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咎の勇者  作者: 如月厄人
第二章 痕跡
22/44

2-3

 俺たちが部屋から出て階段を下ると、受付で女将さんが誰かとお喋りをしていた。お喋り仲間だろうか、50くらいの女将さんと同年代のおばちゃんだ。


「おや、何処か行くのかい?」

「ちょっとギルドの方へ」

「そうかい、行ってらっしゃい。二人は良いの?」

「あぁ、二人は休ませてやりたいからな」

「あら、優しいのね。私もそういう旦那が良かったわぁ…」


 やーねぇ、とおばちゃん同士が甲高い笑い声を上げる。俺は苦笑いして宿屋を出た。エスがずんずん進むので置いて行かれないようにしなければならない。


 活気のある露店街を抜けて、先ほどの通りに差し掛かる。先ほどの武器屋に通り掛かると、エスは迷いなく扉を開けた。


 さっきから一言少ないな。寄るなら寄るって言ってくれりゃあ良いのに。


 中に入ると、店主が奥で俺の剣の手入れをしていた。エスの剣はもう終わっているのか、カウンターの上に置かれている。店主は俺たちに気付くと、剣を軽く掲げた。


「もう終わる。少し待っててくれないか」

「あぁ」


 エスは頷いて、カウンターの上に乗せられた自分の剣を見て、うん、と頷いた。納得の出来らしい。元から刃こぼれはしていなかったが、曇っていた刃に輝きが感じられる。


 俺は店内を見回す。先程よりも多少人が入っている。やはり冒険者なのだろうか、どいつもこいつも剣を腰に差し、軽装だったり重装だったりと武装している。やっぱり武器屋なだけあって、そう言った類の人が集まるんだろう。改めて店の品揃えを見回す。


 この店はどうやら剣だけではなく、盾や斧、槍、鎌に至るまであらゆる武器を扱っているようだ。


「ここの武器は店主さんが作ったのか?」

「作ったのもあるし、買い取った物もある。そこの大鎌なんか、特殊な型がないと作れないよ。それに、鎌を扱える人が少ないから需要も低い、供給も少ない。今じゃそいつはウチの守り鎌さ」

「へぇ…、あんた長いことやってんだな」

「五代目だからな。俺がじゃなくて、ここが長いんだ。しかも、俺がここに入り浸る前からそいつはここにいたよ」


 お待たせ、と剣がカウンターに置かれる。俺はそれを受け取って腰に差した。


「ありがとう。また何かあったら頼むよ」

「有難いね、贔屓にしてくれ」


 俺たちは店から出てさらに奥へと進んでいく。ここからでも見えているが、道の先に剣の刺さったマークの看板が掲げられた大きな施設があった。先程は余り気にしていなかったが、人の流れはそちらに向かっている。


 その流れに乗って、俺たちもその施設に入る。中の天井は高く、吊り下げられている電光も明るい。人でごった返している、というほどでもないが、中々に混雑していて、受付に行くのも苦労しそうだ。受付は各壁際にあり、その近くには階段もあった。上はスタッフのフロアなんだろう。


 俺がキョロキョロしていると、新参者の俺たちをチラッと見るものもいれば、ひそひそと会話する奴もいる。エスが堂々としてるもんだから、俺がキョロキョロしてんのが余計目立ってんのかもしれない。


 エスは面倒くさそうに一番近い受付に向かって突き進む。俺もはぐれないようについていくが、あっさりと分断されてしまった。いや、意図的に遮られた…?


