。
だが、それは支配の重みではない。
責任の重みだ。
***
静寂の中、イリスが口を開く。
「王は、支配者ではありません」
広間に響く。
「王は、均衡の責任者です」
誰も動かない。
「王は血で決まるものではありません」
視線が、群衆の中のレオンハルトへ一瞬向く。
「王は、選ばれる存在です」
その言葉に、広間の空気が変わる。
「本日より、王権は法によって制限されます」
「地方自治を明文化します」
「商会を監査機関とします」
「外交は評議によって決定します」
一つ一つ、宣言。
王権の縮小。
だが国家の強化。
***
最後に、彼女は言った。
「王は、立つ者ではありません」
少しだけ、微笑む。
「支えられた均衡の上に立つ者です」
その瞬間。
広間に、静かな拍手が起きた。
爆発的ではない。
だが確かな音。
支持の音。
***
群衆の中。
レオンハルトは、ゆっくりと膝をつく。
悔恨ではない。
敗北でもない。
理解だ。
「……選ばれたか」
小さく呟く。
隣に立つアルヴェルトが静かに言う。
「王は血で生まれるが、真の王は選ばれる」
レオンハルトは頷く。
「なら、支えよう」
それは、最後の誇りだった。
***
王城の外。
暴動は止まり、商会は取引を再開し、隣国軍は後退を始める。
中心が確定したからだ。
王国は、崩れなかった。
変わったのだ。
***
戴冠式の後。
バルコニーに立つイリス。
下には民衆。
横にレティシア。
「あんたが王なら、私は剣になる」
「剣は振るわないで済む方がいい」
「それでも、持つ」
短い笑い。
風が吹く。
旗が揺れる。
王国は、血ではなく均衡で立つ国となった。
そして歴史は記す。
この日、王国は初代再編王を戴いたと。
――イリス。
それは、婚約破棄から始まった物語の終わりであり、
新しい王国の始まりだった。
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