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咎の勇者  作者: 如月厄人
第三章 激動
33/44

3-3

 俺も立ち上がってアルマの差した方角に歩き出した。熱帯のジャングルと勘違いしそうなほど生い茂った森を直線に進む。邪魔な枝や、時折出てくる植物を模した魔物を先陣を切って狩りながら、開けた場所に出た。目の前には畑と少し離れたところに家屋が立ち並んでいるのがわかる。


 田舎という言葉がしっくりくるその村に向かって歩き出す。昼下がりの陽気が差す畑に踏み入らないように畦道を通って行くと、畑からむくりと体を起こす影があった。


「おや、珍しい、旅の人かい」


 気の良さそうな腰の曲がったお婆さんが作業着で土をいじっていた。


「すみません、休めるところを探しているんです。宿屋か何かありますか」


 お婆さんはやいやいと言いながら手を振って眉をひそめて言った。


「そんな大層なもんはないよぅ、剣のおっしょさんが止まってる民宿ならあっけど、そこでいいが?」

「全く問題ないです!お願いできますか?」

「あーあー、案内しちゃるよぅ、みーんな疲れた顔してんなぁ。どこから来たんだぃ?」


 俺は他の三人を見やる。何と説明すればいいやら。そんな俺を見かねてアルマが口を開く


「ウィズバーン跡地から来ました。お墓参りに来たんです」

「…そりゃぁ、悪いこときいちまったなぁ…。ほれ、ここやよ、ゆっくり休んできぃ。おーい!エンディーぃ!お客さんよーぃ!」

「うぇーぃ!聞こえてるよぉぅ!入んなぁ!」


 横に長い家の引き戸の前でやり取りし、ガララと扉を開くと、靴とスリッパが並べてあった。


「じゃあ勝手に上がっとき、エンディが今くっから」


 そう言うと、お婆さんは曲がった腰に手を当てながら畑に戻っていった。俺たちが玄関で靴を脱いでいると、ドタドタと奥から走ってくる音がした。物陰か影が飛び出してくる。


「おりゃぁっ!」

「ッ!」

  ガッ!ドウッ!

「クッ!穏やかじゃないのぉ…!青年…!」


 俺たちに飛び掛ったのは小さな男の子で、俺が咄嗟に掴みかかってしまう。その手は別の人間を掴むと床に思い切り叩きつけた。白髪混じりの髪をポニーテールで纏め、無精髭を生やした和装のおっさんがそう言うと、俺はハッとして手を離した。


 少年はおっさんに押されて大事は無かったものの、俺は自分の手を見て思った。


 今の力であの子をやっていたら、どうなっていたことか。


 考えただけでも息が荒くなる。動悸がキツい、肺が、脳が酸素を求めている。


「落ち着け」


 おっさんの手が俺の手と重なる。大きく、ゴツゴツとした手が、その熱を俺に伝えた。


「大きく息を吸うんじゃ。気が乱れとる。心を落ち着けぃ」


  吸って、吐く。


  吸って、吐く。


  すって、はく。


  すって…はく。


 徐々に動悸が治る。


 俺が顔を上げると、おっさんはニッと笑って後ろで転んでいた少年に言った。


「これ、とっとと謝らんか、お前のおかげで腰がいてぇわい」

「お、ご、ごめんなさい!」

「ようし、それでいい。さ、お客人、上がって…、け?」


 おっさんは俺の後ろに目をやると、目を見開いて笑った。


「エェスゥ!エスやないけぇ!元気しとったか!おぉ?!」

「だん…ちょう…、生きて…いきてた…!」


 エスの顔が歪んでいく。バスターソードを取り落とし、おっさんに突っ込んだ。


「だんちょぉぉおおお!!」

「おーおー、生きとる生きとる。誰も死ぬなって命令しとった儂がおっちんでちゃ話にならんけ」


 俺たちは目を合わせると、おっさんの顔を見て、言った。


「まさか、重腕騎士団の…」

「おう、儂が団長…いや、元団長のギレアンじゃ。エスが世話になっとるみたいやの」


 お腹に顔を埋めたエスの頭を優しく叩いて言った。


「まぁ、まずはゆっくりしていきぃ。ほれ、靴脱げ上着脱げ服を脱げ」

「やめろど変態!」

「ぐほぁ!な…鈍っとらんな…!」


 ぽいぽい、とエスの衣服を脱がしにかかったおっさんことギレアンは、エスの拳を腹に受けて蹲った。


 が、それもすぐに立ち直り、奥を親指で指差した。正座したままだった少年の頭をくしゃっと撫でて先に奥に行ってしまう。少年も後に続き、玄関に残された俺たちは取り敢えず靴を脱いで中に入った。


 あー、靴を脱ぐ家なんて久しぶりだなぁ…。


 奥の部屋に入ると、九畳間のど真ん中に大きな長テーブルが置いてあり、糸目のお婆さんがお茶をすすっていた。


 恐らくこの人がエンディなんだろう。


「婆さん客じゃ、儂はそろそろ稽古に行くけんの」

「あぃよ、行ってきぃ。適当な部屋使ってえがら、取り敢えず風呂入り。着替えは部屋にあんの使いんしゃい」


 ギレアンはお婆さんに伝えるだけ伝えて少年を連れて出て行った。剣の師匠…か…。


 取り敢えず婆さんに言われた通り部屋に向かう。その途中で、玄関にいたギレアンに声をかけられる。


「青年、後でこっち来い。稽古つけてやる」


 雰囲気が違う。腕を組んだまま、ギレアンは引き戸を開けて出て行った。


「のされるな」

「エス…、もう飛びつかなくていいのか」

「うるさい」


 はたかれた、痛い。


「団長は私達とは一線を画す存在だ。私達が大陸を渡れたのだって、団長が殿をしてくれたからでもある。強いぞ」

「…気をつける」


 それぞれが部屋に入って入浴の準備をする。部屋は四畳半の畳になっており、リーオルやコンコドールの宿と違って、和風な感じの宿だ。タンスを開くと甚兵衛が中にあった。完全に和風だわこれ。


 とは言え、ギレアンに稽古をつけてもらうとなると、先に風呂に入るわけにもいかない。


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