 見上げるほどの大男が俺に向かって気味の悪い笑みを浮かべている。


「よぉ兄ちゃん、ここは怪我人の来るところじゃないぜぇ?」

「母ちゃんと草むしりでもしてなぁ!」


 下品な笑い声が俺の周りから聞こえてくる。まぁ、手負いの若造がくるような場所じゃあないだろうけどさ。


 俺は無視してそいつを片手で退けた。あまり力を入れたつもりも無かったが、そいつはバランスを崩しながら道を開けさせられる。その脇を通ってエスの元に向かった。


「こいつ…!」

「どぉしたガーランド!腰でも抜かしたかぁ?!」


 また笑いが起こる。大男はガーランドというらしい。ガーランドは笑われた事に腹が立ったのか。俺の右肩を掴んで振り向かせようとする。が、…なんか、貧弱過ぎて振り向けない。


 見た目とステータスは比例しない。それはエスが軽々と身体の半分以上はあるバスターソードを担いでいるのを見ればわかるが、ここまでくると拍子抜けする。


「それで本気か?」

  …あ。

「んのヤロォッ!舐めてんじゃねえぞぁ!」


 振り抜かれた右の拳を軽く体を捻って躱す。左足を軸に、拳が背後を通るようにして回りこみ、ガラ空きのケツを足で押してやる。


「ノォッ!」

 ゴシャァ!と床に顔から倒れ込むガーランド。

「ケイ、遊ぶな。こっちに来い」


 すっかり冷めたギルド内に、エスの声が通る。俺は肩を竦めてそっちに向かう。


「どうやら少し仕様が変わったらしくてな、代表は一番ステータスが高いやつじゃないといけないらしい」

「なんで?」

「腕輪をつけると人によってはステータスが下がることがあるので、高い人の方がデメリットが少ないと言われているからですよ」


 丸眼鏡で金髪お下げの受付が言う。


「あー、確かにステータスが一番高いのは俺だけど…コレだけハンデがあるんだし、腕輪はエスじゃダメかな」

「そうですねぇ…お兄さんよりもエスさんの方が良さそうですね。わかりました、例外ではありますが、エスさんがつける事を認めます。ギルド長へは私から通しておきます。一応、ステータスの確認だけさせてもらいますね」


 受付嬢が俺を注視する。『観察眼』か、やっぱ普通に見られるよなぁ…。俺のステータスを見た受付嬢は目を見開いて口をパクパクさせた後、エスと俺を見比べた。


「よ、四倍…?!え、魔力だけなら十倍はある…。ちょ、ちょっと待って、待ってて下さい!マスター!ますたぁぁああああああ!!!」


 大慌てで階段を登っていく受付嬢。


「キチガイ!うちにも現れましたよキチガイが!」

「誰がキチガイだよ…」


 二階から聞こえてくる大声に呆れた。流石にキチガイは酷くないか。


 というか、ここに「も」って事は、他のギルドにも来たのか。俺並みのステータスを持つ人物は、俺が知る限りじゃ一人しかいない。


 魔王がギルドに登録してる…?


「わかった、わかりましたから、ちょっと落ち着きなさい。情報にあったキチガイとは風貌がまるで違うだろうに。………ふむ、確かに凄いステータスだ」


 片眼鏡のご老人が俺を見て頷く。品のいいシルクハットと整ったヒゲ、堀の深い顔立ちは如何にも西洋人といった風貌である。真っ白になったヒゲをさすりながら、頷く。


「そうだな、君達、何人で組むんだい?」

「他に二人いる。主だって戦闘するのは俺たちだ」


 エスが質問に答える。ご老人は視線を左上に投げてうーんと唸った後、俺を指差して言った。


「君は今からS級昇格試験を受けたまえ。君は…そうだな、A級からで」

「待ってくれ、俺たちは名前を売りたいんじゃなくて、ただ金を稼ぎたいんだ。S級とかそんな事に興味はないよ」


 俺は進められそうになった昇格試験の話を遮る。エスが言ってた国への徴用のチャンスってのはこの事だろう。級が上がれば上がるほど、国に目をつけられやすくなる。


 目をつけられたくない俺たちにとっては、有り難くないお話だ。


「S級の方が良い報酬が得られるが、それでもかね?」

「そんなに生き急いじゃいないさ。最低ランクからでいい」

「そうか。残念だな、我がギルド最初のS級がでるかと思ったんだが…」

「待て、そいつはオレが許さねえ」

「ガーランド君…、鼻血が出ているぞ、拭きたまえ」

「おう、すまねえマスター。ってチガァァウ!そうじゃねぇええ!」

「ああああ、私のハンカツィーフが…!」


 マスターが差し出したハン…ハンカツゥィ…ハンカチをビリビリに破り抜くガーランド。スキンヘッドに血管まで浮かばせて随分とご立腹のようだ。俺とエスは顔を見合わせた。


「お前が余計な事をするからだ」

「やっぱり?」


 俺もそう思う。


「C級にコケにされたとあっちゃオレの名にキズが付く!」

「だから?」

「だからお前はS級になれ!………ん?いや待て、オレはお前がS級だなんて認めねえぞ!」

「どっちなんだよ…」


 最早笑えてくる。言ってることが滅茶苦茶だ。ガーランドは顎に手を当てて首を傾げた。


 そこへ、勢いよく扉が開かれた。煤けた黒いコート、白いワイシャツ、赤い眼。


「一番強い奴を出せ」


 間違いない。


「昨日ぶりだな」

「お前…、1日で随分と落ちぶれたじゃねえか、え?おい」


 魔王が、来た。


「このくらいが丁度いいだろ?なぁ?」


 俺たちは脇目も振らずお互いの目の前に立ちはだかり、額と額がぶつかり合う。


「舐めてんじゃねぇぞ、あぁ?もっぺん落としてやろうか?」

「いいぜやってみな、次は助けてやらねえからな」

「ハッ!抜かせ」


 一歩、二歩、互いに下がる。


 ザッ!キン!

『魔装脚』

「シッ!」「フッ!」

 ゴッ!!


 俺の蹴りと魔王の拳が衝突する。互いに魔力で強化しあったせいか、周囲に魔力の風を撒き散らす。風はぶら下がった電球を大きく揺らし、テーブルの酒瓶を薙ぎ倒した。


 バキィン!


 魔装脚と相手の魔ノ手が互いに打ち消し合い砕け散る。


「やっぱりイイなお前…!」

「手加減してやってんだ、仕留めるなら今だぜ」

「ハッ!それは全部終わってからだ。その腕輪、外す準備しとけよ。『サイト』」


 大きく風を巻き起こす。風に煽られてその場にいた全員が眼を閉じてしまう。


 退いたか。


 振り返ると、エスが顔を強張らせていた。そうか、魔物の襲撃があったって事は、ウィズバーンにもあいつが行った可能性が高い。もしかしたらエスは顔を知ってるのかもしれない。


「ケイ、アレがナニか、わかってるのか」

「…わかってるし、知ってる。一度やりあった事もある」

「………、ならいい」

「…いいのか」

「…俺には何も出来ない。力の差は、嫌という程見た」


 諦めにも似た言葉に、俺はフォローの言葉をかける事ができなかった。瞬時に理解してしまった。感情論ではなく、正論が頭に浮かぶ。


 アレは一介の騎士が相手取れる様な生易しいものではない。遊ぶ事もせず、一瞬で消し飛ばす事もできるだろう。


 仲間を目の前で殺られているであろう、大切な街が壊されていくのを目の前で見てきたであろう彼女が、今落ち着いていられるのは、彼女が理解者だからなのかもしれない。


 だが、それで彼女は本当に良いのだろうか。


「それに、お前がいる限り、俺たちは安全でいられる証明は今されたからな」

「そうかもな」


 俺たちの会話を聞いたギルドマスターは、帽子を外した。


「折り入って話がある。いいだろうか」

「…昇格の話ならお断りだぜ」

「試験なんて必要無い、君にはその実力がある。だが嫌というならそれも受け入れよう。ただ、私が尋ねたいのはその事では無い。先程の男の事だ。上へ、此処では話しにくい」


 俺とエスは顔を見合わせる。ある程度の協力はしてもいいかもしれないが、それは話を聞いてからにしよう。


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